第2話


 さて今年も今日が仕事納め、終業後に納会をやるそうだ。社内メールで流れて来た投票にもちろん欠席で返した。てか、メールが来たことにビックリした……


「では僕は会場で待ってますのでお先に失礼しますね」


 この間突っかかってきた後輩くん……名前なんだっけ?……まぁいいや、後輩くんも納会の準備に張り切ってるな〜


「チッ」


 これみよがしに舌打ちして俺のデスク前を横切っていく……うーん何か悪い物でも食ったのかね?

 まぁそんなことよりも、明日からの長期休暇をどう過ごそうか?積ん読を崩すか……積みゲーを崩すか……ワクワクするな!


 ではさっさと帰るか〜









 PiPiPiPiPiPiPiPiPi


 しまった……スマホのアラーム設定変えるの忘れてた……まだ早い時間なのに……クソッ休暇初日は昼まで寝てるつもりだったのに……


「二度寝……するか……」


 画面をタップしてアラームを止め、そのまま本能が赴くままに眠りの世界へ帰還するべく意識を手放……


ピンポーン


 なんか聞こえてくる……でも気の所為だな……ネムネム……スゥ


ピンポーン


 また聞こえてきた……気の所為気の所為……グゥ……


ピンポーン、ピンポーン


 諦めの悪い気の所為だな……我が眠りを妨げる者に災いあれ……ムニャムニャ……スゥ


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン……


 うがー!うるせぇ!人が気の所為って事にして居留守決め込んでんのに!


「分かったよ!起きるよクソが!」


 なんで俺ん家なんかに朝っぱらから人が訪ねてくるんだよ!これで宅配便とかだったら絞め◯すぞ!


バン!


「どなたさんだよ!今留守だから帰ってくれ!」


 眠りを妨げられた怒りを隠して、穏便にお帰りいただくように優しく扉を開け声を掛ける。

 扉の前にいるのは20歳前後で茶髪をミディアムショートにした女性だった。


「いやいや居るじゃんおにぃ、機嫌悪いなぁ……てかまだ寝てたの?」


 誰かと思えば我が妹だった、おぉ以前は黒髪ロングだったから一瞬誰か分からなかった……


「何だお前か……ったく、こっちに来るなら前もって連絡してこいよ。それに今日から休みだから昼まで寝るつもりだったんだよ……」


 久しぶりに会う妹に人としての道理を説いてやると呆れ顔になりながら、


「連絡したから!メッセ既読付かなかったけど……」


「あ〜悪い……あいつ等からのメッセージが鬱陶しかったから通知切ってたんだわ……」


 家の奴らとあいつからのメッセージを読むつもりは一切無いからな。ぶっちゃけそれでも困らないし?


「あいかわらずだね。お母さんとか心配してるよ?」


「そーかよ……で?おふくろとあいつは元気にしてるか?」


 クソ親父のことは知らん。


「元気は元気だよ?お母さんはおにぃがちゃんとご飯食べてるのか心配してるし、ちぃにぃはまだ拗ねてるけどね」


「つまり向うもあいかわらずって事か……てかあいつもいつまで拗ねてんだ……跡取りなんだからしっかりしないとクソ親父にドヤされるだろうに」


「それ認めてんのおにぃとお父さんたちだけだから。お母さんも私も、それにもちろんちぃにぃも認めてないからね?」


「勘弁してくれ……まぁいいやとにかく入れ。玄関先でする話でもないしな……」


「は~い。おじゃましま〜す」


 妹を部屋に通す、来客用のものなど何一つ用意して無いから普段使ってる座布団を渡してそれに座ってもらう。


「湯呑みとかも無いから俺のマグカップで良いな?」


「別にいいけど私の分は用意しとかないと……」


 客なんか来ないんだからいいんだよ!てかなんでお前の分を用意しなきゃいけないんだよ。……まぁいいや


「で?いきなり来て何の用だ?」


「かわいい妹が来てあげたのにその物言いはないんじゃないかな?」


「ハイハイ悪かったな、それで何の用だよ?」

 

 改めて要件を問いただすと、


「喜べおにぃ!私が一緒に住んであげる!」


 と起きながら寝言をほざきやがった。


「何言ってんだお前は、いったいどういうつもりだ?」


「え?だから一緒に住んであげるつもりなんだけど?」


 え?なに不思議そうな顔しながら当たり前じゃんみたいに言ってんだ?


「いやいや何勝手なこと言ってんだよ。大学とかどうする気だ?」


「学校はここからでも通えなくはないから大丈夫!それに家事とか私も手伝うから!ほら便利!」


 うわぁこいつ本気か?ここからだと2時間くらいはかかるぞ?てか、こいつが家事を手伝うだと?家でも家事なんか手伝いもしなかったクセに。そんな事まで持ち出して来るって事は、


「なんか理由が有るんだろ言ってみろ、つうかクソ親父がしょうもない事でも言い出しやがったんだろ?お見合いでも強要されたか?」


 クソ親父がやりそうな事を持ち出してみる、こいつもそういう事を言われだしてもおかしくない年齢だしな。あのクソ親父なら十分あり得る。


「アッハッハ!お見合いならカワイイもんだよ断れるから!あのクソ親父、釣り書き何枚か出してこの中の誰かと大学卒業したらすぐ結婚しろだってさ、私のことバカにしすぎだよ!あんな家出てやるんだから!おにぃお願い!住むとこ見つかるまで置いてください!」


 あのクソ親父……俺のときから全く懲りてやがらない……てか悪化してね?


「はぁまったく……あのクソ親父は……おふくろやあいつはなんて言ってるんだ?」


「もちろん止めてくれてるけど、あのクソ親父が聞くと思う?」


 こいつもクソ親父って普通に言い始めたな。


「まぁ聞かねえよな〜。で?次に住むとこが決まるまでって言ってるけどどうする気だ?あてはあるのか?」


「いや〜お父さんから呼び出されて一方的に言われて言い争いになって、それから衝動的に飛び出したから何も考えてなかったんだ〜えへへっ」


 えへへっじゃねぇよ。でも大体の経緯は分かった。


「分かった、しばらくなら居て良い」


「ホント?」


「居て良いけど早めに住むとこ決めろ。ところで金は有るのか?」


「まあそこそこ?」


「はぁ、分かった金も俺が用立てる。だからなるべく早く見つけろよ?」


「ぶー!可愛い妹に言う言葉じゃないよね!つめたいなぁ」


 可愛い妹様がなにか言ってやがる……

 早いところ俺の自由を取り戻さないとな……


 やれやれだぜ……



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定時で帰るのがいけないことか? ごっつぁんゴール @toy1973

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