第五章 所縁


1


今、私の眼下に広がるのは、どうやらカティスの街のスラムのようね。

良かった。すぐ傍で待ってたら、生き残ったひとりと鉢合わせたかも知れない。

良い判断よ、ヨーコさん。貴方に任せて、本当に良かった。

カティスの街外れ、最下層民である人間族が大勢住んでる一画の、特に状態の悪い荒ら屋。

ふたりがいるのは、ここみたいね。

私はその荒ら屋の、申し訳程度の扉を押し開く。

すると、奥でガタゴト音がして「誰?!」と誰何の声が響く。

「私よ私、ルージュよ。ごめんなさいね。待たせちゃったかしら。」

そう声を掛けた途端、勢い良く奥から飛び出して来たひとつの影。

そうして、私の顔に飛び付いて来たのは、言わずと知れたヨーコさん。

「ルーージュぅーーーー!信じてた!信じてたけど……ルージューーー!」

私の顔に噛り付いて、おいおい泣き崩れるヨーコさん。

「……ごめんね。また……心配させちゃったわね。」


しばらくそのままに任せ、ヨーコさんが落ち着いた後、私たちは改めて、荒ら屋の奥で再会を果たした。

その場には、ヨーコさんの他にもうひとり、エリザがいる。

「ふたりとも、心配掛けてごめんね。あれから、どれくらい経ったのかしら。」

「え?……え~と、ひと月くらい、ですかね。でも、え~と……どれくらい時間が経ったか、判らないんですか?」

「まぁ、ね。ちょっと、大変な目に遭っちゃって。」

「大丈夫なの?ルージュ。」

「えぇ、大丈夫よ、ヨーコさん。収穫もあったし、ね。」

そう。ピンチはチャンス、なんて言葉もあったわね。

私は亜空間に囚われて、またひとつ強くなれたみたい。

「詳しい事はまた話すけど、取り敢えず、ふたりが無事で良かったわ。もう少し、ここに身を隠してて頂戴。」

「それは良いけど、どうして?まだ何かあるの?」

「えぇ。……ヨーコさん。少し事情が変わったの。私、急いであの子たちの許へ行って来るわ。」

「あの子たち?」

「うん。あの子たち……ハンスとテリーの許へね。」

パッ、と表情が変わるヨーコさん。

「ルージュ!それって……。」

「えぇ、助かるわ、ふたりとも。ううん、助けて来る。だから、もう少しエリザと一緒にいてあげて。」

「うん!うん!判った!判った!」

さっきまで泣いてたヨーコさんがもう笑った。

その笑顔は、いつも通りとても素敵な笑顔だった。


私は一度、オルヴァ拠点まで赴き、食料庫から栄養があって胃腸に優しそうな食材を選び、軽食を作ったわ。

お粥じゃ無いわよ。生前、お医者様に聞いた話だけど、実はあんまり弱った体には良くないの。

柔らかいから食べやすい、と言うのはその通りなんだけど、お米でしょ。消化吸収にエネルギーを消費するらしいのよ。

食べやすいけど、弱った体が消化吸収にエネルギー持ってかれちゃうから、快復の妨げになるのかな?

だから、栄養があって胃腸に優しい、を優先して素材を選び、その上でそれをスープにしてみた。

これなら多分、ふたりの体にも負担を掛けずに済むんじゃないかしら。

そうして食事の用意をしてから、私はティールイズの王都ヴィルムハイムにある王城を再び訪ねた。

大丈夫。まだふたりは生きてる。

近隣の村々から搔き集めた食料が、思いの外多く集まったのかも。

そこまで弱った様子も感じられない。……まぁ、元気一杯と言う感じでも無いけど。

ふたりは、以前テリーを横たえたベッドのある、豪奢な寝室にいるみたい。

……そうよね。もう死を待つばかりのふたりが、活動的に動き回る事なんて無いわね。

私はふたりを驚かさないよう、敢えてヒールの音を響かせながら、部屋へと近付いて行く。

そして、ハンスに念話で呼び掛けておく。

「お久しぶり、ハンスくん。元気だった?なんて聞いちゃ、意地が悪いかしら。」

「……これ、念話って奴か。……どうしたんだ?俺、まだ呼んでないぜ。」

「えぇ、呼ばれてない。でもね、こっちで少し事情が変わったの。今からそっちへ行って、少しお話させて貰って良いかしら。」

「あぁ、問題無い。あんたは自由に来れば良い。敵じゃ無い事くらい、ちゃんと判ってるよ。」

「ありがとう。」と、部屋に着いた私は、声に出してお礼を言う。

「食事も用意したんだけど、先に食べる?落ち着いてからお話しましょうか。」

そう言って、私はテーブルと椅子、その上に乗ったパンやスープを招喚する。

「あー!うんまぁー!」

ベッドから飛び起きて、テーブルへ駆けて来るテリー。

ふふ、良かった。思った以上に、まだまだ元気。

「さ、ハンスも。まずは食事にしましょ。」


体が弱ってるかと思って、軽めの食事しか用意しなかったから、あっと言う間に平らげたテリーは、すでにベッドで寝息を立ててる。

私はテーブルで食後の香茶を、ハンスと共に楽しんでるところ。

「……それで、ルージュ……さん。話ってのは何だい?」

「……ごめんなさい。あいつ・・・に伝言を伝えて、一発お見舞いするの忘れてたわ。」

「……は!?あいつって、あいつ・・・の事か?いや、そんな事はどうでも良いけど、話ってのはそんな事なのか?」

「ふふ、違うわよ。つまり……あいつ・・・には遭って来た、と言う話。私ね、油断したつもりは無いんだけど、一度負けちゃってね。」

「負けた?……いや、でも、ここにこうして……。」

「えぇ、無事逃げ出して来たんだけど、それでね。怪我の功名。そのお陰で、私少し強くなれたみたい。」

「……いや……もう充分強いじゃねぇか、ルージュ、さん。」

「今までよりももう少し強く、よ。……貴方たちと出逢った時より、もう少し強く。」

私はそこで、一度唇を湿らせる。

私が黙ったからか、ハンスがごくりと生唾を呑み込んだ。

「……どう言う……事だい?」

「……テリー、何とか出来そうよ。今の私ならね。そう言う事よ。」

目を見開き、声も無いハンス。

「折角覚悟を決めたところ悪いんだけど、だから貴方たちふたりを助けるわ。構わないでしょ。」

「……、……、……ほ、ほんとに……。」

「こんな事、冗談で言わないわよ。私に、貴方たちを助けさせて。お願い。」

ぽろぽろと大粒の涙を流し、それを隠そうと顔を覆って、声を上げないように歯を食いしばる。

そんなハンスが愛しくて、私は席を立ち彼の許まで行って、優しく抱き締めた。

「……ぅわ、ぅわぁぁぁああああ、ぅわぁああああああ……。」

耐え兼ねて、私に抱き付き声を上げて泣き出すハンス。

とても苦労して、テリーも守って、そんな人生を歩んで来たから大人びてるけど、ハンスはまだ15歳の子供。

ずっと、我慢して背伸びして、頑張って来たんだものね。

そんな兄の泣き声に気付き、ベッドの上でも泣き出すテリー。

良いよ。思いっ切り泣いて。

私がいれば、テリーの瘴気も問題無いから。


泣き疲れて眠るテリーの横で、私はハンスに語り掛ける。

「……取り敢えず、貴方たちふたりを助けてあげる事は約束するわ。でも、条件はあるわよ。」

泣き腫らした目で、優しくテリーを見詰めながら頭を撫でてやっていたハンスは、その手を止めてこちらに向き直る。

「……死ぬはずだった俺たちを助けてくれるんだ、何だって言ってくれ。奴隷にだってペットにだってなってやるよ。」

「やぁねぇ、そんな事言わないわよ。なぁに、私、そんな欲求不満に見えて?」

「あ、いや、そうじゃなくて、そう言う事じゃ無くて……俺はほら、何も差し出せるもの、無ぇからさ……。」

無償の善意……やっぱり、素直には受け入れられないわよね。

困ってる人がいたら助ける、それは生前日本の美徳であり、良識ある日本人にとっては当たり前の事。

でもそれは、平和な日本なればこそ、よ。

多くの日本人が本気でその日生きるのに困ってないから、他人の心配をする余裕もある。

……まぁ、被災した時もちゃんと列作って、秩序正しく救助を待ってたりもするから、少し日本人は特殊なのかも知れないけど。

少なくとも、それを逃せば自分が死ぬ、と言う切羽詰まった状況で、順番を他人に譲れる人間はいない。

命の順番が差し迫った人生を送ってる裏アーデルヴァイトの人間族にとって、他人に親切にする、と言うのは、とても珍奇な行動に見えるでしょうね。

「私にとっての対価にはならないけど、ちゃんと言う事は聞いて貰うわよ。」

「あ、あぁ、何でも言ってくれ。」

「……まず、テリーの力だけじゃ無く、貴方の力も奪わせて貰う。」

「!……。」

「人間族にしか効果が無いとは言え、強制的に他人の命すら奪える危険な力よ。助ける以上、そのまま野放しには出来無いわ。」

少しだけ、戸惑うハンス。

ハンスも、少なからず力に酔ってたでしょう。

一度全能感を味わったら、その力を手放すなんて惜しくなる。

気持ちは解る、けど。

「……構わないさ。確かに、少し惜しいけどな。俺たちを虐げて来た魔族を、簡単に殺せるんだ。……でも、その為には同じ境遇に遭って来た同胞たちを殺す事にもなる。全く、因果な力だよな。」

