最終巻「死役所」

第一章 さらば愛しき危険たちよ


1


……あれから数え切れないくらいの月日が巡り、それでも初夏を迎えた夏草の匂いは変わらない。

これから向かう目的地は、特に季節とか場所とか関係無いのだけれど、こんな晴れやかな日に広い草原を吹き抜ける風が心地良いと、旅立ちに相応しいと思える。

今、私はひとり切り。

旅のお供を長年務めてくれたパートナーは、ひと足先に目的地へ赴いてる。

その場所は、こちらと少し時間感覚も違うから、彼女と別れたのは結構前だった気もする。

私の神感覚も進んじゃって、1年が1か月程度に感じられてしまう。

……いえ、これって老化?(^^;

歳を取ると、1年があっと言う間だからね。

10歳の子の1年は人生の1/10、二十歳になれば1/20、感じ方も変わって行く。

それが50歳、60歳となればさらに1年の割合は減って行き、長年経験を積んだ事で初体験が減って行くと、記憶に残るような刺激的な出来事も減って行き、密度はもっと薄くなる。

こうして人は老いて行き、1年をあっと言う間に感じると共に、思い出として残る出来事も少なくなって行く。

私の場合……もう何千年分の1だもの。

人間たちと、同じ時間を共有出来無くて当たり前。

丁度良いタイミングだったのかも知れないわ。

裏アーデルヴァイトの、マナ濃度の回復は。

もう、私が見届けるべきものは見届けた。

だから、ライアンのいないアーデルヴァイトに用は無い。

私は今、時間凍結しておいた、チュチュのボディコンワンピースに身を包み、エッデルコのダガーとショートソードを帯びている。

もう喪服は脱いだ。

だって、私はこれから、愛しいあの人に逢いに行くんだから。

最高の装いでおめかししなきゃね。

でも、私が持ち出した物はそれで全部。

拠点のほとんどは未だそのまま健在だけど、もう気軽に戻って来られないからね。

ジェレヴァンナの森の研究施設を除く他の拠点は、その全てを或る部下に譲り渡して来た。

マーマドール=レジ=カントスと言う名の、元ボビットのノーライフキングに。

でもね、そのまま引き渡したんじゃ面白く無いでしょ。

だから、世界各地に点在する拠点の、正確な位置は教えていない。

私の遺した様々な痕跡から、自力で探すよう伝えてある。

あぁ、さすがに意地悪が過ぎるから、ちゃんと結界はマーマドールも通れるようにしておいたわ。

見付けさえすれば、全部マーマドールが使える。

お宝は、やっぱり探すのもお楽しみの内よね。


気持ちの良い風に吹かれながら、そんな物思いに耽っていると、急に風が逆巻き夏草が千々に吹き散らされる。

それはすぐに収まって、私の背後にひとつの人影が降り立った。

「もしやと思って来てみれば……、もう行くのか?」

そう声を掛けて来た人物、いいえドラゴンは、数少ない存命中の顔馴染み、私の子供のひとりでもある、ガルドヴォイドことクロ。

「えぇ、今日は旅立ちに相応しい、良い陽気でしょ。」

「全く、残される方の気持ちは無視か?……まぁ、数は多く無ぇけどよ。」

……さすがに、時間が経ち過ぎた。

多くの者が、先に旅立った。

でもね、超越種たちは皆長命で、クロにしたってシロにしたって、まだまだ元気。

表も裏も、神族や魔族の知り合いたちは、その多くがまだ生きてる。

ディンギアはレッサー種だから、そこまで長生きでは無かったけれど、アスタレイ、ミザリィ夫妻とは良くお茶をするわ。

あれからずっと、ディートハルトが魔王様を務めているし。

主神も軍神も代替わりしていないし、ガイドリッド=ヴェールメル王国は今もガイドリッド=ヴェールメル王国。

でも……ジェレヴァンナは予定より少し早く亡くなり、デイトリアム、と言うよりアルドローデスが寿命を迎え、キャシーもさすがに魂が限界を迎え、人間のまま3000歳を前に私がアストラル界へ見送った。

意外、と言っては何だけど、本当に愛の力は強い。

元人間なのに、ボニーとクライドは健在。

だから、ジェレヴァンナの森の研究施設だけは、マーマドールでは無くふたりに遺す事にした。

地下に寝床があるしね。

でもね、私がこの世を去ると、彼らの面倒を見られる者がいなくなる。

残念だけど、純粋なノーライフキングであるマーマドールより、私が少し手を加えたとは言え、ゾンビであるボニーとクライドの方が格上なの。驚きよね。

まぁ、ダークヒューマンでは無くゾンビだから、死と言う属性はあの世への道標として機能するはず。

多分、いつかその時が来ても、ちゃんと成仏出来るとは思うんだけど……。

ふたりの事は、少し心残りね。

「……皆とは、本当に永い間楽しく過ごさせて貰ったわ。世界ももう大丈夫。だから、私は私の幸せを取り戻しに行くのよ。」

あれからも、ずっとライアン、クリスティーナも、ヨモツヒラサカに来ていない。

でも、私は信じてる。今尚、ライアンたちはヨモツヒラサカを目指し、頑張っているのだと。

「ルージュ……。」

「それにね。……本当はいけないんだけど、私、多分あっちからこっちに戻って来られるわよ。」

「……は!?」

「三界の壁は厚い。この世に生きとし生ける者全てにとって、その壁を超えるなんて至難の業よ。私だって、直接アストラル界へなんて行けない。でもね。私ぁ神様だよ。方法ならあるのよ。」

「……俺を納得させる為に、嘘吐いてんじゃねぇのか?」

別に嘘じゃ無い。少なくとも、精霊界と物質界なら、簡単に行き来出来る。

問題なのは精霊界とアストラル界だけど、私には裏ワザとして亜空間がある。

理論上、私は死後の世界へ一方通行じゃ無い。

……戻って来る気は無いだけ。

「さて、どうかしら。……そんなに寂しいの?クロ。もう奥さんだって子供だっているのに。」

「な、何馬鹿な事言ってやがる!?お前がいなくなるくらい何でも……何でも……。寂しいに、決まってるだろ。ルージュは、種族こそ違うけどよ。俺の……俺の母ちゃん、みたいなもんだろ。」

「……。」

「な、何だよ。」

思わず絶句した。何よ。急にしをらしくなっちゃって。

「あ……。」私は、静かに強く、背伸びしながらクロを抱き締めた。

「お、おい、いきなりどうした!?」

ふふ、慌ててる。でも、私も慌てた。だって、クロがあんな事急に言うから、思わず涙が零れちゃって……。

こうすれば、私の泣き顔、見られなくて済むから。

「ごめんね。……ううん、ありがとう。貴方と知り合えて、貴方のお母さんになれて、本当に嬉しかったわ。」

「……お、おぅ。俺もその……本当にありがとう。爺ぃも助けて貰った。島も助けて貰った。ルージュとライアンのお陰で、ひと回り強くもなれた。俺の方こそ、本当にありがとう。」

