第六章 おそく起きた朝は…


1


……またオルヴァドルが様子を見に来た。

本当に良い子だと、我も思う。

もちろん、ヨモツヒラサカの監視をする義務もあるのだが、この子がここを訪れるのは私を心配しているからだ。

面白いのは、あの闇の巨人まで毎日欠かさず訪れる事だ。

面白い玩具に過ぎない私を気に掛けるにしては、少々やり過ぎの感がある。

もしかしたら、私が我の欠片を手にした事で、さらに強くなったと気が付いて、より興味を引かれているのかも知れない。

いや、それとも我に勘付いているからか。


あれから10年……、我にとってはあっと言う間だ。

状況は解っている。

オルヴァドルが私を心配して、色々話し掛けてくれるから。

ここは特別だし、震源地みたいなものだから崩れる事も無かったけど、エルムスの被害は甚大だった。

幸い、そこはさすがに超越種、死者こそ出なかったが土地や建物はかなり深刻な被害を被った。

しかし、人間……神族万事塞翁が馬、危機的状況に直面し、そこからの復興を余儀無くされた事で、無気力であった者たちまで元気に働き出した。

半年も経たずしてエルムスは落ち着きを取り戻し、他にも目を向けられる余裕が出来た。

まずは、我が一番関心のある世界樹。

エルムスや周囲の山々にも世界樹はたくさん根付いていて、あの災害……、神々の慟哭と呼ばれているそうだが、その神々の慟哭以前は私が手を掛ける必要が無いほど元気だった。