「……それが判ってるなら問題無いわ。本気で力に酔ってる輩は、自らを省みる事も出来無いもの。」

「だけどさ。テリーはともかく、俺も力を失っちまったら、これから先、俺たちはどうやって生きてけば良いのさ。」

「大丈夫、任せて。さすがに、力だけ奪ってさようなら、なんて言わないわ。貴方たちには、別の人生を歩んで貰う。」

「別の……人生……?そんなもん、あるのか?」

「ふふ、その為には、少し窮屈な思いをして貰う事になるかも知れないから、今から覚悟はしておいてね。」

「窮屈って……、全く意味が判んねぇけど。」

私は、ベッドから腰を浮かす。

「ただ、先に済ませなきゃならない用事があるから、貴方たちはもうしばらくここで待ってて頂戴。……食料はどう?もう少し、食事を用意しておきましょうか?」

「ん?……あぁ、そうしてくれると助かる。食料なら、まだ数週間分程度はあると思うけどさ、その……ルージュの飯は美味いから、そっちの方が良い。……あ、テリーが喜ぶからな。」

「……そ、判った。それじゃあ、腕によりを掛けて、美味しい食事を用意するわね。」

……手料理を喜んで貰えるのは、本当に嬉しい気持ちになる。こんな気持ち、本当に久しぶりね。

私はヨーコさんたちの許へ戻る前に、もう一度オルヴァ拠点に立ち寄って、今度は栄養や胃腸に負担を掛けない事を優先した料理では無く、子供たちが喜びそうな御馳走を作る事にした。

取り敢えず、1日3食3日分程度、ハンバーグやお子様ランチなど、子育てなんてした事の無い私が拙い知識で思い付いたメニューを、ふたりの寝室の隣の部屋に用意する。

触れると消える結界を張って時間凍結しておいたから、順番に隣の部屋に運べば、出来立てを食べて貰える。

一遍に食べてしまわないように、テリーに見付からないでね。とハンスに言っておいたけど、最悪食料だけならまだあるのだから、長く待たせなければ大丈夫でしょ。

……今度は、そう長い時間、掛からないはずだから。


2


そうして子供たちの食事を用意した後、改めてカティスの街の荒ら屋へ。

「ふたりとも、ただいま。」

「ルージュー。ふたりはどうだった?元気にしてた?」

「えぇ、大丈夫。まだまだ元気一杯だったわよ。でもね、先に済ませなくちゃいけない用があるから、まだ助けられていないの。」

「そっかぁ。でも良かった。ルージュがもう大丈夫って言うんだから、もう大丈夫だもんね。」

「えぇ、もう大丈夫。野暮用を済ませたら、すぐにも助けてあげるから。」

出迎えのヨーコさんと話しながら、奥の比較的崩壊してない部屋へと赴く。

「お、お帰りなさい、ルージュさん。」

「ただいま、エリザ。」

挨拶しながら、私は用意してた食事をテーブルごと招喚した。

「子供たちに用意するついでに作って来たの。取り敢えず、食事にしましょ。」

テーブルの上には、ビフテキが2皿と妖精サイズの1皿。ワイングラスも2脚と、お猪口じゃ大き過ぎるから、ワイングラスにリダクション(縮小)の魔法を掛けてみた。

言うまでも無く、この手の魔法は有機体には抵抗されれば効果が出ない事もあるけど、無機体は抵抗しないから結構簡単な魔法なの。

まぁ、維持にもMPが必要だから、普通の魔導士はしないけどね(^^;

「わぁっ、これって確か、ビーフテッキ、だっけ?クリスが作ってくれた事あった。」

「えぇ、クリスティーナに教わった料理なの。」

正確には、ソースがクリスティーナのお母さんのレシピ。

和製英語だと思うから、アメリカ人はビフテキなんて言わないわよね。

クリスティーナは結婚して日本で暮らしてたから、わざわざビフテキって呼んでたけど、英語だとビーフステーキで良いのかしら(※作者注:フランス語のbifteck(ビフテック)が語源だそうです(諸説あり))。

でも、ソースだけはお母さんのレシピで作ってて、……ライアンと同郷だからきっと口に合うんじゃないかと思って教わっておいたの。

「……夫にとっては故郷の味になるから、彼も気に入ってたわ。」

「え?……あ……ごめんなさい。あ、いや、そうじゃ無くて……何か、ごめんなさい。」

私の格好から、変に気を回すエリザ。

「あら、やだ。気にしないで。私にとっても思い出の味。ただ、それだけだから。」

人は、忘れる事で生きて行ける。

生前、たくさんの猫たちと過ごして来たけど、亡くす事には決して慣れたりしない。

あの時こうしておけば、もう少し気に掛けていれば、もっと色々してあげられたんじゃないか、私と一緒で幸せだったろうか……詮無い事を、延々ぐるぐる考えて、シャワーを浴びてる時気付くと泣いてたりする事が良くあった。

でもね。1週間、1か月経てば、少しずつそんな事は無くなって行く。

どんなに悲しくても、お腹は減るし眠くなるし、毎日やらなくちゃいけない事もある。

そうして時間が経過して行くと、次第に記憶は薄れて行き、いつしか顔も鳴き声も思い出せなくなって行く。

それはそれで悲しい事だけど、そのお陰で生きて行ける。

人間はとても弱いから、都合良く出来てる。

……私は勇者で、魔導士で、今や神となって本当に良かった。

……ライアンの事だけは、絶対忘れない。

私はもう、脆弱な人間では無いの。こうして何百年経とうと、これから何千年経とうと、……ライアンだけは忘れない。絶対。

それにほら、……ライアンは今も、ヨモツヒラサカを目指して頑張ってる最中だから。

必ず、いつかまた逢える。

その時には、きっとクリスティーナも一緒ね。

もちろん、貴女の事も忘れないわよ。

「さぁ、冷める前に頂きましょう。この料理にはね、赤ワインが合うのよ。ちょっと良いワインを持って来たから、これならヨーコさんも、きっと悪酔いしないわよ。」

「やったぁ~、飲む飲む~。食べよ食べよ。」

ヨーコさんのお陰で和やかになったところで、ディナー……今何時かしら、が始まった。


「ふ~、何だかふわふわして、とっても気持ち良い~。」

ふわふわと宙を漂いながら、ほろ酔い気分を味わうヨーコさん。

そこで止めておくと、お酒は美味しくて気持ちが良いだけで済む……んだけど、世の吞兵衛たちには、そこで止めておける理性など無い(^^;

「良かった。このワインは、気に入って貰えたようね。エリザはどう?料理はお口に合ったかしら。」

「そっ、そりゃもう!こんな、こんな美味しい料理、生まれて初めてよ!ここに来てからの食事も美味しかったけど、このビーフテッキ?こっちの方が断然美味しい。ルージュさん、お料理まで得意だなんて、本当に凄いですね。」

「ありがと。……愛しい人に食べて貰いたくて、頑張ったから。最近は腕を振るう機会も無かったから、久しぶりにお料理するのも、楽しかったわ。」

またちょっとしんみりしちゃって、ちょびちょびワインで口を湿らすエリザ。

気にしなくても良いのに。ハンスたちやエリザに腕を振るって、本当に楽しかった。少しは気も晴れた。

やっぱり、誰かに食べて貰う為に、料理ってのはするものよね。

「ヨーコさん。惜しいけど、その酔い、醒ましちゃって良いかしら。そろそろお話聞きたいんだけど。」

どこで覚えたのか、空中でぴっと背筋を伸ばし敬礼をして。

「はいっ!判りました、隊ちょー。もう大丈夫であります!」

ふふ、可愛らしい兵隊さん。見てると微笑ましいんだけど、このままじゃ話が進まないもんね。

残念に思いながらも、私はヨーコさんの酔いを醒ました。

「まずは、そちらの話から聞かせて。」

「……うん、判った。んとね、最初は、きっとルージュがぱぱっと片付けてすぐ出て来ると思ってたんだけど、1日経っても出て来ないから、場所を移そうってあたしがエリザに言ったの。」

「はい。約束したから待っていようかと思ったんですが、ヨーコさんがあそこにいたら危ないからって。それで、気が付いたんです。他の人間が出て来るかも知れないんだ。だから、ルージュさんは馬を残して行ったんだ、って。」

そう。私は、歪みに入る前に、ミラをクリエイトし直しておいた。

エリザは馬の扱いに慣れてるみたいだったから、普通の馬のように振舞うよう命令してね。

ヨーコさんの言う通り、最初は私もぱぱっと片付くかと思ってたんだけど、結果的に捕まっちゃったからね。

そのままあの場所にいたら、酒場にいた3人・・の内の誰かが、望みを叶えて貰った後、あの歪みを通って出て来たかも知れない。

「良い判断だわ、ヨーコさん。」

「へへ。それでね、場所を移すと言っても、ルージュの事を待つ事に変わり無いから、どこか判りやすい場所が良いかと思って。あんまり近くじゃ危ないし、もし長くなったらエリザの食事も困るでしょ。だから、マリエンヌを頼る事にした訳。」

なるほど。それでカティスの街だった訳ね。

「まぁ、あたしは直接マリエンヌとは会った事無かったけど、ルージュの事話したらすぐ判ってくれて、ご飯を分けて貰えたわ。ここに隠れて、マリエンヌからご飯分けて貰って、エリザと一緒に待ってたの。」

