第二章 私の世界


1


闇のトンネルの中を、その先に見える光に向かって歩き続けていたはずが、いつの間にか暗渠の流れに乗って船に揺られていた。

その船は木造の小舟で、背後には船頭らしき気配もある。

反対に、あれだけ飛び交っていた魂たちの姿は消えた。

多分……ここはもう、死者の国なのだろう。

魂たちの姿が消えたのは、行くべき場所へ行ったから。

今私も、行くべき場所へ向かっているのだろう。

この三途の川のような流れの向こう、そこに私が至るべき死者の国があるのだろう。


私が死者の国の歩き方を知らないからか、それからもしばらく一切の変化は無く、ただ流れに揺られて行くばかり。

……背後の船頭は、確かにいるんだけど、多分生きていない。

あぁ、死者の国だから死んでて当然、と言う意味じゃ無くて、何と言えば良いのかな。

今私が乗っているのが船だから、当然船頭はいるはず、と言う理由で配置された存在。

舞台装置と言うか小道具と言うか……そう、NPC、ノンプレイヤーキャラクター。

船頭と言う役割を与えられた、そこに魂は存在しないモノ。

わざわざ話し掛けて確認していないけど、多分話し掛けても反応は無いでしょう。

良いとこ「なんのこと?」と画一的な答えが返って来るだけ(^^;

そもそも、本当はここに川なんて無いだろうし、私は船になんて乗っていない。

だとしたら、これは何だろう。

……これもいつか読んだ漫画からのサブカル知識だけど、多分、この光景を創り出しているのは私自身。

私の心象風景が反映された世界なんじゃないかしら。

現代日本人の多くが知る三途の川。

私は無意識に、死者の国へ渡るには三途の川を越えて行くもの、と思っていて、それが今形を成している。

そう考えるのが自然よね。

異世界の死者の国に、日本人が思い描くのと同じ光景が広がっている方が不自然。

でも……三途の川って、向こう岸に渡るものでしょ。

こうして流れに乗って進むのは変よね。

結局、色々推測は出来ても答えは判らない。

ここはアストラル界、死者の国。未知の世界だもの。


そんな取り留めの無い事を考えていると、ようやく景色に変化が訪れた。

川の左手側に、桟橋が見えて来たわ。……私が、三途の川を進むのは変、と考えたから?

すると、船頭が舵を切り、そちらへと船を寄せて行く。

川はまだまだ続いていて、暗闇に呑まれて先は見えない。

船を桟橋に着けると、船頭はそのまま腰を下ろして動かなくなる。

……まぁ、逆らう意味は無い、か。

岸に上がれ、と言われると、思わず逆らって川を進みたくもなるけど、この川を行ったからと言って何がある訳でも無いでしょう。

仕方無いので、私は桟橋へと上がる。

それを確認した船頭は舟を漕ぎ出し、私はぽつん、ひとり取り残された。

気付くと、今まで真っ暗闇だった背後から、光が漏れて来た。喧噪まで聞こえる。

振り返ると、目の前に上へと続く階段がある。

どうやら、私の死者の国、いいえ、地獄に辿り着いたみたいね。

さて、鬼が出るか蛇が出るか、まずは地獄の一丁目よ。


2


階段を上がり切り、眩しい光の中に歩を進めると……、そこには遠い過日に見慣れた光景が広がっていた。

どんな用事があるのか、忙しなく行き交う人の群れ。

すぐ右脇を見れば交番があって、少し進んで左手を見やれば忠犬の銅像。

その先のスクランブル交差点を見下ろすビルでは、大型ビジョンが何かの映像を垂れ流してる。

そう、渋谷。私は今、渋谷駅のハチ公口前にいた。

ただ……、多分少し昔の渋谷ね、ここ。

私がアーデルヴァイトに拉致された頃、すでに渋谷駅周辺は再開発で様相が変わってた。

でも、今見ている光景は、私が20代の頃通っていた渋谷に見える。

当時も充分ビルだらけだったけど、再開発後は駅ビルも新しくなり、何やら二階部分から通路を通って他の建物に行けるような構造的変化もあって、久しぶりに訪れたら迷いそう、なんて思ってた。

でも、この渋谷にはそれが無い。通い慣れたあの頃のまま。

あ、この曲、モー娘。かな?あの頃は、おニャン子以来の国民的アイドルグループで、興味の無い私でも毎日耳に目にしてたわね。

あぁ、興味が無いって言うのは、特にモー娘。がどうこうじゃ無くて、私、世代……としては少し若いけど、当時おニャン子にも興味無かった。

アイドル自体に、あんまり興味無い方だったの。

中森明菜がTVで歌う時だけ、観てたくらい。

別に、おニャン子は駄目で明菜の方が良い、とかそう言う話じゃ無くてね。

どうも私は、子供の頃からきゃぴきゃぴしたのは苦手だったの(^^;

ウイングマンでも美紅ちゃんじゃ無くてあおいさんが好きだったし、マクロスだとミンメイじゃ無くて未沙が好きだった。

落ち着いたお姉さんタイプが好きだったのかな?

まぁ、現実の明菜はともかく、あおいさんや未沙はいつしか年下になって、今や私は誰よりもおばさんだけどね(^Д^;

きゃぴきゃぴした女の子たちがきゃっきゃしてるのを傍から見てると、こっちが何か気恥ずかしくなるのよね。

だから生前は、AKBみたいなアルファベットグループと坂道グループをシャッフルされたら誰が誰だか判らないし、モー娘。ってまだ活動してたんだ、それはそれで凄いな、なんて思うようなおっさんでした(^ω^;

そんな私でも、曲名やメンバーは知らなくても歌だけは聞いた事があるくらい、当時凄かったのよ、モー娘。。

そのPVが垂れ流しと言う事は、1990年代の最後から2000年代最初の頃……ノストラダムスの大予言の頃ね(爆)


折角の懐かしき渋谷なので、私は通い慣れた道玄坂を登って行き、とある場所を目指した。

109の左側の道を上がり切ったところにある雑居ビル。

その一室で私は、アニソン界のアニキと呼ばれた先生に、歌を習ってた。

と言っても、あくまでヴォーカルトレーニングのプログラムだから、大勢いる生徒の中のひとりに過ぎないけどね。

部屋の中に防音スペースが作ってあって、そこに講師の方と生徒ふたりが入って30分実技、その後先生と一緒のソファに腰掛けて、30分ディスカッション……と言うか雑談(^^;

スパロボF完結編が発売された頃で、マジンガーZを主力にして遊んでる、なんてお話を聞かせて貰えたわ。

もちろん、30分の実技の方を防音スペースの外からチェックしていて、気になった事を指摘なさって下さるし、雑談だけじゃ無く為になるお話もしてくれたわよ。

私はね、カラオケには結構自信があったの。

それで、プロの指導なんか受けちゃった日には、もしかして歌手デビューも夢じゃ無い?なんて馬鹿な事考えてた。若かったのよ。

でもね、最初のレッスンで思い知ったわ。

カラオケが上手い事と、歌が上手い事は、全く意味が違うんだって。

本物の歌手が歌うのを目の当りにしたら、一発で理解しちゃった。

ま、それが理解出来る程度には、私も決して下手じゃ無かったんだと思いたいけど。

マイクやスピーカーを通さない生の歌声を目の前で聞かされたら、本物の歌手の次元の違いにただただ圧倒された。

もちろん、生徒の前で軽く披露しただけの、本息では無い歌唱で、よ。

もうね、Lv.20を越えたと思って喜んでる時に、Lv.50越えの超越種に遭遇するようなものよ。

私はレッスン初日に、歌手なんて無理、と思い知らされた。

……そんな思い出の地、渋谷(^Д^;