だが、神々の慟哭で大地が傷付き、一時的にとは言え龍脈にも乱れが生じたはずなので、ほとんどの世界樹がダメージを負っていて、一部は枯れ始めていた。

すぐにも我が何とかしたかったが、ライアンの優しい嘘に縛られて、私はここを動けなかった。

だが、神族たちが世界樹たちを癒し、土地も清め、すぐに世界樹たちは元気になった。

枯れ掛けの一部の世界樹を除き、1年もせず神々の慟哭以前の状態に、エルムス内は復興したのだ。

その間にも、オルヴァドルは英断を下す。

一部の神族を、教国へと遣わした。

神々の慟哭の被害は全世界規模に及んでいたが、魔界や北方諸国は地震による混乱程度で済んだ。

それでも、魔族と聖ダヴァリエ王国、トリエンティヌス王国は休戦状態に入り、帝国も一時的に軍をゴンドガルンドまで撤退させた。

その状態はそのまま続いているようで、一時的にとは言え永く続いた戦争を止めた事は、怪我の功名と言えた。

これが中央諸国まで南下すると、様相が一変。

その被害は相当なものとなる。

沿岸部やニホン、古代竜の島は、津波の被害も出た。

倒壊した建物の数は膨大で、喪われた命も多かった。

しかし、中央諸国、西方諸国、東方諸国の国々が力を合わせ、復興へと突き進んでいる。

時に争う事もあるとは言え、神の名の下に人間族が支配する領域だ。

このような時には、手を取り合い団結する事も出来た。

程度の差こそあれ、それぞれの国が復興を成し遂げる事だろう。

……問題は、南方諸国だ。

地震の規模が大きく、大地の傷跡は深い。

暴風と雷雨に晒され、田畑から作物も消えた。

建物の倒壊に巻き込まれ、その後に上がった大火に巻かれ、多くの人間が死傷した。

いくら主神教総本山のお膝元とは言え、圧倒的に神職の数も足りない。

救えるはずの命も、多くが喪われた。

人々は、その信仰心の強さが裏目に出て、神々の悲しみに従い自分たちも後を追おうと命を諦めもした。

神族がエルムスの外に目を向けた時、教国だけはまだ倒れたままだった。

そこでオルヴァドルは、神族を遣わす決意をする。

神の正体を知られる事は避けねばならないが、神族の代わりに魔族と戦う従順な人間族を見捨てる事も出来無い。

そこで、その姿が神に等しいと思えるほど神々しい者を選抜し、それ以外の者には簡単な兵装で見た目を統一させ、神の従者を演じさせた。

オルヴァドル自ら先頭に立ち、救いの手を差し伸べる為にやって来たと、救済を始めたのだ。

肩書き持ちの神族たちの力は、壁を超える正に超常の者のそれであり、人々には奇蹟と映った。

巨人たちの力仕事は復興を早め、最低限の寝食で済む神族だから、エルムスの実りも惜しみ無く分け与えた。

国土の荒廃は一朝一夕で覆るものでは無いが、人々の心に希望が戻った。

南方諸国のいくつかの小国は消滅し、教国に吸収合併される事にはなったが、何とか復興の道を歩み始めるには至った。

南方諸国の復興にはまだまだ長い時間が掛かりそうだが、それでも立ち直る事は出来たのだ。


オルヴァドルは南方諸国の状況を実際に見た訳だが、他の地方の状況はクロから伝え聞いたものだ。

エルムスが落ち着き教国へ下向した後、オルヴァドルは一度、クロに逢う為古代竜の島へ飛んだ。

南方諸国の惨状を説明すると、クロは他の国々を見て回る事を提案。

私の家族たちはクロが守り、一時的に島へ避難していた。

家族は何とか守ったが、世界の惨状を知れば私が悲しむ。

そう思ったクロは、まず世界の状況を把握する必要があると考えた。

そこで、オルヴァドルが教国救済で動けぬ間、クロが代わりに世界の状況をつぶさに見て回ると言うのだ。

そのクロは、私から聞いていた話を頼りに、まずジェレバンナの森へ飛んだ。

北方諸国に位置し、森と言う強固な根に守られた大地故か、集落にも世界樹にも森自身にも、大した被害は出ていなかった。

クロから事情を聞いたジェレバンナたちは、独自に世界を回り、世界樹の様子を確認してくれた。

森は彼らエルフの故郷であり、龍脈の流れもジェレバンナやスニーティフならば、微かであっても感じ取れる。

世界中全ての世界樹を回り切る事は出来無いだろうが、それでもありがたい事だ。

ディンギアたち森の魔族たちは、一時的に魔界へ引き返した。

最北と言う立地から被害は軽微かも知れないが、山がちな土地に多くのレッサー種が住む以上、少しの被害でも影響は大きい。

その魔界だが、心配したほどの被害は出なかった。

世界神樹の加護のお陰だろう。

クロは、アスタレイに逢いに、魔界まで赴いた。

古代竜が急に飛来するなど、魔族たちはさぞ肝を冷やしただろうが、私たちが島で悪魔を撃退した時、一緒に戦った仲だ。

クロにしてみれば、旧知の友に気軽に逢いに行ったつもりなのだ。

休戦の決定は、クロから事情を聞いた後に下された。

私が仕出かした事だと知り、アスタレイなりに配慮した。

その後クロは、その翼で世界中を回り、それを魂の回廊を繋いだオルヴァドルへと念話で伝えた。

その情報を基に、オルヴァドルは南方諸国への施しに専念すると決め、私の様子を見に来る度、色々な話を聞かせてくれた。

私の所為で大勢の人々を殺し、世界中に深刻な被害をもたらした。

それでも、私にはライアンとの約束だけが全てだった。

ヨモツヒラサカでまた逢おう。

ヨモツヒラサカで待ってて。

ライアンは、そう私と約束したのだから……。


2


私にはそれしかすがるものが無く、体育座りの姿勢でずっと固まり続けていた。

……それは、心の中でも……。

そうして心が空虚になって、段々我に侵食されて行き、10年経った今、もうほとんどが我となった。

そのお陰で、私は今、何も感じない。

苦しみも悲しみも……、愛しさも。

しかし、私は全て消えたりはしなかった。

我には私が必要だ。

私はライアン以外とも約束をしていただろう。

世界樹を、世界を救うと。

私に消えて貰っては困るのだ。

我が世界を救う為に。

「……オルヴァドル……。」

我は念話でオルヴァドルに呼び掛けた後、10年ぶりに静かに立ち上がる。

この体はもう、人間族では無い。

完全に、神と成っている。

この10年、物質体から出る事も無かった為、俺流不老不死は成立しなくなっている。

アストラル体も、今の姿と一致しただろう。

だが、すでに神の身なれば、死しても死と言う属性は付くまい。

その意味では、まだ俺流不老不死が発動してもおかしくは無い。

しかし、そうはなるまい。

この身はすでに神。

殺そうと思っても、そう簡単には殺せない。

名も無き光の神と我が1万年戦い続けても、どちらも死に至らぬほどに。

だから、正確にはもう必要無いのだ。俺流不老不死など。

我によって、私は神となったのだから。

「マ、ママ……。もう……、だいじょうぶ……なの?」

「心配無い。私が耐え難い苦痛も、我にとってはどうでも良い事。それは、私にとっても幸い。使命がある。行かねばならない。」

「ママ?……なにか変だよ。ほんとうにだいじょうぶ?」

我は鏡に向き直り、もうひとりにも挨拶しておく。

「アヴァドラス、毎日ご苦労な事だな。我はもう行く。」

すると、鏡の向こうにアヴァドラスが顔を出す。

「ひっ!」と、思わず声を上げるオルヴァドル。

この10年、主神として立派に務めて来たが、まだアヴァドラスは怖いようだ。

「……随分、面白く無い展開だ。……まだ生きているな、人間。良かったよ、全てを喰われなくて。」

「……心外だな。我は私を喰ったつもりなど無い。我にとって、私は大切なのだ。」

「……お前は何だ?私はお前を知らないぞ。」

「……そうだな。記憶が曖昧なのだが、きっと顔見知りでは無い。もしかしたら、我が知っていたのは今のお前では無く、光の巨人かも知れない。」

「……どう言う事だ。何故、お前のようなモノが、アーデルヴァイトに存在する。」

「……戦っていたのだよ、ずっと……。1万年を超えて。」

「……道理で、私たちとは違う訳だ。闇の神だと?!ふざけた話だ。本当にお前は退屈させないな、ルージュ。……それで、どこへ行くのだ。」

「……アヴァドラス、闇の巨人アヴァドラスよ。お前は裏のアーデルヴァイトについて知らないのか。」

「裏の?……裏の大陸か。それがどうかしたのか。」

「そうか……。どうやら、神族と魔族が支配する世界では、悪魔に力を借りようとする者もいないのかも知れない。」

「……何の話だ。」

「アヴァドラス、闇の巨人アヴァドラスよ。今、我もお前も愛したアーデルヴァイトは、危機的状況に置かれている。我はそれを救わねばならぬ。」

「何の話だ!」

「詳しい事は、オルヴァドルから聞いてくれ。我はもう行く。」

「おい、待て!くそっ、人間のままでも神になっても賢しい奴め。どこへ、何をしに行くのだ。」

「……世界神樹へ。世界を救う為に。」

我はそれだけ告げて、テレポートでその場を後にした。


我が転移した先は、裏アーデルヴァイトの世界神樹の前だ。

神の身である我には、私が使えた力は全てより高位の力として使用出来る。

アストラル転移した後、物質体を招喚して体に入り直す。

その過程を飛ばし、同一結果のみを発現した。

神の身である我は、同じ神が上書きしたことわりに縛られない。

我が縛られるは、創造神の理と最初からこの世界にあった原初の理のみ。

スキルとして知られる能力は、神々が子供たちでも簡単に力を使いこなせるように与えた恩恵である。

神の身である我ならば、スキルとして発動せずとも自由に使える力だ。

よって、アストラル転移と物質体招喚を行使した結果のみを、己の力として体現した。

だから厳密には、物質体のままアストラル転移のようにテレポートした、訳では無いのだ。

結果は同じでも、過程は違うのだ。

我は新型フライの結果を体現して浮き上がると、その巨大な樹の幹に手を置いた。

「……誰……だ……、お前は……。」

「我は私だ、世界神樹よ。さぁ、約束を果たそう。種を5つ貰い受ける。北の地にて、5本の世界樹を生もうと思う。」

「……この気配……違う……貴女は……神……なのか……。」

「我は私だ。世界を守ると約束しただろう。すでに死していたはずのこの身、世界に捧げよう。」

「おぉ……おぉ神よ……頼みます……頼みます……どうかこの子たちを……頼みます……。」

世界神樹のその身が震え、巨大な種子を振り落とす。

本来であれば、この豊饒の大地で一度苗木まで育てるのが良いと私は考えていたが、我の身を捧げれば問題は無い。

種子から若木へとすぐに成長するだろうし、我は世界樹を進化させようとも考えている。

戦乱続く内地へ植えるよりも、通常の世界樹よりも強い個体を少数南北に配する事で、以前とは違う新たなマナの対流を生み出せれば、裏アーデルヴァイトの環境も正常に近付くのではないか。

