第04話 男子高校生、襲われる

 ――その日の夜。


 雷斗は思案顔で暗い夜道を歩いていた。


 考えているのは、女美唯奈のことである。


 昼休み後、雷斗は作戦を立て、彼女に接触していた。


 雷斗はそのときのことを振り返る。


 まず、彼女が一人になるのを待った。


 しかし、超絶人気な彼女の周りには常に誰かしらがいたため、中々チャンスが訪れない。


 それでも、一人になったタイミングがあったので、その機を見逃さず、彼女の机のそばを歩いた。


 そして、わざと彼女の机にぶつかる。


 その瞬間、【時間停止タイム・ストップ】を発動し、机の上にあった消しゴムを転がすと同時に解除した。


 すると、机の上から消しゴムが落ちるので、それを拾い、申し訳なさそうに彼女に差し出す。


「すみません」


「うんうん。大丈夫だよ」


 唯奈が天真爛漫な笑みを浮かべ、雷斗は天使かと思った。


 【時間停止タイム・ストップ】を使い、じっくりと正面から見つめたいところではあるが、むろん、そんなことはしない。


 雷斗は消しゴムを渡す際、一芝居打つ。


「この消しゴム。良い消しゴムだよね」


「え、そうかな?」


「うん。めっちゃよく消える。俺も前使ってたんだけど、消えすぎて、テストの問題が消えちゃってさ。大変だったよ」


「えー。そこまで消えないよ」


 唯奈が笑ってくれた。ジョークがちゃんと通じ、これで『ただの陰キャ』から『少し面白い奴』に昇格したことを確信する。


 もうひとジョーク放とうかとも思ったが、周りの視線が気になって止める。飢えた獣たちが、けん制するような視線を向けていた。


(まぁ、今はこれで良しとしよう)


 雷斗にとっては、久しぶりの高校生活であったから、感覚を思い出すまでは、大人しくしていることにした。


 唯奈に微笑みかけ、その場を去ろうとするも、逆に唯奈から声を掛けられる。


「照栖君……だよね?」


「そうだけど」


「あ、ごめん。何でもない」


 唯奈は何か言いたそうにしていたが、笑って誤魔化した。


 それが気にはなったが、余計なことは言わず、雷斗はその場から去って、今に至る。


 そして、思った。


(もしかして……キモい奴だと思われた?)


 思い返してみると、唯奈と話したいがためにきっかけを作ろうとした軟派な奴に見えなくもない。


 動画に撮られていたら、世界中にさらされ、馬鹿にされるやつ。


 唯奈は、そんな軟派な男たちにたくさん遭遇しているだろうから、彼女が最後に見せた反応は、自分の真意を見抜き、心の中で嘲笑していたがゆえの反応だったかもしれない。


(やべぇ、ちょっと浅はかだったかな。俺がイケメンだったら、何とも思われないんだろうけど)


 雷斗は顔面偏差値至上主義な世の中を嘆いた。


(……でもまぁ、大丈夫でしょ)


 そんな呑気な調子で雷斗は振り返る。


 後方に人が立っていた。


 それが唯奈――ではなく、ネズセンだった。


 ネズセンは忌々しそうに雷斗を睨んでいる。


 何か彼の気に障るようなことをしたらしい。


 しかし雷斗は、ネズセンと二人きりになれることを望んでいたので、都合が良かった。


 この男からも魔力らしきものを感じるからだ。


 すぐにでもその正体に知りたいライトだったが、いきなり本題には踏み込まず、まずは挨拶から始める。


「こんにちは、先生。奇遇ですね、こんな所で会うなんて」


「……黙れ。俺にそんな態度をとるな、陰キャが」


「陰キャ? それは生徒に対して使うべき言葉じゃない気がするのですが」


「うるさい。黙れと言っている! 陰キャのくせに!」


 怒れるネズセンを見て、雷斗はあえて挑発しようと思った。そうすることで、この男の秘密を暴けると思ったからだ。


「嫌なんですけど。ってか、陰キャとか言ってますけど、先生も同類ですよね?」


「違う! 俺は陰キャじゃない! 俺は……陰キャじゃない!」


「でも、陰では皆、ネズセンのことを陰キャと呼んでいますよ」


「減らず口を……。だが、まぁ、いい。お前みたいなクソ陰キャにはわからせる必要がある。お前が社会のゴキブリで、息をしているだけで周りを不快にするだけの存在であることを」


 そう言って、ネズセンはカバンから腕輪を取り出すと、それを装着し、カバンを放り投げた。その様は、怪人に対するある種のヒーローのように見える。


「変身」


 ――瞬間、腕輪が光って、ネズセンの体が光に包まれる。


 そして、光が晴れたとき、そこに立っていたのは、人型のカメレオンだった。

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