クロが、力強く抱き締め返して来る。

ふふ、もう恥ずかしがり屋なだけの、子供じゃ無いのね。

元男で、女になってもお腹を痛める事は出来無かったけど、私には多くの子供たちがいた。

皆、幸せをありがとう。

私は体を離して、背後の空間に向き直る。

「……そろそろ準備が整ったみたい。もう行くわ。向こうで、彼女も待ってると思うし。」

「……そうか。そうだ。俺も、オルヴァドルに頼んで、ヨモツヒラサカに顔を出すようにするよ。向こうに着いたら、ライアンと一緒に顔を見せてくれ。シロにも声を掛けておくから、クリスティーナも一緒にな。」

「えぇ、判ったわ。必ず、ヨモツヒラサカへ行くわ。それじゃあ、クロ。またね。」

私は、別れでは無く再会を約して、足を踏み出した。

目の前に現れた、精霊界へと続く霧の門の中へと。


2


精霊界……それは、物質界と隣り合った、しかし決して重なり合わない、近くて遠い世界。

世界の法則も物質界とは違い、たまに近くまでお邪魔するだけの私は、まだ完全なお客さん。

不案内なままじゃ、行きたい場所へも行けやしない。

だからお願いしたの。

元々精霊界から産み落とされ、本当だったら1000年を経て帰還するはずだった、あの可愛らしい花の妖精族の元女王様に。

私は、初めて本格的に来訪した精霊界に、感覚が少しずつ慣れ始め、実はすぐ目の前にいたその元妖精にようやく気が付いた。

身長は、少し私より低いくらい。

エルフのようにしなやかで美しい肢体に、光輝く艶やかな髪。

その顔には、変わらず素敵な笑顔を浮かべている。

その背の羽は消えてしまったけれど、幼さが消えそのまま大きくなったような、大人の姿のヨーコさんがそこに待っていた。

「ヨーコさん、久しぶり。……無事に、上位精霊になれたのね。」

「どう?綺麗になった?あたし。」

お道化て、しなを作るヨーコさん。

「うん、とっても綺麗。もう立派なお姉さんね。」

「そうよ~。あたし、もう光の上位精霊なんだって。まぁ、全然実感無いんだけど。」

良かった。ヨーコさんは本来、物質界で1000年を過ごした後、精霊界に帰還して上位精霊になるはずだった。

だけど、私を心配して、ずっと一緒にいてくれた。

何千年も精霊界に帰還しなかった花の妖精なんて、初めてだったと思う。

ちょっと心配してたんだけど、ちゃんと進化出来たのね。

でも、どんな上位精霊に進化するかは決まっていないと言う話だったけど、何故光の上位精霊だったのかしら。

光のように、いつも明るく笑ってるから?

そうね、きっと、自然と深く繋がり、花の妖精族の女王を務めたヨーコさんは、光合成と言う縁もあるし、光の精霊へと変じたんじゃないかしら。

光は、植物にとって欠かせない存在。

その笑顔は、私にも欠かせない存在だった。

「言ってみれば、花の上位精霊ね。」

ぱぁっ、と明るい表情になるヨーコさん。

「うん、それ良いね。そう、私は花の上位精霊ヨーコよ。」

どうやら、ヨーコさんは花の上位精霊と言う言葉を気に入ったようね。

もし鑑定したなら種族名は光の上位精霊と表記されるんでしょうけど、要は気持ちの問題よ。

他にも何人かいる光の上位精霊たちとは違う、ヨーコさんだけの種族名。

それは、とても素敵な事だと思う。

「それじゃあ、行きましょうか。まずは……。」

その時、ヨーコさんの背後からひとつの巨大な影が立ち昇った。

「しばし待て。私に挨拶も無しとは、少し冷たいのでは無いか?」

その巨大な影は、黄金色の光を放ちながら、私とヨーコさんの高さまでその位置を下げて行く。

精霊界では、便宜上足を着いている地面があるけど、そこは本当の地面じゃ無い。

だから、その巨大な人影……って、もうばればれよね。

黄金樹の守護精霊オフィーリアが、見た目的には地面に下半身を埋めたような格好で、私たちの高さまで少し顔を近付けた。

「オ、オフィーリア様!?寝てたんじゃないの~?」

「あぁ、寝ていたさ。それが私の役目だからな。しかし、ルージュ。お前は行ってしまうのだろ?別れの挨拶くらい、したいじゃないか。」

「ごめんね。私も永い事世界樹の守り人だったから、貴女を起こす訳にも行かなくて。随分久しぶりよね。」

「そうだな。それでも、私が女王たちと語らう為目覚める気配に、幾度か逢いには来てくれたろう。そのお陰で、寝てばかりでも事情は理解出来た。……本当にご苦労だったな、ルージュ。世界を守ってくれて、本当にありがとう。」

その巨大な頭が、少し下がる。

「止してよ。それは自分で決めた事だし、恩人との約束だった。アーデルヴァイトは、ライアンとの思い出の地でもあるしね。でも……。」

「でも?」

「私はもう、この地を去る。私はもう、力になれない。危機は去ったけど、人はまた同じ過ちを繰り返す。だから、これからは貴女たちが守って行くのよ。オフィーリアは、これまで通り黄金樹の守護を通して。ヨーコさんは、偉大な上位精霊のひとりとしてね。」

そう。私は私がライアンと生きた私の世界、アーデルヴァイトを救ったわ。

でもね。一度去れば、もうそこは異世界。異世界なんて救えないわ。

やっぱり、その世界に生きる者たちが、自分の世界を救うのよ。

「あたしが……守るの?」

「そうよ、ヨーコさん。まぁ、まだオフィーリアの方が精霊としての格は上だけど、もう花の上位精霊なんだから。花の妖精族の女王様より、もっと偉くてもっと責任重大よ。」

「う、うん。そうね。あたし、花の上位精霊になったんだもんね。頑張って世界、守らなくちゃ。」

「ふふ、そうだな、ヨーコ。随分頼もしくなったものだ。元々、最強の花の妖精女王でもあったのだし、すでにただの上位精霊以上の格を持っているように見える。……ルージュとの旅も、お前を成長させたようだしな。」

一瞬だけ、少し寂しそうな表情を見せるヨーコさん。

「そう、ね。……色々あったもんね。……良し!それじゃあ、あたし、世界中を見て回るわ。実はね、龍脈の恩恵がちゃんと使えるようになったの。だから、龍脈を辿って世界樹を見て回る。」

旅の途中で、ワールドガーデナーたる私の相棒なんだからと、竜脈の位置が判るように竜脈の恩恵を継承しておいたの。

ただ、本来世界神樹と言う特別な存在が与える世界樹用のスキルだけに、私ですらマナの大気への還元と言う本来の機能までは使いこなせていない。

ちゃんとヨーコさんにもスキルは宿ったけど、龍脈を巡る大地の生命エネルギーが強過ぎて、上手く使用出来無かった。

感覚的に、エネルギーの奔流に溺れそうになる、らしい。

それが、上位精霊となった事で、大地の生命エネルギーを感覚的に掴めるようになったと言う事かしら。

「それは良かった。世界樹たちに何か問題が起こった時、世界神樹やオフィーリアはその場を動けないけど、ヨーコさんだったらどこまでだって行ける。これからは、ヨーコさんがワールドガーデナーね。」

