第2話 男は男に恋するために生まれる

 神様は男?女?どっちなんだ?


 創世記1章27-28節に、神様は自分に似せて男女を創造されたと書かれている。

 27 神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。

 28 神は彼らを祝福して言われた、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」。


 どっちでも良いけど、きっと男だ。だから男が男に恋してしまうのだ。でも、子供がいなくなると困るから、神様は男に女と結ぶことを命じ、同性愛を罪として禁じたんだ。本当は、男は男に恋するために生まれるのに、神様は罪深い。



 何かつまんない、と欠伸していると、太田先生と目が合った。『不味い、全く聞いてなかったぞ。いや、クリスチャンに芭蕉の奥の細道なんてナンセンスだ。教える方が悪い』。


「高梨、次、読んで」と太田先生に言われて、仕方なく立ち上がり、微笑む聡太。


「先生、今日は読めません。安息日なので」

「安息日って何だ?」

「神様が天地創造の7日目に休息を取ったことに由来し、何もしてはならない日と定められています」

「分かった。座らなくても良いから、立っとけ」


 ***


 放課後、鈴木蓮と高橋樹たかはしいつきと一緒に部室に向かう聡太。同じクラスの蓮が聡太に尋ねる。


「聡太、安息日だけど部活は良いのか?」

「ああ、部活は安息になる」


 本当は木村拓海先輩に会いたいからだ。蓮やいつきには分からないだろな、この気持ち。、、拓海先輩も分かってないけど。まあいいや、そばにいられるだけで幸せだ。



 グラウンドの外れにある弓道部、香澄たちが白い上衣と紺の袴姿で、サッカー部の練習を眺めている。


「香澄は良いよね、聡太君と幼馴染だなんて」

「聡太とは何でもないから」

「でも、仲良いじゃない、羨ましい」

「空気と同じだよ。三つの時からいつも一緒だったから、姉弟きょうだいみたいな感じ」


『面倒くさい』、だから、さっさとカムアウトして欲しいし、『馬鹿馬鹿しい、拓海先輩、大好きって追っかけ廻っているだけじゃない』と思う香澄。


 その通りです。聡太は今、拓海先輩のためだけに生きてます。ミッドフィルダー(MF)の俺がパスしたボールを、フォワード(FW)の先輩がゴールする、先輩に駆け寄ってハグする、生きてて良かったと思える瞬間が、それです。


 聡太が無邪気に両手を広げて、拓海先輩の胸に飛び込んでいく。


「やっぱり、聡太くんは天使エンジェルだ。笑顔が輝いてる」


 香澄も『聡太の笑顔だけは、三つの時から変わらない』と思っている。空のように晴れやかで、透き通る太陽のように眩しい。

 聡太の父も、神様の啓示を受けたからと、聡太には神の癒しを意味する大天使ラファエルの洗礼名を授けた。そして、聡明で美しい香澄には、聖母マリアと神の恵みを意味するテレシアにちなみ、マリア・テレジアの洗礼名を授けたのだ。

 



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