第20章「開眼」

 魔物と戦う霊術使いや、霊剣使い。

 彼らは、「心眼」を使って、実体のない魔物の本体を見極めて攻撃する。

 心眼とは、即ち、心の目であり、人間が、魔物を見るための眼力なのである。

 魔物を倒すのに、霊力も必要だが、心眼がなければ魔物を倒すことは不可能なのだ。

 夜鬼と雷鬼のような、魔物同士の戦いの場合、二人とも魔物であるから、人間と違い、心眼などなくても戦うことが出来る。それは、人間同士の戦いと同じことである。

 では、エンマの場合はどうなのか。

 理屈から言えば、エンマは人と魔物の両方であるから、そのどちらとも戦えるはずである。ただ、今のエンマは、魔物に対して攻撃を当てたり、倒したりすることは出来ない。それは、死鬼が言ったように、己は人間であり、魔物は別のものだという意識が働いているために、本来なら見えるはずのものが見えていないという状態にあるからなのだ。

 エンマが乗り越えるべき所は、そこにある。魔物としての己を受け入れ、魔物の目を持つこと。そうすれば、魔物を捉えて攻撃することが出来るのだ。その目が開けば、エンマは心眼など使わずとも、魔物を打ち倒せるはずであった。

 魔物の目、それに名をつけるとしたら、「心眼」に対して、「魔眼マガン」とでもいえばよいだろうか。

 本能的に、無意識の中で、エンマは魔眼に気付いていた。ただそれがどうすれば開くようになるのか分からないのだった。

「…死鬼。てめえは、俺の中に炎が見えるっつったな。」

「ああ。」

「それは、妖術の使えないてめえでも見えたってのは、目に見えたってことなのか?」

「そうだよ。こうしていても、君の体内の炎が見える。青と赤の激しい炎だ。」

「やっぱり、そうなんだな。魔物の目には見えているんだな。妖力や妖気ってもんが。」

「魔物の目…魔眼。それに気付いているんだね。」

「魔眼?そんなふうに言うのか。」

「適当につけただけさ。魔物の目だから、魔眼。安易だろう。」

「とにかく俺は、今のままでは魔物に攻撃すら当てられねえ。心眼か、あるいはその、魔眼てやつを開眼しなきゃならねえし、妖術も使えるようにならないといけねえ。どうしたもんかな。」

「言っただろ。魔物の自分を受け入れることさ。そうすれば、魔眼だって開くし、妖術も自ずと使えるようになると思うよ。」

「魔物の自分…か。しかしいきなりそう言われたってな…。魔物は敵としか思えねえし。」

「だったら、僕も瑠璃も君にとって敵だろう。敵が目の前にいるのに、君は殺そうと思わないのかい。」

「てめえらは、魔物といっても吸血族で、人が滅ぶと困るんだろう。だから、敵とは違うんじゃねえのか。」

「同じだよ。魔物に変わりはないさ…。」

 死鬼はゆらりと立ち上がって、エンマを見つめた。

「僕を殺せ。そうすれば、君は自分が魔物だと確信し、魔眼を開くことが出来る。僕は殺されたって、死なないからね。殺し放題さ。殺してくれ。」

「殺せったって…。」

「僕は夜鬼のように霧に化けてかわすことも出来ない。それに、僕は夜鬼が生まれた後の、残りカスのような存在だからね。妖力もないし、君が心眼を使えなくたって攻撃出来るだろう。弱いけれども絶対に死なない体だから、いくらでも殺せるのさ。さあ。君は魔物が憎いんだろう。その憎しみを、僕にぶつけるんだ。僕を殺すことで、魔眼は開かれる。」

「俺は、意味もなく殺すなんてことは出来ねえ。」

「何を言ってるんだ。意味のある殺しなんてあるのかい。殺しは殺しさ。いい殺しと、悪い殺しの区別があるっていうのかい。そんなものはないよ。君は、雷鬼を殺すことが正しいと思っているんだろうけれど、それは正しいんじゃないのさ。あくまでも欲望さ。雷鬼を殺したいという欲望なのさ。でも、それでいいんだ。魔物は欲望のままに殺すものだからね。君もそれを受け入れるんだ。魔眼を開きたいんだろう?妖術を身に付けたいんだろう?だったら、僕を殺せよ。君が魔物になる手助けをしてやろうじゃないか。」