その雑居ビルは確かにあったし、部屋も当時のまま。

先生も講師の方たちもいらっしゃったけど、全員NPC。

そう。ここは先の三途の川同様、私の心象風景から形作られた、私の記憶の中の渋谷。

言ってみれば、ここが私の地獄なのでしょう。

アストラル界がそうなのか、あくまで死者の国がそうなのか判らないけど、本来の姿では無く到達した魂ひとりひとりに違う姿を見せる。

ここが、当時の渋谷とそっくりな世界なのでは無く、私の記憶を基にした世界である証拠は他にもある。

私は当時、いえ、多分女になった今でも、そこまでファッションに興味が無い。

マルキューに出入りするような女友達もいなかったし、つまり私はマルキューに入った事が無い。

では、この渋谷にあるマルキューの中はどうなっているのか。

答えは、どこかで見たような商業スペースが広がっている。

外見はさすがに何度も見て知ってるけど、中身は入った事が無いから全く知らない。

一応、マルキューは若者ファッションを扱っているっぽい、と言う漠然としたイメージはあるから、それっぽい感じにはなってる。

つまり、私が知らないものは、既知の何かに置き換えられて再現されている、と言う事ね。

件の雑居ビルの先までは行った事が無いから、道は続いてるけど見覚えの無い建物があるばかり。

マルキューの右側の道も使わないから、コピペしたような建物があるだけ。

センター街も、当時はチーマーなんかの時代で治安も悪かったし、あの特徴的なアーチ状の入り口は散々見たけど、中まで入った事は無かったからコピペ建物があるだけ。

道玄坂の雑居ビルまでの道と、スクランブル交差点から見える範囲は良く再現されてるけど、他はカメラに写される予定の無い書き割りの裏側のよう。

あぁ、音楽には興味あったから、タワーレコードのビルはちゃんと再現されてるわね。

それから、スイーツショップ。

さすがに、ここはご近所じゃ無いから、招喚される時食べ損ねたあのBigシュークリームは売ってないんだけど、別の好物が売ってた。

キャラメルクリームロールケーキ。

いえ、私そんなに、本当はロールケーキ好きじゃ無いの。

でもね、一人前ずつカットされたロールケーキじゃ無くて、1本丸ごと買って来て、半分なり1/3なりに切ってかぶり付くと、とても食べ応えがあって食感も変わって、驚くほど満足感を得られるわ。

だから、色々回って、切らずに1本丸ごと買えるロールケーキを探して、たまに食べてたの。

それが、キャラメルクリームロールケーキ。別に、キャラメルクリームも特に好きな訳じゃ無いんだけど、たまさか見付けたそれが美味しかったから。

たまによ。さすがに、1本丸ごとしょっちゅう食べる訳には行かないじゃない。

あ、一度に全部は食べないわよ。あくまで半分よ、半分。

普通のロールケーキって、確かに美味しいんだけど、1回食べたらもう良いかな、って感じなのよね。

でも、丸齧りするとまるで違うスイーツに生まれ変わる。

はぁ、ローソンのプレミアムロールケーキ、1本丸ごとで売って欲しかったわ。


と言う事で、私は今、私の記憶から再現された渋谷にいる。

ここが死者の国なのは間違い無いけど、さて……どこをどう探せば良いのやら。

さすがに、アストラル感知したって、ライアンもクリスティーナも気配は無し。

代わりに、いくつかの気配はあった。

街にいる人間たち、全てがNPCでは無いみたい。

中には、魂を感じる者たちがちらほら。

そして彼らは、こちらの様子を窺ってる。

他の死者?でもここは、私の心が作り出した地獄でしょ。

そこに、他の死者がいるのはおかしいわよね。

一体、彼らは何者なのかしら。


3


適当な建物を回ってウィンドウショッピング……と言う体で、彼らの様子を観察してみる。

私のアストラル感知は視覚的なものじゃ無いから、彼らの本当の姿は良く判らないけど、特徴的な要素がひとつ。

それは、全員がサングラス……的な物を掛けてる事。

ここが渋谷だから勘違いしそうになるけど、あくまでアーデルヴァイトの三界の内のアストラル界、その中の死者の国なのだから、この世界の住人であれば日本や地球っぽいのはおかしい。

サングラスっぽい物は、他のNPCが掛けてるサングラスとは別物で、あくまでサングラスっぽいだけ。

ここは物質界でも無いから、物理的な法則をある程度無視出来るのか、そのサングラスっぽい物には蔓が無い。

某ウルトラアイみたいな感じ(^^;

問題は、眼鏡のようにして着用している点と、彼らが同じサングラスを掛けている点。

眼鏡だとすれば、それで何か視えないモノを視えるようにしていると考えられる。

全員が同じ物を着用していると言う事は、彼らが仲間だと考えられる。

ここ死者の国で集団行動している者と言えば、多分獄卒でしょうね。

きっとそんな奴らがいるだろう、と想像していただけで、実際のところは死んでみなくちゃ……幸い私は死んでいないけど、判らない話。

でも実際に、死者の国で死者たちを監視、乃至使役するような存在がいるんでしょう。

となると、彼らが私の様子を窺っているのは、新たにやって来た死者が、他の死者たちとどこかおかしいから、かな。

そして、本当の死者の国の姿は判らないけど、基本死者の心象風景で形作られるなら、他の死者たちの地獄にもNPCたちはいるんでしょう。

獄卒たちには、NPCと本物の死者を見分けられず、あのサングラスを掛けると見分けられるようになる、と言うところかしら。

私は一応、神の気と気配は抑えたままだけど、つまり普通の生者のような状態。

死者の国に生者がいたら、確かにおかしい。

う~んと……こんな感じかな?

