第38話 問題は山積み

 アルビリアの言うことには、本当に簡単なものでいいとのことだった。


『どっちかというと、君が敵じゃないって判断したい類の命令だからね。ちょっと頑張ってみてよ♡ それだけでいいからさ』


 心の底ではずっとどこかで何か裏があると見ていたのだが、アルビリアの言葉を聞いて『こいつマジで俺のこと気に入っただけなのか……?』と疑い始めている俺がいる。


 ともあれ、『それだけならまぁ、頑張ってみる……。俺も命は惜しいし』と了承して、昨日はアルビリアと別れたのだが、ううむ。


「前途は多難だなぁ」


 翌日、授業終わりに廊下を歩きながらの呟きである。


 俺は首を行ったり来たりさせながら考える。


 イグナのパーティ亀裂問題。メディの狂化薬投与実験。アルビリアのタイムについての情報提供。


 メディの奴はいつでもいいとして、パーティ亀裂問題は割と急務なニオイがしている。それに、アルビリアの情報提供は、作戦を考える必要がある。


 特にアルビリアの件は、ノワールに相談したかったのだが、こんな時に限っていなかった。最近は特に用事がなくとも俺の膝の上に乗り上げてくるくせに。


 地味に連絡手段を用意していなかったのが響いている。今まで要らなかったのがおかしいのかもしれないが。


 まったく。何かこう、すべてを一気に解決する銀の弾丸はないものか、と俺は進む。


 向かう先は、食堂だった。


 いつもは食堂で食事をとらない俺が、食堂に向かう。つまりそれは、エヴィーから呼び出しがあったということだ。


 ……復帰してからそういえば顔見せてなかったからなぁ、と俺は後ろめたい気持ちになる。


 色々忙しくてすっかり忘れていたのだ。やらかしである。


 エヴィー怒ってるかなぁ……怒ってるだろうなぁ……。と俺の足取りは重い。機嫌を直すために何か用意しておいた方がいいかもしれない。


「エヴィーの好きなもの……新作ボードゲーム? 珍しいお菓子? んー……」


 とか考えながら歩いていると、食堂近くで「おっ、クロック」と声をかけてくる者がいた。


「ん? お、イグナじゃん。他の面々も揃ってるな」


「よー! クロック! ハイタッチ!」


「ミンクは今日も元気だなぁ」


 小柄な褐色肌の銀髪少女、ミンクが俺に近寄ってきて、ハイタッチしてくる。結局何か懐かれたみたいで、割と仲良しな相手だ。


 次に、シセルが近づいてきて、ぺこー……! と深々とお辞儀をしてくる。


「こっ、こんにちは! クロック君、……様! ほ、本日はお日柄も良く……」


「もう何日も顔合わせてるはずなのに、まったく打ち解けられる気がしない」


 シセルは今日も怯えている。おかしいな。こんなキャラじゃなかったのにな原作じゃ。


 そして最後に、レイン。


「チッ」


 シンプルな舌打ちである。人前だからか罵倒は省略の模様。


 俺は「レイン」と名を呼ぶ。


「……何」


「呼んだだけ」


「――――ッ! ガ……! ァッ……!」


 レインが怒りに悶えている。俺は大変楽しい。


「クロックは本当に馴染んだな!」


「イグナは眼科行った方がいいぞ」


「いや馴染んでるだろこれ。ちょっと変わってるけど」


 イグナにもこの感じは変わってるという認識はあるらしい。良かった。でも絶対馴染んではない。


「四人ともどうしたんだ? ここは食堂だぞ?」


 俺が聞くと、イグナを筆頭に、四人は変な顔をする。


「クロックこそ何言ってんだ? 昼時に食堂来るのは普通だろ」


「あ、あのあの、じ、実はね……っ! そ、そういえばみんな食堂って行ったことないよねって話になって、あの、ごめんなさい!」


「俺シセルの解説に感謝の念しかないんだけどな、何で謝られたんだろうな、おかしいな」


 不思議である。いまだに恐怖の目で見られてることとか。


 しかし、話は分かった。偶然、今まで知らなかったということだろう。


 俺は話の内容が内容なだけに、唸りながら言葉を紡ぐ。


「えっとな、イグナ。怒らないで聞いて欲しいんだが」


「何だよ。内容によるぞ」


「お前が怒るような内容だからこう言う前置きをしてるんだけど」


 イグナは口を曲げて、妙なものを見る目で俺を見る。


 俺はため息を吐いて「あんまこういうことは言いたくないんだが」と説明する。


「食堂は、ワーキング寮の人間はお断りなんだよ」


「……! クロック、お前」


「いやだから違くて、基本的に俺でも近づけないんだ。アッパー寮の人間のためのものなんだよ、食堂は。俺がここに来たのは特例というか、呼ばれたからで」


 イグナの曇る表情に、嫌な役目だと思いながら説明を続けようとする。


 そこで、俺に声が掛かった。


 ある意味では――――この場で最も声をかけて欲しくなかった人物に。


「クロック、お前、そこで何をしているの?」


「―――――ッ」


 俺は背筋を震わせ、ぎぎぎ、と油をさし忘れたロボットのようなぎこちない動きで振り返る。


 そこに居たのは、腰まで届くウェーブする金髪をツーサイドアップになびかせた、人形のような少女。


 我が主、悪役令嬢、魔王の器。エヴィル・ディーモン・サバン公爵令嬢、その人だった。


 ……うわっちゃー……。そりゃ呼び出した張本人なんだから、長々と話してれば見つかっても不思議じゃないよなぁ……しくった……。


 俺は後悔の念に駆られながら、どうしたもんかと考える。







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