第8話 茉莉花の根
・・・早朝。
悲しみにくれる
人か獣かわからない怪しい存在に脅える村では、悠長に死者を弔う余裕すらない。
村の男達は、
悲しみに打ち拉がれる
深夜。どうにも雨の勢いはおさまらない。
「行きましょう」
イリヤが声をかける。わたしは鍬を2本持ち、サクヤはランプを持ってイリヤの後に続いた。目的地は、
サクヤは両手を上に掲げてローブを天幕のように張って、ランプの灯りが雨で消えないように守る。
そして、わたしとイリヤはその灯りを頼りに土を掘って
雨の中での墓荒らし。サクヤは顔をしかめて辛そうにしているし、わたしだって吐き戻しそうなくらい内臓がムカムカする。なのに、イリヤはいつも通りのすまし顔で土をもくもくと掘っている。
「あのさ、もしかして人の心とか神経とかないの?」
「何の話ですか?」
「いやさ、さすがにこの仕事って精神的にキツイよ」
「そうですか?」
「こんな仕事に、サクヤを連れてこないでよ!」
・・・カツン。
鍬の先が棺にぶつかった。棺の上の土を払って、棺の蓋をこじ開けた。
胸の前で手を組んだ姿の
「エルザさん、大丈夫ですか?」
イリヤの呼びかけに、
「マグナオーン。エルザさんをお願いします」
わたしは、
「ある種の
ここは教会の倉庫。
「許されない恋に落ちた恋人同士で、男性が女性に
「知らないよ!」
わたしはイリヤの話をぶち切った。雨に濡れた服を脱いで、身体を乾いた布で拭くのが忙しい。サクヤも早く着替えさせないと、風邪を引くかも知れない。
イリヤの話を聞いてる暇なんてない!
表向き、これで
これで亡き領主様の奥方も、この村を気にかける必要は無くなるはず。
しばらくの間、
悪魔の黒い爪の毒素が、身体から抜ければ手足の黒ずみや皮膚のひびも治るだろう。新しい土地で別人として、親子で穏やかに暮らせる・・・きっと。
わたしとサクヤが着替えを済ませると、司祭様がお湯を持ってきてくれた。
器に注いだお湯をサクヤに与えた。サクヤは掌を器に添えて、自分の掌を温めている。やっぱり寒かったんだ。
「寒い思いさせて、ごめんね」
サクヤの掌の上から、わたしの掌を重ねた。サクヤの指はまだ冷たかった。
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