「あたしが……ルージュの後を継ぐの?」

「えぇ。だから、私は安心して逝ける。」

「うむ。私も心強い。ルージュがいなくなっても、これでアーデルヴァイトは安泰だな。」

「良~し、任せて!この花の上位精霊ヨーコさんが、きっと世界を守り抜くわよ!」

思わず込み上げそうになる別れの辛さを振り払うように、思いっ切り明るく振舞うヨーコさん。

いつもヨーコさんはこうやって、私を元気付けてくれた。


「それでは、私は戻るよ。いつまでも、黄金樹の傍を離れていられない。」

「あ、そうよ。大丈夫なの?黄金樹から離れて。」

「なぁ~に。ここは精霊界。黄金樹は隣にあるようなもの。この邂逅も一瞬のようなもの。物質界に干渉したままでは叶わぬが、こうして精霊界で逢うならばな。だから、ヨーコよ。精霊界に留まった状態でなら、もう少し気軽に話し掛けても良いぞ。やはり、知り合いがひとり減ると、少し寂しくなるからな。」

「……うん、判った。寂しくなったら、お話しに行くね。」

「うむ、待っておる。……ではな、ルージュ。愛する夫との再会を、祈っておるよ。」

「ありがとう、オフィーリア。……今まで、本当にありがとう。」

私は、変身の魔法で巨大化、の結果だけを発現して、オフィーリアと同じ背丈になって、彼女を優しく抱擁した。

彼女も私を抱き締めて、ふたりはしばし抱き合った。

「……こうして誰かと抱き締め合ったのは初めてだ。大きくなれたのなら、もっと早くこうして欲しかったな。」

「ふふ、特別よ。もう、しばらくは逢えないからね。一応、こことあっちはお隣同士。私は神様。どうしても逢いたくなったら、また逢いに来るわ。」

私たちは体を離し、「ふふ、そうか。ならば、別れの挨拶は不要だな。また逢おう、ルージュ。数少ない私の友よ。」

「えぇ、また逢いましょう。数少ない、同じ時間を生きる私の友達。」

私が徐々に元の大きさに戻るのに合わせるように、オフィーリアの体は透き通って行き、元の人間サイズになる頃には、彼女は黄金樹の許へと帰って行った。

……私は、必要なら嘘も吐く人間だけど、これは嘘な訳じゃ無い。

ただ……多分もう二度と、逢う事は無いのでしょうね。

「さぁ、行きましょう、ヨーコさん。待たせちゃ悪いわ。」

私が声を掛けると、目に光るものを湛えながら、「うん!こっちよ、ルージュ。」といつも通り、元気一杯に応えるヨーコさんだった。


3


精霊界は、物質界と隣り合った世界。

そしてその姿は、物質界を写し取ったかのように、似た姿をしている。

少し位相がズレているだけで、ほとんど同じ場所にあると言っても過言では無い。

と言う事は、ずっと昔から知っていた。

実際、精霊たちはすぐ近くにいて、私が交流を持つお友達たちの多くは、物質界の傍にいる。

でもそれは、あくまで精霊界の一部。物質界との境界域に限った話。

精霊界は深く広く続き、さらにその奥にこそアストラル界は存在する。

私は幸いにして、一部の上位精霊、偉大な精霊王たちとの交流もあるんだけど、物質界の中でも特別な場所、例えばジェレヴァンナの森の奥深く。

そんな場所で縁あれば会える可能性もあるだけで、普通は上位精霊や、ましてや精霊王たちに会える機会など無い。

数千年の刻の中で、運良く邂逅した精霊王たち。

でも、本来彼らは精霊界の奥深くにいて、伝説級の精霊使いが奥義を以て招喚する事はあるけれど、その場合でも、そして私も、あくまで精霊の方が物質界に近付いて来てくれて成立する。

精霊界の奥深くに足を踏み入れる。

そんな事、人間には、精霊使いでも、基本的には不可能な話。

だから、精霊女王に面会しようと思ったら、水先案内人が不可欠。

面会の約束を取り付ける、仲介人だって必要。

それをお願いしたのが、ヨーコさんだった訳。

もちろん、ヨーコさんもずっと物質界にいた訳だけど、花の妖精族のヨーコさんは、境界域のみならずもっと深く精霊界まで入り込む事が可能。

本来、とっくに精霊界へ帰還しているはずだったし、先に精霊界へ戻り上位精霊となって、その上で精霊女王との面会を段取って貰った。

魂の回廊を通じて辛うじて念話が繋がったから、何とか準備完了の報せは届いた。

その待ち合わせ場所が、ジェレヴァンナの森のような精霊界との繋がりが深い場所では無く、吹きっさらしの草原だった事には驚いたけど。

あらゆる意味で、精霊界には物質界の常識が通じないわね。

そもそも、何故精霊女王との面会が必要なのか。

精霊界の支配者、精霊女王の意向を無視して、勝手に精霊界を素通りするのは礼を失するし、そもそもどこをどう進めばアストラル界へ至れるのかも判らない。

挨拶くらい、ちゃんとしておかないとね。

「気を付けてね、ルージュ。ルージュは神様だけど精霊じゃ無いし、ずっと物質界で暮らして来たんだから、ここは感覚的に認識しづらいと思うわ。下手なところに迷い込んだら、見付けるのも大変なんだから。」

「えぇ、本当にその通りね。もし人間のままだったら、とっくに気が変になってるかも。でも、ジェレヴァンナの森の結界に似てる。そのお陰で、少しだけ感覚を合わせられてる。」

「そっか。ジェレヴァンナはハイエルフだったから、精霊に最も近いエルフだったもんね。」

「でも、頭の中が奇妙な感覚で少し酔いそうだし、もしヨーコさんとはぐれちゃったらと思うと怖いわ。しっかり付いて行くから、案内よろしくね。」

「うん、任せて!って言っても、あたしも女王様の宮殿までの道とかしか、まだ把握してないのよね。だから、迷わず案内するのは良いけど、はぐれちゃったらどこをどう探せば良いか迷っちゃう。ほら、しっかり手を繋ごう。あたしだって、まだここまで入り込むと緊張しちゃうわ。」

ぎゅっ、とヨーコさんの手を握り、ふたりしておっかなびっくり精霊界を進んで行く。

まぁ、最悪迷っても、時間さえ掛ければ慣れて来るだろうし、ここでの時間経過は特殊だから気にしてもしょうがないんだけど、私は少しでも早く先に進みたい。

……それは親友との別れが近付くと言う意味でもあるけど、もうずっと胸が張り裂けそうだったのよ。

私は今すぐにも、ライアンに逢いたい!