私は、ゾンビたちの気配を参考に、自分の気配を細工してみた。

……あぁ、そうか。別に意味無いわね、これ。

獄卒たちは気配を読んでる訳じゃ無く、サングラスで見分けられるのが魂の有無くらいだとしたら、今更死者を装っても遅いか。

とは言え、いるはずの無い生者だと思われるよりは良いでしょ。

それじゃあ、何で私の事がおかしいなんて……うん、私と言うより、この渋谷かも。

どう考えても、アーデルヴァイトの景色じゃ無いもんね(^^;

過去何人も、異世界人だって死んだはずだから、こう言うケース自体はたまにあるんでしょうけど、絶対数は少ないでしょう。

そして、過去の例を鑑みれば、異世界人はアーデルヴァイトで勇者だった可能性もある。

そう言う異世界人の魂は、どこか特別なのかも知れないわ。

あぁ、もちろん、全員じゃ無いわよ。

ほら、私たちの時もそうだったけど、招喚は失敗もするから。

地球から魂だけは世界を渡ったけど、素体に順応出来無かったり、勇者教育の過程で失格となったり……。

そうして敢え無く最期を遂げれば、当然成仏先はアーデルヴァイトの死者の国。

そう言った、何の力も持たない、ただの異世界人の魂もやって来る訳ね。

地獄の様子がおかしいから、今度の死者は異世界人かも知れない。

もしそうだとして、こいつはただの異世界人なのか、元勇者なのか。

そう言った事を、確かめようとしてるのかも。

良し。あくまで推測だけど、何と無く状況は掴めて来たわ。

……後は、彼らと違う気配がもうひとつ。

そっちで判るのは、獄卒たちとは別口らしい、って事くらい。

どうも、私の様子を窺っていると言うよりも、獄卒の様子を窺っている、もしくは獄卒から隠れてる、と言った感じ。

さて。私としては、死者の国の歩き方を質問してみたいところだけど、彼らが本当に獄卒だったら、素直に死者の言う事なんか聞いてくれるのかしら。

優しく死者を持て成してくれるのか、死者に鞭打ち言う事を聞かせようとするのか。

彼らは一体、死者の国でどんな役割を担ってるんだろう。


とは言え、このままじゃ埒が明かないので、私は取り敢えず、獄卒たちと接触してみる事にする。

信号が青になり、一斉に人々がスクランブル交差点を渡り始めた。

私もその中に紛れ、すれ違い様に獄卒のひとりに声を掛ける。

「あの……、貴方、他の人たちとは違いますよね。少し、お話を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」

何も気付いていない風を装い、小声で話し掛ける。

私が声を掛けたのは、スーツを着たサラリーマンっぽい男性……の中に入っている極卒。

そう、彼らは私から姿を隠す為に、NPCの中に入ってる。

この獄卒は、生真面目なサラリーマン風のNPCに入っており、しかしサングラスを掛けているのがミスマッチ(^^;

「……お前、我々の事が判るのか?」

我々、ね。死者の国の中で、獄卒が何かに警戒する必要なんて無いんでしょうけど、あんまりにも無警戒よね。

まぁ、私は彼らが大勢いる事に気付いてるから、口を滑らせなくても同じだけど。

「えぇと……その……。何人か、あんまり似合っていないサングラス、お掛けになっているから。」

「サングラス?……あぁ、視魂鏡か。……こんな風変わりな世界、中々無いからな。どうやら、この世界では浮いてしまう訳か。」

「ここって……渋谷ですよね?私、どうしてこんなところに……。」

「……どうやら、状況が良く判っていないようだな。お前は……。」

「あ、ちょっと待って。もう信号が変わりそう。さっさと渡っちゃいましょう。」

そう声を掛けて歩き出そうとすると、その獄卒は私の腕を掴まえた。

「おい、どうした。まだ話の途中だぞ。どこへ行く。」

「え?どこって、だから早く信号……。」

……あぁ?!そうか。信号なんて判らないわよね。

あくまで、ここはアーデルヴァイト。魔法はあっても、文化、文明は中世並み。

馬車はあっても、何某かの動力で自走する車なんて存在しないし、車が無いんだから車道は現代社会のそれとは違い、信号なんて必要も無い。

私の様子を窺ってる間は、NPCの行動を模倣してたから問題にならなかったんでしょうけど、今は違う。

信号が赤に変わると危ない、なんて知りっこない。

「と、とにかく、ここにいたら危ないから……。」

「こら、暴れるな。何を訳の判らない事を……。」

などと問答していると、けたたましくクラクションを鳴らして、一台のトラックが突っ込んで来た。

どうやら既に信号は変わってて、青信号にタイミングが合って減速無しに突っ込んで来たみたい。

私は咄嗟にその獄卒サラリーマンを突き飛ばしたけど、少し遅かったようで、肩口が接触して獄卒サラリーマンは錐揉み状態で吹き飛んだ。

そのトラックは急ブレーキを掛け、その所為で積み荷のバランスが崩れて横転する。

積み荷は建設用の砂だか砂利だったようで、辺り一面に砂埃が立ち込めた。

かなりの大事故になってしまった。

そう。ここがアストラル界にある死者の国で、私の心象風景を反映した世界であっても、建物はちゃんと建物としてそこにあるし、NPCはちゃんとした人間だし、トラックもしっかりトラック。

この世界の住人が魂だけの存在だから、マナだけで出来た死者の国の物もまるで物質体のよう。と言うだけじゃ無くて、そもそも物質界の物質もそれを構成する重要な材料はマナだったでしょ。

だから、ここではより純度の高いマナが、物質そのものを心象風景に合わせて構成してるみたいなの。

物質体のまま死者の国にいる私が、建物の中に入れるし、NPCに触れられるし、キャラメルクリームロールケーキも美味しゅう御座いました(^∀^)

そして、極卒サラリーマンは、トラックに撥ねられて……うん、まだ生きてる。

でも、かなりのダメージを負ったみたいね。

私が突き飛ばしていなければ、きっと即死だった……なんて事、当然彼らには……地球の事を知らない極卒たちには判らない。

一気に他の極卒たちの気配の中で怒気が膨れ上がり、それが私に向けられる。

はぁ、私が極卒サラリーマンに何かして、大怪我負わせたようにしか見えないわよね。

そこで、私は反対車線を走って来たワゴン車の屋根に飛び乗って、その場から移動する事にした。


4


そのワゴン車が、モヤイ像を左手に見る辺りまで進んだ頃、反対車線の車の屋根に乗って、複数の極卒たちが現れた。

その手には錫杖を握っていて、私に向かって一斉に投擲する。

瞬時に蜻蛉を切って車道へ降りると、錫杖に串刺しにされたワゴン車が派手に横転。爆発炎上した。

周囲のNPCたちが一斉に騒ぎ出したので、私はその中に紛れて姿を隠す。

NPCの人波を掻き分けるように、極卒たちは私を捜して追い縋る。

う~ん、これじゃあもう、極卒たちから情報を聞かせて貰うのは無理そうね。

私はライアンたちを見付ける為に、まず死者の国の情報が欲しかっただけだから、無用な争いを起こす気無いんだけど……。

「うわぁ!」「ぎゃあ!」「助けてくれ!」

急にNPCたちが悲鳴を上げ始め、見れば「邪魔だ!」と極卒たちが、周囲のNPCたちを錫杖で打ち倒していた。

……NPCたちは、ノンプレイヤー、そこに魂は入っていない訳だけど、人の形をした物に気軽に暴力を振るうなんて事、私には出来無い。

生前、フィギュアたちを大切にしていたし、何と無く人の形をした物には魂が宿るようで、壊れた場合ですら捨てるに捨てられなかった。

NPCたちには確実に魂が入っていないから、人間の振りして動くただの物と言えば物だけど……。

少なくとも、私はNPCを手荒に扱う気にはなれない。

でも、極卒たちは躊躇無く、邪魔な障害物を壊して行く。

それはつまり、平時から人間を手荒に扱う事に、心痛が無い。と想像出来るわ。

やはり、極卒たちは、厳しく死者の魂たちに当たるタイプ、なんでしょうね。

それにしても、あんまり見ていて気分の良い光景じゃ無いわ。

いくら魂が入っていないと言っても、殴られれば痛がるし血も流す。

私だって、敵を倒す事に戸惑いは無いけど、NPCたちは無関係な一般人なのよ。

いやまぁ、人じゃ無いんだけど……何か嫌。

私は、短距離空間転移でビルの壁面へと飛び、そこに立って上から見下ろす。

壁に対して垂直に立つ、と言う状態。

やり方は色々あるんだけど、一番簡単なのは足の裏で張り付く事。

これなら、魔力を扱える者には、そこまで難しくない……けど、重力はそのまま掛かる訳だから、結構キツい体勢よ(^^;

