第22話 思わぬ介入者
決闘が終わった後、声をかけてくるイグナ、エヴィーの何らかの誘いを全部振り切って、俺は身を隠していた。
途中でノワールも「わたくしも追跡をご一緒いたします♡」と絡んできたが追い払った。
……いや、仕方ないじゃん。羽ペンの魔女はノワールのこと知ってるし、ノワールと行動したら敵方にノワールの裏切りがバレる可能性がある。
そう説得をすると、しょぼんと尾を地面に引きずりながら、黒猫ノワールは離れていった。女の子形態でもそうだが、黒猫形態のノワールを追い払うのは罪悪感がすごい。
それはさておき、追跡である。しばらくグラウンド近くの茂みに隠れていたら、自室へと帰っていく相手貴族をやっと発見した。
しばらくグラウンドで敗北を噛み締めていたのか、その表情は怒りに染まり切っている。こわ。全身がわなわなしている。
「見ていろ……! 奴には必ず吠え面を掻かせてやる……!」
「吠え面とか言ってる……」
恨み骨髄じゃん止めてくれよ。あんま興味ない奴に恨まれるの思ったより嫌だな。
俺は引き気味で、相手貴族がスタスタ歩いているのについていく。
相手貴族は寮に戻る。俺はあらかじめ開けていた窓から、パルクールでさっさと登る。時間を止めなくても、地の利が分かっている場所なら問題ない。
二階の窓から侵入する。物音からして、予想通り書斎にいるようだ。
俺はコッソリ音をたてないように、書斎の扉を開き、「止まれ」と時間を止める。
「ボン~。またこの家なん~? もっと他の、女の子の部屋に侵入しようや~」
「しねぇよ」
相変わらず下品な時空犬ティンが、時間停止にこれ幸いと現れた。俺は歩いて部屋の中に入り、相手貴族の様子を確認する。
「やっぱり魔術書持ってんな」
相手貴族は魔術書に、食い入るように見入っている。その目は血走っていて、完全に復讐しか頭になさそうだ。
俺は書斎の本棚の裏に隠れ、「動け」と時間を動かす。相手貴族はしばらく魔術書を読みふけり、唐突に叫んだ。
「これだ! これがいい! この方法なら、奴を誰にもバレずに暗殺できる!」
……カスぅ……。
俺は何にも学んでいない相手貴族の性根に、本棚の裏で渋面になる。こいつ、死なせるのもまずいけど、上手いこと処理しないと禍根になるな。何か考えないと。
「そうとなれば早速執り行うぞ!」
相手貴族は意気揚々と走り出す。書斎の扉をバタンと閉め、別の部屋に。
俺はため息と共についていく。ひとまず足音を立てないように書斎を出て、時計を押しこみ時間停止。
「あの貴族の坊ちゃん、ちゃんと分からせなアカンやろアレ」
「放置怖いよな、あいつ……」
静止世界で相手貴族を追跡すると、どうやら階段を下って外に出たようだった。
俺は二階の開いた窓から先回りして外の茂みに隠れ、時間を動かす。相手貴族は俺の茂みの前を悠々走り去り、そのまままっすぐに進んでいく。
「どこに行くんだか」
物陰伝いに追跡を続ける。学園の端の方に向かっている……?
奴は段々と人気のない方に進んでいく。何やらきな臭くなってきたな、と俺は目論見の成就を予感し、ニヤリと笑う。
その時、俺の手を掴む者がいた。
「―――――ッ!」
誰だ。いや、まずは時間を止めるか? だが掴まれた状態で時間を止めても俺が動けない。なら――――
考えを巡らせながら振り向く。
すると、その手の主が「おぉ、驚かせちまったみたいだな」と両手を上げた。
「……イグナ?」
「おう、一番弟子のクロック君よ。お前の師匠のイグナだぞ~?」
上機嫌に笑うイグナに、俺は「何だイグナか……」と力が抜ける。「何だとはご挨拶だな」とイグナは口を曲げた。
「つーか、何してんだよ。決闘勝利祝いに、学外の飯屋奢ってやるって言ったのに断りやがって」
「いや、まぁ、色々とあるんだよ俺にも」
俺が目をそらしながら言うと「ふぅ~ん?」とイグナは疑わしい顔。
「それでやってんのが、好きな女の子のケツ追い回してるとかだったら承知しな……」
イグナは物陰から顔を出し、俺が追いかけている相手を知る。
つまり、相手貴族だと。
「……クロック、お前……?」
「好きな相手だと思うか? アレが?」
俺はめちゃくちゃ嫌な顔である。
「いや、まぁ、そうだな。そりゃそうだ。友達としてでもあんな奴好きになる訳がない」
「だろ」
「でも、じゃあ何で尾けてんだよ」
「そりゃあ」
俺は適当に真実に近い嘘をでっちあげる。
「遠くで『あの下級貴族め目にもの見せてくれる……!』とか言いながら歩いてるの見たら、何企んでるのか怖くて知りたくなるだろ」
「……マジ?」
「マジ」
イグナが「うわぁ」と顔をしかめる。よし、理解は得られたな。「じゃあ俺は尾行を続けるから―――」と追い払おうとすると、イグナは言った。
「よし、一番弟子が困ってんだ。師匠が手伝ってやろう」
「は?」
「何か悪さをしたときは、オレが飛び出してあいつのこと止めてやるよ」
イグナは言って、ドヤ顔で腰に佩いた剣を叩く。
「クロック一人だと大変だろ? けどオレなら、あいつは正直ザコだからな」
「……なるほど」
自信満々のイグナに、俺は頷く。うん、そう、だな。普段なら間違いなくそうだ。それを善意で申し出てくれるなんて、頼もしい限り。
しかしそれは、普段の話。もっと言えば、俺が時間魔法を武力的に使う気がない場合の話だ。
「……」
どうしようかな。俺、魔女が現れたら速攻『タイム』として現れて、魔女も相手貴族もまとめてボコす予定だったんだけど。
俺が急に消えたら、イグナ、気づくよな。変装、バレるよな。
「……!」
俺の口端がヒクヒクと痙攣する。そんなことにはまったく気づかず「お、動いたぞ。行こうぜ」とノリノリの我が師匠。
「……考えろ。考えるんだ、俺……!」
ぐぬぬと唸りながら、俺はイグナと共に相手貴族を尾けていく。
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