「大切な種を預かった。我が大事に育てる事を、今一度約束しよう。子供たちと表アーデルヴァイトの世界樹たちを巡った後、世界神樹へも我の力を注ごう。待つが良い。」

それだけ伝えると、我は北の大地へとテレポートする。

私が用意していた候補地は、まだ草原とは呼べないまでも、まばらに大地を緑色が染めており、生命が芽吹き始めていた。

ドーム状結界の中心へと降り立ち、我は無造作に種子をひとつ蒔く。

その種子には神の気をまとわせてから大地に落とし、その後我は指先にひと筋傷を付け、そこから滲み出た血を一滴、種子へと垂らした。

土と水を得た種子は一気に芽を出し根を張って、若木へと成長を遂げた後そのまま我の身長を追い越して行く。

数刻もしない内に見事な世界樹へと成長したその幹に、我は手を置き我の一部を吹き込む。

我の存在の一部が、ほんの少し消え去る。

今、我の中は我が九割で私が一割と言ったところだが、その中の我の一分程が世界樹へと移譲された。

この世界樹は、一部とは言え神となった。

世界神樹には及ばぬとも、通常の世界樹を超えし新たな世界樹へと変貌するだろう。

一度成長を止めた世界樹であったが、再びバキバキと音を立てながら枝を伸ばして行き、薄ぼんやりと闇色の光を放ち始めた。

ふむ、我が闇の神だけに、黄金樹のようにはならなかったか。

それでも、決して闇とは穢れでは無い。

光も闇も、共に創造神が創り出せし性質に過ぎぬ。

言うなれば、この世界樹は聖なる闇の世界樹と化したのだ。

我は闇に属すが神であらば、神聖なるものであるが故に。

すると、見る間に大地に緑が芽吹き、美しい草原が広がった。

結界は雪を通さぬがマナは通す。

これで、極北の大気にマナが満ち始め、風に乗って南へと広がっても行くだろう。

だが、まだ足りぬ。

我は再びテレポートし、次の候補地へと向かう。

この身を捧げ、我も創世に寄与したこの愛すべき大地を守らんが為に。


3


そうして私は、世界樹たちに彼を捧げて回ったわ。

聖なる闇の世界樹への進化に、彼の目測通り一分ずつ分け与えたのだとすれば、裏アーデルヴァイトの世界樹たちに一割を捧げた事になる。

元々、私の残りが一割あったから、その時点で残り八割。

表アーデルヴァイトには世界樹がたくさんあるから、同じペースじゃ足りなくなる。

そこで、表アーデルヴァイトの世界樹たちには活性化させる程度に抑えて、彼は己を捧げ続けた。

最後に、世界神樹の許へ戻って来て、世界神樹にも己を分け与えた。

今ではもう、彼は消えてしまった。

融合した私の中に、微かな残滓は感じるけれど……。

貴方には、助けて貰っちゃったわね。

貴方がいなければ、私はあのまま呑み込まれて消えていたわ。

今だって……、今だってまだ悲しくて、足が止まりそうになる。

でも、一番苦しい時に、貴方が私だったから、今は何とか立ててるわ。

本当は、……ライアン……のいないこの異世界なんて、もうどうでも良い。

でも貴方には、返し切れない恩があるわ。

だから、貴方の仕事くらい、見届けなくちゃね。

今はまだ、聖なる闇の世界樹たちがマナの還流を始めたばかり。

さすがに、裏アーデルヴァイトのマナ濃度を改善するには至っていない。

仕方無いから、世界樹の様子を見ながら、これから何年、何十年、何百年掛かるか判らないけど、見届けてあげる。

貴方の愛したアーデルヴァイトが、もう大丈夫、って判るまで……。


融合して、彼が支配権を持っていた間、私の心も神だった。

何て言えば良いのかしら。

確かに彼は、アーデルヴァイトを愛してた。

でもそれは、漠然と世界全体に向けられたもので、個別の存在に対する関心は低い、と言うより、皆無だったわ。

とても静かで、漣ひとつ立たない水面のよう。

私も、その影響を受けたわ。

少しは人間らしさが戻って来た気もするけど、大分他人がどうでも良い気持ち。

……ライアン……だけが私の心を波立たせ、他の事は全て、まるで外の世界の出来事のよう。

日本にいて、海外で飛行機が墜落したニュースを見ている程度の関心。

精々気にするのは、日本人乗客が含まれているかどうか。

同じように、今私が何とか関心を抱けるのは、親しかった知り合いくらい。

殺す相手を紹介して貰えて、報酬まで手に入り、さらに感謝して貰える人助け。

それすらもう、今の私は無視するかも知れないわ。

神にとって人など、その程度の存在なのね。

ただ、やり残しは片付けようと思うの。

ひとつ思い出した事があるから。

相手が相手だけに、約束した訳じゃ無いんだけどね。


私が今いるのは、森エルフの森。

私が張っておいた結界はそのままだけど、遺跡部分は崩落しちゃったみたいね。

……神々の慟哭の影響で……。

でも、隠し扉の先は魔法的な補強もしてあったから、ほぼ無傷だわ。

そして、ちゃんと中で大人しくしていたようね、ガリギルヴァドル。

さぁ、今こそ貴方を解放しましょう。

私は、遺跡全体、最下層に至るまで全てを効果範囲とした広域解呪を展開し、一気に遺跡の魔法的効力全てを消し去った。

これにより、ガリギルヴァドルを縛り付けていた封印は解除されるけど、同時に遺跡そのものに施されていた崩落防止の魔法的措置も失われたわ。

すぐに崩落する訳じゃ無いけど、これからは普通の構造物として経年劣化して行き、いつか埋もれてしまうでしょう。

まぁ、ガリギルヴァドルを迎えに来る森エルフもすでに亡く、これでガリギルヴァドルも自由の身。

封印されしモノが去れば、この遺跡の存在理由も消えて問題無しね。

……ちょっと、やり方が乱暴だったかも知れないわね。

神様感覚って、細かい事がどうでも良くなっていけないわ。

直接封印まで出向いて、宝珠だけ壊す事だって簡単なのにね。

……あら、封印が消えた事に気付いたガリギルヴァドルが、少し離れた場所に転移したみたい。

やれやれ、素直に魔界へ還るんじゃなかったの?

私は、ステルスを発動してから、ガリギルヴァドルのすぐ近くへ転移する。

そうして背後からガリギルヴァドルを観察していると、ガリギルヴァドルは喜びを全身で表していた。

「何がどうなったか知らないが、これで私は自由の身だ!あのおかしな人間を待つ事は無い。このまま、アーデルヴァイトで好き勝手暴れさせて貰おう。」

本当、悪魔って嫌ね。

これが私たちの成れの果てかと思うと……いけない、私じゃ無くて、闇の神、彼の成れの果て。

違う自我と混ざるのって、何だか変な気分。

「……大人しく魔界へ還るんじゃなかったの?」

「ふぁっ?!」と驚くガリギルヴァドル。

「だ、誰だ……、ってひとりしかいないよねぇ。くそっ、これはお前の仕業かい?」

私は、ステルスを解除して姿を現す。

「当然でしょ。何百年もそのままだった封印が、いきなり消えたりしないわよ。」

振り返り、こちらをじっと観察するガリギルヴァドル。

「?どうしたの?」

「……いいや、何でも無いよ。判った、素直に魔界へ還るよ。」

「あら……好き勝手暴れるんじゃなかったの?」

「人間?……全然違うじゃない?!えぇと、そうルージュだったね。何があったか知らないが、今の貴女に逆らうほど、私は愚かじゃ無いんだよ。こんなところで滅びたく無い。アーデルヴァイトなんてどうでも良いから、私はマルギリファルス様の許へ還りたい。」

……そう言えば、周りに影響を与えない程度に力こそ抑えてるけど、神の気までは消していないわね。

彼がしていたそのまんまで行動してたけど、ちょっと考えた方が良いかも。

神様って、細かい事気にしなさ過ぎ。

「……判ったわ。素直に還るって言うんだから、こちらとしても文句は無いもの。」

私は、ガリギルヴァドルの傍まで行って右手で触れて、その仮初めの肉体とガリギルヴァドルのアストラル体とを、私のアストラル体を間に挿し入れるようにして分離する。

「これでもう還れるわね。……元気でね、なんて、悪魔に言うのは変かしら。」

「貴女も元気でね。いいや、元気を出してね。今の貴女は、とても怖いからねえ。魔界へ逃げたくなるほどに……。」

「何よそれ、人を化け物みたいに……。何だ、もう行っちゃったの。そんなに怖いのかしら、今の私……。」

確かに、……ライアン……を想う気持ち以外、かなり冷えてしまってるかも知れないけど……。

と言う事で、目の前にはガリギルヴァドルの抜け殻だけが遺された。

受肉した悪魔の完全な抜け殻か……。

ほんの少し、私の中にまだ研究者としての知的好奇心も残ってたみたいね。

これは面白い試料よね。

そう思い、私は抜け殻と共にテレポートした。


神々の慟哭を経ても、こんな外れにあっても、この街は今でも花咲き乱れている。

神の身として心が平板になってしまったと少し悲しい気持ちがしてたけど、こうして花の香が鼻孔をくすぐるのは今でも心地良く感じる。

花の都モーサント、その外れに建つ古びた洋館、ポーラスター邸。

ちゃんと人の出入りもあるし、庭だって手が入っているのだけれど、建ってからもう200年は経つから、その雰囲気の所為で近所の子供たちは幽霊屋敷と呼んでる(^^;

まぁ、その子供たちの親が子供だった頃から、住んでる人間の容姿が全く変わっていないんだから、親たちからして訝しんでるのかも知れないわね。

勝手知ったる他人の家……と言いたいところだけど、大惨事の後だけに、邸内がどうなってるか判らないわね。

まずは空間感知……、かなり散らかってる……生活スペースだけは。

これ、多分、地震の後10年放ったらかしなんじゃないかしら。

良く使うキッチン、寝室だけは適当に片付いてるし、研究関連の部屋は綺麗になってるけど、普段使わない部屋はそのまま放置したみたい。

研究絡みは几帳面なくらいなのに、他の部分はずぼら。

変わらないわね、キャシー。

2mは越すガリギルヴァドルの抜け殻が入るくらい、広く開けている研究室の一角を確認してから、抜け殻ごと転移する。

「キャシー、久しぶりー。ちょっと来てくれる~?」

私は、研究区画の他の部屋にいるキャシーに、声を掛けた。

すると、何かを引っ繰り返すような音が響いた後、バタバタと足音が近付いて来る。

「せ、先生ー!ご無事でぉわぁっ!」

部屋に入るなり、思い切り滑って転ぶキャシー。

「せ、先生……そ、それって……。」

声が震えてる。

「相変わらず姦しいわね、キャシー。大丈夫よ。良く気配を探ってみて。もう中身は空だから。」

ふふ……何だか懐かしい……。

ほんの少し、心の湖に波紋が広がって行くのを感じる。

私の身は神でも、心は人間……のはずなのよ。

人との繋がりって、本当に大切なのね。

「た……確かに……、もう死んでる、んですか?この悪魔……。」

「死んでる、って言うとちょっと違うけど、もう動かないわよ。これは、受肉した悪魔が遺した抜け殻。生贄の体を再構成して創った仮初めの体。つまり、この体自体は物質界の物質だから、中身の悪魔が魔界へ還っても、そのまま残ったの。良い試料になるんじゃないかと思って、持って来たわ。」

恐る恐るだけど、好奇心の方が勝って早速色々見て回るキャシー。

「……凄いですね……。抜け殻とは言っても、悪魔はアストラル体だから中身が空っぽになってる訳じゃ無くて、ちゃんと筋肉や内臓はそのまま残ってる……。元は人間?の体だけど、明らかに違うモノに変異してる……。それにこの4本の腕、隆起した筋肉、比して細い下半身、骨格はどうなってるのかしら……。」

本当、一度集中すると、周りが見えなくなるのよね。

キャシーって、私なんかより根っから研究者肌だわ。

「そのままで良いから聞いて。この悪魔は、森エルフの森の遺跡にいた悪魔よ。」

キャシーは慌てて、こちらに向き直る。

「す、すみません、先生。つい夢中になっちゃって。でも、森エルフの森の遺跡って事は……。」

「えぇ、その昔、私が封印を直して、メイフィリアに報告だけしておいた悪魔。そのまま放置してあったの思い出して、魔界へ還しておいたわ。この抜け殻上げるから、女王様に報告しておいてくれる?もう、森から悪魔の脅威は消え去ったから、心配要らないって。」