だから私は、重力の方向を操って、ただ立っているだけ。

今の私には、ビル方向が下になってる。

ただ、そもそも重力を操る魔法が高度な為、かなり上位の魔導士じゃ無くちゃ重力操作なんて出来無い。

出来ても、MP消費量が多過ぎて、実用レベルとは言えない。フライと同じね。

重力系の魔法や能力に縁、適性のある一部の種族やモンスターが使う事もあるけど、ほぼ私しか使い手はいないと言える魔法のひとつ。

私くらい魔力が膨大だと、敵に掛かる重力を増幅させて押し潰す事すら可能だから、自分の体重が向く方向を変える程度ならとっても簡単。

そうして、ビル壁面のガラス窓に立った状態で、「お~い!私はこっちよ~!」と極卒たちに呼び掛けた。

……今、この窓の向こうに誰かいたら、丸見えね(^^;

すると、モヤイ像周りにいた群衆内の極卒20~30人が、一斉にビルを見上げる。

サラリーマンにOL、学生や主婦、作業員、配達員、警察官、暴力団員っぽい人、チンピラっぽい人、チーマー、ギャル等々、様々な姿をした極卒たちが、今やサングラスでは無くその手に錫杖を握っている事で、すぐにそれと判る。

彼らは一斉に錫杖を構え、先と同じように投げ付けて来た。

私は、瞬時に重力操作を解除して、落下する事でその錫杖を躱す。

頭上でガシャガシャーンと音を響かせ、私が立っていたガラス窓が砕け散った。

数階下の窓のひとつが開いていたので、私はそこへ素早く体を滑り込ませる。

割れたガラス片は、そのまま路上へと降り注ぐ。

そして、ビル内に入った瞬間、私はステルスを発動。

……私の気配が消えた事に対して、極卒たちの反応に変化は無い。

獄卒たちは、やはり気配で私を追跡していない。

これで完全に、極卒たちを撒いた事になるわね。


ビルの中は、オフィススペース?

モヤイ像辺りの駅ビル内なんて入った事無いから、内部は在り来りな会社っぽい感じに再現されていて、でも特に何かの会社じゃ無いから人がいない。

デビルサマナーやソウルハッカーズの、ビル内マップみたいな感じ?

悪魔こそ出現しないけど、人がいないなら丁度良い。

突入して来た極卒たちのひとりを捕まえて、情報を聞き出しましょうか。

アストラル感知で、こちらは彼らの行動が丸判り。

はぐれたひとりを拉致するなんて、簡単に出来そうね。

……アストラル感知して判ったんだけど、極卒では無いもうひとり、こちらはやっぱり気配で動きを感知してるみたい。

私がステルスを発動したから、見失って戸惑ってる。

私の鑑定は、死者の国にあっても変わらずLv.1相当だから正確な数字は判らないけど、獄卒たちって、多分物質界換算すれば、普通の兵士のLv.12~15程度。

何がどう引っ繰り返っても、私の脅威にはならない。

でも、成仏した魂たちは、すでに魂だけの存在だから、きっと物質体依存のスキルなんかは、使えなくなってるはず。

普通の人間、亜人種たちなら、アストラル体依存のスキルすら覚えていないだろうし、それもアストラル体が必要無くなった死者の国では、使えなくなってるでしょ。

多分、固有の能力として魂に刻まれた力くらいしか、スキルは発動出来無い。

後は、スキルに頼らず身に付けた能力次第。

そんな力、Lv.50の壁を越えた者しか持っていないから、死者の国の魂のほとんどは、Lv.15の極卒たちでも簡単に抑え付けられると思う。

もちろん、ライアンやクリスティーナは例外。

壁を越えた先で強くなる為に、スキルに頼らず様々な力を自分の意志で行使出来るようになってた。

間違っても、極卒たちに後れを取る事は無いわね。

転じて、もうひとりの方。

こちらは、きっと壁を超えている。

気配だけなら、極卒たちから隠れる必要があるほど弱く無い。

ただ、例えば花の妖精族だった頃のヨーコさんは、肉体的な強さだけで言うなら、充分普通の人間に殴られれば痛い。

壁を越えていても、得手不得手はあって、必ずしもLv.が低い相手より強いとはならない。Lv.はあくまで目安だから。

このひとりは、戦闘力だけなら弱いのかも知れないし、極卒たちと顔見知りだろうから、単に見付かりたくないだけかも知れないけど、気配だけなら超越者と言って良い。

私が留意しておくべきは、こちらの方ね。

まぁ、敵意は感じないんだけど。


獄卒たちは、駅構内からビルの上階へと上がって来て、隅から隅まで虱潰しに捜索を開始した。

統率が取れている訳では無いので、それぞれが勝手気ままに動き回ってる。

私は4階でじっと待機して、極卒のひとりが近付いて来るのを待った。

すると、5分ほどした頃、学生服の青年がひとり、私の眼前に天井を逆様になってやって来た。

否。私の方が、天井から逆様になって待っていた。

重力の方向を変えているから、頭に血が上る事も無い。

あ、別に意味は無いわよ。この方が、雰囲気出るでしょ(^^;

