第18話 エヴィー様との昼食会
結局イグナとは、剣の訓練をつけてもらう運びとなった。
目的は詠唱魔法用の時間確保のため。まず剣である程度打ち合えないと、詠唱する時間すらないからだ。
そのため俺は、放課後はイグナとの剣術訓練をすることになったのだが、それとは同時並行で、決闘相手の貴族について調査をすることにした。
理由は簡単。相手のことが分からないと、相手のことをディスれないからだ。
イグナは戦闘中に相手の性根を見抜いてその場でディスりに掛かれるが、俺にそんな芸当は出来ない。
相手をディスるには相手の情報がいる。そのため、調査が必要なのだった。
「ということでエヴィー様、代返よろしくお願いします」
「ふざけるんじゃないわよ。ねぇクロック? お前はもしかして、アタシを舐めているの?」
「わりと舐め腐ってま……いふぁいいふぁい、ふいまふぇん!」
昼休み、数日ぶりに話しかけてきたエヴィーから「クロック。今日お前は、アタシとランチをするのよ」と誘われたので、その席でのことだった。
いつもと違い、今食べている大食堂のテラスは人が多い。
基本的に席を陣取っているのは貴族の中でも爵位の高い連中で、公爵家のエヴィーくらいしか、身内でこの席に座れる人間などいなかった。
なので、俺に対する周りの視線が厳しい。
「エヴィル様とご一緒しているあの下級貴族は誰なの……!?」「あんな近づいて不遜な……、もしやエヴィル様の恋人か? 許せん……!」と睨まれている。
俺がエヴィーの恋人とかありえないだろ常識的に考えろ。
「
「ダメよ。クロックの忠義を感じるまでは放さないわ」
「っ!?
「クロック、お前は、お前は、本当に!」
ちょっとおふざけで返したら、エヴィーは顔を真っ赤にして怒っている。思春期は難しいわねぇ。
「……いいわ、もう。生涯忠義を捧げる気がないのも、それを逆手にプロポーズ呼ばわり……! も、腹立たしいけれど、今回は不問とするわ」
「ざっす。いてっ」
「本題に入るわ」
俺の舐めた返事に一発入れてから、エヴィーは語りだした。
「まず、学園の一年生における女子カーストは制したわ。一年女子は全員アタシの配下」
「マジで牛耳ったんですか」
「無論よ。アタシに忠義を示さない輩は、アタシの敵か、それこそクロック、お前くらいのものよ」
まぁ俺も思想的には敵寄りだし。
にしてもヤバいなこいつ。数日で一年女子の頂点に立ったのか。流石将来は魔王に乗っ取られるだけはある。
俺は感心だ。改心ルートの難易度が勝手に上がっていく。無理だろこれ。
「その過程で、情報を得たわ。クロック。お前、決闘を申し込まれたらしいわね」
「そうですね。その関係で動く必要があるから、エヴィー様に代返を頼んだわけですし」
「ああ、そういう……。いきなり『というわけで』とか言い出したから気でも狂ったのかと思ったわ」
それはそう。
そんなふうに気を抜いていたら、エヴィーの雰囲気が妙なことに気付く。
「単刀直入に聞くわ。何故アタシを頼らなかったの?」
言いながら、ずい、とエヴィーは顔を近づけて聞いてくる。俺の制服のネクタイも掴んでくる始末。ぐるじい。
周りで、エヴィーの行動に「キャー!」「エヴィル様、大胆……!」と声が上がる。
「あの、エヴィー様。周りが」
「周りなんてどうでもいいわ。アタシは、お前に聞いているの、クロック。何故、アタシに頼らなかったの?」
何でそんなことを、とおののく俺に、エヴィーは険しい顔で畳みかけてくる。
「アタシが頼りなかった? 臣下の一人も守れない程度の女に見えたの? それとも信用がないの? アタシがお前を守らないような主だと?」
「えっ? いや、自分で解決する予定だったからってだけですけど……?」