「だけどよ、魔物が魔物を殺すなんてあんのか?」

「それを言うなら、人が人を殺すことだってあるじゃないか。同じさ。」

「俺はそんなふうにして力を手に入れても嬉しくねえ。それに、雷鬼を殺すことが自分勝手な欲望だとしても、俺はじじいを殺し、里を滅ぼした雷鬼を絶対に許せねえし、雷鬼を倒すことが正しいと、俺はそう思っているんだ。誰にどう言われようと、それは変わらねえ。そこまで俺は物分かりのいい奴じゃねえし。」

 エンマはきっぱりとそう言った。

「…どうやら君は、雷鬼とは違うようだね。雷鬼は力を手に入れるためには、手段を選ばなかったよ。」

「あいつと一緒にすんじゃねえ!」

「だけど、君の体に流れている半分は、雷鬼の血なんだよ。…いや、雷鬼が嫌いなら、魔物の血だと思えばいい。君は、自分のことを半分しか分かっていないんだ。人だから、魔物だからという、その境界を越えなければ、君は自分を本当に理解することは出来ない。」

「境界か…。」

 エンマは考え込むように呟いた。

「夜鬼が君を買っている理由が、なんとなく分かるよ…。君には可能性がある。人も魔物も超える可能性が。僕たちは、血や種族や環境や、あらゆるものに縛られている。君は人と魔物の両方だからこそ、その枠を超えることが出来るんだよ。」