そのまま気付かず私の頭上まで来た学生を、逆様のまま手動でサイレントノックアウト、気絶させる。

重力を元に戻して廊下に着地した後、学生の体を肩に担いで、事前に場所を確認しておいた女子トイレへ連れ込む。

まぁ、感知した範囲では近付いて来る獄卒はいないけど、一応念の為、トイレの入り口には人払いの結界を張った。

何と無く、近付かない方が良いような気がするだけの結界。

でも、それで充分。この何と無くと言う感覚に逆らって行動するのは、結構難しいのよ。

ある程度の確信が無いと、何と無くの先には踏み込めない。そんなものよ。

個室のひとつを尋問用に使うとして、私はまず、捕まえた学生の中から、極卒本体を引き摺り出した。

その本体は、サングラスが良く似合う黒スーツ、では無く、地獄の鬼、でも無く、古代インドや中東辺りを思わせる鎧姿だった。

顔立ちは、少し人間離れした容姿をしている。

鬼とまでは言わないけど、人間やエルフの美的感覚からすると、少し醜い。

顔色こそ人間とそう変わらない色をしてるけど、近いのはゴブリンかしら。

その獄卒を、奥の個室の便座を上げて、取り敢えず座らせた。

「う……ううん……。」と、そのタイミングで、体に入られていた学生NPCが目を覚ました。

この学生さんは、どこかの高校の男子生徒かな。

この辺にどんな学校があるかなんて知らないから、本当に有り触れた学ラン姿の学生さん。

「あ、あれ?俺、どうしたんだ?ここは一体何処……。」

そこで私に気付いた学生さん。

私の足元から頭の先までゆっくり眺め、一度顔を見詰めて頬を赤らめた後、少し視線を下げてさらに顔を赤らめた。

NPCとは判っていても、何だか可愛らしいわね。

「……ねぇ、僕。ここ女子トイレよ。早く出てって貰えるかしら。」

「……、……、……え?!」と、少し呆けてから周りを見回し、確かにトイレだと確認した後、「し、失礼しましたー!」と慌てて外へ出て行った。

もう少し虐めるのも楽しそうだったけど、今はNPCと遊んでる場合じゃ無いわよね。

さぁ、拷も……尋問を始めましょう。


5


それじゃあ取り敢えず、獄卒を起こして……と、その前に。身包み剥がして、身体検査をしてみましょう。

と言う事で私は、ひとつずつ鎧を脱がせて行った。

ベースはチェインメイルで、その上に肩当てや胸当て、腰当てなど、部位ごとにレザーアーマーを重ねてあり、そのデザインは三国志で武将が着ていたような鎧に似てる。

金属鎧のような重装備じゃ無くて、騎乗する事も考えて軽く、動きやすく、最低限矢や刃を受け流す事を考えた設え。

とは言え、死者の国で獄卒と敵対する者などいないだろうから、あくまで儀礼的で制服のようなものなのかも知れない。

実際に触れて確かめてみると、物質界の鎧と変わらないように感じるけど、魔法の防具のようなマナも感じる。

特に強くも無いし、特別な力は感じないから、防具自体がマナの塊なんでしょう。

そして、引ん剥いた体の方に触れてみると、マナだけで無く魂の存在も感じられる。

どうやら体の方は、死者とは違い魂だけの存在じゃ無くて、ちゃんとアストラル体を纏ってる。

そのアストラル体が獄卒の姿を形作ってて、無機体の方はマナだけで作られてるようね。

彼らは無遠慮に錫杖を投げ付けて来たけど、すぐに次の錫杖を握ってた。

彼ら固有の能力なのかも知れないけど、錫杖を周囲のマナから瞬時に生み出せるのかも。

それから、裸に剥いて良く観察したところ、背丈や肌の色などは人間に近いけど、ところどころ硬質化して突起もあるから、少し魔族っぽい?

顔はゴブリンに似てはいるけど、ゴブリンとして考えるとイケメンな方(^^;

親しく接した事は無いんだけど、魔族としてのゴブリンにはこんな個体もいるかもね。

……ふむ、体をひと通りまさぐってみたけど、物質体を持たないアストラル生命体状態なのに、触れた感覚は普通の肉体と変わらないわね。

まぁ、死者の方は極卒と違って、魂を守るアストラル体も、そのアストラル体の保護器である物質体も無いから、ダメージを受けた場合直接魂が傷付く事になるはず。

その意味でかなり脆弱になってると思うから、今も物質体でアストラル体を守ってる私から見れば、かなり心細い状態に思えるわ。

これは、ライアンやクリスティーナも、苦労してるわね、きっと。

「ぐ……うぅ……。」

あら。引ん剥いてまさぐってたら、起きちゃったみたいね。起こす手間が省けたわ。

「……ここは一体。……俺はどう……、はっ!お、お前は?!」

「気が付いた?まだ・・何もしてないから、体の方は大丈夫でしょ。」

「体の方はって……うぉ、俺裸じゃねぇか!?うわっ、何だ?!」

獄卒は、後ろ手に縛られ、足も縛られていて、自由に身動きが取れない状態。

ちなみに、いつも通り結界を応用して、手足は拘束してある。

「暴れると危ないわよ。今は、トイレの便座に腰掛けてる状態。さすがに、手足の自由は奪ってあるから。」

「トイレ?トイレと言うと、あのトイレか。便座とは何だ?良く判らないが、それがお前の世界のトイレと言う事か。」

……そう言えば、極卒たちってどう言う存在なのかしら?

今の口振りだと、物質界の事は知識として知ってるけど、実際に生活した事は無さそう。

やっぱり、死者の国で生まれ育った、死者の国の住人?

「ま、とにかく、私は貴方から話を聞き出す為に、こうして拘束させて貰った訳。素直に喋るなら、痛い思いはしないで済むわよ。」

「……判った。何でも答えよう。」

「え?!……随分あっさりね。それで良いの?」

「……お前は、どこまで理解している。多分、色々と判らない事があるのだろう。その辺の事を教えてやるのも、俺たちの仕事の内だからな。わざわざ隠し立てする必要など無い。」

「なるほど、それは残念。」

「残念?どう言う意味だ。」

「あ、気にしないで。死者の国の住人を解剖したら、どこまで堪えられるのか試したかっただけだから。予想では、精神的に“死んだ”と強く認識したら、本当に死んじゃうと思うのよね。だから、心臓だけ避けて内臓をひとつずつ取り出して行ったらどうなるか、試してみたかっただけ。あぁ、そもそも、ちゃんと物質界の住人と同じように、中に内臓が詰まっているのかも確かめたかったし……ん?」

見れば、極卒が青い顔をして震えている。

あ、余計な事言っちゃった(^^;

別に、脅かす必要無かったのに。

「や、やだ。冗談よ、冗談。本当にそんな事、する訳無いじゃない。」

「じ、じ、じ……じょう、冗談?」

「そうよぅ、やぁねぇ。私、そんな事するように見える?最近じゃ、滅多にそんな事しなくなったわよ。」

「さ、さ、さ、最近、って……。」

「あぁ、もう、とにかく、話が聞ければそれで良いのよ。私は、ただの死者。死んだと思ったら、何故か渋谷にいた。もしかして、死んで元の世界に戻れたのかしら?なんて思ってもみたけど、善く善く見ると私が知ってる渋谷とは、ちょっと違う気がするのよね。時代も合わないし。」

まずは、普通に死んだ魂の振りをして、基本的な事を聞かせて貰いましょう。

「あ……あぁ、そうか。やはりお前は、普通の死者では無いのだな。」

「ん?あぁ、そうね。ただの、って言うのは違うわね。私は、地球と言う世界の日本と言う国から招喚されて来た異世界人よ。でも、今までも何人か、同じような人たち、いたんでしょ。」

「俺は直接知らないが、確かに異世界の人間がここへやって来る事がある。そう言う人間の世界は、普通とは違う様子になる。今度の死者も様子がおかしいとなって、俺は召集された。」