「本当にご苦労様、ヨーコさん。エリザの事、ヨーコさんに頼んでおいて良かった。」

「えぇ、ヨーコさんのお陰で、今日までひもじい思いをしないで済みました。あたしが下手に動くと、周りの死霊たちが何をしでかすか判りませんから、本当に助かりました。」

「い、良いのよ~。それが、あたしの役目だったんだから。あたしは、やる時はやる女なのよ。」

得意満面で胸を張るヨーコさん。

でもすぐに、はっ、と何かに気付いて。

「でもでも、ルージュの方は何があったの?ひと月も掛かるなんて、ちょっと時間掛かり過ぎよ。」

「えぇ、大丈夫だったんですか、ルージュさん?」

「ごめんね、心配掛けちゃって。油断したつもりは無いんだけど……って、今回は油断してばかりだわ、私。神だからって、決して無敵じゃ無いのにね。」

「神……ですか?」

「あぁ、まぁ、それは良いんだけど、私はあの亜空間の中であいつ・・・と対峙した後、別の亜空間に閉じ込められちゃったのよ。」


早々に転移による脱出は諦めて、私はまず、この亜空間の把握を始めた。

空間感知では正確な情報が掴めないから、思い切って新型フライで亜空間内を飛び回り、果てを確認してみた。

すると、この亜空間が、思ったほど広大では無い事が判った。

歩いて移動すれば少しずつ空間が確定して行くけど、どこかでループして反対側から出て来てしまう。

だから、無限にこの空間が続くように感じられるんだけど、新型フライのスピードで飛び回ったら、空間の確定が間に合わないみたい。

ただの亜空間のまま私は飛び回り、程無くループもしない行き止まりに突き当たった。

この亜空間を亜空間そのものとして認識すると、直径10kmの広さも無い小さな亜空間だと判った。

多分、百目鬼がいた広い亜空間から繋がる、数多の小さな亜空間のひとつ、と言う事なのね。

そこへ私を放り込み、入り口の歪みを閉じた。

もしくは、元々一方通行だったのかも知れない。

ふむ……思えば、よ。この亜空間、創造神が三界を創造する時の余り物であって、わざわざ亜空間として切り離した訳じゃ無いのよね。

あぁ、この辺の事は、闇の神の知識として知ってる情報よ。

えっと、何が言いたいかと言うとね。創造神が三界に隔てた時のような壁は無いし、精霊女王が精霊界を分離する為に明確化した壁ほど強固な隔たりも無いはず、って事。

もちろん、三界には隔たりがあるんだから、ここから転移で物質界に戻れない事に変わりは無い。

でも、亜空間同士なら、移動を妨げる隔たりは創造されてない、って事。

現時点では、百目鬼が利用した空間の歪みも無いし、歪みを利用しない移動方法なんて知らない。け・ど。

私は、開き直った。

この狭い亜空間には、私しかいない。

百目鬼はもちろん、精霊たちすら存在しない。

それなら、抑える必要なんて無いのよ。

力を、神の気を、周りを気遣って抑えておく必要なんて、今この瞬間には存在しないのよ!

全力解放っ!全開じゃないわよ。全力よ!出入り口が無いなら創れば良い!壊してでも、創れば良いのよっ!

原初の世界たる亜空間内にも音は存在するから、何がどうしてそんな事になってるのか判らないけど、轟々と私の周りで轟音が鳴り響いてる。

世界が、亜空間そのものが、悲鳴を上げてる。

途轍も無い力の奔流が渦を巻き、亜空間の壁がひび割れて行く。

……私は勘違いしてた。百目鬼が同格だって。

……私の見立ては良い線行ってた。今の私は、多分アヴァドラスと同格で、やっぱり闇孔雀には届きそうも無い。

きっとアヴァドラスとは千日手状態になって決着が付かないし、闇孔雀が相手なら数千年粘る事は出来ても結局負けそう。

ふふ。私の今の考えが、どれほど馬鹿げた考えか判る?

あの!闇の巨人と互角、闇孔雀と数千年なら戦える。そんな確信を得るなんて、本当どうかしてる。

ちなみに、私の闇の神は悪魔にならず、真なる魔界にも堕ちなかった訳だから、闇孔雀の正体は知らない。

……ま、まず間違い無いと思うけどね。闇孔雀が真なる魔界の真なる………だと言う事は。

話が逸れたわ。

闇の巨人と互角、それほどの神格を持つ今の私から見れば、何よ。百目鬼の奴、全然格下じゃない。

全力のまま見やれば、百目鬼が閉じた歪みの痕跡が見えた。

亜空間内の脆い部分、それらに干渉して自由に開く方法が手に取るように判る。

……、……、……あそこだ。

あのひび割れをこじ開ければ、比較的ダートルード渓谷に近い場所に出られそう。

私はそのひび割れに両手を捻じ込み、力任せに押し開く。

ん?……あぁ、いきなり目の前が水の壁だから何かと思ったら、ここって途中にあった滝の裏側ね。

良し、ここから出れば物質界に戻れそうね。

私は再び、力を抑え神の気を隠す。

そのまま物質界に戻ったら、アヴァドラスが降臨するのと変わらない現象を起こしちゃう。

まぁ、私は瘴気なんて漏らさないけど(^^;

これからも、出来る限り力は抑えておかないと、私がアーデルヴァイトを滅ぼしかねないわね。

……神や悪魔が去った今の世界には、神も悪魔ももう要らない。

そう、悪魔はもう要らない。

百目鬼、あんたももう要らないのよ。


3


「……と言う訳で、何とか脱出したは良いんだけど、こっちではひと月も経ってたみたい。」

「う~ん……。」「……。」

どこがどう理解出来無かったのか判らないけど、ふたりとも難しい顔してる(^^;

「とにかく、ルージュはそいつに閉じ込められちゃったけど、実はルージュの方がうんと強くて、何とか脱出出来たって事ね。」

「そう。出て来てすぐヨーコさんたちを探したけど近くにはいなくて、気配を探って転移してみたらカティスの街だった。だから、ひと月も経過してたとは思わなかったの。」

「そっか~。精霊界の中にも、そう言う所あるしね。いきなり時間飛んじゃう事って、良くあるよね。」

おぉう、精霊界では良くあるのか。

それじゃあ、いつかその日が来た時には、私も気を付けないと……その時はもうこっちには戻って来ないから、必要無いか。

「……エリザには良く判らない話だった?」

「あ、いえ、その……はい。とにかく、レベルと言うか規模と言うか、これまでの人生とは違い過ぎちゃって。頭よりも、心が付いて行けない、って言うか……。」

「……そうね。仕方無いわよ。取り敢えず、もう少しここで待機してて貰うから、色々とヨーコさんに聞くと良いわ。」

「待機、ですか?」

「えぇ。貴女の力も、他にふたり子供たちがいるんだけど、そのハンスとテリーの力も、後で封印……いいえ、破壊してしまうつもり。でもその前に、けじめを付けて来なくちゃ。」

「けじめ……と言う事は。」

あいつ・・・を倒して来るわ。もう二度と、こんな事が起きないようにね。」


さすがに馬でゆっくり、と言う訳にも行かないので、先の移送車転落現場上空まで一気に転移する。

どうやら、亜空間への歪みは閉じられてしまったようね。

その代わり……見知った顔が待ってた。

私は、神の新型フライで道まで降りて行くと、10mほどの距離を置いて彼と対峙する。

「……結局、貴方が最後のひとりになったのね、シーリア。そして、望みを叶えて貰った。大分、見違えたわね。」

そう、目の前にいる男はシーリア。

でも、そこにはもう、ひ弱な人間族の男はいない。

全力を発揮した今でも鑑定はLv.1相当をキープしてるから、相変わらず正確なLv.や能力値なんて判らないけど、体付きからしてまず違う。

奴隷として生きて、特別体を鍛える暇など無かった以前の彼は、中肉中背の戦士とは思えぬ見た目だった。

でも今は、筋骨隆々で生気に満ちており、立派なプレートメイルまで身に付けてる。

その腰の物は、私の剣・・・だけどね。

気配で感じる強さは、壁に到達した者のそれ。

中身まで伴ってるとは思わないけど、側だけは地上最強の人間族にして貰った、と言う事かしら。

当然、今の彼は全能感に支配され、誰にも負けない。そう確信してるでしょ。

あながち間違いでも無い。

裏アーデルヴァイトの神族、魔族たちの中にも、壁に到達した者は少ないし、それを超えて真の超越者となった者は数えるほど。

ガイドリッドやヴェルと戦う機会なんて無いだろうから、彼はこの周辺においては最強だと思うわ。

……戦う相手さえ間違えなければ、いつかは本当の強さも身に付いたでしょうに。

「何故、貴方がここに?……望みを叶えて貰ったなら、どこぞへ去れば、私に見付からずに済んだかも知れないのに。」

「……気に入らねぇな。最初に遭った時から、お前は俺様を見下してた。確かにあの時の俺は、まだ不意打ちで敵を斬り捨てなきゃ返り討ちに遭うほどひ弱だったかも知れねぇ。それでも、あの時勝ったのは俺だ!そして、今の俺様は最強だ。それなのに、お前は相変わらず俺様を見下しやがる。気に喰わねぇんだよ!」