こんなところで迷ってる場合じゃ無いわ。


精霊界を奥へと進むと、物質界との境界域とは打って変わり、その風景は極彩色に彩られ光り輝き、しかし物質界とは違って周りにある物が確定的な形を持たず、常に変動的で一瞬目を離しただけで違う姿を見せもする。

方向感覚も物質界とは違っていて、私には今、自分が東西南北、前後左右、上上下下左右左右BA……じゃ無くて(^^;

どこを向いているのかを、把握する事も難しい。

神故に、難しいだけでまるで判らない訳では無いのが、救いと言えば救いかな。

それでも、繋いだヨーコさんの手の、何と頼もしい事だろう。

ぐいぐい迷い無く進むヨーコさんに連れられて、多分物質界的な感覚で言えば小一時間くらい歩いた。

すると、流動的な風景の中で、様々な色が重なり合って、朧気に大きな建物のような姿の一画が前方に見えて来た。

ドーム状屋根が建物の天辺に乗っているような、そう、正に宮殿。

「見えて来たわ。あそこが精霊女王様の宮殿よ。見える?」

「えぇ、見えるわ。私にも辛うじて、宮殿のような建物に見える。」

きっと、宮殿みたいな建物、と言う認識で合っていると思うけど、それでも私には輪郭が朧気でそれっぽい形と思えるだけ。

「ヨーコさんには、はっきりした形が見えるの?」

「え?う、うん。綺麗な宮殿よ。……そっか。やっぱりルージュでも、完全には認識出来無いのね。」

「えぇ、残念ながら、そうみたい。やっぱり、神なんて言っても、万能じゃ無いわね。」

正直、ここまでアジャスト出来無いとは思わなかった。

思えば、精霊界を精霊界として確定的に定義付け、三界の壁を確立したのは、力の象徴ドラゴン、神、悪魔と同格の、原初の精霊女王だもんね。

私みたいな新参神様より、よっぽど神格が高そう。

その原初の精霊女王が、精霊たちの為に調整した世界だもの。

元人間の私が馴染めなくても、不思議じゃ無い、か。

「とにかく、迷わず辿り着けたようね。ありがとう、ヨーコさん。」

「うん、迷わなくて良かった。でも、まだ気を抜かないで。その……精霊女王様、あんまりルージュが来る事、歓迎していないみたいで……。」

「そう……。とにかく、会ってみなくちゃ始まらないわ。何も、取って喰おうって訳じゃ無いでしょ。」

もちろん、争いになっても、私は別に精霊女王なんて怖く無い。

でも、そもそも争おうなんて思っていない。

私はただ、精霊界を通り抜けて、アストラル界へ、死者の国へと行きたいだけ。

何か不満があるのなら話を聞いて、何とか通り抜ける許可を貰わなくちゃ。


私はヨーコさんと手を繋いだまま、宮殿らしき色彩の塊の前まで辿り着き、門らしき場所で見覚えのある顔に出くわした。

「あら、どうしたの、こんなところで。久しぶり。ヴァリオームにサイヴァリア。」

向かって門の右側にいるのがヴァリオーム。

燃え盛る炎のような髪をした、筋骨隆々とした魔族を思わせる巨人。

炎の上位精霊イフリートから進化し、ついには炎の精霊王となった偉大な精霊。

向かって左側にいるのがサイヴァリア。

涼やかな水を湛えたような瞳と、清らかな流水のように流れる美しい長髪。

美を司る神族を思わせるような、艶やかな精霊。

水の上位精霊アクアリウスから進化し、水の精霊王となった雄大な精霊。

ちなみに、ヴァリオームは男性、サイヴァリアは女性のように見えるけど、生殖機能を必要としない精霊に性別は無い。

物質界の影響を受け、自身の性質に合った姿や言動を自然に行うだけで、性自認として男、女と認識しているかは微妙。

花の妖精だったヨーコさんは当然女の子のままだけど、永く精霊でいれば曖昧になって行くのかも知れないわね。

「あぁ、久しぶりだな、ルージュ殿。待っていたよ。この先は、我々もお供をしよう。」

「どうしたの?ふたりとも。仲良くしてくれるのは嬉しいけど、喚ばない限り逢いに来てくれないものでしょう。精霊王はみだりに物質界になんて顔を出すべきじゃ無いから、って。」

「えぇ、その通り。でも、ここは精霊界なのだから。それに、私たちも寂しいのよ。貴女が行ってしまうとね。」

「その通りだ。我々ふたりだけでは無いぞ。他の精霊王も集まっている。皆、惜別の想いは一緒だ。」

「そう……。ありがとう。」

私が微笑むと、ふたりは顔を見交わし、宮殿の門を押し開けた。

ヨーコさんと並んで門を潜ると、ふたりは私たちの後を付いて来る。

ふたりの大いなる精霊王を従えながら、私たちは宮殿の中庭……らしき場所を歩いて行く。

見れば、噴水のような場所で風の精霊王ゼファーマスィ。

ガゼボの傍には、土の精霊王ディリルダリルと、さらにふたりの英雄的な精霊が出迎えてくれた。これで、四大精霊王が揃い踏み。

私は、花の上位精霊に連れられて、四大精霊王を従えて、宮殿内の大通路を進み、ついに精霊女王の待つ謁見の間へと至るのであった。


4


相変わらず色彩の塊のようで、物の形ははっきりしないけど、それでもその荘厳さは嫌と言うほど伝わって来る、そんな謁見の間だった。

野球場ほどもあろうかと言う広さで、今いる場所をホームとするなら、センターの辺りにそれ・・はいた。

それ、なんて言い方は不敬かも知れないけど、それの傍に侍ているふたりの精霊王。

ひとりは、オルヴァドルを思わせるような神々しい姿の光の精霊王、リューアガイナス。

もうひとりは、ミザリィが化けていた大魔王の姿を彷彿とさせる、闇色のローブに身を包んだかのような闇の精霊王、ロザリロンダ。

彼らも懇意の精霊王だけど、精霊王たちは本来の神族、魔族に近い4mほどの巨躯……と言う姿を取っているだけで、本質的な姿は良く判らない。

まぁ、それは置いておいて、そんな精霊王ふたりよりも、遥かに大きな精霊がそこにはいた。

サイズ的には、オフィーリア並みね。……いいえ、もしかして、私は思い違いをしていたのかも。

神話から判る範囲、さらには神の知識として判る範囲では、精霊女王とはあくまで称号のようなもの。

各種属性ごとに、特に力に秀でた上位精霊たちが精霊王を名乗り、その代表者としてひとり、精霊女王を名乗る。

私の認識ではそうだった。

だけど、目の前の精霊女王は、その神格が明らかに精霊王たちより上。

神話では、原初の精霊女王は力を失い、原初の精霊たちもその力を失って、言ってみれば今の精霊たちへと退化した。

だけど、原初の精霊女王の後を継いだ者が、果たしてその後代替わりしたのか。

仮に、原初の精霊女王を直接後継した、原初の精霊に近い、それこそ、真なる古代竜に近かったドルドガヴォイド同様、今の精霊よりも原初の精霊に近い精霊が、永く精霊女王を務めて来たのなら。

神話の時代、黄金樹の守護精霊となったオフィーリアと同じく、大いなる力を秘めた精霊なのではないだろうか。

ちなみに、オフィーリアは本当は凄く強い。

力が衰えた、元々守護の力しか無いと言って、私にインキュバスを押し付けたけど、その力の一端を解放するだけで、インキュバスなど塵に出来るでしょう。

ただ、オフィーリアはその力のほぼ全てを、黄金樹の為に使っている。

それが一時、一瞬であっても、他に向ける訳には行かなかっただけ。

悪い言い方をすれば、時の女王メイフィリアと黄金樹を天秤に掛けて、黄金樹を選んだ。

もちろん、女王を、メイフィリアをどうでも良いと思っている訳じゃ無いから、私に助けを求めたんだけどね。

決して、インキュバスひとりに手を焼くほど、本当に力が衰えたりはしない。

その力、その命尽きるまで、黄金樹を守護する。それがオフィーリアの役目なのよ。

そんな、原初の精霊そのものとも言えるオフィーリアと同格の精霊こそ、今目の前にいるそれ・・、当代の精霊女王その人。

その姿は、光輝くような白い肌に、様々な表情を見せる玉虫色の紋様が刻まれている。

身長はオフィーリアと同じくらいだから、20mくらい?