なるほど。やっぱり、普通にアーデルヴァイトの死者がやってくれば、アーデルヴァイトのどこかの景色が広がるのね。

渋谷のような見慣れない光景が広がれば、それはきっと異世界人だろう、となる訳ね。

「それじゃあ、ここは死者の国で良い訳ね。基本的な事を教えて下さらない?」

「……良いだろう。ここは、アストラル界にある死者の国で間違い無い。お前は死んで、死者の国へと召されたのだ。死んだ魂は、その者にとって特に印象深かった思い出を反映した世界を創り出す。多くの場合、それは一番幸せだった頃の光景になる。だから、俺たちが何もしなくても、勝手にその幻の中で幸せを追体験し続ける。」

そうか。魂自身が望んだ幸せな光景を前に、仮に幻と判っても抗う事は難しい。

ましてや、前後不覚のまま死者の国へやって来た魂なら、現実の続きだと思ってそのまま生活し続けるかも知れない。

「でも、待って。それなら何故、私の世界は渋谷なの?私には、一番幸せだった頃の記憶なら、もっと他にあるわ。」

そうよ。ライアンと愛し合った日々。エルダたち家族と過ごした日々。ヨーコさんと永い間一緒に旅した日々。

正直私は、アーデルヴァイトへ来てからの方が幸せだった。

「……異世界から来た魂は、必ず元の世界を創り出すそうだ。それに、言っただろ。あくまで、特に印象深かった思い出を反映すると。必ずしもそれは、幸せな記憶とは限らない。苦しみを再現し、勝手に苦しみ続ける哀れな魂も少なくない。」

……懺悔の気持ち、かしら。

後悔して改めたくて、だからその光景を繰り返し味わって自分を責め続ける。正に、地獄ね。

「お前の場合、元の世界の中で印象深い街なのだろう。良い記憶なのか悪い記憶なのかは知らないが。」

……思えば、夢を追って頑張ってた20代の頃が、私にとっては一番幸せな時代だったのかも知れないわね。

歌は下手だと思い知ったけど、先生に教えを受けていたあの頃、確かに楽しかったわ。

「貴方たちは、そんな良い幻、悪い幻を見せられてる魂たちの、極卒って訳?」

「獄卒?言い得て妙だな。大人しく幻を見続けている間、俺たちは何もしない。だが、その幻から醒め、自分の世界から出て行こうとする魂たちは、放置出来無いからな。時に、厳しく抑え付ける事にもなる。俺たちは、死者の国のビジランテ(自警団員)だ。」

「ビジランテ?と言う事は、やっぱり貴方たちは、死者の国の住人って事?」

「うん?……ここまで話す必要は無いのだが、まぁ良いだろう。俺たちは、作られた存在だ。死者の国に、本来住人などいない。まぁ、永い時間留まる事になるのだから、死者の魂の方がここの住人と言えるだろう。」

「作られた存在?誰に?どうやって?」

「……えぇい、そう腰の物をちらつかせなくとも、知っている事は何でも喋る。……原理は判らん。俺たちは皆、西王母から産み出される。」

西王母?……確か、中国の神話なんかに登場する、女神や仙女だったかしら。

「西王母が、貴方たち皆のお母さんな訳ね。」

「ん?どうやら勘違いさせたようだな。そう言う名前の装置だ。俺たちビジランテを産み出す、西王母システム。」

「システム?どう言う事?」

「俺たちは西王母の胎内で生産され、必要な知識や能力を与えられた状態で産み落とされる。俺たちビジランテは、魂たちを正しく導く為の道具だ。俺たちは魂のような生命では無いから、住人とは言えないだろ。」

「ふ~ん……、そうなんだ。」と答えておいたけど、腑に落ちない。

何故なら、彼らビジランテの中にも、ちゃんと魂は存在するから。

西王母。彼女は、生と死を司っていたわよね。

彼ら自身知らない秘密が、ビジランテにはあるのかも知れない。

「どうした?もう聞く事聞いたなら、さっさと解放してくれ。」

「いいえ。……後、みっつほど聞かせて。ひとつ目は、貴方たちのボスは誰?魂を導く為の道具だと言うなら、それを指揮する存在くらいいるんでしょ。貴方たち、お世辞にも統制が取れているようには見えなかったから、多分ビジランテ同士には上下が無い。でも、西王母システムを使って貴方たちを産み出し、それぞれのビジランテに命を下すような、偉い人くらいいるでしょ。」

「……俺は、直接会った事は無いが、死者の国の支配者はエヌマラグナ様だ。」

……エヌマ、えんま、閻魔大王って事ね。

これも、日本語としてそう翻訳されてるだけかしら?

「基本的な命令は、産み出された時点で下ってる。その他の命令は、念話のように頭の中に他の仲間から伝達されて来る。一応上役を気取ってる連中もいるが、仲間の独自判断なのか、エヌマラグナ様から直接下されたものなのかは判らない。」

上役?ビジランテ内にも、序列くらいあると言う訳ね。

そんな上役の誰かが、私が異世界人っぽいぞ、手を貸してくれ、って判断して伝達して来たのね。

「あれ?そう言えば貴方たち、個別の名前はあるの?全員ビジランテじゃ、誰がどこ担当でどんな命令遂行中か、混乱しない?」

「俺は今、497番だ。総数は1000番行かないくらいだったと思う。」

「ん?今は497番って、どう言う意味?」

「俺たちにも寿命はあるし、時に任務で壊れる事もある。そうして欠番が出ると、数字は繰り上がるのさ。ひと桁やふた桁の奴らは古株だから、中には偉ぶって、上司と呼べ、百人長、先輩と呼べなんて奴もいてな。まぁ、長生きな分経験豊富で頼りになる奴もいるから、一応上役として小隊長やら中隊長、大隊長扱いで慕われてる奴もいる。」

「自発的に、序列を付けてるのね。命令系統がはっきりしてる方が、混乱しないもんね。……それにしても、番号か。個性を殺すには丁度良い……。」

「ん?どう言う意味だ?」

「いいえ、こっちの話、気にしないで。次は、ふたつ目の質問よ。結局、死者の国って何なの?ここにやって来た魂たちは、その後どうなるの?」

「……お前は、素直に従うような玉には見えないが、一応辿るべき道だ。良く聞いておけ。」

私が普通の死者なら、ね。

「魂の辿り着く先は、転生だ。再び、物質界か精霊界で、何某かの生命へと転生する。」

「へぇ、輪廻転生ね。」

「……何だ、知っているのか?転生すれば転生前の記憶は失うし、そもそもお前は異世界人なのだろう?何故そんな事まで知ってる。」

「あぁ、いえね。私が元いた世界でも、そう言う思想があったのよ。あくまでも、そう言う考え方もある、と言うだけで、本当かどうかは別としてね。だから、アーデルヴァイトでの転生については、何も知らないわ。」

「そうなのか。……やはり、異世界は厄介なものだな。とにかく、素直に大人しく、転生の順番を待っていれば良い。そうすれば、俺たちはそれを見守るだけで済む。」

「大人しく順番を待てって、その順番ってどんな順番なの?先に死んだ者から順に、って事?」

「いや、さっきも言ったが、幸せな幻で大人しくする奴もいれば、辛い幻で苦しみ続ける者もいる。そして、その幻から逃れて、勝手に行動する者もな。どの魂が転生するのに相応しいか、そんな状況では判らないからな。俺たちが導いて、エヌマラグナ様がお認めになった者から、転生が叶うのだ。」

