第33話 パーティ初めての顔合わせ

 放課後、イグナに「ダンジョン行こうぜ!」と誘われてしまったので、俺は準備をして街のダンジョン入り口に立っていた。


 ダンジョン。ゲームでも良く出てくる、魔物が蔓延る迷宮。奥へ奥へと進み、宝箱を開け、そして迷宮のボスと対峙する。


 ゲームでも中々重要な施設で、学生であるイグナは金策やレベルアップ、装備充実のためにダンジョンに潜るのが常だった。


 懐かしいなぁと思う。ザコをシバキ回ったり、強すぎる敵から逃げて進んだり、ボスを苦労して倒したり、レベルアップして強すぎた敵にリベンジを挑んだり……。


「……結構死んだけどなぁ」


 あの難易度のままだったら結構厳しいぞ。素の俺なんて大して強くないんだから。


 俺は口を曲げ、自分の装備について考える。


 所持武器は弓矢に皮鎧、投石紐だ。俺は立体的に動けるタイプなので、身軽な方がいいと考えた。


 学園生でダンジョンに潜る生徒は少なくない。ワーキング寮の生徒は半分必修の勢いで潜るし、ミドル、アッパー寮の生徒も実力者はダンジョンを好む。


 俺の知り合いでダンジョンと縁がないのは、エヴィーくらいのものだろう。メイドのケイトですら多少潜って浅い層で頑張ってると聞く。


 そんなことを考えていると「おーい」と手を振って現れる少年の姿を見つけた。


 そして、背後に続く三人の少女の姿も。


「おーす。クロック早いな。頼もしいぜ」


「ま、新参が不真面目な姿を見せるとひんしゅく買うからな」


「ハハハッ。オレのパーティにそんな器の小さい奴はいねぇよ」


 嘘だぞ。後ろでレインがギクッてしたぞ。やーい、お前の器、おちょこサイズ~。


 とか思ってたらレインがつかつか近づいてきて、俺の足をおもっくそ蹴ってきた。


「いってぇ! 何だよ!」


「バカにした目で見たから」


「こいつ……!」


「おっ? クロック、レイン、いつの間に仲良くなったんだ?」


「仲良くないが」「仲良くないッ」


「何だよ息ぴったりじゃん妬けちゃうな~うりうり」


 イグナは俺を肘で突いてくる。レインが今すぐにでも殺してやろうかという目で俺を見てくる。こっわいわぁ……。


「あっ、あのっ! クロック、くん、……様。きょっ、今日は、頑張ろう、ネッ」


 と思っていたら、シセルが俺に近づいてきて、挨拶してくる。


 一瞬俺は仲良くなれたのかと期待するが、違った。顔は真っ青。冷や汗だらだら。声は裏返り、目が泳ぎまくっている。


「……フォロワーズ、アナタ、シセルに何をしたの……!?」


「してない。何もしてない。本当に何もしてない」


 レインが俺に詰め寄ってくるが、俺には全く心当たりがない。


 いや、おかしいじゃん。友達ってそんな辛そうな顔で挨拶するものじゃないじゃん。おかしいって。


 現状のイグナパーティからの俺への矢印は、非常に難儀なものになっている、と俺は渋面だ。


 イグナは友達、これはいい。だがレインは嫌悪だし、シセルは多分恐怖である。何でだよ。怖がらせることしてないよ俺。


 そして、最後にもう一人。


「なーんか、思ったより馴染んでんね」


 イグナパーティ最後の一人が、警戒の笑みを浮かべながら俺を見た。


 褐色銀髪で、他二人よりも小柄な少女だった。装備は格闘家然としていて、露出する肌からその体が絞られたものだと見て取れる。


「改めまして、初めましてだな。俺はクロック」


 俺が自己紹介しながら手を差し出すと「あーあー、いいよ。知ってるから。でも、アンタはウチのこと知らないかな?」と、俺の手をハイタッチよろしく叩く。


「ウチはミンク。この通り前衛だよ。拳が武器なタイプ。よろしくー」


「よろしく」


 俺は頷く。それから、ゲーム通りだな、と思う。


 小柄な格闘家、ミンク。イグナに並んで前衛を務め、素早く敵の懐に潜り込んで連打を打ちこむ。


 性格は飄々としていて、捉えどころがない。だが唯一身長がコンプレックスで、指摘されると相手をボコボコにする。


 触れないようにしないとな、と思っていると、ミンクは言った。


「……何でウチの頭のてっぺん見てんの? こんなチビが前衛なんてできんのって思ってる?」


 嘘だろ沸点が低すぎる。


「え? いや、攻撃を躱しやすそうで、頼もしい前衛だな、と……」


 言って、俺は『あ、やらかした』と思った。それってつまり、チビって言ってるようなもんじゃん。フォローになってない。まずった。


 俺は体を硬直させ、どう逃げるかと思考を巡らせる。すぐさま飛びのけるように後ろ脚に重心を移して――――


「……な、何だよ。お高くとまったお貴族様だと思ってたのに、分かる奴じゃん、アンタ」


「え?」


 ミンクは唇を尖らせ、少し照れた風に言った。それから「まっ、リーダーのイグナが入れた奴だし。悪い奴じゃないのは知ってたけどね!」と俺の背中を叩く。


 あ、アレ? 気に入られた? 助かった? 絶対虎の尾踏んだと思ったのに。


「……ミンクの身長に言及して、許されてる……!? フォロワーズ、一体何をしたの」


「く、クロックくん、様、ミンクちゃんともう仲良くなってる……」


 レインにシセルも、驚愕の目で俺を見ている。俺も驚きだよ。レイン以上に警戒してたよ俺。


 と思っていたら、イグナが「いいじゃんか、クロック」と肩を組んでくる。


「何だかんだ馴染めそうで良かったぜ。最初はみんな、ちょっと警戒してたからな。貴族がパーティメンバーって~ってさ」


 ちょっとじゃないぞイグナ。あと理由は貴族だけでもないぞイグナ。


「さ! 記念すべき、新メンバーを迎えての初ダンジョンだ! 楽しんでいこうぜ!」


 イグナは意気揚々と言って、先陣を切って歩き出す。


 それに「おうっ」とミンクが同調し、「チッ」と舌打ちしてレインが俺を睨み、「ぁぅぅ……」と鳴き声を上げてシセルが最後尾を遅れてついていく。


「……ま、まぁ、過半数には認められた、か?」


 この五人、上手くいくかなぁと唸りながら、俺は難しい顔で進んでいく。





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