「え、えぇ、構いませんが……先生自らご報告に上がらないのですか?」

「……メイフィリアの後の女王たちとも交流はあったけど、そこまで仲良くなった訳じゃ無いしね。一々オフィーリアを起こす訳には行かないし、ヨーコさんよりも貴女の方が相応しいでしょ。今も魔導士ギルドのギルドマスターなんだから。」

「は、はぁ……、判りました。私の方から、ご報告しておきますね。」

……正直、本当に親しかった者以外への興味、関心が、とても薄いの。

心情的には報告自体どうでも良いくらいだけど、責任として報告しておいた方が良いとは思う。

だけど、中途半端な間柄の現女王と、どんな顔をして会えば良いのか判らないわ。

まぁ、そこにヨーコさんが同席していれば、和やかな会見で終わるとは思うけど……ふふ。

「あ、あの……先生……。元気を出して下さい。わ、私たちでは不足なのは重々承知していますが、……その……。」

……駄目ね。本当に駄目。

何が神よ。こんなに周りに心配ばかり掛けて。

私は、ふわりと優しく包み込むように、キャシーの体を抱き締める。

「せ、先生?」

「ありがとう、キャシー。大丈夫……とは言わないわ。でもね、それでも大丈夫。……ライアン……の代わりなんてどこにもいない。この気持ちはどうしようも無いけど、それでも大丈夫。」

「先生……。」

強く、抱き締め返して来るキャシー。

やだ、貴女が泣かないでよ。

「いくつか、約束があるのよ。だから、ちゃんと世界樹たちの面倒を見るわ。ちゃんと、世界を守るわ。そして……。」

その先は口をつぐむ。

心に決めた想いはある。

でもそれは、世界がもう大丈夫、って判るまではお預け。

私が……ライアン……を忘れるなんて無理だもの。

ヨモツヒラサカで待ってるわ。

今の私なら、一瞬で飛んで行けるから。


4


黄金樹の輝きは、どんな季節ときでも色褪せる事無く、夜の闇の中でも鮮やかに周囲を照らし出す。

私はあの後すぐ、黄金樹の様子を見に来て、そのまま身を預けて夜を待った。

神のパーフェクトステルスであれば、オフィーリアすら私の存在には気付かず、静かに黄金色の夢を見続けてる。

黄金樹の様子を見る、と言っても、黄金樹とこちら側の世界神樹に関しては、闇の神が己が身を捧げるまでも無く壮健そのもので、私が世話を焼く必要など微塵も無いのよね。

世界を中心で支える特別な世界樹で、守護精霊オフィーリアが見守りつつ、バッカノス王国が国を挙げて奉っている。

黄金樹は、放っておいても全然問題無し。

今の私の目的は、時間潰しみたいなものね。

一応、様子を見ると言う建前はあるとして、これから訪ねる場所には夜に向かおうと考えたから、ここで時間が経つのを待ってた。

……神の感覚として、数時間なんてあっと言う間。

その数時間を、何かして有意義に過ごそうなんて思わない。

ただ、時間が経つのを待つだけ。

食事は美味しいわ。眠るのも気持ちが良い。

どこかで軽く食事を摂ったり、宿でも取って……ううん、キャシーにベッドを借りれば良いわ。

そして、お昼寝でもして、夜を待っても構わない。

きっと、以前の私ならそうする。

でも、今の私は、ただただ時間が過ぎるのを待ってた。

心の湖面が、微動だにしない。

食事も、睡眠も、無駄な事だと思っちゃうのかしら。

……何だか、それはとても寂しいわ。

さて、もう陽も暮れたし、そろそろ良いかな。

私は、モーサント中心に位置する大広場に面した、とある豪邸へと転移する。

夜を選んだのは、人間の生活サイクルに合わせたから。

彼女、人気者だからね。

昼間は、引っ切り無しにお客さんがやって来て、彼女を見舞って行くの。

それでも、陽が落ちて屋敷を訪ねるのは不躾だから、客足も途絶える。

え?私は夜の訪問なんて失礼な事して良いのか、って。

良いのよ。私たちの仲だもの。

それに、私は今でも、盗賊だもの。


その豪邸は、ピンクの外壁に少しオレンジ掛かった黄色い屋根の、とてもファンシーな外観。

庭木は丁寧に剪定されていて、どこと無く日本の庭園を思わせるわ。

門はすでに閉まっていて、門番がふたり、立ち番をしてる。

使用人たちは敷地内の離れに下がっていて、今は邸内に3つの気配があるだけ。

そう、貴女今、ここに良く来てるのね。

昼間はいつも通り、外で元気にしてたけど。

私はステルスは発動せず、ただ力と神の気だけは抑え、転移で玄関まで直接出向く。

そして、軽くドアノッカーを叩いて、反応を待つ。

程無くして、ひとつの気配が近付いて来て「すまないが、もう遅い。出来れば明日、出直して貰えないか。」と声がする。

そして、両開きの扉が少し内側へ開くと、そこには長身白髪の美しい青年が立っていた。

歳の頃は30代前半、筋肉質では無くすらりとした体型で、白髪はとても美しく輝いていて、老人のそれとは別物ね。

切れ長の眼に落ち着いた雰囲気から、見た目以上の年齢に思えるわ。

それはそうよね。優に1000年は生きてるはずだもの。

「……ルージュか。どうした、珍しい。いつもなら、勝手に入って来るだろう。」

「そうだったかしら。そう言う時も、先に声は掛けてたはずよ。今日はちゃんとした訪問だもの。勝手に入る訳には行かないでしょ、シロ。」

そう、この青年は、人間に化けるようになった今のシロの姿よ。

小竜の時は可愛らしく見えたけど、態度はとても冷静で穏やかだったもんね。

今の姿の方が、本来のシロの性格を良く反映してるようね。

「……もう良いのか?無理はするなよ。」

「……皆優しいのね。誰も私を責めないわ。神々の慟哭では、迷惑なんて言葉じゃ済まないほど、迷惑掛けたでしょ、私。」

それに関して、人間の私としては心苦しい思いもあるけど、そこまで強く心を締め付けない。

闇の神が私だった事で、罪悪感も薄れてくれたんだと思う。

そして、今の私は、他人に対する関心も低くなった。

赤の他人が大勢死んだ事に対する贖罪の気持ちは湧いて来ない。

シロたちに迷惑掛けたんじゃないか、と言う心苦しさを感じるのみ。

「ふむ……、こう言う事を言うとクリスティーナには怒られるが、私は赤の他人の事などどうでも良いからな。君の方が心配だよ、ルージュ。」

……この辺は、超越種である古代竜故か、シロ個人が少し冷めたところがあるからなのか。

今の私と、似たような心持ちみたいね。

シロとクリスティーナが出逢った時も、自分の行動の浅はかさを反省したり、人々を守ろうと奮戦するクリスティーナに感心はしても、脅威に晒された人間たちそのものには興味も関心も無かったのかもね。

シロはクリスティーナと行動を共にした間ずっと、一度としてクリスティーナを直接助けた事は無かったそう。

さすがに、クロと喧嘩になった時は別だけど、人間たちの為に戦うクリスティーナに助言はしても、自ら人間たちを助ける為には戦わなかった。

シロにとって大切なのはクリスティーナであり、そのクリスティーナが許し行動を共にしたトラップであり、知り合って仲良くなったこの私。

そんな身近な人間だけが、シロにとって意味のある人間族に過ぎないのだわ。

「……不思議ね。大丈夫、なんて言わないわ。でもね。心はかなり穏やかなのよ。大事な事はより大事に、些細な事は本当にどうでも良く感じる。……少し、貴方たちに近くなったのかも知れないわ。これ……解るかしら。」

そうして、神の気だけは解放する。

私自身、特に何か変わった感じはしないけど、庭を清浄な空気が吹き抜け、邸内の彼女が何かに気付いたようにぱたぱたきょろきょろし出す。

「……これ、は……。一番近いのは悪魔……、だが、全く異質だ。どう言う事だね、ルージュ。君は一体……。」

「シロには、詳しく話してなかったっけ。私ね、海の底で光の神に出逢ったの。あぁ、それは言ったっけ?そこで拾ったのよ、闇の神の欠片を。まぁ、欠片と言っても、闇の神自身なんだけど、それを危ないから封印を施し、肌身離さず身に付けてたの。……神々の慟哭の後も、ずっと肌身離さず、ね。」