「へぇ……。大人しくしていれば、早く転生出来るって訳?」

「ん、うむ。まぁ、そう言う事になるかな。俺には良く判らないけどな。」

実際のところは知らないけど、エヌマラグナ次第って事なら、エヌマラグナが恣意的に転生候補を決める、と言う事もあり得るわよね。

ちゃんとした評価基準があるなら、話が違うんでしょうけど。

「まぁ、とにかく、転生はエヌマラグナ様だけが行える特別な仕事だ。魂たちは、エヌマラグナ様に認められるように、良い子で過ごしていれば良いのさ。」

「それで、何者に転生するのか、それもエヌマラグナ様が決めるの?」

「いや、それは違う。転生の門の先の事は、誰にも判らないとされている。あくまでも、転生の門を管理しているのが、エヌマラグナ様だ。」

転生の門か。そこへ落とされたら、神である私ですら、原初の理によって何者かに転生させられてしまうのでしょうね。

死者にとっては、死が終わりでは無いのだから救いなのかも知れないけど、今のこの私の自我、それを喪って誰でも無い他人に生まれ変わるなんて、それは本当に幸せな事なのかしら。

まぁ、本当に死んだ身だとすれば、二度と生き返れないよりも、他の誰かになってでも、もう一度生きたいと願うのかしら。


6


「それじゃあ、最後の質問。私、人を捜してるの。ライアン、もしくは、クリスティーナって人間知らない?」

考えてみれば、ジェレヴァンナやディンギア、ドルドガヴォイド、コマンダーたち、それにエルダたち家族だって、どこかにいるかも知れないのよね。

あ~、皆にも逢いたいけど、とにかくライアンよ。

他の皆の事は、ライアンに逢ってヨモツヒラサカに辿り着いてから捜しましょ。

「そう言われてもな。死者の魂たちは、俺たちビジランテなど比べ物にならない程大量にいる。それに、一々名前など気にしていないからな。」

「特徴はあるわよ。私と同じ異世界人で、他の死者とは違って、とっても強い人たちなの。」

「とても強い異世界人。やはりお前、ただの異世界人じゃ無いな。噂に聞く勇者って奴か!?」

「え~と……まぁ、そうよ。あれだけたくさんのビジランテ相手に、遅れを取る事の無い死者なんて、そうはいないでしょうからね。隠しても無駄でしょ。……別に、隠す意味も無いし。」

「くそっ!外れも外れ、大外れだ。異世界人の勇者なんて、寿命の中で遭遇する機会など普通無いぞ。少なくとも、もう数千年は報告されていないはずだ。」

そっか。私が勇者招喚の儀式を潰しちゃったから、もう地球からアーデルヴァイトにやって来る人間も、その中から勇者になる人間もいないのよね。

「でも、異世界人とか、異世界人の勇者とか、その辺の事は伝わってるのよね。貴方たちの寿命って、どれくらいなの?それとも、それも西王母システムが教えてくれたの?」

「あぁ。……俺たちは大体、1000年活動出来るように作られているそうだ。異世界人の事は、確かに目覚めた時に、すでに知っていた。」

「それじゃあ、最後に来た異世界人の勇者は知ってる?それがクリスティーナで、そのひとり前がライアンだと思うんだけど。」

「……、……、……いや、覚えが無いな。個別案件として記憶されていないようだ。もう数千年前の出来事だろう?少なくとも、担当したビジランテは、疾うの昔に壊れているしな。」

……そうよね。私はあれから、数千年の時をアーデルヴァイトで過ごした。

感覚的に言えば、死者の国では一瞬の可能性もあるけど、実際に数千年の時間は流れてる。

死者の国を管理運営する側にとっては、正しく数千年が経過してるのよね。

「……判ったわ。何とか自分で捜してみる。」

「何?!捜すだと?……まぁ、お前のような奴が、自分の世界で大人しくしている訳が無いか。」

「まぁ、ね。だけど、人を捜すだけよ。無用に争いを起こす気は無いの。さっきだって、別に私が何かした訳じゃ無いわよ。あんなところにいたら危ないって言ったんだけど、私の世界の事を良く判ってなかった彼が、車……自分で走る馬車みたいな物だけど、それに轢かれそうだったから突き飛ばしただけ。間に合わなかったけど。」

「なるほど……確かに、あんな物が走り回っているお前の世界は危ないな。だがな、俺たちからすれば、とにかく死者には自分の世界で大人しくしていて欲しいのだ。」

「ごめんなさい。それは出来無いわ。だけど、私は人捜しをするだけ。それは伝えておいて。争うつもりは無い。だから、貴方も解放したわ。」

「え!?」と、いつの間にか手足が自由になっていた事に、ようやく気付く497番。

「私に争う気は無い。でも、私の邪魔をすれば容赦はしない。良いわね。お仲間にも、ちゃんと伝えるのよ。」

「ち、ちょっと待て……い、いない!?」

私は言葉と共に、ステルスを発動して姿を消した。

一応、知りたい事を知る事は出来た。

後は、行動あるのみ。


と思ったんだけど、そう言えばどうやって自分の世界から抜け出せば良いのか、聞いてなかったわね(^^;

まぁ、良いわ。それは、もうひとりの方から聞きましょう。

そうして、改めてもうひとりの気配を探ってみると、どうやら駅構内にいるみたい。

今ビジランテたちは、駅ビル内を捜索中だから、少し離れた場所に移動したのね。南口では無く、ハチ公口の近くにいるわ。

私はステルスのまま、駅構内をハチ公口の方へ向かって移動する。

さすがに、日本円なんて1円も持ち合わせが無いから、切符も買えない。ステルス状態なら、改札も素通りよ。

改札を抜けNPCを掻き分けて、もうひとりの気配へ迫って行くと、程無くその姿が確認出来た。

え~と、ガングロ?