顔立ちは美しいけど中性的で、精霊女王なんて呼ばれているけど女性な訳では無い。

オフィーリアは完全に女性的だったけど、多分正確には無性のはず。

今は厳しい表情をしているその額には、私の方を射抜くように見詰める第三の眼があり、装束は他の精霊たちが古代、乃至中世ヨーロッパ的な装いに近いのに対して、仏教や密教の明王を思わせる……あれ?どこかでも同じようなフレーズを思い浮かべたような……?

そしてその背には、光だけで形作られたような美しい羽が広がり、その羽にはまばらに飾り羽も煌めいていて、それはまるで……そう、それはまるで、孔雀のような……、って。

その瞬間、私は一気に神の気を解放し、それと同時に謁見の間の光景がはっきり視認出来るようになった。

私を射抜いていた眼が鋭さを増し、精霊女王は玉座より立ち上がる。

私を取り巻いていた四大精霊王たちも、精霊女王の左右に控えていた光と闇の精霊王も、私の神気に固まって、身動きひとつ取れなくなっている。

その中で唯一、私の事を心配して声を掛けて来る親友がひとり。

「ど、どうしたの?ルージュ。急に身構えちゃって。大丈夫よ。あの方が精霊女王様。怖くないよ。」

……、……、……ふ、あはは。本当、ヨーコさんって凄い。

ずっと一緒にいたからかしら。私の神気に少しも動じていないわね。

ふぅ、折角周りが良く視えるようになったから残念だけど、私は神の気を再び抑え込んだ。

「ごめんなさい、ヨーコさん。ちょっとね、精霊女王様が、私の知り合いに似てたのよ。あんまり再会したくないような知り合いにね。」

再び玉座に座り直した精霊女王は、センターほども離れた位置から、それでもはっきりと耳に届く不思議な声で話し掛けて来た。

「……その知り合いとやら、名を聞いても?」

その言葉に、私はヨーコさんと手を繋いだまま、もう少し近付こうと歩き出した。

さすがの精霊王たち、私が神気を抑え込んですぐにも正気を取り戻していたけど、私が歩き出すと今度は慌てふためく。

「大丈夫よ、皆。別に、喧嘩する訳じゃ無いから。さっきはごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃっただけよ。」

そうして、ホームからピッチャーマウンドくらいの距離を歩き、私は玉座の女王を見上げて応える。

「闇孔雀。……ちょっと、あいつに似てるような気がしたのよ。」


「……お前は、あれ・・の知り合いなんだな。」

険しかった表情が、さらに険しくなる精霊女王。

……やっぱり、何かしら因縁がある訳ね。

「知り合い、と言っても、一度物質界に降臨するのを阻止した事があるだけよ。まぁ、直接遭って、直接話したから、ただ存在を知ってるだけじゃ無くて顔見知りではある。だからこそ、二度と遭いたくないわね。」

「そう……か。」

精霊女王が、少しトーンダウンする。

彼女……女王様だから敢えてそう呼ぶけど、彼女の方も、どうやら親しい間柄では無さそうね。

「姿を知っているから、女王様が少し似てるな、って。まぁ、手は6本も生えていないし、お顔立ちは似ても似付かないんだけど、ほら、飾り羽が孔雀みたいだから。」

すると、精霊女王の眉間に皺が寄る。

「……あれ・・に似ているなどと、二度と言ってくれるなよ。堕天しただけならともかく、追放されたアストラル界であのような……。つくづく忌々しい奴よ。」

……彼女は闇孔雀、それこそ光孔雀?だった頃からの知り合いなのかしら。

だけど、どんな知り合いかは聞かない方が良さそうね(-ω-)

真なる魔界の真なる……、そんな存在と精霊女王に繋がりがあったなんて、本当に精霊界やアストラル界の事は判らない。

物質界のみならず、三界の壁に隔てられたその先の世界の事なんて、本当に他の世界の住人には判らないものなのね。

「それでね、女王様。お願いしてた件なんだけど。」

場の空気にも呑まれず、物怖じしないで話を切り出すヨーコさん。

……私の為に、頑張ってくれてる。

「ふむ……ヨーコか。其方も不思議な子だな。」

「え?そうかな?あ、そうそう。あたしね、光の上位精霊って言われたけど、花の上位精霊って名乗る事にしたの。花の上位精霊ヨーコさんよ。ね、良いでしょ。」

「……そうか。其方の前身は、花の妖精族だったな。言い得て妙だ。どれ、こちらにお出で。」

言われて、ヨーコさんは一瞬私の方を見て、手を離すのを躊躇ったけど、私はそれに笑顔で応えた。

それを受けて、ヨーコさんはひとり、精霊女王の足元へ。

ヨーコさんが傍まで来たところで、精霊女王はその手をヨーコさんに翳し、ヨーコさんは光のヴェールに包まれた。

「……これで良い。元々其方は、転生した時点で他の上位精霊よりも神格が高かった。だから今、正式に其方を、花の妖精、植物の精霊など系譜に連なる者たちの最上位者として、花の精霊として認めた。其方は今から、上位精霊を越えた単一の、独立した、花の精霊ヨーコだ。」

「えー、花の精霊ぃ~?……上位取れちゃったの?」

「ん?花の上位精霊の方が良かったか?」

「え?ん~と、花の上位精霊って名前、ルージュが付けてくれたから。」

ちょっと伏し目がちに、こちらを見やるヨーコさん。

「良かったじゃない、ヨーコさん。今までお友達だった妖精や精霊たちの女王様に、また就任したようなものよ。花と言えばヨーコさん。花の精霊ヨーコさん。素敵じゃない。」

「え~、また女王様なの~?あたし偉くないんだから、ただのヨーコさんに戻れてすっきりしてたのに~。」

「ふふ、精霊女王の前で女王を否定するか。本当に面白い子だな、其方は。」

「あ、別に女王様を否定したんじゃ無いわよ。女王様は偉いんだから、女王様で良いのよ。あたしは偉くないんだから、ただの花の精霊。そう、ただの花の精霊だから、女王様じゃ無いのよ。」

