第15話 破滅回避第三の矢
エヴィーが全然マジで何も改心してやがらなかったので、俺は次なる作戦を考えていた。
時間は授業中。大学のような教室で、教師の言葉を聞きながらのことだ。
冷静に考えてみれば、俺は今までエヴィーに舐められないこと。エヴィーと仲良くなることの二軸で事を進めていた。
確かにこれではエヴィーが改心するも何もないわけである。俺がエヴィーに良いように扱われなくなった、というだけだ。
しかし一方で、エヴィーの思想を変えよう、というのが改めて困難なのではということを理解してしまう。
「女の子の口から牛耳るって言葉が出てくるのは相当だろ……」
「何か言ったかしら? クロック」
「エヴィー様の学んだ帝王学に感心しておりました」
「あら、殊勝な心掛けね。お前に施してあげてもいいのよ?」
「御免被ります」
「猫を被るなら最後まで徹底なさい」
授業中なので、横に座るエヴィーからいっぺん頭をはたかれるだけで許してもらう。俺は再び腕を組んで考えた。
エヴィーはもう悪役令嬢スタイルから修正の施しようがないかもしれない。とするなら、サバト崩壊大作戦と同時に、第三の作戦を企てるしかない。
―――それすなわち、『主人公の仲間になっちゃおう』大作戦である。
そもそも俺が破滅するのは、悪役令嬢エヴィーが魔王に乗っ取られてもなお、魔王エヴィーの側近として振舞い、主人公と敵対したが故。
魔王に脅されていたとはいえ、エヴィーに対する忠誠心は残っていたのである。
めちゃくちゃエヴィーを小馬鹿にしている俺と比べると、何ともいじらしい原作クロック君だ。エヴィーの世話役を全うしよう、と考えたのだろう。
しかし俺は自分の身が一番大事。エヴィーが魔王になったら速攻で裏切って「主人公くん! 俺も手伝うよ!」と味方面をする構えである。
「……」
とか考えていたら、何故か俺はエヴィーに頬をつねられていた。
「
「忠義を感じなかったから」
「
「はぁ、まったく。クロックの忠義を感じられるのはいつの日になるのかしらね」
俺の頬を一ひねりしてから、ため息を吐くエヴィーである。俺の忠義なんて期待するだけ無駄だぞ。
「まぁいいわ。あまり異性のお前と居て、妙な噂をたてられても困るし」
エヴィーはそう言って立ち上がる。恥ずかしいのかエヴィー。そんな感情あったのかエヴィー。
「まずは同性を従えてくる」
違ったわ。新しい部下を従えまくるって話の前置きだったわ。
「じゃあね、クロック。アタシが居なくても寂しくて泣くんじゃないわよ」
「いやぁむしろ解放されて清々し……寂しいなぁ~エヴィー様が居なくてとっても寂しいなぁ~!」
「でしょう? じゃ、いい子にしてるのよ」
一瞬エヴィーが鬼か悪魔のような顔になったので、俺は冷や汗だらだらで媚びていた。嘘だろ……。この俺が、恐怖で従った……?