「…てめえの言っていることは俺にとっちゃ難しいが、分かる気はするぜ。てめえは、そこまで分かってるんなら、何でその縛ってるもんから抜け出そうって思わねえんだ?」

「別に僕にはその必要がないからさ。僕は今のままでいいと思っている。夜鬼に手が届かなくてもそれでいいのさ。夜鬼に愛されなくてもそれでいいのさ。」

「そうかい。でも今のはいいヒントになったぜ。境界や枠を超えることか。俺は俺のやり方で、なんとかやってみるぜ。てめえを殺すことじゃなくてな。」

 エンマは明るく笑って言うと、大広間から出て行った。

 広間を出て、長い回廊を歩きながら、エンマは出来るだけ心を空にして、宮殿を見て回った。

 宮殿の上空は白い霧に包まれていて、何も見えない。

 全体が白を基調として造られた宮殿は、静謐で、清浄さに満ちていたが、どこか暗く不気味な雰囲気も漂っている。

 最初、地獄里からここへ連れて来られたときに見た、広い中庭に着いた。

 ぼんやりとした、淡い霧の中、アーチで連なった白い柱が庭園を囲み、中央に噴水が水をなみなみと湛え、白いタイルが敷き詰められていた。

 そこでエンマはふと、噴水に近付いて行って、その水面を見つめた。

 以前は憎らしくて大嫌いだった自分の顔が、水面にゆらゆらと映っている。

 真っ赤な髪、緑色の瞳。

 その姿を、今では嫌だとも思わなくなっていた。

 これが自分なのだと思う。

 これから先もこの姿で生きていくのだ。

 これから先――、雷鬼を倒した後も。

 以前なら、雷鬼を倒せば、仇を討てれば、あとはどうでもいいと思っていた。

 先のことなど考えたこともなかった。

 草吉と地獄里が、エンマの世界の全てだったから。

 しかし今は、花霞の里に仲間がいる。帰る場所があるのだ。

 早く里へ帰りたいといつも思ってはいたが、もう二度と、仲間を傷付けるようなことはしたくなかった。


 エンマは毎日、宮殿の中をうろついて、修行をしなくなった。

 ぼんやりと座っていたかと思えば、いつの間にやら眠っていたり、あれほど修行に明け暮れていたのが嘘のように、穏やかに過ごしていた。

 それを、夜鬼は特に何かを言うわけでもなく、ただ陰から見守るばかりだった。

 そして死鬼と瑠璃はいつまでも宮殿に居座って、死鬼は夜鬼を遠くから眺めたり、また時折エンマを眺めたりしていた。瑠璃は、エンマに何か話しかけることもあった。

 エンマは、腹が減れば宮殿の外へ行き、何かを獲ってきて食べていた。

 宮殿の周りは、白い霧のかかった森に囲まれていて、その森はどこまで続いているか分からず、迷路のようになっていた。時々エンマはそこで迷って、夜鬼に連れ戻されることもあった。

 その森にあるものといえば、やはり黄泉の国の地下に棲んでいたような、グロテスクな生き物や、蜥蜴や、鼠や、毒蛇のようなものばかりだった。

「一体どうしちまったんだい。」

 しばらくそんな日々が続いて、堪りかねたように夜鬼がエンマに言った。

「毎日毎日そうやって修行もしないでだらだらと。死鬼に、何か変なことを吹き込まれたんじゃないだろうね。」

「別にそうじゃねえ。俺には俺の考えがある。それに、修行ってのは、ただ刀を振り回してるだけとは限らねえだろ。」

 エンマは、どこか不敵な笑みを浮かべて、ごろりと横になった。

「…霊力を掴んだときもそうだった。こうやって何にも考えねえで…。」

「妖力はもう出せるじゃないか。妖術はどうする気だ?」

「霊術よりも簡単だと思う。ただ、魔物になれないだけで…。」

「お前は、魔物になろうとしているのかい。」

 驚いたように夜鬼は言った。

「なるんじゃねえ。分かろうとしてんだよ。魔物ってのをな。自分の中の魔物…。」

 エンマの緑色の目が、薄くぼんやりと光っていた。

「魔眼さえ開けば…。」

 言いながら、エンマはぐうぐうと眠り始めた。

「こいつは…ただのバカな餓鬼だと思っていたが…。思いも寄らないことを考えるもんだねえ。」

「夜鬼。僕が言ったのさ。魔物の自分を受け入れろってね。僕は、エンマに殺してくれと言った。そうすれば、君は魔眼を開くことが出来るとね。でもエンマはそうしなかった。こいつは楽な道を選ばずに、苦しい道を選んだ。僕はそれが意外だったけどね。」

 柱の陰から、死鬼が現れて言った。

「こいつはそこまで非情にはなれないさ。人の…アヤメの血を継いでいるからね。でも一方では、あの雷鬼の残忍な血を継いでいる。だからそのどっちに転んだっておかしくはないんだ。どっちに転んだってあたしは構わないと思っていたが…。フフ。」

 夜鬼は微笑んだ。

「あのアヤメの願い…。長老の望み。それが全く叶わないわけでもないかもしれないね。」

「人と魔物の共存か。」

「そう。それがアヤメの願いだった。もし、雷鬼を倒すことが出来たら、根の国はどうなるのか…。まあ、あたしはそこまで何も考えちゃいないけどね。」

「夜鬼が何故こいつにこだわるのか…。僕はただの雷鬼の代わりだと思っていた。けれど、僕が見ていた限り、こいつは雷鬼とは違うね。夜鬼は雷鬼を愛するあまりに、その子供まで愛そうとしていたのかと、僕は思っていたけれど…。」

「だから、どうしてそんな考えになるのかね。あたしが惚れてんのは、雷鬼でもないしエンマでもないし、ましてやお前なんかでもないよ。あたしは力そのものが好きなのさ。その力が強ければ強いほど、あたしはゾクゾクしてきちまう。お前にはこんな気持ちが、分からないだろうね。あたしの愛情ってのはね、ちっぽけな色恋なんかじゃ量れないのさ。強い力に惹かれたからこそ、あたしは雷鬼を育てたし、そして今はエンマをここへ連れて来たんだ。この餓鬼には、雷鬼も超える力を感じるよ。あんたがこいつに興味を示したようにね。」