その時、ふと気になって胸元のロケットを手に取ってみた。

蓋を開けて、チュチュ謹製の魔法絹を丁寧に開いて行くと、果たしてそこに欠片はそのまま残ってた。

でも、もう本当に、ただの欠片。

……ここに貴方は残っていないわね。

私は魔法絹で欠片を包み直し、丁寧にロケットに仕舞い直した。

大恩ある貴方の生きた証みたいな物だし、これはこのまま大事に持っておきましょう。

見れば、シロは眉間に皺を寄せて、こめかみを押さえるような格好で、非道く難しい顔をしてる。

「待て待て待て待て。全部初耳だよ。クロの奴、大事な事を伝えて行かなかったんだな。確かに、いくら君が強いと言っても、少し災害の規模が大き過ぎるとは思っていたが……、今納得したよ。……神と言ったな。神族や魔族、悪魔では無く神と。神が生きていたのかね?海底で。」

そう言えば、世界樹巡りの為に黄金樹へ赴いた時、オフィーリアたちには話したし、その後世界神樹への通り道として魔界へ立ち寄って、アスタレイたちにも説明した。

ガイドリッドとヴェールメルにも話したけど、世界樹巡りをする間にもう当たり前になっちゃって、古代竜やシロたちには話しそびれてたのね。

クロが世界を回った時も、その辺の事はすでに知ってると思い込んで話さなかったみたいだし。

後は、オルヴァドルにも説明したけど、アルスやダヴァリエには直接話してないわね。

シロたち以外にも、まだ私の事情を正確に把握してない人がいるかも。

「ねぇ、シロ。ここで立ち話も何だし、入っても良いかしら。」

「おっ、これは失礼したね。さぁ、入ってくれ。そして詳しい話は、クリスティーナにも聞かせて欲しい。」

「えぇ。……今日はゆっくり、積もる話でもして行くわ。」


シロに案内されて、屋敷の二階にあるクリスティーナの寝室へと向かった。

屋敷内は外観ほどファンシーでは無かったが、クリスティーナの寝室内は違った。

ピンクとフリフリのレースだらけで、実に見事な乙女チックな内装。

豪奢でありながら可愛らしいデザインの天蓋付きベッドに横たわるのは、80歳くらいのお爺ちゃんなんだけどね(^^;

「えー、この気配って、ルージュだったんだ~。何か、オフィーリア様よりこうパーと明るい感じ?良く判んないけど、何かこうパーって。」

そこには、私なんかよりもパーと明るい、ヨーコさんがいた。

「お久しぶり、ヨーコさん。ヨーコさんに逢うと、とっても安心する。」

「えー、ちょっと~、いきなり褒め殺し?ふたりして同じ事言って~、何企んでんのよ。」

「ふたりして?」

「……私もね、ヨーコちゃんが傍にいてくれると安心よ、って、毎日遊びに来て貰ってるのよ。」

シロが背中を支えるようにして、クリスティーナが上半身を起こして、そう語った。

……あれから10年、……ライアン……よりも長く生きたけど、この物質体も長くないわね。

それでもまだ、今日明日と言うほど弱ってないわ。

健康にはストレスなど精神的なものも影響するから、体の構造だけで無く精神的な意味でも、男性より女性の方が長生きなのかしら。

「……ようこそ、いらっしゃい、ルージュちゃん。また逢えて嬉しいわ。」

「私もよ、クリスティーナ。色々話したい事があるんだけど、体、大丈夫?」

「……そうね、私も色々お話したいわ。それよりも、貴女の方こそ大丈夫?……大分変わったみたい。」

「……大丈夫じゃ無いけど、それよりも、よ。取り敢えず、話しそびれてた昔話から始めましょう。私が海底探査に赴いたのは、島での戦いが終わって……あの人……が大司教になった後よ。」


「う~ん……、つまり~、今のルージュは神様なの?もしかして、オフィーリア様より偉い?」

「そんな事無いわよ。オフィーリアも原初の精霊みたいなものだから、今の私はオフィーリアの妹みたいなものかしら?」

「嘘ぉー、オフィーリア様の妹~?それ、凄いじゃ~ん。」

ヨーコさんは、どこまで理解したのやら。

そんな私とヨーコさんのやり取りを、クリスティーナは微笑みながら眺めてる。

シロは頭を抱えてるけど(^^;

「……神が生きていた事にも驚いたが、まさかその神と同化してしまうとはな。どこまで人間離れしているんだ、君は。」

「……私は人間よ、シロ。とてもひ弱な人間。だから……だから私ひとりじゃ耐え切れなかった。彼のお陰で、世界だけじゃ無い。私も救われたわ。」

そう。もし彼がいなかったら、私はあのままヨモツヒラサカで今も動けないまま。

神の身になっていなければ、飲食や睡眠だって必要なままだから、衰弱死してしまったかも。

長く今の体に留まり続けた事で、俺流不老不死も失ったから、その時には死と言う属性に取り憑かれていただろうし、衰弱死するほど心が弱っていれば、体の死に伴ってそのまま成仏しちゃったかも知れないわ。

……それじゃあ、……ライアン……との約束を守って、ヨモツヒラサカで待ち続ける事も叶わなかったでしょう。

感謝してる。記憶が曖昧になって、彼自身自分の名前も忘れちゃったから、恩人の名前は判らないけどね。

「……それでね、クリスティーナ。これは……、これは聞いておかなくちゃいけないの。……貴女も、……貴女も永遠の命は求めないのね。」

クリスティーナは、その微笑みを絶やさない。

場の空気を察したのか、ヨーコさんは飛び回るのを止め、私の肩に座って口をつぐむ。

しじまが部屋を支配したのは、それほど長い時間にはならなかった。

「……私も、考えなかった訳じゃ無いわ。」

そう語り出したクリスティーナは、そっとシロの右手を両手で握り、それに応えるように、シロは軽くクリスティーナの肩を抱き寄せる。

このふたりは、単純な男女の間柄と言う意味では無い形で、固く絆で結ばれている。

私と……ライアン……のような番いとは違うけど、人生における掛け替えの無いパートナー同士だわ。

ふたりだって、死に別れたくなんて無いはずよ。

「……トラップが亡くなる前、私も言ったもの。ルージュちゃんに頼めば、まだ生きられるのよ、って。そしたらトラップ、自分には勿体無いほど幸せな人生だったから、悔いなんて無いなんて言うのよ。その……、ライアンちゃんに遠慮なんかしなくても、ルージュちゃんはちゃんとお願い聞いてくれるわよ。そんな風にも言ったんだけど、そう言う事じゃありやせん、って。本当に、それまでで一番の笑顔で逝っちゃった。」

……あの臆病者のトラップが、死を少しも恐れず旅立った……。私の眼にも、そう映ったわ。

「……クリスもそう。悔いはあります。師匠ほど人々を守る為に戦えませんでした。でも、死は怖くありません。先に死者の国で待ってます、だってさ。あの子も、少しも死を恐れて無かったわ。」

ここで言うクリスと言うのは、神聖歴10800年組の勇者のひとりで、クリスティーナの弟子になったクリストファーの事。

二代目勇者クリスとしてクリスティーナと共に戦ってたけど、彼は壁を越えられなかった。

彼自身の資質だったのか、やはり地球人を憑依させる事にはそれなりの意味があったのか……。

壁を越えられなかったクリストファーは、普通に年老いてクリスティーナよりも先に逝っちゃった。

「……私は人間だもの。随分と長く生き過ぎたわ。トラップやクリスを見送って……、他にも多くの人たちを見送って、100年を越えて生きていたら、私にも判って来ちゃった。彼らが死を恐れない気持ち……。」

……解ってる、私だって。頭では解ってるわよ。

でも、私はおかしいのよ。

私は死にたく無い。……ライアン……を喪った今でさえも。

「……ごめんね、シロちゃん。もっとずっと一緒にいたかったわよね。」

慈しむような優しい目で、シロはクリスティーナを見詰めている。

「……正直に言うなら、そうだね。私はまだたった2000年程度しか生きていない。もっと永く一緒にいられたら、これから先も楽しい毎日だと思うよ。」

そう言いながらも、その言葉には一片もクリスティーナを責めるような音を含んでいない。

「でもね、この2000年と言う短い人生の中で、君と過ごしたこの200年ほど幸せだった事は無い。私のこれからの人生でも、君との時間と言う宝物は、決して色褪せないだろう。ありがとう、クリスティーナ。」