ふふ、私だけじゃ無く、緊張していた精霊王たちまで、いつの間にかリラックスして微笑んでる。

精霊女王の表情も、今は和らいでる。

本当に凄いわ、ヨーコさん。

「さて……。」と、再び険しい表情に戻った精霊女王。

「ルージュよ。お前の願いは、この子から聞いている。お前はこの子の友達だ。悪い人間……では無いのだろう。」

「そ、それじゃあ……。」と見上げて喜ぶヨーコさんを手で制し、彼女は続ける。

「この子の頼みでもあるから聞いてやりたいが、まずは試練を受けて貰おう。話はそれからだ。」


5


「ちょっ、ちょっとぉ~、どう言う事ぉ~?試練なんて聞いてないわ。」

精霊女王に向かって、ぷんすか怒るヨーコさん。

「ルージュは、良い神様よ。何も悪い事なんてしないし、ただ精霊界を通り抜けたいだけなのよ。」

その言葉には一切反応せず、相変わらず射抜くように私を見詰める精霊女王。

すると、顔を見合わせたリューアガイナスとロザリロンダも。

「その通りです、我が君。ルージュ様は素晴らしきお方。決して精霊界に害なす者ではありません。」

「私たち精霊王が、その行い見届けております。彼女は私たちの友人。どうぞ、その願いを聞き届けて頂きたい。」

そう懇願すると、後ろに控えた四大精霊王たちもそれに同調し、口添えをしてくれる。

皆……決して支配などせず、親しく交わる事で精霊魔法を行使して来た私は、精霊を支配する事を否定はしないけど、間違っていなかったと思う。

これから別れる事になるのに、そんな私の為に……。

でも、彼女の表情が変わる事は無かった。

精霊たちを手で制すと、「お前が、闇孔雀の仲間で無い事は判った。」

再び、玉座より立ち上がる精霊女王。

「先程の神気からも、邪悪さは感じられない。……だが。」

「だが?」

「……お前の中に、闇の神を感じる。それはどう言う事だ?」

あぁ、そう言う事ね。

「へぇ、やっぱり女王様は凄いわね。私だって、もうかなり集中しないと、中々見付けられないのに。……彼は闇の神だった者。名前は知らないわ。彼自身、もう覚えていなかった。神代の戦いの折り、或る光の神と戦う内、深海へと落ちて行き、そこで1万年を戦い続けて来た者。」

私は、掻い摘んで事の顛末を話して聞かせた。

「……そして、世界中の世界樹たちに己を分け与えてしまい、今ではすっかりその存在は消えてしまったの。微かに、その残滓を残すのみよ。」

周りの精霊王たちも、この話を聞くのは初めてだから、私の話に聞き入ってる。

「……そうか。……確かに、気配はするが、あまりに弱々しく、言われてみれば既に残滓、か。」

「……どう?納得してくれた?」

「うむ。お前の中の者の正体は判った。しかし、闇の神、いや、悪魔は原初の精霊と力の象徴たるドラゴンが、己の身と引き換えにアストラル界へ封じた宿敵。やはり、おいそれと信用する訳には行かん。」

そう言って彼女が腕を振ると、私は光の粒子に包まれた。

「ルージュ、お前の本質、見極めさせて貰う。」

彼女のその声は、光の奔流の中に消え去って行った。


光が渦巻き、しかし謁見の間とは違う光景が広がるそこには、丁度精霊女王がいた辺りに同じくらい大きな闇の者がいた。

何を考えての事だか、二度と見たくも無かった、闇孔雀がそこにいた。

そして、その6本の腕の内の2本が、今正にライアンを、そして逆の腕ではヨーコさんを、掴もうと伸びていた。

……これはあれだ。使い古された、審判の質問。

今目の前で、母親と恋人が溺れそうになっている。さて、どちらを助けますか?

私の場合、この世界には親なんていないから、最愛の人と最高の親友、どちらを助けますか?って事かな?

……はぁ、うんざりね。

この質問はね、母親を助けても、恋人を助けても、場合によってはふたりとも助けなくても、どうでも良いのよ。

問題は、何故そちらを助けたのか、その理由。

そして、真剣に悩んだ挙句、どちらを選べなくても構わない。

要は、何をどう考えどう判断したか、出題者はそれを見ていて、言ってしまえば出題者が納得する答えを応えられるか。

……なんて事を考えて、忖度した答えを出すのも見透かされる。

正解の無い問い。

実際、リアルに考えれば、結局どちらも救えないのが大半よ。

レスキューの知識や経験も無しに、溺れそうになって暴れている人間を川から救い上げるなんて、普通の人には無理な話。

年老いた母から助けるにしても、思った以上に暴れる人間の力は強いもの。

比較的簡単に助けられそうに思うかも知れないけど、何の用意も無く服を着たまま泳ぐのも難しく、仮に助け出せても力尽きて今度は助けた自分が流される事もある。

体力的に母親の方が先に沈むから、せめて恋人だけでも、と思っても、同じように助け出す事は難しい。

結局、何をどう思って行動したかに関わらず、母か恋人か自分、もしくは全員が溺れて亡くなるなんて良くある話。

ライフジャケットも着ずに川遊びをして溺れ掛ける、と言う事態そのものを、もっと事前から避ける行動を取る。

正解があるとしたら、それくらいしか無い。

もう、何の準備も無しに川で溺れた時点で、真っ先にやる事は覚悟を決める事ね。

自分が死んでも救いたいなら救えば良いけど、救えるのは奇蹟みたいなものだと考えないと。

……ま、それは普通の人間の話。

ライアンを取るか、ヨーコさんを取るか?

親友を見捨ててでも、最愛の人を選ぶ覚悟が見たいの?

エゴを捨て、親友を助ける慈愛の心を示せ?

冗談じゃ無いわよ。当然、ふたりとも取る!

私は分身の魔法で体をふたつに分け、短距離瞬間転移でふたりの許へ。即座に転移で、元の場所へ戻る。と言う過程を飛ばして結果だけ発動。

右脇にライアン、左脇にヨーコさんを抱いて、闇孔雀を睨み付ける。

「残念だけど、この手の問答は私のいた世界でも定番でね。もう、理屈をこねずに貴女が期待するような答えなんて出せないわ。それにね、私はもう人間じゃ無くて神。力の象徴ドラゴン、光の神、闇の神のどれにも属さぬ、唯一にして新たな第四の神、クワトロ・ルージュ。貴女がどう思おうと、私は私の意思を貫き通す。それが出来るだけの力もある。どちらか一方なんて選ばない。助けたい者は全員助ける。そこに立ち塞がる者があるなら、敵として葬る事に躊躇いは無い。例え相手が誰であろうとも。精霊女王たる貴女だろうと、闇孔雀だろうと、ね。」

目の前の闇孔雀はその表情を変えず、しかし次第にその色を薄くし光の中に呑まれて行く。

私を覆う、いいえ、周囲を包み込む世界が光を増して行き、目が痛いほどの白に彩られた後、今度は穏やかな色彩を帯びて行って、私の視線の先には精霊女王の姿が再び現れた。

その瞬間、ヨーコさんが私に飛び付いて来る。

「ルージュー!大丈夫だった?」

「えぇ、大丈夫よ。別に、私たち喧嘩してる訳じゃ無いから。まぁ……彼女がお気に召す答えを出せたかどうかは、判らないけどね。」

そうして私が精霊女王を見詰めると、ヨーコさんも、そして周りの精霊王たちも、精霊女王へと注目した。

彼女は、厳しい表情のまま、静かに玉座に座り直した。

「ふん……お気には召さんな。……例え私が相手でも……あれ・・が相手でも、か。少なくとも理解はしたよ。お前が闇の神、いや、悪魔などとは別物だとな。事によれば、もっと厄介な存在だとな。」