「だから待ってたの?私を斬る為に。でも、良く判ったわね。私が生きてるって。……あぁ、そうか。あいつ・・・、見えるんだっけ。」

気にして無かったから気付かなかったけど、まだハンスやテリー、エリザたちは百目鬼に与えられた力を宿してるから、あのたくさんの目で監視出来るのよね。

だから、ハンスたちを監視する視界の中に私が姿を現したら、生存は簡単にバレちゃう訳だ。

まぁ、別に隠す気も無かったけど。

「それで、あいつ・・・に命令されて、ここで待ち伏せてたの?律儀ね。」

私の剣・・・を抜き放ちながら。

「違うな。あいつ・・・からお前の生存を聞かされたから、勝手にここで待ってたのさ。」

シーリアの鬼気が膨れ上がる。

「今度こそ、その命を斬り裂いてやる為になっ!」

シーリアは突進せず、その場で剣を横薙いだ。

その振りは、以前の素人丸出しの剣筋では無く、壁に到達した戦士のそれであった。

そして、以前と同じように刃に亜空間が重なり、10mほど離れているのに私のドレスを斬り裂く。

ふむ。どうやら、ただ亜空間を利用するだけで無く、入り口と出口を使い分ける事で、彼は剣による遠距離攻撃すら可能になったみたいね。

剣士はどうしても間合いで他に劣るけど、これなら間合いなんて関係無く戦える。

「くそっ!何故、初見でそれが躱せる!」

そう、シーリアが斬り裂いたのはドレスだけ。

私は、亜空間越しの斬撃を、紙一重で躱してのけた。

理屈は簡単よ。今の私には、亜空間が視えるだけ。

シーリアの生み出した亜空間の出口が視えるから、剣筋が見えるに等しい。

もっと言うなら、亜空間の中も視える。だから……。

「この化け物めっ!」

続けて放たれた逆袈裟を、私は手元に招喚した別のロングソードを使い、亜空間内で弾き返した。

「ぐぁっ!」と声を上げ、打ち込みを弾き返される衝撃を、初めて味わうシーリア。

「な……何だ?!今、一体何が……。」

所詮、スキルで剣技を身に付けただけで、全く実戦が足りてない。

剣を打ち合わせて何合も斬り結ぶ、なんて攻防は、全く理解出来てない。

「……お、俺は……俺様はっ!最強の剣士になったんだっ!」

シーリアは、破れかぶれに斬撃を放ち続けるも、私はその全てを打ち返しながら歩を進める。

亜空間によって、頭の後ろから、股下から、いきなり喉元へ、脇の下、背中、脛、腿と、あらゆる場所にあらゆる角度から斬撃が繰り出されても、亜空間内で迎え撃つから少しも功を奏さない。

……それを逆手に取ってこちらから斬り付ける事すら可能だけど、私は打ち返すだけに止め歩みを進める。

ふたりの距離は5mを切り、4m……3m……2m……1m……。

「何故だっ!何故俺は、ルージュ!お前に勝てねぇんだ!」

すれ違い様、私は亜空間など使わずに、片手袈裟でシーリアを斬り捨てた。

「……貴方より私の方が強い。それだけの話よ。……分不相応な力に酔い痴れなければ、貴方だって昔よりも幸せな人生送れたのに……馬鹿な男。」

私は、シーリアの死体から鞘を取り返し、剣を拾い上げて収める。

習作とは言え、大切なエッデルコの遺品だからね。

確かに、返して貰ったわよ。


シーリアの死体は、その場で仰向けに反してやり、目を閉ざして腕を組ませ、それなりの形にしてやった。

あくまで、これはシーリアの容れ物に過ぎず、もうシーリアじゃ無い。

せめてもの慰めに、鎮魂も掛けてやった。

だから、シーリア自身は、ちゃんとアストラル界へと旅立った後だ。

鎮魂を掛けたから、死霊の類いに取り憑かれる事も無いでしょ。

この体は、やがてここで朽ち果てる。

さて……次は百目鬼、貴方の番よ。

私は、崖下を覗き込む。

そこにはもう歪みは無いけれど、今の私には視える。その痕跡が。

だから、こじ開ける事も出来る。もう逃げられないのよ。

私は、神の新型フライで降りて行くと、歪みの痕跡にそっと手で触れる。

さあ、決着を付けましょうか。


4


私は、無理矢理こじ開けた歪みを通り、百目鬼の世界に踏み入った。

この亜空間の中には、今は百目鬼と私しかいない。誰を気遣う事も無い。

後ろ手に歪みを閉じると、私は抑えていたものを解放し、全開状態となる。

そう、あくまで全開。これで充分。問題になるのは力の多寡じゃ無い。神、悪魔としての神格。

神の気を隠さず全開でさらけ出すだけで、私は百目鬼を凌ぐ神格を発揮出来る。

最早、この世界は百目鬼の世界では無く、私の世界。

この状態なら、亜空間内の時間さえ意のままに出来る。

今度外へ出た時には、多分1分も経過していないでしょ。


広大な空間は、私の神の気によって渦巻く瘴気が吹き散らされ、その様相を変えていた。

もう闇の濃淡が描き出す深海世界では無く、どこまでもただ白が続く世界。

これは別に、私が光の神だから、神聖な存在だから、と言う訳じゃ無い。

その証拠に、私には未だ地球の神の加護が備わったままで、中位の神聖魔法までしか使えない。

光の神として神聖魔法の力の根源そのものとなったなら、さすがに高位の神聖魔法だって使えるでしょ。

私はあくまで、第三の神と言うイレギュラーな新種。

この白は、何色でも無いと言うだけの白。だと思う。

そんな白い空間の中心に、未だ闇色が渦巻く場所がある。

そここそが、いいえ、それこそが、この世界の旧支配者、百目鬼。

私は急がず、ただ滑るように宙を行き、その闇色の渦の前に着地した。

「……ただいま。今帰ったわよ。」

闇色の瘴気をまとい、その体をぶるぶると震わせる百目鬼だが、念話による応えは無い。

どうやら、意思を伝える為の震えとは、別の震えのようね。

「どうしたの?私があの場所から生還を果たした事は、とっくに気付いてたんでしょ。シーリアは自分の意志で待ち構えてたけど、わざわざ伝えたのは私を阻止させるつもりで、よね。」

「……あり得ない……あり得ないのだよ。亜空間を操る力など、私にもありはしない。あの場所から自力で脱出するなど、不可能なのだ。」

「あら、それじゃあ貴方は、どうやってここへ辿り着き、亜空間を操る技を人間たちに与えたの?」

「……偶然に過ぎぬ。私たちへの追手は少なかった。裏側を逃げ惑うのに、時間的余裕はあった。偶然この場所を見付けた。私は創世の神のひと柱でもあった。歪み、綻びだからこそ、転がり込む事も出来た。決して、自由に出入り出来た訳では無い。」

そうだろうとは思ってた。自由が利くなら、すでにドラゴンも精霊もないアーデルヴァイトへ顕現せず、この空間に留まり続ける必要など無いはずだから。

「……私に亜空間を操る力など無い。だが、ここに留まる事で、この空間から繋がる亜空間へ干渉する事だけは出来た。歪みがはっきりしていれば、そこを通す事は出来た。人間どもには、私が出来る事の一端を、権能として与えたまで。」

本格的に亜空間を自在に操れる訳では無く、何とか一方通行で干渉出来るその力で、シーリアは剣を、杭男は杭を、一方通行で通す事が出来た。

オヴェルニウス呪法相当の呪法は悪魔である百目鬼自身が持つ力の一端であり、それは人間族の魂の支配や、強力なチャームのような邪眼、死霊の支配なども同様と言う訳ね。

「そして貴方は、元々が闇の神だっただけに、彼らに試練を与えるべく権能を授けて野に放ち、相争う為の餌として望みを叶えると言葉を残した。」

「……あの時の私と同じように、人間どもは偶然歪みへ導かれ、私と邂逅した。そのままただ殺しても意味は無いが、解放しても意味は無い。……だが、さすがに数千年、ひとりでいて私も寂しかったのだろうか。つい、あの人間たちに構ってしまった。例え戻らずとも、権能で繋がっていれば外を眺める事も出来る。ほんの暇潰しよ。」

……数千年。この空間内では、正確な刻の流れも掴めない。

こんな何も無い空間にひとり切り。人間の精神では、正気を保てないかも知れない。

……同情出来無い訳じゃ無い。

でも、貴方をこのままにはしておけない。

そんな事を考えていると、百目鬼の体がぶるぶるとさらに震え始めた。

「あり得ない。あり得ないのだ。お前が亜空間を操れる事じゃ無い。それもあり得ないが、それすらどうでも良いのだ。お前だ。お前は何だ、人間!……人間?!そんなはずが無かろう。これは……この気は……神?……悪魔?……まさかドラゴンなのか。精霊女王の再来か!?見えぬ。……今のお前が何者なのか見えぬ。目を司る悪魔の私が、お前が見えぬ。」

百目鬼の数多の目から、一斉に様々な属性の光術が発射される。

私への恐怖からか、抑え切れずに誤射してしまったようで、それは盲滅法めくらめっぽうに撃ち出されたけど、その内の何条かは私の事を貫こうとした。

その光術の威力だけなら、私のツイン・レイにも匹敵するほどだけど、結界を張るまでも無く、私に届かず霧消する。

今の私は、神の気も全開にしてる。

それだけで済むのよ。格が違い過ぎるから。

百目鬼の神格では、私に傷を付ける事さえ適わない。

それでも、百目鬼を殺そうとすれば、それなりに時間は掛かりそう。

神、悪魔を殺す、って、本当に大変な事なのね。

「あぁああぁあぁあぁぁ、うぉあぁああぁぁあぁあ、お前は何なのだ、一体何者なのだぁぁぁ……。」

理性を保てなくなり、光術を放ちまくる百目鬼。

やれやれ、無駄な事を。

私は世界、この空間を支配して、魔法の働きを止める。

その一瞬で、百目鬼の光術数百条が一斉に消え去り、新たな光術も発動しない。

「……な、何が起こったのだ……。」

「少しは落ち着いた?今この世界は、貴方の支配下では無く私の支配下にある。と言うか、話を聞く限り、貴方の支配下にはなっていなかったみたいだけど。この広大で狭い範囲なら、時間も魔法も私の意のまま。……創造神は世界さえ創り変えたのよ。私程度でも、この亜空間程度なら自由に出来る。」

「……、……、……本当に……お前は一体……。」

「……神が堕天して悪魔になるのに似て、私は人間から昇神して神になったのよ。光の神でも闇の神でも無い、言ってみれば第三の神……。」

第三のビールから第三の神なんて言ってはみたものの、そう言えば、最初に力の象徴ドラゴンが神から分かたれたのだから、むしろ四番目?