そして、そっと額にキスをする。

「……えぇ、こちらこそありがとう、シロちゃん。」

静かに目を閉じ、シロの手をぎゅっと握り締めるクリスティーナ。

皆……皆、逝ってしまう。私だけを置いて……。

私は静かに立ち上がると、肩に止まっていたヨーコさんが浮き上がる。

「どうしたの、ルージュ?」

その声に、目を開けてこちらを見やるクリスティーナとシロ。

「行くのかい?」

「えぇ、私はこの先、世界中の世界樹を見て回るわ。モーサントにも立ち寄ると思う。でも、クリスティーナとはこれが最後になるかも知れない。そう思って、今日は寄らせて貰ったわ。でも、もう少し時間はあるみたい。気が向いたらまた来るわ。出来たら、報告したい事もあるのよ。」

「報告したい事?まだ何かあったかしら。」

「ふふ、些細な話よ。ほら、貴女良くミシティア公国にモンスター退治依頼されてたでしょ。」

「えぇ、そんな事もあったわね。そう言えば、ルージュちゃんと初めて逢った時も、その後も、何度も何度もミシティア公国に変なモンスターが現れてたわね。」

「あのモンスターたちは、何かの実験体みたいだった。きっとあの辺りに、迷惑な魔導実験を行う魔導士がいるんだと思ったわ。でも、放っておいた。モンスターはクリスティーナがいつも倒してたし、その内その魔導士も年老いて、騒動も収まると思ってたから。」

「……だが、あの後何度も、規模は小さいながらも、同じような事件は続いたな。神々の慟哭の後も、何体かのおかしなモンスターが出没したそうだよ。さすがにもう、クリスティーナに無理はさせたく無いから黙っていたけどね。」

「あら、そうだったの。……気を使わせちゃったわね、シロちゃん。」

「構わないさ。私が君に、もうゆっくり過ごして貰いたかったんだ。しかし……、そう言う事か。やはり君は、色々な事に良く気が付くね。」

「え~、どうゆう事ぉ~?」

「良い?ヨーコさん。私やクリスティーナ、キャシーは少し長生きだけど、人間って本当はもっと早く死んじゃうでしょ。」

「うん……、メイメイも死んじゃったもんね……。」

……メイフィリアの後を継いだ女王たちとも、花の妖精の女王であるヨーコさんは交流がある。

しかし、以降の女王たちは、偉大な花の妖精の女王として、ヨーコさんを敬って接してる。

それはつまり、少し余所余所しいとも言えるわ。

メイフィリアとヨーコさんは、特別仲が良かったみたい。

「……だからね。その魔導士が普通の人間だったら、もうとっくに死んでてもおかしく無いのよ。」

「あ、そっか~。でもでも、その変なモンスターはまだ出て来るから、まだその魔導士は生きてるって事ね。」

「そう。私たちと同じような、長生きしている人間なのか。それとも、ホビットやエルフのような、長命種の魔導士なのか。」

「……私は魔法は得意だが、人間たちの使う学問としての魔導には疎い。しかし、ああ言った研究をするのは、人間の魔導士ではないのかね?あまり、魔法種族が魔導研究をしているイメージは無いのだが。」

「えぇ、その通りよ、シロ。ただ、ホビットは例外で、彼らは人間と同じように学問として魔導を研究してるわ。だから、可能性のひとつとしては、ホビットの魔導士と言う線もあるわ。」

ホビットは、ドワーフ同様土の妖精族で、元々はノームと同じ土の精霊だった。

神代の時代、ノームは精霊界に留まり、ホビットとドワーフは物質界に移り住んで妖精族となった。

彼らは皆土属性の小人族で、ノームは好んで赤い帽子を被り、ドワーフは筋骨隆々で男は髭を生やし、ホビットは少しずんぐりしてて魔法に精通してる。

ホビットも魔法種族だから感覚的に魔法を操れるけど、探究心が強くて魔法も学問として捉えているわ。

だから、魔導士ギルドでは、人間族だけで無くホビットもたくさん見掛けるの。

「そうなのか。しかし、君は違う可能性を考えているんだね。」

「えぇ、もっと一般的な可能性があるのよ。一般的と言うと語弊があるけど、魔導研究の行き着く先として、有名な事例がひとつある。それが、アンデッドへの転生。所謂リッチよ。」

リッチと言うのは、主に暗黒魔法を極めた魔導士が、永遠の命を求めて儀式によって至る、ひとつの答え。

肉の体は失い骨だけになっちゃうんだけど、負の生命エネルギーにより不老不死となる。

まぁ、不老不死とは言っても、正の生命力から負の生命力に切り替わっただけで、間違っても不死身になれる訳じゃ無いわ。

私自身、もっと良い不老不死の法を見出せなかった時の保険として、負の生命への転生の秘法は研究してた。

簡単に言うと、リッチは一番お手軽で、骨だけになっちゃうから肉体的な強さを失い、魔導追及のみに特化した転生と言えるわね。

一番お手軽とは言ったけど、リッチへの転生の秘法ですら、人間族の伝説の魔導士が生涯を掛けて至れるかどうかの秘法中の秘法。

さらにその先もあって、上手く行けばヴァンパイアの真祖に転生出来る秘法もある。

元が人間だけに、ヴァンパイアとして生まれ付いたヴェルスターチのような本物の真祖には劣るけど、レッサーヴァンパイアでは無く本物の真祖ではあるので、人間族から見れば偉大な存在への転生ね。

でも、さらに上もあって、究極の転生の秘法を用いれば、ノーライフキングへと転生出来る。

ノーライフキングは伝説上の存在で、強靭な肉体と強大な魔力を併せ持ち、ヴァンパイアのような明確な弱点も持ち合わせない。

実態は知られていないけど、あらゆる不死者たちの王とも呼べる存在だから、ノーライフキング。

……一応、私はノーライフキングへの転生の秘法は確保してたわ。

俺流不老不死が手に入ったから、わざわざアンデッドにはならなかったけど。

「まぁ、実際どうなのかは判らないけど、仮に相手がリッチなら簡単に見付かるんじゃないかと思って。私のアストラル感知の精度は高いし、相手がアンデッドなら目立つでしょ。」

「……それじゃあ、ルージュちゃんが倒してくれるの?その迷惑な魔導士さん。」

「えぇ、やり残しはすっきり片付けておきたいの。……私がアーデルヴァイトを去る前に……。」

「え!?それってどう言う……。」

クリスティーナの問い掛けに、私は微笑で答えるのみ。

闇の神の仕事を見届けなくちゃならないから、すぐに、って話じゃ無いからね。

取り敢えず、迷惑魔導士にはけじめを付けて貰いましょう。


5


私がミシティア公国を訪れたあの頃、この国は宗主国からの独立を考えていて、国に余裕は無かった。

その後、宗主国からの独立は叶ったものの、国土がそれほど豊かでは無く、戦争によって国力の低下を招くよりはと、宗主国側が公国側に見切りを付けたに過ぎない。

勇者クリスに頼ったのも、兵力に余裕が無かった上、財力にも余裕が無かったから。

クリスティーナは、金銭的な報酬目当てで、動いたりはしないもの。

公国は傭兵を募る事すら出来無い状態だったから、勇者クリスにすがった。

では、何故公国はそんなに貧しいのか。

隣国との国境の多くが山によって遮られており、国土の多くが山がちな地形で、農耕地に適した土地に限りがある。

良質な野生馬が多く暮らす為、軍用馬が経済を支えているけど、自国防衛の為の兵力を養う為には、全てを輸出に回す事も出来無い。

結局、独立を果たした後も宗主国に助力を願い、公王の人脈で様々な国から支えて貰い、どうにか今日まで存続して来た国だった。

そんな自転車操業の国に、定期的な大型モンスターの出現は、致命傷にもなりかねない痛恨事。

現在、頼れる勇者もいなくなり、神々の慟哭で出現したモンスターは、そのまま放置されてる、って話。

シロも言ってたけど、出現するのは“おかしな”モンスターばかり。

あの時、私が……アヴァドラスが喰った蛙も、あの場所から動かずマーマンを産んでは食べ、マーマンも蛙に縛られて余所へは行けず、放置してても多分それ以上の被害は出なかったわね。