 夜鬼はそう言って死鬼をちらりと見た。

 死鬼は夜鬼を見つめる目を、エンマに移して、微かに微笑んでいた。


 それから、数か月後。

 エンマが連れ去られてから、半年が過ぎた。

 花霞の里では、長老のもとに、月影の里からの使いが来ていた。

 月影の里は、花霞の里より西方にある隠れ里で、楓の故郷である。

 地獄里が魔物に襲われたという知らせを受けて、この二つの里で連携して魔物の動向を探っていたのだったが、月影の使者によれば、またしても魔物が地獄里に出現したというのであった。

「やはり、魔物の通り道がどこかにあるのだ。」

 長老は、地獄里へ隊を送り、魔物退治を命じたが、これを蓮花や蘭丸たちには秘密にしていた。これ以上の混乱を避けるためだ。

 蓮花の稽古場では、フータが熱心に修行に励んでいた。

「だめだ。おいら、飛天術は簡単に出来たのに、他のは出来ないや。」

「諦めるのが早すぎるわ。フータ、もっと頑張ってみて。」

「伝視とか、おいらそんなのなくたって、目はいいぞ。」

「目が良くても、ずっと遠くの方までは見えないでしょう。瞬足術は?」

「早く走るんだろ。おいら、走るのも速いぞ。」

「うーん…。まあ、気長に修行するしかないわね。今日はこれくらいにして、帰りましょう。帰ったら、桜餅を作って持って行って、お花見をするんだったわね。」

「わーい!花見って、サクラを見に行くんだろ!」

 フータは飛び上がって喜んだ。

「ふふ。フータは桜が好きなのね。私は桜餅が大好きだから。本当は、エンマにも食べさせたかったなあ。」

「おいら、兄貴の分も食うよ!…食えないけど、気持ちだけ。」

 フータは笑って言った。

「皆でこれから桜の広場へ行きましょう。」

 蓮花とフータは、一緒に競争するようにして蘭丸の家へと向かって行った。

 桜の広場は、花霞の里の名所だった。

 年中桜が咲き乱れている里でも、ここは、人々が集まって宴や祭りを楽しんだりするのにうってつけの場所なのだった。

 青空の下、濃い桃色の花や、薄桃色の花や、同じ桜でも様々の種類の桜の花が満開に咲いており、美しい春の景色が広がっていた。

 氷助は昼間にも関わらず大徳利を何本も持ってきて、酒を飲み続けながら、陽気に笑っていた。

「本当に今日は天気がいいわねえ。」

 みぞれはにこにこと微笑みながら、風景を眺めていた。

「桜は綺麗だなあ。何回見ても、おいら、飽きないよ。ハラいっぱいになるし。」

「蘭丸。桜餅を作って来たのよ。ほら、食べて。」

 一人浮かない顔をしている蘭丸に、蓮花は、桜餅を差し出した。

「ありがとう。」

 蘭丸は微笑んで、蓮花から桜餅を受け取って一口食べたが、表情は暗かった。

「もう。蘭丸ったら、いつまでそうしてうじうじしてるの。外はこんなに晴れてて気持ちいいのに。」

「…だって、もう半年だよ。エンマがいなくなって…。」

「そのうち帰って来るわ。もしかしたら今日帰って来るかもしれないじゃない。」

「なんで蓮花はそうやって気持ちを隠していられるんだ。」

「隠すってどういうこと?別に私はいつも通りよ。」

「そうかなあ…。時々一人で泣いているんだろう。」

「なにそれ?私がそんなにメソメソしてるように見えるの?」

「じゃあ、エンマはもうどうでもいいんだな。」

「どうでもいいわけないでしょ。でも、泣いたってどうにもならないし。」

「蓮花。俺は前から、蓮花に好きだと言っている。」

「ち、ちょっと!こんな所で何言い出すのよ!」

 氷助やみぞれの手前、蓮花は真っ赤になって、慌てて蘭丸の口に手を当てて押さえた。

「…ん?どうした。蓮花。」

 酒に酔っていい気分に浸っている氷助はそう聞いたが、今のやりとりは全く聞こえていないようだった。みぞれの方は、フータと話をしていて聞こえていないように見えた。