それなら、4クワトロなんてどうかしら。キャスバルみたいに。

「訂正するわ。ドラゴン、光の神、闇の神に続く第四の神。これから、神としてはクワトロ・ルージュって名乗る事にするわ。」

「クワトロ……第四の神?」

「貴方のような存在を、アーデルヴァイトに放置しておく事は出来無い。百目鬼……貴方の本当の名前は知らないけど、百目鬼と今の私では神格が違うとは言え、殺そうと思ったら一体どれほどの時間が掛かるか知れないわ。残念だけど、ゆっくりしてる暇は無いのよ。そこで……。」

私は、自らの左掌に歪みを生み出し、右の貫手でその歪みを突き破る。

その突き破った左掌を百目鬼に向けて突き出し「風穴っ!」と叫ぶ。

そこには別の亜空間への入り口が開いており、轟っ、と言う風切り音と共に、百目鬼の体を吸い込み始めた。

「な、何だ、これはっ!まさか……まさか別の亜空間に……!?」

「ここから外に出れずに困ってたんでしょ!だから、連れ出してあげるわよ!」

私が開けた風穴に、少しずつ少しずつ呑み込まれて行く百目鬼。

その先は、どことも知れぬ亜空間……では無く、事前に中継地点として選んでおいた亜空間。

と言うか、私が一度閉じ込められた亜空間よ。

歪みが同じダートルード渓谷にあるだけあって、絶対座標としてふたつの亜空間はすぐ近くに存在するから、使いやすかったのよ。

……百目鬼には同情もする。だからこそ、このさらに狭い亜空間に押し込めてお終い、とはしない。

一応、万が一、百目鬼が永い年月を掛け歪みをこじ開ける事が出来るようになったら、いつかこちら側へ戻って来るかも知れないしね。

だから、きっちり送り届ける。本来在るべき場所へ。

「ぐぅおぉぉぅぉおおぉぉ………嫌だ……嫌だぁ。もう閉じ込められるのは嫌だぁ!」

抵抗を試みる百目鬼だけど、格で、力で、圧倒的に劣る以上、決して逃れる事は出来無い。

私は百目鬼を吸い込みながら、最後の仕上げを始める。

三界の壁を超える事は、私にも難しい。

だけど、亜空間を間に挟めば、歪みとして繋がりを見付けられる場所へは行ける。

何かしら手掛かりがあれば、きっと見付けられるはず。

……ライアンの気配は掴めなかった。

一緒にいるはずのクリスティーナも見付からない。

そうそう都合良くは行かない。

でも、私にはひとつだけ、当てがあった。

毎日のようにその場へ赴く事が判ってて、嫌と言うほどその気配、瘴気に覚えがある存在。

……、……、……見付けたっ!

悪いわね!今から厄介な荷物を送り付けるわよ、アヴァドラス!

私は掌の先の亜空間から、ヨモツヒラサカの向こう側にいるアヴァドラスを頼りに、無理矢理歪みを創り出してそれをこじ開けた。

そして、百目鬼の体を、そのまま真なる魔界へと送り込む。

掌の亜空間も私の支配下だから、百目鬼は私の強制力に逆らえない。

「うぅうぉぉぉおおお……何だ!?どうなっている。そこは……そこは一体……!?」

「感謝しなさい。お仲間の許へ送ってあげるんだからね。そこなら寂しくないでしょ。神格はともかく、最古の悪魔のひと柱として、きっと歓迎されるわよ。」

すると、一瞬百目鬼の体がその場に留まり、真なる魔界へと吸い込まれるのが遅くなる。

「ん!?」「ふざけるなっ!」

掌の奥底から、圧倒的な瘴気に乗って怒声が響き渡る。

「またお前か、ルージュ!確かに退屈させない奴だ!だがな、何の説明も無しに、いきなり何を送り付けやがった!そもそも、どうやってこんな真似してやがるっ!」

はは、声と瘴気だけで、アヴァドラスが怒ってるのが判る。

「ごめんなさい、他に方法が無かったのよ。そいつは悪魔。ドラゴンと精霊の目を逃れて、物質界に留まってた悪魔よ。詳しい話は直接聞いて。充分面白いお土産でしょ。」

「……、……、……面白い!それは良い。だがどうなってる。よもや、ヨモツヒラサカが口を開けた訳でもあるまい!」

あら、意外。簡単に受け入れたわね(^^;

「企業秘密。なんて事は無いけど、それもそいつから聞いて頂戴。永々と戦って倒してる暇が無くて、そっちに送り届けたんだから、私はさっさと戻らなきゃならないの。」

「馬鹿を言え。これだけの異常事態を引き起こしておいて、お前はさっさと戻るだと!?そう言うつもりなら、こいつを押し戻してやっても良いんだぞ。おら!」

アヴァドラスの掛け声が掛かると、再びぐっと百目鬼が魔界へ吸い込まれるスピードが落ちて、私とアヴァドラスの押し付け合いが始まる。

「ぬぅぅ、どうした事だ。戻り切らん。おい、ルージュ!お前、まだ何か隠してるな!」

「何も隠してなんかいないわよ、この馬鹿力!本当に、私と貴方の神格は互角みたいね。自分の目利きに感心するわ!」

「な、何だと!?……お、お前、それが今の本当の力、なのか……。面白く無い。面白く無いぞ、人間!いくら異世界人とは言え、この私と同格の神になるなど、さすがにそれは面白く無い!」

轟っ、と掌の奥底から瘴気が吹き荒れ、ほんの少しだけど百目鬼の体が押し戻される。

「ちょっとぉ、何むきになってるのよ!?私と貴方の仲じゃない。塵屑ごみくずひとつくらい、引き取ってよ。」

「ご、塵屑……。」あ……百目鬼が凹む気配がした(^^;

「ふざけるな!そんな塵屑引き取ったら、私があいつに五月蠅く言われるだろうが!」

再び百目鬼が凹む気配(^Д^;

まぁ、仕方無いわよね。押し付け合ってる今の私とアヴァドラスの力の奔流は、百目鬼がいくら背伸びしても届かない高みの世界。

塵屑呼ばわりされても、まるで反論出来無い景色が目の前で繰り広げられてる。

「あいつって……あぁ、あいつね。私も全力振り絞ってみて心底理解したけど、とても敵わないわね。……やっぱり貴方も怖い訳?あ・い・つ。」

瘴気にさらに鬼気が混じり合い。

「ふざけるなっ!確かにあいつの方が上かも知れんが、誰が恐れるものか!私を誰と心得る!この大地を生みし光の巨人、アヴァドラスなるぞ!図に乗るなよ、人間!お前など、まだまだ人間に毛の生えた駆け出しだろうが、ユウ!」

「その名を呼ぶな……。」

私の呟きで世界が凍った。

一瞬で百目鬼の体は魔界へと吸い込まれ、魔界への歪みは消え、静寂の中掌の風穴だけが静かに轟々と唸り続ける。

私は目を落とし、その五月蠅い左手を睥睨した後顔の高さまで上げると、右の手刀で左手首を切り落とす。

地面に落ちた左手は、その掌の風穴に吸い込まれて消えた。

顔の前にある左手首から鮮血が迸るけど、瞬きの一瞬で元に戻る。

神にとって、この程度は怪我にも入らない。

……、……、……。

さ、これで終わったわね。

ふん、あれはアヴァドラスがいけないのよ。

私の名前は……ライアンしか呼んじゃいけないんだから。

……取り敢えず、明日ヨモツヒラサカに顔を出したら、お礼くらいは言っとこうかな。


5


元百目鬼の亜空間から出ると、その歪みを消した後、エリザたちの待つ荒ら屋上空へと転移した。

「……オルヴァドル、こっちは片が付いたから、しばらくしたらそちらに向かうわ。よろしくね。」

私は魂の回廊を通した念話で、オルヴァドルへと語り掛ける。

「あ、良かった。無事だったんだね、ママ。わかった。用意しておくね。」

百目鬼より神格が高いとは言え、私の浄化能力は低い。

悪魔の力を破壊するには、神の、神聖なる力が最適。

権能の術式を解析し中身を弄るのは簡単だけど、ここと言うポイントを壊すのにオルヴァドルの力を借りる。

先程までその実態が権能である事は知らなかったけど、悪魔との繋がりを断ち切ると言う意味では同じ事。

予定通り、私が示した場所を、オルヴァドルに浄化して貰う。

だけど、力の一端を分け与えた訳では無かったから、もし百目鬼を倒していたら、彼らの力は消えてしまった訳ね。

百目鬼への同情と、悪魔を殺す物理的な時間経過を嫌っての事だけど、結果的には真なる魔界への追放で良かったみたい。

これでマリエンヌは力を失わずに済むし、百目鬼もマリエンヌが生きてる間は、こちら側を覗き見る事が出来るでしょ。

アギラがしてたけど、魔界から物質界を覗き見るのは、一種の娯楽のようなものみたいだし。

慣れない魔界暮らしの、多少の慰めにはなるでしょ。


荒ら屋の扉を開けて、「ただいま。」と奥へと入って行く。

すると、「え?!」とヨーコさんとエリザが驚いてる。

「あら、どうかした?」

「えっと、忘れ物……じゃ無いよね。もしかして、もう終わったの?」

「えぇ、終わったわ。無事、あいつ・・・との決着は付けて来たわ。」

顔を見合わせるヨーコさんとエリザ。

「早~い。まだ出てってから30分経ってないわよ。一体どうやったの?」

あら、そんなに早かったんだ。

転移で移動して、時間が掛かったのは精々シーリアの相手くらい。

亜空間内の時間経過は物質界では一瞬になるよう調整したから、まだ30分も経ってないのね。

「ほら、精霊界の中にも、時間経過が違う場所がある、って言ってたでしょ。それと同じで、あいつ・・・と戦った亜空間の時間経過も、こっちとは違ったのよ。前回とは違って、今回はこっちでは一瞬で済んだようね。」