行動がおかしいモンスターだから、公国は助かってると言えそうね。

それにしても、あの時出現したモンスターは、公国中にバラけてた。

もしかしたら、件のリッチの研究施設って、どこか一か所にだけある訳じゃ無いのかも。

私の拠点も世界中にあるし、リッチの施設も公国中にいくつもあるのかも知れないわ。

……まぁ、良いわ。そこまで急ぐ旅で無し。

街々を巡りながら、アンデッドの気配を探ってみましょう。

その内どこかで、感知に引っ掛かるでしょ。


私はまず、公国の北に位置するメンデの街へと転移してみた。

ここは、過日私が……アヴァドラスが蛙を喰ったあの街で、訪れた事があるから転移が可能。

あの時、すぐには街の警戒態勢が解けず、2週間ほどしか名物のパンを味わえなかったわ。

もちろん、これだけの年月が経ってたら、人間族の街ではもう同じ職人なんていないんだけど、まだ街はパンの街だった。

もう食事は必要無い私だけど、是非もう一度この街のパンを味わってみたかったから、ついこの街を選んじゃった。

あ、もちろん、あの時蛙が出現したんだから、リッチの拠点のひとつが近くにあるかも知れない。そう言う理由もあるわよ。

でも、美味しいクロワッサンが見付かると良いな。

私はしっとりしたものより、表面がパリッとしてるのが好みなの。

色々挟まったのも試してみたけど、クロワッサンはそのままが一番ね。

上質なバターの香りや味わいを、チョコやクリームが邪魔しちゃうのよ。

残念な事に……幸運な事に?この街の近くには、アンデッドの気配は無いわね。

あぁ、私はメンデでは霊廟を拠点に改装したから、カタコンベにゴーレムゾンビたちはいるけどね(^^;

急ぐ旅じゃ無いからもう少し……、とも思うんだけど、いけない、クリスティーナにはそこまで多くの時間が残されてる訳じゃ無いのよ。

目当てのリッチがいないんだから、さっさと次の街へ向かいましょう。


次の街は、メンデの南西に位置するダンガリアン。

ここは、クリスティーナたちと初めて出逢った鉱山の街ね。

鉱山の街だけにドワーフたちも多いんだけど、さすがにドワーフですらもう顔触れが変わってるでしょうね。

ここではすぐ鉱山へ向かい、クリスティーナたちと合流した後、ふた手に分かれて私はメンデへ向かったから、拠点も作っていない。

ほとんどダンガリアンで過ごしてないから、そもそも顔見知りなんかいないけどね。

アーデルヴァイトの鉱山では、魔法で崩落防止の補強もしてあるから、そうそう落盤事故なんて起きないわ。

でも……、私の所為で、この街の被害は大きかったみたい。

多くの鉱山が同時多発的に落盤を起こし、多くの鉱夫たちが死んだのね。

だから、こんなにもたくさんアンデッドの気配がある。

ほとんどがゴーストだけど……、あら、これって……。

この街にも、陸戦型ガ……クラーケンがいたんだから、当然拠点が近くにあった訳ね。

多くのゴースト、スケルトンに混じって、ひとつだけ桁違いの気配が見付かったわ。

私もまだ出遭った事無いし、神になった時点で人間用のスキルは私自身の能力として昇華された訳だけど、Lv.1だった鑑定はLv.1相当の能力として身に付いた訳だから未だに鑑定して詳細を知る事は出来無いんだけど、間違い無くリッチね、これ。

ヴェルスターチと比較出来るからヴァンパイアとは違うと判るし、ノーライフキングほど強く無い。

どうやら、過去に実験体たちが出現した街には、やっぱりリッチの拠点があったのね。

場所は、少し街から離れた廃坑の地下深く。

当時はまだ、アストラル感知に目覚めたばかりだったから、もしリッチが拠点に潜んでたとしても、気付か無かったかも知れないわね。

他にいくつも拠点はありそうだから、こんな場所で早々に発見出来たのはラッキーね。

もう勇者クリスが退治して回れないから、実験体の不法投棄は阻止しないと。

それじゃあ早速、迷惑リッチの顔を拝みに行くとしましょうか。

……まぁ、髑髏なんて、皆一緒に見えるかも知れないけど(^^;


元々が廃坑、しかも神々の慟哭であちこち落盤起こしてるから、坑道内は滅茶苦茶な状態ね。

これじゃあ、拠点へのまともな出入り口は、塞がってるかも知れないわ。

でも、空間感知で細かい形状まで把握出来るから、ルートなら判るわね……。

結界による空間転移だと、転移先の瓦礫を崩して再度落盤を誘発しかねない。

ここは神の力を使いましょう。

アストラル体なら、物質を透過して進む事が出来る。

つまり、物質体からアストラル体で抜け出して、崩れた場所や瓦礫を通り抜け、先に進んでから物質体を招喚して入り直す。と言う過程を飛ばして結果を発現する。

私は、目の前にある崩れた梁だった木材や土砂などをそのまま通り抜けて、物質体のまま何にも遮られずに歩を進めた。

滅茶苦茶に方々崩れて塞がった通路を進み、土砂に埋もれた隠された入り口も素通りし、比較的被害の少ない拠点内へと侵入。

……あれ?出入り口まで塞がってて、リッチはどうやって出入りしてるのかしら?

骸骨とは言え、ゴーストとは違って物質体を残してるんだから、万が一を考えれば転移なんて普通しないわよね。

私だって、かなり長い事、物質体のままの転移なんて避けてたわ。

他に、埋もれていない出入り口があるのか、それとも、安全に行き来出来るように特定座標だけで使用出来るテレポーターでも仕込んでいるのか。

当然、私みたいに、崩落して塞がった坑道をそのまま素通りして歩いて来る、なんて事は、リッチ風情に出来る芸当では無いし。

私ですら、彼と一体化する前なら、他の方法を考えたわ。

……まぁ、良いでしょ。直接聞けば早いわ。

隠し階段を下りると、そこは石造りのカタコンベのようになっていて、灯りも一切無くじめじめしていて、いかにもアンデッドが出そうな雰囲気の場所。

天井はかなり高くて、カタコンベの幅も広めに取ってあるから、件の大型モンスターなんかがいても不思議は無いわね。

……人の事言えないけど、どうしてアンデッドと言うと、こう言う雰囲気を演出しちゃうんだろう。

普段研究して、生活だってするんだから、もっと快適空間にしちゃった方が実用的なのよね。

……でも、リッチの場合、もう食事も睡眠も必要無いから、生活の利便性なんかどうでも良いのか。

私は元々人間だから、そう言う肉体的、俗物的楽しみは失いたく無かった。

それもあって、いよいよ切羽詰まってアンデッドに転生せざるを得なくなっても、リッチなんて御免だと思ったのよね。

ヴァンパイアなら血の渇きを癒すのも快感らしいし、食事やお酒も楽しめる。

ノーライフキングとなれば、必要が無いだけで人間とほぼ変わらない。

格こそ違えど、今の私と似たような感じかしら。

さっき見付けたクロワッサン、美味しかったわね。

必要無いからって食べずにいると舌が鈍りそうだから、これからもちゃんと美味しい物を食べなくちゃ。


この拠点の大まかな構造は、隠し階段から西方向に高さ10m、幅3mほどの通路が伸びていて、そこから南北にいくつも通路が分かれ、その先に大きな部屋がある。

通路の行き止まりにも部屋があり、そこが研究室でしょうね。リッチの気配があるわ。

南北にいくつかある部屋には、数体のモンスターの気配。

多分キメラ(合成魔獣)だから、気配だけじゃ種類までは判らないわね。

直接地上に通じてそうな場所は無いから、普通に考えれば実験体が逃げ出すような事は無さそうだけど……。

やっぱり、意図的に外に棄てた、って事かしら。

それにしても……、反応が無いわね。

私は今、ステルスは発動していない。

力や神の気は抑えてるけど、ステルスを発動していない以上、普通に感知に引っ掛かるはずだけど。

自分で出入りするし、ちゃんと出入り口は隠してあるから、罠の類が無いのは良いとして、侵入者への警戒くらいするもんよね。

リッチの癖に……って、そうね。私から見るからそう思っちゃうけど、必死に努力してリッチに転生したら、自分は強い!って慢心くらいするかな。

踏ん反り返りながら、私が部屋に入って来るのを、待ち構えてるのかも。

そう思って両開きの扉を開け放ち、さあ来い、と身構えてみれば、果たしてそこには、重そうな本棚の下敷きになって、動けないでいる骨が一体見付かったのだった(^^;


