主人公イグナ
第14話 校門をくぐる者は一切の希望を捨てよ
それからの数年、俺はまじめに訓練だけして過ごすことにした。
まず取り掛かったのは、木登りで重要性を理解したパルクール関係だ。パルクールというのは高機動な移動術で、障害物だらけの場所を登ったり飛び降りたりする。
俺の場合は主に屋敷周りをぴょんぴょん飛び跳ねることが多かった。デカい家を持つ者の特権である。
訓練の甲斐もあり、最終的には家の外から塀をよじ登って屋根に至り、そこから飛び降りの連続で、五秒で地面に戻れるようになった。
そんな風に、破滅妨害活動に勤しまなくても良かったのには理由がある。
というのも、ノワールが思ったよりも優秀で、すぐさま数人部隊の『時計派』を構築し、裏で動き始めたからだ。
お蔭で、入学前に発生する、原作においては伏線相当のこじんまりした事件は、すべて手を回すことができた。
「クロック様♡ クロック様♡ 今回の作戦も、上手く状況を操作して未然に防ぎましたわ! 褒めてくださいまし!♡」
あとノワールが懐きすぎた猫みたいなことになっていた。猫じゃなくて犬じゃない君?
さて、変化と言えばそれだけではない。
「邪魔するわよ!」
邪魔すんなら帰ってほしい、とは言えない、エヴィルの訪問が増えたことである。
チェスの一件以来、変に認められてしまったのか、度々エヴィルが俺を訪ねてくるようになったのだ。
そして毎回、何かしらの勝負を仕掛けられる。
「主たる威信を示しましょう。今日もチェスでいいわね?」
「そろそろチェスは飽きました……」
「えっ、じゃ、じゃあこっちの……何これ?」
「バックギャモンですね。やりますか?」
「何それ???」
ルールと知識差があって、時間停止がなくてもボロ勝ちしてしまったり。
「主たる威信を示しましょう。今日はトランプよ」
「何をするんですか?」
「……ババ抜き以外に何かあるの?」
「大富豪好きですよ」
「じゃあそれをやるわ」
楽しくなっちゃうし短時間で勝負が決まるし運ゲーだしで、「もう一戦よクロック!」「受けて立ちましょう!」と威信というよりも仲良くなってしまったり。
「主たる威信を示しましょう。今日はこのボードゲームよ」
「このゲーム協力ルールしかないですけど」
「威信を示す方法はねじ伏せるだけではないわ」
「なるほど……深いですね」
シンプルに二人で協力して楽しんでしまったり。
初対面のピリピリした関係性は何だったんだ、というくらい、シンプルにちょこちょこボドゲをして遊ぶ友達になってしまったこの数年である。
そして数年が経ち、いよいよ今日、俺は魔法学園に入学することになっていた。
「……パルクールは覚えた、弓も投石も極めた。時間魔法以外の魔法は正直弱いけど、授業に必要なラインまでは達した」
「何よクロック、いまだに不安なの? シャキッとなさい」
「はい……エヴィル様」
俺はエヴィルと馬車に相乗りしながら、学園に向かっていた。
年はお互い十五歳。学園入学適齢期である。適齢期って言い方良くないな。
するとエヴィルは顔をずい、と近づけて、俺に言い聞かせてくる。
「エヴィー、でしょ」
「ああ……言い間違えました。エヴィー様」
「だから、エヴィー!」
「様付けを取れって言うのは流石にやめてくださいよ。学園で怖い人に目をつけられちゃうかもしれないじゃないですか」
「アタシ以上に怖い人なんて居ないでしょう」
「自分で言います?」
仲良しになった影響か、エヴィルは『エヴィーと呼びなさい』と言うようになっていた。
更生計画を練っている身としては、仲良しであるに越したことはないのだが……。
「ま、いいわ。ともかく、堂々となさいと言いたいの」
何せ、とエヴィーは言う。馬車が止まり、俺たちは門の前に降りる。
するとそこには、晴れやかに陽光を受けて燦然と輝く、巨大な校舎の姿があった。
「何せアタシたちは、これからこのオーレリア王立魔法学園の、生徒となるのだから」
――――正直に言わせてもらおう。一応曲がりなりにも原作をクリアした身としては、その光景は感動ものだった。
オーレリア王立魔法学園。
俺が遊んだ『ファンタジア・アカデミア』というゲームの舞台。
かつて見た壮大な学園の姿そのままの場所だった。道々を歩く知ってるキャラ。ファン垂涎の光景が、現実にその場にあった。
「おぉ……!」
今までは保身しか考えてなかったけど、まぁまぁ破滅回避活動も軌道に乗ってるし、俺も学園生活楽しんでもいいのかな、とか思う。
つまり原作キャラで、メインストーリーの邪魔にならないような立ち回りをしていれば、その横で友達や彼女なんかも作っちゃっていいのかな、とか思う。
すると、俺同様に学園の晴れ晴れとした光景を見ながら、エヴィーは言った。
「楽しみね、クロック」
学園生活を、エヴィーも楽しみにしているらしい。出会った頃から丸くなったなぁ、と俺が感動していると、エヴィーは続けた。
「ここからよ? ここからアタシがこの学校の実権を握って、将来数十年にわたって我がオーレリアを牛耳るの」
―――あちゃー。
「はい……」
「さぁ、まずは視察と行きましょう。クロック、ついてきなさい」
颯爽と歩き出すエヴィーに、ショボショボとついていく俺。
甘かった。俺が個人的に仲良くなっただけで、エヴィーは全然悪役令嬢のままだった。
「破滅回避の道は長い……!」
「何を妙な顔をしているの! 早く来なさい、クロック!」
「分かってます、エヴィー様!」
俺はぐぬぬと表情をしかめながら、先を行くエヴィーについていく。
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