「そっか。それじゃあ、実際には滅茶苦茶戦って、やっつけたのね。」

「ふふ、まぁ、やっつけたと言うか、懲らしめたと言うか。でも大丈夫。もう心配は要らない。あいつ・・・がこの世界に干渉して来る事は、二度と無いでしょ。」

……私なら、多分ヨモツヒラサカの向こう側とこちら側を、行ったり来たり出来ると思う。

でもまだそこに……ライアンはいないし、私は闇の神の仕事を見届ける使命も残ってる。

だから行けても行く気は無いけど、百目鬼には絶対無理。

あの闇孔雀でさえ、自由に三界を行き来したりは出来無いんだから……しないだけかも知れないけど。

「と言う事で、後は貴女たちの力を壊して、あいつ・・・の代わりに私が貴女の望みを叶える番なんだけど……。」

「あ……まだ何かあるんですか?」

「えぇ、いえ、心配しないで。ほら、貴女以外にも私たちには助けたい子供たちがいるでしょ。貴女の望みを叶える時には私たちも付いて行くけど、その前にその子供たちを何とかしたいのよ。」

「あぁ、そう言う事ですか。えぇ、構いません。……確かに、いつまたレジスタンスの仲間が襲われるか判りませんが、それはつまり、まだ何も無いかも知れないと言う事です。助けて頂く、それだけでありがたいお話ですから。」

そうか。私は、子供たちとは違いエリザの方に緊急性は無いと簡単に考えてたけど、彼女の仲間は今も窮地に陥ってるかも知れないんだ。

「そうね。それじゃあ、少し急いだ方が良いわね。ヨーコさん。」

「ん?なぁ~に?」

「ヨーコさんも、ハンスたちの事は気になるでしょ。一緒に付いて来て。」

「ん、うん。でもぉ~、エリザをひとりにして大丈夫?」

「あ、あたしなら大丈夫ですよ。ここで大人しく待ってますから。」

「そうも行かないわ。貴女には、まだ死霊たちが憑いてる。貴女はひとりじゃ無いからこそ、放置はしたく無い。」

「それじゃあ、どうするの?」

「場所を移すわ。エリザには、先にある場所へ移動して貰う。ただ……。」

「ただ?」

「……エリザ、貴女の暮らすこの大地が、何と言う名前か知ってる?」

「え?……え~と、この国の名前がバーデンホルト帝国。え~、アーデルヴァイト大陸の中央付近にある。だったかしら。」

「あら。ちゃんと色々知ってるのね。」

「はい。レジスタンスの中に、そう言う事にも詳しい人が何人かいて、知識は武器になるからって、色々勉強させてくれるんです。」

なるほど。奴隷扱いとは言え、確か帝国では本来、人間族は奴隷じゃ無くて最下層民。

学校なんて通わせて貰えないだろうけど、本当の奴隷よりかは自由も利く。

中には、色々自発的に勉強するような人間もいるのね。

「それなら、少しは理解して貰いやすいかな。私が普通の人間じゃ無い事は承知してると思うけど、実はとても遠いところにある人間族の国から来たの。」

「人間族の……国……。本当にそんなものが……。」

「無い。少なくとも、こちら側のアーデルヴァイトには。」

「え?無い?こちら側?」

「実はね……、そう言えば、海って判る?」

「え?!えぇと……この大陸の東と西にある、川よりも湖よりも大きな水溜まり……ですよね。」

「まぁ、そうね。その海がある所為で、そこから先へは進めないんだけど……実はその先には、もうひとつアーデルヴァイトそっくりな大陸があるの。」

「えぇと……。」

「まぁ、難しいかな。とにかく、普通じゃ行けないほど遠い場所にも、こちらと同じような世界があって、私たちはそこからやって来た。だから、人間とは言ってもこちら側の人間とは違うし、ヨーコさんみたいな妖精もたくさんいるの。」

「そうよぉ。こっちと違って空気が美味しいから、あたしの仲間もたくさん飛んでる。」

「……良く理解は出来無いけど、ルージュさんが特別だったり、ほとんど見掛けない妖精のヨーコさんが目の前にいるのは、貴女たちが遠いところから来た違う世界の人たちだから、と言う事ですね。」

「えぇ、その理解で充分よ。本題はこの後。」

「本題、ですか?」

「そう。人間族が全然違う、と言う事は、他の種族も全然違う、って事。……貴女には、これから神族に逢って貰う。」

さっ、と顔色が変わるエリザ。

そう。エリザたちこの国の人間、そしてレジスタンスたちは、神族に支配されてる。

何より、荒野に逃げて反抗するくらいだもの。神族に辛い目に遭わされてる。

だから、何の説明も無しに、いきなりオルヴァドルに逢わせる訳には行かなかった。

「大丈夫よ、エリザ。私たちの世界の神族はね、神の末裔として正しき心を持った神聖な存在。この国の粗暴な神族とは違うから。」

「は、はい……。」

頭では理解してると思うけど、心では中々受け止められない。

エリザたちにとって、神族は絶対的な支配者だったんだから。

「当然、まずは私たちが一緒に付いて行くから、心配しないで。大丈夫よ。私が必ず、貴女を助けてあげるからね。」


神の転移により、私たち3人は一瞬でオルヴァドルの宮殿へと辿り着く。

その瞬間、聖域の清浄なる神気によって、ジェフリーたちエリザの能力で縛り付けられていた死霊たちが、一斉に成仏した。

魂が解ける黄金色の粒子が広がって、それはエリザの目にも映った。

「わぁ……綺麗……。」

「……今、ジェフリーたちが成仏したわよ。」

「え!?」

「これは、魂が解けてアストラル界へと旅立つ時に見える光景。ここは世界一清浄な場所と言っても過言では無いから、訪れただけで死霊たちの魂が解放されたの。ここにいれば、貴女の力が新たな犠牲者を生む事も無いわ。」

とは言え、今は憑いてた死霊を祓ったに過ぎない。

ここには、新たに支配する死霊もいないけど、能力自体はそのまま残ってる。

だから、彼の力を借りて、百目鬼の権能を完全に破壊しなくては。

「ママ、用意はできてるよ。」

その黄金色の靄の先から、ひとりの神々しい姿をした神族が現れる。

最初少し怯えたエリザだったけど、その姿を認めると、恍惚とした表情を浮かべ安堵の様子を見せた。

……そう言えば、神々しいだけじゃ無くて、トータルで見てかなりのイケメンでもあるわよね、オルヴァドルって。

主神として下々の崇敬を集めるだけの、力と容姿を兼ね備えてる。

……もちろん、子供っぽさは玉に瑕だけどね(^^;

「私はそれなりに自分は強いと自負してる……けど、やっぱり得意不得意ってあるのよ。理由はあるんだけど、神聖魔法が苦手でね。私の力では浄化し切れない事が少なくないの。」

私はエリザの手を取って、落ち着かせるように優しく語り掛ける。

「だから、この世で一番神聖な存在である、神族を束ねる主神、オルヴァドルの力を借りて、貴女に宿った悪魔の力を打ち破る。」

「よろしくね、おねえちゃん。」

私のすぐ背後までやって来たオルヴァドルが、優しい笑顔を浮かべて挨拶する。

「よ……よろしくお願いします。」

うん、心配し過ぎたみたい。

一応、理屈でこれから逢う神族は今まで見て来た神族とは違うと解ってるし、聖域の清浄なる空気が心を落ち着けてる上に、主神オルヴァドルの神気に心酔したみたい。

思えば、オルヴァドルは神々の慟哭の折りも、教国の人間たちと直接逢ってるのよね。

精一杯主神ぶっても、端々に子供っぽさは醸し出されちゃうと思う。

それでも、主神に対する信仰心が薄れたなんて話は聞かない。

その言動に多少子供じみたところがあろうと、やっぱりオルヴァドルは立派な主神様で、その神々しい姿や神気は、悪い言い方をすれば抵抗力の低い人間族を魅了する力があるんでしょう。

もしかしたら、主神のみに受け継がれるスキルの中に、神として崇めさせる類いのスキルがあるのかも知れない。

「問題無さそうだから、早速始めましょう。まだ子供たちも待ってるから。良いわね、エリザ。」

「……は、はい。よろしくお願いします。」

私はオルヴァドルを見上げ頷き合うと、魔力感知のスキルを応用した能力で、エリザの中の魔法術式を読み解いて行く。

この場合、魔法を特定する事は簡単。

レジスタンスとは言え、裏アーデルヴァイトの人間族であるエリザは、自ら魔法を使う事は出来無いし、魔法の武具や装備も持たない、刻印などによる永続的な魔力付与などもされていないので、エリザの中に存在する魔法はたったひとつだけ。