私はファッションに疎い男だったから、渋谷のギャル文化には詳しく無いけど、かなり色黒だからガングロギャルだと思う。

ただ、ヤマンバほどじゃ無い(^^;

確か、全員がそうかは知らないけど、何かのTVで見た時に、彼女たちは黒人に憧れて黒人文化を自分たちなりに取り入れてるとか言ってた。

実際、日本人は黒人文化好きだもんね。

ヒップホップとかレゲエとか、いつの間にか当たり前になってた。

私の場合、歴史的背景や紫外線に強い黒い肌、スポーツ界で軒並みトップを張る身体能力から、敢えて人種に優劣を付けるなら……付けたがる人たちいるからね……あくまで敢えてだけど優劣を付けるなら、地球上で一番優れた人種は黒人だと思ってた。

憧れる気持ちも、判らなくは無い。

サンコンさんとかゾマホンとか、ボビーなんかも好きだったなぁ。

皆、真面目で一所懸命で、見ているだけで元気になれる。

ボブ・サップも、衝撃的だったわね。

あぁ、黒人じゃ無くてガングロの話(^^;

茶髪通り越して薄いオレンジ色した髪に、思いっ切り日焼けした肌、ド派手なメイク、へそ出しミニスカな彼女が、厚底ブーツで歩きにくそうにしてる。

私はそっと背後に回って、「右手のトイレに入って。そこで待ってる。」と声を掛けた。

「え?!」と驚いて振り返った彼女は、足をもつれさせて転びそうになる。

そんな彼女は放っておいて、右手にあるトイレへ入り、一番奥の個室でステルスを解除。

彼女がやって来るのを待った。


程無くして、ゴツゴツと重い靴音を響かせ、ガングロギャルがやって来た。

それを確認し、私は入り口に結界を張る。

「こんにちは、お嬢さん。ま、中身が何者かは知らないけど。」

緊張した面持ちでこちらを見詰めるそのギャルは、お世辞にも強そうには視えなかった。

いいえ、それはちょっと表現が違うわね。

戦闘力はほとんど感じない、けど、内に秘めた気配はビジランテよりも遥かに大きい。

先程感じたように、壁を越えた者の気配……なんだけど、それを少しも抑えていないし、戦闘力は低いし、一体何者かしら。

「貴女……もちろん、ビジランテじゃ無いわよね。むしろ、彼らから隠れてたし。と言う事は、先に死者の国へ来ていたお仲間かしら?」

そんなはずは無い、と思うけど、だからと言って、今の私には他に思い当たる節も無い。

まさか、悪魔が死者の国まで遊びに来てる……なんて事は無いと思うし……。

「……貴女……貴女こそ、一体何者なの?」

「私?私は、ただの死者よ。まだ死んだばかりで……。」

「嘘。死んだばかりの死者が、あの子たちの相手なんてすぐに出来る訳が無い。それに……。」

「それに?」

「貴女……体、あるじゃない。死んでいないのでしょ。」

「へぇ……さすが、壁を超えるほどの者。そう言えば、私の事も気配で読んでたし、そう言う事も判るんだ。」

「壁?壁って……一体何の事?」

……死者の国には、物質界の死者たちがたくさんやって来るのだから、物質界の事が全く知られていない、なんて事はあり得ない。

まぁ、多くの死者たちはLv.50の壁なんて知らないとは思うけど、壁を越えた超越者たちもたくさんやって来る。

多分、ビジランテの基礎知識にだって、Lv.50の壁くらい記されてるはずよ。

死者の国の存在らしいのに、それを知らない。やっぱりこの子は、普通の存在では無いようね。

「ま、良いわ。どうやらお互い、訳ありみたいね。その通り。私は死んでない。……冒険者のルージュよ。少し精霊たちと仲良しだから、死者の国へ通して貰ったの。」

「……そんな事出来るの?」

「出来るのよ。現に、生きたままここにいるじゃない。」

「そ、そうね。確かにそうだわ。」

話し振りからすると、中身も女の子みたいね。その上、少し上品な感じがする。その所為で、見た目とギャップを感じるわ(^^;

「それで、貴女はだぁ~れ?私は名乗ったわよ。」

「あ、私はヤ……ヤクシ、そう、ヤクシです。」

ヤクシ……薬師如来かヤクシャ、ヤクシニーか。まぁ、どちらにせよ偽名ね。

他に、ヤから始まる秘すべき名前って、何かあったかしら?

……やっぱり、日本語としてそう翻訳されてるだけ、とは思えないわね。

神様は本当にいた訳だから、地球やアーデルヴァイトなど様々な世界で、同じように語られてるのかも知れないわ。

元々神々って、創造神に連れられて他の世界から来たと言うし、大元の神の世界が偶然様々な世界、と言うより、それぞれの世界の神の声を聞く人たちに繋がって、共通した神話なんかが数多の世界で語り継がれていたりして。

同一の存在と言う訳じゃ無いけど、闇孔雀は孔雀明王、エヌマラグナは閻魔大王、そしてこの子も、ヤの付く何かなのかもね。

「それじゃあ、ヤクシ。ひとつ聞きたいんだけど、良いかしら。」

「え?……えぇ、どうぞ、何でも聞いて下さい。」

「さっき捕まえたビジランテから聞くのを忘れちゃったんだけど、この私の世界からはどうやって出れば良いの?」

「……捕まえた?あの子たちを、ですか?」

ヤクシは、とても吃驚したみたい。私が強い事は判ってたはずだけど、それでも想像以上だったと言う事かしら。

「まぁ、そんな事は良いじゃない。で、どうなの?どうすればここを出られるの?」

「え、えぇ、それは簡単ですよ。明確な意思を持って、外へ出て行けば良いだけです。魂たちの世界は、ある意味牢獄です。その鍵は、魂自身の心が掛けています。それさえ解けば、いつでも簡単に出て行けます。」

そうか。幸福な幻を見れば、その幸福に溺れて留まろうとするし、辛い地獄でも自ら望んで自虐を続けるなら、その苦しみから逃れようとは思わない。

出て行く気が無ければ、どこまで行っても自分の世界が続いて行く。

反対に、自分の世界を振り返る気さえ無ければ、世界の果てから簡単に外へ出てしまう。

それを監視するのが、ビジランテの普段のお仕事と言う訳ね。

「一応、出て行く時は徒歩でも構いませんが、少し時間が掛かると思うので、普通は何かしら乗り物に乗って行きます。馬とか馬車が一般的ですね。」

ふむ。確かに、乗り物に乗ってた方が、出て行くって感じがするわね。

「ありがとう、良く判ったわ。それじゃあ、行きましょうか。」

「え?……私も、一緒に行って良いんですか?」

「なぁに?一緒に行きたくないの?」

「あ、いえ、そう言う事では無く!それは願ったり叶ったりなんですが……どうして、一緒に連れて行ってくれるんですか?」

「……貴女、ビジランテから隠れてたから、見付かりたくないのかな~、と思って。それに、私はまだ死者の国に来たばかりで右も左も判らないでしょ。貴女に付いて来て貰えれば助かるから。」

もちろん、嘘じゃ無いけど、ヤクシが欲しい言葉を掛けてあげたのよ。

私としては、確かに彼女の正体は気になるし、ステルスで気配を見失った後私を捜していたんだから、多分何か用があるはず。その目的も気になるわ。

死者の国は不案内、と言うのもその通り。

でも、彼女が何者でも、どんな目的でも、行き先は良く判らなくても、その気になれば自分で何とか出来る力はあると自負してるし、元々はそのつもりだった。

だから、私にとって彼女の同行は、絶対に必要と言う訳じゃ無い。

……ま、やっぱり知的好奇心的に、放っておけない気持ちは強いけどね。

「はい、ありがとう御座います!よろしくお願いします。」

ヤクシは、素直に私の申し出を受け入れた。

うん、やっぱりこの娘、お育ちが良いんでしょうね(^^:

もう少し警戒心を持った方が……と言うより、死者の国にあって警戒心など持たなくても良い存在、なのかな。

こうして私は、謎のガングロギャルと共に、私の世界を旅立つ事になった。


つづく

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