第06話 男子高校生、お願いされる

 女美唯奈と対面し、雷斗は思った。


(……そういえば、初めてリリスと出会ったのも、こんなシチュエーションだった気がする)


 西国に魔法の天才がいると聞き、仲間にすべく、ショウメイと街中を探し回り、西国の路地裏にて彼女と遭遇した。


(あのときも、俺たちをつけていた彼女が、あんな感じで現れたんだよな。懐かしい……)


 雷斗が感傷に浸っていると、唯奈が小首を傾げた。


「照栖君?」


「あ、ごめん。それで、女美さんは、どうしてここに?」


「唯奈で良いよ。ってか、唯奈が良い。私、苗字で呼ばれるの嫌いなんだ」


「……わかった。それで、唯奈さんはどうしてここに?」


「照栖君のことが気になってね」


「俺のことが?」


「あ、勘違いしないでね。異性としてではないから。私、川崎月牙かわさきげつが君みたいなイケメンにしか興味が無いの」


「そうなんだ」


 雷斗は苦笑しつつ、川崎月牙について考える。


(えーと……。川崎月牙。川崎月牙。ああ、確か、最近ブレイク中の若手俳優だったけ?)


 普段、テレビとか見ないからよくわからないが、そんな俳優がいた気がする。


(ってか、俺、今、フラれた!? ……まぁ、いいけど)


 そもそも、ワンチャンもないと思っていたから、そんなことでいちいちショックは受けない。……ほんの少しだけがっかりしたが。


「じゃあ、何で俺に興味があるの?」


「それは、照栖君から不思議な力を感じたから。そして、さっきのネズセンとのやりとりを見て、確信した。照栖君。あなた、不思議な力が使えるね!」


「……まぁ、使えるけど。それなら、俺も確信したよ。唯奈さん。あなたも不思議な力を使えるよね?」


 思わぬ形で彼女の力について知ることができそうだから、雷斗はラッキーだと思う。


「うん、まぁ、多分」


 しかし、唯奈のどこか歯切れの悪い反応に、雷斗は眉を顰める。唯奈の反応は、雷斗が思っていたものと違った。


「あれ、使えないの?」


「……今のところ」


 要領を得ない解答に雷斗は困惑した。だから、視線で説明を求める。すると、唯奈は渋々語る。


「うちは『召魔師』の家系で、私以外は皆、『召魔術』が使えるの。だけど、私だけ、昔から召魔術が使えなくて」


「ふーん。召魔術って何?」


「召魔術というのは、使い魔を召喚する術のこと。うちの家系は、代々、妖魔、とくに妖怪と呼ばれる類のものを召喚する召魔術が得意なんだ」


「へぇ」


 話を聞いた感じ、召喚魔法と類似したものだろうと雷斗は予想する。


(実際に見せてもらうのが手っ取り早いんだけど、唯奈さんが使えないんじゃ仕方ないな)


 ただ、その召魔術に興味は湧いた。だから、その使い手に会ってみたいとは思う。


「あれ? でも、おかしいな。唯奈さんからは、魔力を感じるから、使えると思うけど」


「えっ、そうなの? でも、使えないよ? というか、何でそんなことわかるの? 照栖君のその不思議な力は何なの?」


 唯奈に詰め寄ってきそうな雰囲気があったから、雷斗は手で落ち着くよう促して、答える。


「……まぁ、まず、使えない件に関しては、唯奈さんができないと言っている召魔術をみてみないことには何とも言えない」


「ふーん」


「そして、俺の力についてだけど、平たく言うと『魔法』だね。で、魔法を使うためには、魔力の扱いが重要になるから、それで他の人の魔力の有無とかもわかる」


「へぇ。照栖君は魔法使いなんだ。どうやって、その力を身に付けたの?」


「……信じられないかもしれないけど、異世界に行った経験があってね。それで」


「異世界留学だ」


「留学が目的じゃなかったけど、結果的に見たらそうかもね」


「そっかぁ。ネズセンも不思議な力が使えていたみたいだし、世の中って広いんだね」


「そうだね。ってか、ネズセンからも不思議な力を感じていたの?」


「たまに。ただ、照栖君ほどじゃなかったから、あまり気にしていなかった。でも、そのせいで、傷ついてしまった人がいるんだよね」


 唯奈は申し訳なさそうに眉根を寄せる。


「……まぁ、魔力と言っても、その質的なところで、感じやすい感じにくいがあるから、たまたま唯奈さんが感じにくい魔力だったのかもしれないから、唯奈さんが気に病むことはないよ。悪いのは、力を悪用していたネズセンだし」


 魔力の質も一様ではないから、魔力によって、感受性に個人差が生じることは、異世界でもよくあることだった。実際、雷斗の魔力と腕輪の魔力では、ショートケーキとどら焼きくらいの違いがあり、唯奈にとっては、雷斗の魔力の方が感じやすかった。それだけの話だ。


「……照栖君って優しいんだね」


「そんなんじゃないよ」


「なら、そんな照栖君にお願いをしてもいいかな?」


「何?」


 唯奈は、じっと雷斗を見据えた後、両手を合わせて言った。


「お願い! 私の使い魔になって!」

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