「そんな事無いわよ。元が人間だからね。少なくとも、力の責任、と言うものに縛られてる。力を力としてそのまま振るう事に、元から強い超越者たちとは違って、強く抵抗を感じるのよ。こうと決めたら容赦はしないけど、慎重に見極める努力はするわ。」

「……そうだな。お前がその気なら、私など無視しても問題は無かろうよ。……興味本位で聞くのだが、お前はあれ・・にも勝てるか?」

「いやぁ~、それは無理だと思うわよ。数千年殴り合うのは可能だと思うけど、最終的には負けるわね。でも、その間に私が成長すれば、殺されずに済むかも知れない。神として私はまだ若いから、伸び代は残ってると思うのよ。」

「そうか。……随分謙虚なのだな。いや、私が今のあれ・・を知らぬ故か。」

私だって、今の闇孔雀なんて知らないけど、この場合、魔界へ墜ちた後の闇孔雀を知らない、と言う意味かしらね。

さすがに、精霊女王を喚び出す精霊使いなんて聞いた事無いから、彼女は精霊界を出た事が一切無いのかも知れない。

彼女自身、今の自分の力を他者と比較する事も出来無いでしょう。

精霊と悪魔じゃ性質も違うから一概には言えないけど、多分彼女は闇孔雀ほどじゃ無い。

やっぱり、あれ・・は特別過ぎるわ。

「……良いだろう。お前のような者を精霊界に留め置く事も出来ぬし、確かに悪魔などとは違うようだ。」

「もちろんよ。私の目的は唯ひとつ。無闇に精霊界やアストラル界を騒がすつもりは無いわ。」

……嘘じゃ無い。ただ、多分結果的に騒がしくなるとは思うけど。

私の目的は唯ひとつだけど、その後の目的地は、何事も無く辿り着けるような場所じゃ無い。

ヨモツヒラサカ。クロと約束したからね。

そしてそこは、端とは言え真なる魔界の中にある。

結果的に、あの巨人と直接顔を合わせる事にもなるでしょう。

騒がすつもりは無いけれど、きっと騒がしくなるわね(^^;

「ふん、お前にそのつもりが無くとも、そうはなるまいがな。まぁ、良い。精霊女王の名において、クワトロ・ルージュがアストラル界、いや、死者の国へ立ち入るのを許そう。ヨーコ。案内は其方がせよ。」

「は、はい!……ありがとう、女王様。」

「礼は不要。あくまで、私自身の判断だ。その責は自ら負うものだからな。……道は覚えたな。」

「はい!大丈夫。きっと女王様はお許し下さると思って、ちゃんと案内出来るように覚えたの。」

「そうか。……今の其方なら問題無いが、精霊界の中では危険な場所だ。気を付けてな。」

「うん、ありがとう、女王様。さ、行きましょ。ルージュ。」

「えぇ、行きましょうか、ヨーコさん。……女王様、ありがとう御座いました。」

私はミニスカートの裾に手を添えるようにして、ちょい、とだけ上げる仕草をして会釈をした。

「貴方たちもありがとう。……元気でね。」

精霊王ひとりひとりを見詰め、目で挨拶を交わす。

そして振り返り、ヨーコさんと手を繋ぎ、荘厳な光の間を後にして、私たちは死者の国へと向かうのだった。


6


精霊女王の宮殿を出て、私たちはかれこれ数日ほど歩いた。

あくまで精霊界での時間感覚だから、実際の距離とか時間は良く判らないけれど、それでもかなりの距離を移動したように感じる。

そして、見える景色も変わって行った。

眩い光の色彩に彩られた宮殿周りから、徐々にくすんだ色合いが増えて行き、今では暗色が多く混じり出した。

気付けば、闇色のトンネルの中を微かな光と色彩たちが流れて行くような、明らかに様子の違う一画へと入り込んでいた。

そのトンネルの中は、私たちとは違う者たちも同じ方向へと向かっていた。

それには見覚えがある。

成仏する光の粒子の中に、最後に見える輝かしい塊……魂。

いつの間にか、幾多の魂たちがこのトンネルの中に集まって来ていて、私たちが目指す場所へと群がって行くよう。

三界は壁によって遮られてるけど、物質界は精霊界としか隣り合っていない。

そして、アストラル界もまた、精霊界としか隣り合っていない。

間に精霊界が存在する事で、人間も悪魔も、それぞれの世界を直接渡る事が出来無くなっている。

招喚魔法や儀式で世界を渡る場合でも、精霊界を経由して行き来する事になる。

どうやら成仏した魂たちも、そのままアストラル界へと辿り着くのでは無く、こうして精霊界を通ってアストラル界へ、死者の国へと至る訳ね。

もちろん、そんな事、私は今知った。

てっきり、成仏って直接魂が死者の国へ行くもんだと思ってたわ。

でも違った。今私たちの周りにいる魂たちは、成仏を果たしこれから死者の国へと向かう魂。

物質界とは違い、もう保護器であるアストラル体を必要としていない、その人そのものである魂。

今歩いてるこのトンネルは、つまり死者の国への入り口、本当の黄泉比良坂みたいなものね。

「……こうして魂たちが流されて行くこの場所が、死者の国への入り口なのね。……まぁ、当然だけど、物質体を伴ったままこんなところにいるのなんて、私くらいなものね。精霊たちの姿も見えないけど、精霊も普段はこんなところまで来ないの?」

私は手を握り合ったままのヨーコさんの方を、ちらと見やった。

すると、ヨーコさんは少しだけ、苦しそうな顔を見せた。

「ちょ、ちょっとヨーコさん、どうしたの?何だか苦しそうよ。」

「う……うん。精霊はね、本当はこんな奥深くまでは来ないの。死者の国の穢れが混じって来て、空気が淀んでるから。」

空気の淀み?……そうか、精霊と私では、精霊界での感覚が違う。

私にとっては色彩がくすんで暗色が増えただけのように見えても、精霊にとってそれは穢れのようなものなのね。

そう言えば言ってたわね、精霊女王が。精霊界の中では危険な場所、って。

「もう、ヨーコさん。何で言わなかったのよ。とても苦しそうじゃない。この先が死者の国なんでしょ。だったら、私はもう大丈夫。後は真っ直ぐ進むだけだもん。無理しないで、ヨーコさん。」

ヨーコさんが、私に縋り付く。

「だって……だってもう、お別れなのよ。ルージュがこの先に進んだら、もう逢えないのよ。せめて、せめて少しでも長く……少しでも……。」

ヨーコさんは、私が支えなければ立っていられないほど弱ってる。

「ヨーコさん……少し戻るわよ。」

私はヨーコさんをお姫様抱っこして、風のように来た道を戻り始めた。


かなり色彩が鮮やかに見える辺りまで戻って来て、私はヨーコさんを地面……らしきところに寝かせ、浄化を試みた。

すると、すぐにも顔色が良くなり、やはり穢れに冒されていたのだと判る。

症状が改善すると、即座に立ち上がるヨーコさん。

「違うの!これはちょっと……そう二日酔い?ほら、あたし、お酒弱いから。」

慌てて言い訳を始めるヨーコさんが可愛らしい(^∀^)

貴女、さっきまで何とも無かったじゃない。

それが本当なら、女王様に逢う前に深酒したの?