それを紐解き、悪魔……百目鬼と繋がる部分を割り出す。

直接力を与えるのでは無く、権能であると言う事も幸いした。

もし私にオルヴァドルと言う伝手が無くても、少し時間を掛ければ何とか出来たんじゃないかな。

ただ、悪魔に抗する特別な力を持つオルヴァドルの力を借りれば……。

「!……ここよ!見付けた。判る?オルヴァドル。微かだけど、瘴気を感じる。」

「……まかせて。僕は、ううん、主神は、特に悪魔にたいして色んな力を受けついでるんだ。これなら、浄化じゃなくて、悪魔用最高魔法が応用できるよ。……よし、これで!」

四方八方から鎖の束が現れて、しかし誰にもどこにも引っ掛からずに消えて行った。

しかし、私が指し示した箇所の術式は消滅しており、一瞬の間をおいて、エリザの中から全ての魔力が消え去った。

「……凄いわね、オルヴァドル。百目鬼だって決して弱い悪魔じゃ無いのに、その力の繋がりを一瞬で破壊するなんて。」

「えっと、ギルティチェインズって言うんだ。本当は、悪魔を直接しばりつけ、鎖でしめ殺しちゃう悪魔用最強魔法なんだけど、それを悪魔の瘴気めがけて叩きつけてみたんだ。」

「ふ~ん、やっぱり凄いわ、オルヴァドル。魔法の工夫なんて、最弱種族の人間だからこそ、みたいなところもあるのに、主神でありながらさらなる高みを目指せる。やっぱり立派ね。」

「は、はずかしいよ、ママ。だって、僕より強い人、いっぱいいるから。ママもそうだけど、魔王さんも、顔の大きい悪魔さんも、みんなみんな強いから。」

……ん?魔王?オルヴァドルはディートハルトに会った事無いはずだけど……アスタレイの強さを参考に、魔王の強さを推し測ったのかしら。

実際には、オルヴァドルの方が強いし、多分大魔王ことミザリィよりも強いと思うけどね。

「さぁ、これでもう大丈夫よ、エリザ。これで貴女は二度と、仲間を支配して苦しめる事は無いし、ジェフリーたちもさっきちゃんと成仏した。残すは、私が貴女の望みを叶えてあげるだけね。」

「あ、ありがとう御座います。本当に……ありがとう御座います。」

オルヴァドルを前にした所為か、両膝を突き私に祈るように礼を言い出すエリザ。

「ちょっ、止めてよ、エリザ。私はオルヴァドルと違って神様じゃ無いのよ。……あ、いや、一応神だけど、でも神様とは違うのよ。ほら、立って。」

私は、エリザの両手を取って立たせる。

「それに、この後子供たちも助けなきゃいけないし、私は望みは叶えるけど、楽をさせてあげるつもりは無いからね。光の神はただ愛して慈しみ、闇の神は試練を与えて成長を促す。でも、私は光の神でも闇の神でも無い。エリザ、貴女に与えるのは、力では無く機会よ。後でちゃんと説明してあげるけど、覚悟しといてね。幸せってものは、誰かに与えて貰うものじゃ無くて、自分で掴み取るものなんだから。」


6


私はその後、ヨーコさんと連れ立って、ハンスたちが待つヴィルムハイムの王城へと転移した。

転移した時気付いたけど、今は夕暮れ時なのね。

ハンスとテリーは、広い謁見の間で遊んでたみたい。

「わーい。テリー、元気だったぁ~?」

ひと足……飛んでるけど、早くヨーコさんがテリーの許へ。

「あー!あ~~~♪」

喜んでヨーコさんを追い掛け回すテリー。

子供には妖精宛がっとけば機嫌が良くなる、なんて覚えても、私には実践する機会は無いか……。

「……どうしたんだ、こんなに早く?もしかして、あの妖精をテリーに逢わせる為に来てくれたのか?」

テリーをヨーコさんに任せ、私の横までやって来るハンス。

「あら、さすがにそんな事で来ないわよ。もう終わったから、迎えに来たのよ。」

「……、……、……は?今何て?」

「え?いやね、言っておいたでしょ。先に済ませる用事があるから、ちょっと待っててって。その用事が済んだから、迎えに来たのよ。」

「え?いやだって……、それって今朝の話だぞ。さすがに早過ぎるだろ。あんだけ時間掛かりそうな雰囲気出しといて、ご飯だって、まださっき最初のひと皿平らげたばかりだぜ。」

あら、そうだったんだ。

長さに関係無く、やっぱり時間感覚おかしくなってるみたい。

そうか、まだ1日も経ってなかったんだ。

待たせちゃ悪いと思って急いだけど、転移で移動して、亜空間内の出来事は一瞬だから、それこそふたりの食事を用意する時間の方が長かったくらいね(^^;

「……テリーも楽しそうだし、折角のお料理も勿体無いから、今日はここに泊まろっか。ハンスはすぐじゃ無くても大丈夫?」

「……はぁ、まさかこんなに早いと思ってなかったから、良いも悪いも無ぇよ。ルージュの好きにしてくれ。俺は何か、ひとりで気張り過ぎて疲れたよ。」

そう言って、床の上で大の字になるハンス。

「……お疲れ様。今日はゆっくりして、明日朝食摂ってから、改めて出発しましょ。」

そう言って、私はハンスの横に座り込む。

「そう言う事だから、今日はそっちもエリザにゆっくりして貰って。彼女は少し急ぎたいかも知れないから、ごめんなさい、って言っておいて。」

私は念話で、オルヴァドルにそう告げた。

「うん、わかったよ、ママ。でも、エリザさんは大丈夫だと思うよ。僕、仲良くできるよ。」

……考えてみれば、ハンスたちを連れて行く先も、夜中に訪ねたら迷惑よね。

本当、神になると人間らしさが失われちゃうみたいで、少し怖くもあるわね。気を付けなくちゃ。


そして翌早暁、昨夜早く床に就いた事もあり、陽が昇るとともにハンスとテリーは目覚めた。

私とヨーコさんも、ふたりと一緒に寝たわ。

その必要は無いとは言え、やっぱり眠るのって気持ち良いわね。

……ほんの少しの悪戯心もあって、寝ると皺になるからってドレスを脱いで横になったら、ハンスがどぎまぎしてて可愛かったわね。

折角用意した食事が残ってるから、それぞれ食べたいメニューを選択して、残りはオルヴァドルへのお土産にする。

いつもメイドたちが全部やってくれるから、オルヴァドルに手料理を振舞った事無かったし、量は少なめだけど喜んでくれるかしら。

ハンスとテリーはハンバーグ。子供たちは、朝からがっつりね。

私は、ヨーコさんと一緒にサンドイッチ。いろんな具材のものを用意したけど、私はハムレタスサンドが一番好き。

ただ、子供たち用に作ったから、カツサンドみたいな重たいものの方が多いのよね。

ま、この体なら朝から何だって行けるけど、中身は何百歳も生きたお婆ちゃんなんだから、本当は焼き魚とか納豆定食が恋しいわ。

……ふふ、カツサンドにかぶり付くヨーコさん可愛い。


小一時間ほどで朝食を済ませ、神の転移を使いオルヴァドルの宮殿までハンスとテリーを連れて行く。

彼らの故国は、旧魔王国ティールイズ。その支配者は魔族だったから、エリザと違って問題無いと思う。

一応先に説明しておいたけど、テリーは理解出来無いから、少し気掛かりね。

「やぁ、君たちがハンスくんとテリーくんだね。僕はオルヴァドル。よろしくね。」

そう声を掛けながら、オルヴァドルは屈み込んでその手を、指を差し出す。

「おー、あー。」

その指の先を掴み、ぶんぶか振り回して挨拶を返すテリー。

どうやら、ふたりは良いお友達になれたみたいね。

私はそのまま、テリーの魔法術式を読み解いて。

「オルヴァドル、お願い。」「うん、判った。」

再びギルティチェインズの鎖が私たちを素通りして行き、オヴェルニウス呪法相当の悪夢は砕け散る。

「さ、次はハンスよ。」「お、おう。よろしく。」

もう一度魔力感知を展開し、今度はハンスの中の魔法を読み解く。

「……オルヴァドル。」「判った、ママ。」

三度その鎖は、私たちに害を与える事無く、悪魔の楔を打ち砕く。

「……ふぅ、これで百目鬼の権能は、マリエンヌを残すのみ。もう大丈夫ね。」

マリエンヌの力は、確かに悪用すれば驚異的な力だけど、マリエンヌが野心を抱く事は無いでしょ。

強制的に庇護者にされてしまう側は堪ったもんじゃ無いけど、マリエンヌを大事にする事以外はそのままだし、間違っても命を強制的に奪われるような力じゃ無い。

百目鬼の方も、権能の繋がりでマリエンヌの人生を覗き見出来るし、これくらいは見逃しても問題無し。

……いきなり魔界に現れた最古の悪魔。しばらくは、良い意味でも悪い意味でも、大忙しかも知れないけど(^^;

少なくとも、ぞんざいな扱いは受けないはず。

7大悪魔と比べれば大きく格を落とすけど、Named……多分百目鬼とは違う、ちゃんとした名前がある悪魔のはずだから、充分魔界でも一目置かれる存在だと思うわ。

「さて、後は新しいお家にご挨拶に行かなきゃだけど、オルヴァドル。ハンスたちに用意した食事が余ったから、良かったらエリザと一緒に食べて。それから、私一度着替えて来るから、その間ヨーコさんと一緒にハンスとテリーの事もよろしく。」

