第6話 亡き領主の遺言状
今日は、男衆だけで西の山を捜しに向かった。わたしは、男衆のいない村に何者かが襲ってきた場合に備えて村で待機していた。
先ほど男衆が戻ってきたので
「エルザは、今日どうしていたんだ?」
そうだ。
「具合は良くなってるみたいだよ。食事も普通にできるようになったしね」
心配しているものと思ったが、わたしの返事には納得できない様子だった。
「オドさんの家にいたんだな?」
「そうだけど?」
男達は、互いに顔を見合わせると踵を返して去って行った。
次の日。男衆は東の森を探索して、やはり何も見つけられなかった。
「なかなか大変ね。領主様に兵隊や警官を送ってもらえないの?」
教会で司祭様から、昨日と今日の山狩りの報告を聞いていた。イリヤとサクヤも来ていて、今も教会の外でわたしを待っている。
「領主様がご健在だった頃には、村に何かあればすぐに対処して頂けたんですがね」
一年の半分をこの村で過ごしていたんだっけ。
本宅のあるワードナー市は、馬車でも往復4日くらいかかる。それではお願いするだけでも大変だ。その上、お願いをきいてくれるかどうかもわからない。
「何やら、本宅の方でも領主様の跡目争いが大変とか。この村に限らず、辺境地の領地に気を回している余裕はありますまい」
・・・あれ?
幼い跡継ぎがいるのに、跡目争いが大変?
「司祭様は、ワードナー市にある本宅のことも詳しいのかしら?」
司祭様は穏やかな笑顔のまま小さく笑った。
「教会同士の連絡網と言うのがありましてね。こんな小さな教会でも、大都市で起こった事件や騒動は、その筋から伝わって来ているんですよ」
「ウィザルタル市の教会が怪しい神託を出してた件とか?」
ちょっと嫌味を言ってみたが、司祭様は素直に頭を下げる。
「教会の不正を正して頂き、感謝しております」
やっぱり、わたしたちのことを知っていたか。それで村長も、わたしたちをあっさり信用したんだな。
「ねえ、司祭様。わたしの婿と娘をここに呼んでいい?」
司祭様はすぐに了承してくれた。これで、ここに呼ぶのはわたしの婿と娘だ。
司祭様は、
「領主の本宅で、跡目争いになっていると言うのはどういうことですか?」
「亡き領主様の遺言状があったそうです。その中に、奥方の存じていない子供のことが書かれているとかで、どこに隠し子がいるのかと大騒ぎですよ」
さすがに教会の情報網でも、遺言書の詳細な内容までは不明。しかし、奥方の慌てようからかなりの財産を譲るつもりなのではないかと噂されていると言う。
「エルザさんのお腹の子供を指していることに間違いないんでしょうか?」
「領主様は大変真面目な方で、奥方との間にしか子供はいないと思われてました。正直なところ、エルザさんに子供がいたのも驚きなんですから、他に子供がおられるなんてもっと考えられません」
真面目かどうかともかく・・・一年の半分をこの村で過ごしてたんだから、他で子供作ってる時間はなかったんじゃないのかな?
そして、悪魔の黒い爪。偶然混じったと考えるより、わざと混ぜられて
「しかし、どうしたものか」
司祭様は、頭を抱えてしまった。
かと言って、
イリヤも、妙案は見いだせないようで黙っている。
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