「何でもないわ。」

 蓮花は蘭丸から手を離した。

「…あいつがいなくなって、どこかでほっとしているんだ。そういう意味では。でも、それもまた、なんか気分が悪いんだ。」

「ほっとしてるって…。蘭丸は、エンマが帰って来ない方がいいって言うの!?」

 蓮花は驚いたように言った。

「そうは言ってないだろ。なんていうか、複雑なんだ。今はこうやって蓮花と一緒にいられて嬉しいけど…。エンマがいないのは寂しいけど…。でもあいつが帰ってきたらきたで蓮花はあいつに…。ああ、俺はどうすればいいんだ!」

 蘭丸は頭をぐしゃぐしゃと搔きむしった。

「考えすぎよ。勝手に私がエンマを好きだとか…。椿がおかしなことを言い出すから、それを気にしてるんでしょ。別にそんなんじゃないから。誤解しないで。」

「そんなふうに否定すればするほど、逆に怪しいように思えてくるんだ。」

「ああ、もう!しつこいわねっ!蘭丸のバカ!」

 蓮花はぷいと後ろを向いて、桜餅をぱくぱくとやけ食いするように食べていた。


 一方、黄泉の国では、相変わらずエンマは宮殿の中庭で寝ていた。

「おい!エンマ。いつまでそうしてるんだ。そろそろ修行はどうなんだい。」

 夜鬼が声を掛けた。

 エンマは目を開けて、ゆっくりと身を起こすと、両腕を上げて大きく伸びをした。

「夜鬼。こいつを見な。」

 そう言ってエンマは、握っていた左手を開けて見せた。

 手の上には、小さな鼠が乗っていた。

「そいつは、あたしのしもべじゃないか。」

 夜鬼は眉をひそめた。

 エンマはにやりと笑って、左手の鼠を見た。

 すると、突然鼠の体が赤い炎に包まれて、燃え出した。

「おい!」

 夜鬼が止めようとしたが、一瞬にして鼠は燃えて灰になってしまった。

「あたしのしもべを…。なんてことすんだい。」

「一匹くらいどうってことねえだろ。俺は聖者でも坊主でもねえんだからな。なんかで試さねえと分かんねえし。ま、今は妖術ってもこれくらいだ。俺が使えんのは。」

「そういうわりには、なんだかお前、何か見つけたみたいな顔してるじゃないか。」

 夜鬼は微笑みを浮かべた。

 そのとき、夜鬼はほんの一瞬だけ、すっかりと油断していた。

 その隙を突くように、いきなりエンマは、夜鬼の腹に右の拳を当てて殴った。

「うっ!?」

 夜鬼はよろけたが、すぐにエンマから飛び退いた。

「仕返しだ!いつだか、俺を散々いたぶって、足蹴にしやがった、その礼だ!」

 エンマは笑っていた。

「この餓鬼が…やるじゃないか。このあたしに一発くれるとはね。しかしいつの間に…。修行らしいことを何にもしていないように見えたけどねえ。」

「魔眼が開いたんだ。それだけだ。」

「魔眼…って、それじゃあ、お前は心眼よりも先に、そっちの目が開いたってのかい。せっかく蓮花が教えてたのに、なんだか無駄になったようだね。」

「無駄じゃねえけど、魔眼が使えれば、心眼と同じことだろ。俺は人でも魔物でもあるから、その両方の力をフルに使ってやるんだ。へへへっ。」

「ふーん…。」

 感心したような顔で、夜鬼はエンマをしばらく見ていたが、

「よし。もう帰りな。お前に教えることはもうないよ。あとは自分でやるんだ。」

と言って、大きな猫に変身した。

「へっ、結局てめえはほとんど何も教えなかったじゃねえか。」

「文句はいいから、さっさと乗れ。お前を花霞の里に帰してやる。」

 猫の姿になった夜鬼は背中にエンマを乗せて、黄泉の国から花霞の里へと向かって空を駆けて行った。

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