というおふざけはさておき、エヴィーが居なくなったので自由時間である。
俺は昼食の休憩時間、外の花壇エリアの長椅子に座っていた。
大体一時間くらいの自由時間である。俺は「ふーむ」と思案しながら、立ち上がる。
「主人公ってどこにいるんだろうな。全然わからん」
「何を仰ってるんですか? クロック様」
「うわびっくりした」
ノータイムで差し込んでくるから驚いて目を向ける。
するとそこには、メイド仕様の改造が見られる学生服を着た、フォロワーズ子爵家の俺付きメイド、ケイトが立っていた。
「……ケイト、何でいんの?」
「えーっ!? ひっ、ひどいですクロック様! 何でも何も、学園に通う時はクロック様のお付きとしてケイトも通いますねって話したじゃないですか!」
「されたわそう言えば」
親父からそういう話聞かされたなぁと思い返す。何でもこのオーレリア王立魔法学園は、貴族学園の色が強く、使用人も通わせるのが普通だとか何とか。
まぁそれはいいんだよ。ケイトの場所じゃなくて主人公の場所知りたいんだよ。今の内にゴマ擦っておきたいんだよ。
「ところでクロック様、さっき言ってたのって、誰かお探しなのですか?」
「え? ああ、そうだ」
「ケイトがお探ししましょうか? ケイトはクロック様の下で鍛錬を積んだ万能メイドなので、大抵の雑務ならできますよ!」
「おぉ……? じゃあいいか?」
「はい! 何なりと!」
俺は少し考えて、ケイトに頼む。
「赤のツンツンした髪の、常にテンション高めのご機嫌な男探してくんない?」
「あ、それ多分あの人じゃないですか?」
「お? マジ? めっちゃ近いじゃ……」
ケイトの指さす方向を見ると、そこでは指定した通りの人物がひと悶着を起こしていた。
「お前! それでも男かよ! 女の子突き飛ばして何笑ってやがんだ!」
「黙れ平民。貴様らのような愚民どもが堂々と使用していい場所ではないのだ。分かったら平民エリアに戻って、日陰でモソモソと飯を食らうことだな!」
「あぁ!?」
わー、見たことあるあの言い争い~。と俺は虚無の顔になる。ケイトはあのやり取りを見て「わー、貴族に歯向かってますよあの人。こわー」と言っている。
「……ケイト。お前、俺には結構ナマイキなことが多いが、その辺りはどうなんだ?」
「てへっ♡ ケイトはクロック様一筋のドジっ子メイドなので、クロック様の言ってることがよく分かりません♡」
「そういうとこだぞ」
可愛い子ぶっているケイトに嘆息しつつ、俺は「ちょっと言ってくる」と言い争いに向かう。
さて、ここで記憶を探るが、確かこの場の言い争いは、こう言う流れだったはずだ。
1・貴族が女の子にぶつかって弾き飛ばす。
2・それを見とがめた主人公が貴族に突っかかる。
3・主人公と貴族が言い争いになる。
今時珍しいくらいの正義漢主人公だ。ファンからの評価的には「見ててスカッとするけどトラブルメーカー」という感じ。
ただまぁ、実際問題正義漢なので、味方しておくのに抵抗感はない。
「どうしたんだ? ケンカは良くないぞ」
俺はそっと仲裁に入る。すると両方から「「あぁん!?」」と睨まれた。マジかよ俺は俺で孤軍奮闘なのかよ。
「何だ!? お前も『平民はすっこんでろ』ってか!?」
主人公は、俺の制服の襟を見て言う。俺は制服の襟の部分をつまむ。
学校側で分断を煽る意図があるのか何なのか知らないが、この学校の制服は、貴族と平民でデザインが少し変わっていて分かるようになっている。
だから主人公は歯をむき出しにして唸り、一方貴族の方は余裕げに鼻で笑っている。援軍が来たとでも思っているのだろう。
一方俺は、完全に主人公びいきの姿勢である。
「まさか。平民だってこのエリアを使う自由はある。なんたって校則でそんな規則はないからね」
「おっ?」
「なっ!」
主人公は目を丸くし、貴族は目を怒らせる。
俺は貴族の方を向いて言った。
「というわけだ。身分なんて小さなことにこだわると、人間としての器が知れるというもの。これ以上恥を晒す前に消えたらどうだ?」
「なぁッ! きさっ、貴様ァ!」
俺の余裕顔に、貴族は激昂する。おっと、思ったよりも煽っちゃったな。
さて、あとは適当に貴族をぽいっとして、主人公と親交を深めるフェーズに移りたいものだが。原作ではこの後―――
そう考えていると、貴族は手袋を脱いで、俺の顔に投げつけてきた。
「何たる侮辱! このままにしておけるものか! 決闘だ! 貴様に、身の程を分からせてやる!」
……ああ、そういえばアレだ。この事件をきっかけに、主人公と貴族が決闘する流れだったわ。
俺は主人公が処理する予定の厄介事まで引き取ってしまったことに気付き、やらかした……と脳内でひとりごちるのだった。
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