「え、ママの手料理食べられるの?うれしいー。僕、ちゃんとお仕事がんばるね。」

食卓の方まで行って残った料理を招喚し、メイドたちに後を託すと、私は一度オルヴァ拠点へと飛んだ。

それなりの格好をして行かなくちゃ、不味い場所だからね。

とは言っても、私の正装はどちらかと言えば、場にそぐわない格好なんだけど。


ハンスとテリーを後ろに、テリーは肩にヨーコさんを乗せ、私は盗賊系冒険者ルージュとしての正装、ファイファイチュチュの遺してくれたボディコンワーンピースでその場に立った。

それにしても、改めてチュチュの素晴らしさに気付かされるわね。

いつも着てるドレスの方は、コルセットで腰回りをきつく搾り上げ、胸は広く開けているから支えたり包み込んだりもしない。

それに対し、チュチュのボディコンワンピは、スタイルが映えるよう調整されているのに窮屈さが一切無く、胸は開けてるのにしっかり形を矯正してくれて、なのにとっても楽。

むしろ、裸でいるより胸が心地良いくらい。

チュチュは、単に服に防具としての性能を与えるのみならず、ここまで着心地良く仕上げてたのね。

普通に仕立てが良いだけのドレスと比べた事で、チュチュの仕事がどれほど素晴らしかったか思い知ったわ。

まぁ、完全オーダーメイドな上で、永劫を生きる私のサイズが少しも変わらないからこそ、だけどね(^^;

これなら、ドレスもチュチュに頼んでおけば良かった……まさか、私が黒いドレスを着て過ごす事になるなんて、思ってもみなかったから仕方無いけど。

こんこん、と私はその格好で、とても豪奢な屋敷の扉を叩く。

当時とは違い、屋敷の主はただの聖堂騎士団団長に過ぎないから、門に衛士はいなかった。

ぎぃ、と重い音を立て、その両開きの扉が少し開く。

「……はい、どなた様で御座いましょう。只今当家の主は留守にして……。」

出て来たのは、40代くらいの女中で、多分女中頭を務める女性なんでしょう。

顔は似てないけど、どこと無くキンバリーさんを思い起こさせる。

「……こんにちわ。私は……。」

「ルージュ様!ルージュ様でいらっしゃいますか?」

「え?!……えぇ、そうだけど……良く判ったわね。」

むしろ、こっちが驚いた。

「判ります。判りますとも。代々。代々語り継がれておりますれば。しょ、少々お待ち下さいませ。」

そのキンバリーさん(違)は振り返ると、他の女中に何やら告げて、その女中は中へと走り去る。

「只今、奥様をお呼び致します。さぁ、お入り下さい。まずは、応接間の方へ。」

どうやら、まだ私の事を覚えてくれてるみたいね。

ここは、旧……勇者ライアン邸。

……私は再び、ここへ帰って来てしまった。


もう数百年は経つのに、今でも教国では……勇者ライアンは特別視されてる。

勇者として活躍し、請われても教皇の座に就かず、その死によって神々が慟哭し、再び神の下向がなされた。

その後の勇者たちは大きな活躍も無く、いつしか勇者招喚の儀式も途絶え、……勇者ライアンは教国の伝説となってる。

その末裔も教国では特別な存在であり、常に実力を伴いながら、主席聖堂騎士団長を務め続けている。

今この屋敷には、当代の主席聖堂騎士団長一家が住んでる。

こう言っては何だけど、私が……ライアンの子供を作れなかった事で、血筋としてはエルダとベルディの子孫と言う事になるから、勇者ボディの遺伝的優位性があっての事じゃ無い。

ちゃんと努力して、……勇者ライアンの後裔たらんとして来た結果、今がある。

立派な子孫たちね。

そして、彼らが私に気付いてくれたのは、屋敷に代々、私たちの肖像画が飾られてたからみたい。

私にはエルフの血が流れてる、だからそのままの姿で来訪する事があるかも知れない、そんな風にも伝えられてた。

今でも彼らは、……私の夫を敬ってくれてる。それがとても嬉しかった。

私はそんな子孫たちに、ハンスとテリーを託した。

少し窮屈かも知れないけれど、奴隷のような生活とは比ぶべくも無い。

とは言え、託す先は色々と考えたわ。

見た目は人間族だけど、古代竜たちでは短命種の人間族を心から理解してるとは言えない。

ジェレヴァンナの森では、エルフとゾンビと、何よりサイズは小さいけど魔族がいる。

表と裏では違うとは言え、やっぱり旧魔王国で生きたふたりを預けるのははばかられる。

神族では何もかも違うし、出来れば大人になるまでは人間族としてまともな生活をして欲しい。

残る人間族の知り合いと言えば、もう永遠のポーラスターことキャシーだけ。……却下(^^;

あの子、研究者としては立派だけど、人間としては……ねぇ(^Д^;

もうニホンには顔見知りもいないし、……勇者ライアンの子孫なら、力を貸して貰えるんじゃないかと思ったんだけど……まさか、私の事まで判ってくれるなんてね。

やっぱり、ちょっと嬉しいわ。


ふたりを託した後、私はエリザを伴って、彼女のレジスタンスへと赴いた。

それからの数年を、私は彼らと過ごしたわ。

私は、ただ望みを叶えるだけじゃ無い。与えるのは機会。

私は、レジスタンスの人間族に手解きをして、戦士として鍛え上げる事にしたの。

一応、エルダに稽古を付けてあげた事もあるから、人を教える経験もあるしね。

そうして、荒野のモンスターだけじゃ無い。

追手として迫り来る、神族たちも返り討ちに出来るようにしてあげた。

これが私が与えた望み。自ら掴み取る希望。

そして彼女たちは、神族が治めるバーデンホルト帝国に、歴史上初となる亜人種の自治区を勝ち取った。


その後、マリエンヌがどうなったかは知らない。

永い魔族の寿命の内、ほんの数十年、気紛れにギルフォードが人間族の愛玩奴隷を大切にしてた。

周りの者はその程度にしか思わなかったろうし、その程度の些事、周りも本人もすぐに忘れてしまっただろう。

ハンスとテリーは……勇者ライアンの子孫の下で健やかに成長を遂げ、ふたり組の勇者として、勇者ライアンの再来と呼ばれる事となる。

まぁ、その活躍ぶりだけで無く、幼い彼らを……勇者ライアンの妻だったエルフが教国にもたらした、と言うエピソード込みでね。

そして、エリザたちが勝ち取った自治区は、彼女が亡くなった後も、エルフ、ドワーフの同志が遺志を引き継ぎ、1000年近く存続したわ。

でもその後、バーデンホルトを倒し、新たな支配者となった魔族の手によって、その自治区も制圧され歴史から消えてしまった。

永劫の営みを刻むアーデルヴァイトにおいて、それは些細な出来事だった。

まぁ、どうでも良い下らない話……だけれど、永劫を生きる私にとって、決して忘れ得ぬ思い出よ。

ありがとうね、ハンス、テリー、エリザリテ。


第九巻(特別編)へつづく


あとがき


何とか第八巻も書き終わりました。

今回も、当初の予定とは違い、書きながら物語が転がり、色々変わっちゃいました。

一番大きかったのは、ハンスとテリーが助かった事。

予定では、百目鬼とユウが同格だった為、助けたくても助けられなかったから、そのまま死ぬ運命でした。

具体的に書き進む中で、事前にメモとして書き留めてあった百目鬼との決着がそのままでは齟齬が出て来てしまい、修正を施した結果ユウが思いの外強くなり、結果ハンスとテリーが助かる事に。

可哀想だからと無理矢理助けるのも本意ではありませんが、助からない予定だったからと助けられるのに助けないのも本意ではありませんから、助けてしまいました。

作者の都合に無理矢理付き合わせたく無いとは言え、それで物語としての展開が良くなったのか悪くなったのか。

本当に創作は難しいです。


他にも予定変更があります。

この後、先に最終巻を書いてから、第九巻以降の発想が降りて来たらエピソードを追加して行く形を考えていましたが、書いている内に第九巻の発想が降りて来たので、先に書く事に。

その内容も少し特別で、この内容ならこのサブタイトル、と思い付いたサブタイトルが、ドラマでは無くアニメ由来なので縛りからも外れる為、(特別編)と言う言い訳付きで書きます(笑)

そして、今巻で思い知りましたが、ほぼ正体不明(いや、正体は歴然だけど(^ω^;)のDとは違い、一人称で内面を描きながら人生を積み上げて来たユウでは、やはり吸血鬼ハンターの単巻エピソードのような形は難しいです。

予定外に、さらなる成長までしてしまい、このままでは最終巻のプロットまで崩れてしまいかねない(^^;

そこで、第九巻(特別編)の後最終巻を書き、そこで完全な完結にしようと思います。

下手に強くし過ぎたキャラクターは、何でも出来過ぎて扱いが大変。

後から間に挟めるエピソードを付け足して行くと、その内最終巻に繋がらなくなる可能性がありますからね。

Dみたいに、完成されていて変化しないキャラじゃ無いと、難しい。

それが良く判りました。


創作の楽しみよりも生みの苦しみの方が勝って来て、相変わらず苦しい日々ですが、少ないながらも読んで下さる読者様がいて下さるので、何とか頑張って書き上げたいと思います。

どうか残り二巻、お付き合い頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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