色々突っ込めるけど、私は黙って微笑むだけ。

「……ごめんなさい……。」

私は神の気を解放し、周囲を見回してみた。

魂たちが目指す先には、暗闇へと続く大きな洞窟が口を開けている。

正に黄泉比良坂と呼ぶに相応しい、禍々しさを醸し出している。

ちゃんと視えないと、暗色が増えた程度に感じたけれど、まともに視認すれば精霊が近付くような場所じゃ無い事は一目瞭然ね。

「こっちこそ、ごめんね。無理させちゃって。」

「ん~ん、違うの!ルージュが悪いんじゃないの。あたしが勝手に離れなかっただけで……。」

「もしかして、女王様にもこれ以上先へは進んじゃ駄目って、言われてなかった?」

「……うん、案内はここまで。洞窟には近付いちゃ駄目、って。」

「……どうやら、死者の国は想像以上に危険な場所みたいね。特に、精神生命体に等しい精霊は、その穢れをまともに受けちゃう。いくら花の精霊だからって、もうこれ以上は無理よ。ヨーコさん。」

「う……うん。」

俯くヨーコさんを、見詰める私。

そんな時間が、一体どれくらい過ぎたろう。

私は、ぎゅっ、とヨーコさんを抱き締めた。そして。

「ごめんなさい。私の我が儘で、ヨーコさんを悲しませちゃって。」

「ち、違うよ、ルージュ。ルージュは我が儘なんかじゃ無い。ずっと見て来たもん。ルージュがライアンいなくて寂しいの、ずっと見て来たもん。」

「……それでも、ごめんね。私は、もうひとりの大切な人を、悲しませて行く事になっちゃう。……さすがに、連れて行けないからね。」

ヨーコさんが抱き返して来る。

「ん~ん。あたしこそ、ごめん。ルージュの速さに付いて行けなくて、見送る事しか出来無くて、もう力になってあげられなくて。」

「そんな事無い。そんな事無いよ、ヨーコさん。本当にありがとう。ヨーコさんがいてくれたから、私は生きて来られたのよ。闇の神がいてくれたから消えずに済んだけど、ひとりぼっちになってたら、きっと徐々に心が死んでた。貴女がいつも傍にいてくれたから、私の心は生きられたの。」

「うええ、うええぇぇぇぇ~~~~……。」

「ふふ、考えてもみて。ヨーコさん、貴女、ライアンよりもずっと私と一緒にいたのよ。私の人生の中で、一番永い時間を共に歩んだのは、貴女なのよ、ヨーコさん。」

「えええぇぇぇぇ~ん。あだし……あだしぃ……。」

「私が一番愛した男はライアンよ。でもね、私の一番の親友は貴女よ。それは、これからも変わらないわ。貴女は私の、一番の親友よ、ヨーコさん。」

「わぁああああああ~~~~……。リュージュぅ……、リュージュぅ~……。」

「……オーコざん……うぅぅぅぅぅ、あああああああぁぁぁ~~~……。」

そこからは、ふたりしてまともに喋れず泣き出してしまった。

そんな意思などあるまいに、まるで私たちを心配するように、魂がいくつかふたりの周りを飛び交って行った。


泣き腫らした目を、ふたりして擦りながら、気恥ずかしくなって笑い合う。

「へへ、ごめんね。泣いちゃった。」

「ん~ん、良いのよ。私だって耐えられずに泣いちゃったもの。」

そして、ヨーコさんがぎゅっと抱き付き、私の胸に顔を埋める。

ちなみに、私の素体は勇者くんだから、女にしては長身の170cm+高めのヒール。

頭ひとつ、ヨーコさんの方が背は低い。

「これでお別れ。あたし、ちゃんと我慢出来るよ。もう泣かない。だって、ルージュにはちゃんとライアンと再会して欲しいもの。」

「……ヨーコさん。約束はしないわ。約束はしないけど、私は神様だからね。三界の壁なんて、超えようと思えば超えられる。だから、いつかまた逢う事は出来る。それは可能なんだと覚えておいて。向こうへ行ってどうなるか判らないから約束はしないけど、私だって本当は、またヨーコさんと逢いたいんだから。」

「……うん、判った。あたしももう、花の精霊だもん。ずっと待ってる。ず~~~と、待ってる。」

私は、ヨーコさんの肩を掴んで少し体を離すと、じっと見詰めながら。

「……これは、私とライアンだけの秘密。だから、誰にも内緒よ。」

「え!?」

「……私の本当の名前は……ユウ。クリムゾンもノワールもルージュも、偽名だからね。気に入ってるけど。でも、私は本当は、ユウって言うの。」

「ル……ユ……、え?!でも……。」

「ライアンも掛け替えの無い人。だから、本名を明かした。でもね、貴女もよ、ヨーコさん。貴女も掛け替えの無い人。だから、知ってて欲しくなっちゃった。……重いかしら?」

「!……ん~ん!ん~ん!そんな事無い!ありがとう。ありがとう。ユウ……へへ、ユウ!あたし、あたしヨーコ。そうよ!ユウも、あたしの事、ヨーコさんじゃ無くてヨーコって呼んで。貴女はユウ。あたしヨーコ。」

「ふふ……ヨーコ、私の大切な親友。良い?これは、私とライアン、私とヨーコ、それぞれ別々の、ふたりだけの秘密。絶対内緒よ。」

「うん、うん、判った!あたしがユウって知ってる事、ライアンにも内緒なのね。あ、でも、あたしはライアンが知ってる事知ってるわよ。」

「あら、そうなるわね。……ヨーコの方が一歩リード?ふふ、ずっと一緒だったんだから、それも仕方無いわよね。」

「あはは、あたしの方が一歩リード!やったぁ。……それじゃあ今度は、ライアンのターンね。これからは、ライアンとずっと一緒にいなくちゃね。」

「……ありがとう、ヨーコ。……行って来ます。」

「うん!行ってらっしゃい、ユウ!」

再び強く抱き合うふたり。

これが、最後の抱擁かも知れないと感じながら……。


私が洞窟の手前で振り返り、最後に一度手を振ると、ヨーコは顔一杯の笑顔で両手をぶんぶん振って、それに応える。

目には涙を湛えながら。

こうして私たちは、ついに別れの刻を迎えた。

もう私は振り返らない。

とても悲しくて、とても寂しくて、やっぱり罪悪感も感じるけれど、もう私は振り返らない。

神の気の前に、その真実の姿をさらした黄泉比良坂を魂たちと進みながら、私はその闇の先にある死へと歩いて行くのだった。


つづく

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