第15話 復讐者の追憶


 おれとロアーナはとある貴族の家に生まれた。両親共に王国に仕える魔導士で、おれ達兄妹も将来は魔導士になるべく育てられていた。


 そんなおれ達の環境が変わったのはおれが十二歳、妹が九歳の頃だった。魔物討伐の最中に父と母が死んだ。そして後見人としてやってきた叔父に家督の全てが乗っ取られた。おれと妹は家から放り出されそこから貧しい生活が始まった。


 食い物を盗んだ事もあった。奴隷商人に捕まりそうな事もあった。それでもおれは妹を守るため必死に生きた。


 おれは十五歳で冒険者となり、ようやく安定した生活が送れるようになった。やがてロアーナも冒険者となると二人でパーティーを組んでそこそこのランクに上がる事が出来た。


 冒険者としての実績が認められ、そしてなにより貴族出身という事もありおれ達は王国所属の魔導士となった。すぐさまおれは叔父を追放し、ようやく公爵家の名を取り戻す事が出来た。



 そしておれが十八の時にヴァレントとレベリオに出会った。その頃あいつらは狂戦士バーサーカーと白魔導士の二人組パーティーという事で少し話題になっていた。レベリオが聖女と認定されたことを切っ掛けに二人揃って王国のお抱えとなった。



 そしておれとロアーナはヴァレント達と臨時でパーティーを組む事になった。レベリオは戦闘慣れしていないものの聖女としての能力は確かだった。ヴァレントも粗削りではあったがその実力は相当高かった。


 おれ達四人のパーティーは非常に息が合った。魔物討伐にダンジョン攻略と、国から与えられた指令を次々にこなしていった。そんな中、妹にある変化が起きた。


「ねぇお兄ちゃん。ヴァレントの狂乱バーサク状態をもっとうまく制御する方法ってないかな?」


「ヴァレントが新しい剣を欲しがってるみたい。宝物庫になんかいいのあるかなぁ?」


「この前ヴァレントがね――」


 何かにつけてヴァレントの事ばかり話すようになった。おそらくあいつに恋心を抱いていたのだろう。兄としては複雑な想いだったが素直に妹の恋を応援してやりたい気持ちだった。


 かくいうおれもレベリオの事が気になっていた。だが幼馴染でもあったヴァレントとレベリオが互いを思い合っているのはすぐにわかる。おれ達兄妹は決して叶わぬ恋をしていた。


 それでも諦めきれなかったおれは、一度汚い手段でレベリオを奪い取ろうとした事があった。


「レベリオ……君はもしかしてネクロマンサーか?」


 おれには他人の魔力属性が色で見えるという特殊な能力があった。レベリオの属性は白魔法。だが彼女の色はそれとは違っていた。非常に珍しい色だったので色々調べてみるとネクロマンサーだという事がわかった。最初それを告げた時、彼女はとても動揺していた。


「お願いだからこの事は黙っておいてください! 聖女でない事が明るみになったらヴァレントの地位も危うくなってしまう」


 彼女の願いをおれは聞き入れる事にした。だがその代わりにおれと恋人になってくれと頼んだところ彼女は非常に困惑していた。少し考えさせてくれ、と彼女の返事を待っている時にあの事件が起こった。




「ジュイリア様! 何があっても決して馬車からお出にならぬようお願いします!」


 突然の魔物の襲撃に王女は混乱しきっていた。一瞬、魔法で眠らせておこうかとも思ったが、それよりも魔物をさっさと片付けてしまおうとおれはその場を離れた。


 その選択をおれは今でも悔やむ。恐怖で我を忘れた王女が馬車を飛び出した。その瞬間襲い掛かった一頭の魔物。一番近くにいたロアーナが身を挺して王女を守った。鮮血を浴びた王女の悲鳴が耳をつんざく。苦痛に歪んだ顔のロアーナが手を伸ばした先にいたのは、おれではなくヴァレントだった。



 心が漆黒の闇に包まれたようだった。


 なぜ勝手に飛び出したんだ、あの糞女は……


 妹をなぜ助けなかったんだ、あの馬鹿野郎は……


 早く……早く傷を治してやってくれ。おまえは聖女なんじゃないのか?



 なぜこんな理不尽な事ばかり起こるんだ? 


 一体おれが、妹が何をしたっていうんだ?



 あいつも、あいつも、そしてあいつも……全てが憎くて堪らない。



 こんな不条理な世界は、いっそなくなったって構いはしない。





「ロディ! これ以上あなたの好きにはさせないっ!!」


 レベリオの叫び声でおれはふと我に返った。目の前にはおれを睨みつけているレベリオとアジュダがいた。



百鬼夜行ファンタズマルーシャ!」


 レベリオが呪文を唱えた瞬間、おびただしい数の死霊達がおれに襲い掛かってきた。








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