俺がキョトンとしていると、エヴィーは口を曲げて、変な顔をする。
何だそれ、どんな感情だ。
「……そう」
エヴィーは悔しいと切ないと、他様々な些細な感情をない交ぜにしたような表情のまま、俺のネクタイから手を放し、椅子に腰を下ろす。
それから息を吐いて、拗ねたような顔で聞いてきた。
「決闘に勝つ算段はあるの? お前、剣も魔法もあまり得意ではないでしょう」
「特待生からコツを教わったので、それを元に何とかする予定です。……というか、その」
俺はもしや、と思って、尋ねた。
「エヴィー様、まさか俺のこと心配して……?」
「―――――ッ! なっ、そんな訳ないでしょうこの不忠義者!」
ぴしゃりと言われて、うへー、となる俺である。まぁそうだよな。知ってた。
「お前がアタシの裏で妙な動きをしていたから、問いただしたのよ! いわばこれは、管理! 管理業務よ!」
「へぇ、すいませんねお手を煩わせて。トラブルメーカーなもんでね」
「そうよ! 実際少し目を離したらこの始末よ。だから……!」
ふんっ、とエヴィーは顔を逸らす。
「お前の決闘、アタシが手伝ってあげるわ」
「……はい?」
「まず、代返ね。まぁ適当な生徒に頼めばうまくやってくれるでしょう。場合によっては教師に言い含めておけば問題ないわ」
「あの、エヴィー様?」
「それに、相手貴族の調査ね。まぁそれはアタシが一緒についていけばいいでしょう。このエヴィル・ディーモン・サバンを無下にできる貴族など居ないのだから」
「エヴィーついて来んの!?」
やべっ、驚きすぎてタメ口きいちゃった。
「あら、不服? そんな訳ないわよね? フォロワーズ子爵家三男、クロック・フォロワーズ」
意外にもタメ口には反応せず、しかしさらりと家を人質に取って、俺に詰め寄ってくるエヴィー。
ぐ、うまいな相変わらず。退路を閉ざすのが上手すぎる。
「だ、だとしてもあくまで決闘ですし、その、エヴィー様が前に出たら、相手も無用に委縮してしまうのでは、と」
「ふ、いい度胸ね。アタシを前に公平の尊さを語るつもり? でも、それはいいわ。アタシはお前の、そういう愚かさを買っているのだから」
なら、とエヴィーは不敵に笑う。少し声のボリュームを上げて、エヴィーは語る。
「表向き、アタシはお前と全く関係ない、という風に振舞うわ。この場の人間は一人も、アタシとクロックが繋がっていることを漏らさない」
「は? いやそれは」
―――無理があるだろう、これだけの注目を集めておいて。人の口に戸は立てられないぞ。
そんな俺の言葉は、続かなかった。
「いいわね? お前たち」
エヴィーが指を鳴らす。同時に、周囲の貴族たち全員が立ち上がり、腰を折った。
『拝命いたしました、エヴィル・ディーモン・サバン様!』
「……!」
俺は、言葉を発せない。男子も女子も、この場の全員がすでにエヴィーの軍門に下っていたというのか。
――――いや、俺に食事場所を指定したときには、すでに適切な人員を集め終わっていた?
舐めていたのだ、と改めて理解させられる。
一年女子全員を牛耳ったというのはつまり、一年女子にだけ強い影響を持った、という意味ではない。
他生徒もある程度押さえた上で、一年女子は網羅したという意味なのだと。
優雅に髪をかき上げ、エヴィーは言う。
「そう言うことだから、クロック、お前の調査にアタシは同行するわ」
にっこりと微笑んで。
「異論はないわね?」
「……エヴィー様、めちゃくちゃ厳ついっすね」
「この期に及んでまだアタシのこと舐められるんだから、お前も大物よね」
呆れた表情で、エヴィーは頬杖をついて言う。
エヴィーが仲間になった!
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