6


部屋の中は、本や実験器具が散乱していて、まるで泥棒に入られた後みたい。

いいえ……大地震の後、ね。

この部屋は、きっと神々の慟哭で部屋中荷物が散乱して、そのままになってるのね。

それもそのはず。後片付けするはずの主が、倒れた本棚の下敷きになって、ずっと身動き取れないでいたんだもの。

「はっ?!……だ、誰だ?どうやって我輩の研究室へ……。いや、そんな事はどうでも良い!助けてくれ。この本棚を退けてくれ!」

カタカタと音を立てて、されこうべが助けを求めて来る。

私はコツコツとヒールを響かせ、彼を押し潰してる重厚で巨大な本棚の前まで歩いて行き、そこに腰掛け足を組んだ。

「こ、これ!何をするか。お前が乗ったら、余計に重たいであろう!」

「ねぇ、リッチさん。本当に重たいの?確かに大きくて立派な本棚だけど、貴方、こんな物も動かせないのかしら。」

リッチに倒れ掛かった本棚は、黒檀で作られた年代物で、5mを超すほどの高さがある。

そんな重い本棚が部屋の中には5つあって、その全てが倒れているんだから、神々の慟哭って本当に凄く揺れたのね。

本棚は裏側に倒れているから、残った本たちがさらに重さを増す原因になってるけど……それは普通の人間にとっての話よ。

この子はリッチだし、私たちには魔法があるわ。

いくらでも、動かす方法なんてありそうなものだけど。

「み、見て判らんのか!動かせるものなら、とっくにここから脱出しておるわ!」

なるほど。やっぱり神々の慟哭からずっと、ここで身動き取れずにいたんだ(^^;

「これだけ大きな黒檀の本棚なら、数百kgくらいあるかしら。力で持ち上げる……のは無理か。私より細腕だもんね。」

リッチは肉の体を失ってるから、当然筋肉なんて無い。

その骨の体は、魔力が動かしてる。

まぁ、同じ細腕でも、私はこれくらい力だけで持ち上げられるけどね。

ちなみに、そんな細っちい骨が、これほどの重量物に押し潰されていないのは、何だかんだ言ってリッチは高位のアンデッド、と言う事よ。

リッチも、そのアストラルボディの方が本体だから、物理攻撃無効なの。

魔法の掛かっていない武器で斬り付けても、一切ダメージは通らないわ。

もちろん、本棚に攻撃用の魔法なんて付与しないから、数百kg、いいえ、その倒れ掛かる勢いも考えれば、数t、数十tもの衝撃があってもおかしく無いけど、その衝撃はリッチの体に全て吸収されちゃう。

だから、床も凹んでいないし、倒れた衝撃で本棚も壊れていない。

その結果、本棚と床に挟まれて、身動き取れない骸骨と言う、世にも奇妙な光景が完成した訳ね(^^;

「そもそも、こんな重い本棚、どうやって搬入したの?」

「ぬ?それは、物質招喚に決まっておろう。生前から使っておったお気に入りだからな。魔法で運び込んだのだ。」

「……招喚出来るなら逆に……、無理か。この世界にはバシルーラなんて無いし。」

「ばし……?何の事だ。」

「あぁ、気にしないで。こっちの話。それじゃあ念動は?リッチなら、念動の魔法くらい使えるでしょ。」

「……無茶を言うで無い。念動で重い物を動かすには、その分多くのMPを消費するのだ。こんな重い物を動かす念動など、この世の誰にも使えぬわ。素人め!」

はは、そう言えばそうね。

私くらい魔力が高いと、象だって簡単に空を飛ばせるから、重い物でも簡単に動かせると思い込んでたわ。

念動ってのは、本来そんなに強い力は出せない。

念動だけで人間を握り潰せる、私の方が異常なのよね。

「……それじゃあ荷物運搬用のゴーレムを……荷物運搬!ねぇ、貴方、レビテーション使えないの?あれだったら、どんなに重い物でも簡単に移動させられるじゃない。」

「……、……、……え……。」

されこうべの表情なんて判らないはずだけど、一瞬青褪め、しばらく黙想、何かを発見し、パァッと明るくなった……気がしたわ。

レビテーションなんて覚えてなくて、スキルツリーを確認してみたら、すぐにも修得出来るくらいスキルポイントが余ってて、これで助かる!……と言った感じかしら(^∀^;

「……レ、レビテーション……。」

リッチが恐る恐る魔法を発動すると、腰掛けた私ごと、本棚がリッチの体から数cm浮き上がった。

静々と本棚の下から抜け出し、ローブに付いた10年分の埃を払うリッチを横目に、本棚から降りた私はその本棚を元々あったであろう場所に立てて置き直す。

自重が重く安定性の高い形もしているので、普通だったら倒れるような代物じゃ無いわね。

しかし……、まぁ、リッチに転生出来るほどの魔導士だったなら、雑務は使用人に任せたり、ゴーレムに任せたりして、自分で重い物の持ち運びなんてしないわね。

落とし穴避けに使うのは、冒険者として研究費を工面する魔導士くらいで、元々研究資金に困らないような魔導士だったなら、レビテーションなんて……。

はぁ、これもスキル頼みで、直接役立ちそうな魔法しか覚えないのがいけないのよ。

レビテーションなんて、そんなに覚えるの難しい魔法じゃ無いのに(-ω-)

「ん、おほん!世話になったな、人間。お礼に、我輩の研究室に勝手に侵入した事には、目を瞑ってやっても良いぞ。」

おーおー、随分な事になってた割りに、随分な態度を取るものね。

やっぱり、リッチに転生出来た自分は凄い、と驕り高ぶってるタイプかー。

そう思って彼を見やると、私はそこに意外なものを発見する。

「あ……貴方、その姿……、ま、まさか……。いいえ、そんな事普通無いわよね。だったら、もしかして……。」

「ふふ……、今頃我輩の偉大さに気が付いたのか。そう。我輩こそ、かの王国にてその名を轟かせし伝説の魔導士にして、秘中の秘、転生の秘法によって死すら克服せし大魔導士、マーマドール=レジ=カントスその人である!」

「いや、そんな人知らないけど、貴方、その姿、その身長!もしかして、もしかして。」

目の前にいたのは、骸骨の体に魔導士が良く着るような赤黒いローブを纏った、私の胸ほどの身長しか無いリッチだった。

「貴方、もしかして人間じゃ無くて、もしかしてホビット!?」

踏ん反り返ってこちらを見上げるそのリッチは。

「だから言っておろう。これだから、短命種と言うやつは……。良いか。我輩こそ、かのホビット王国リヤマンテトの大魔導士、マーマドール=レジ=カントスである!」


もしかしたら、ホビットの魔導士かも知れない。でも多分、リッチだと思う。

そこまでは考えたし、当たってもいた。でも、答えはさらに斜め上だった訳ね。

ホビットのリッチ。さすがに予想外だったわ。

「貴方、ここ何百年も、定期的におかしな実験体を外に棄ててたでしょ。」

私は、部屋が荒れ放題なのが気になったので、話しながら他の本棚も元に戻して行く。

「最初は、どこかにおかしな実験をする魔導士がいそうだけど、その内死ぬから放っておこうと思ったのよ。」

ちなみに、リッチ……マーマドールの上に乗ってた本棚以外、当然レビテーションなんか掛かっていない。

それでも、私は片手で軽く持ち上げて、ひとつひとつ元々あったであろう場所へ立てて行く。

散乱した本の方は、後でマーマドールが片付けるでしょ。

「でも、いくら待っても実験体は出没し続ける。もしかしたら、その魔導士は人間じゃ無くてホビットなのかしら。いいえ、普通に考えればリッチよね。」

私が本棚を片付けるのを、最初は何の気無しに眺めていたマーマドールだったけど、その表情が見る見る青褪めて行く。

ふふ……、気付いたかしら。魔法も使わず素手でこんな事してる意味。

「で、実際にリッチだった訳だけど、まさかホビットのリッチだったとはね。さすがに驚いたわ。」

「……お、お前は一体何者……、いや、何なのだ?!……Lv.40の勇者……だと?!な、何故そんな化け物が我輩の研究室へ……。」

あら、どうやら鑑定したようね。

力さえ抑えておけば、人間だった頃のステータスが表示されるみたい。

「ねぇねぇ、私のステータスってどう見えてるの?種族は?」

ちょっと興味あるから、つい聞いちゃった。

「え?……どう言う意味だ……人間……じゃ無いのか!?」

ふむ、ちゃんと種族も人間って表示されてるのね。

「まぁ、良いわ。私が何故、ここへ来たかだったわね。迷惑なのよ、あんな実験体を野に放たれるの。もう、実験体を倒せる勇者もいないんだから。だから止めさせる為に来たのよ。」

ごくり、とマーマドールが生唾を呑んだ……ような気がした。

そして、後退りして行く。

「わ、我輩を、退治しに来たと言う訳か……。」

私は、マーマドールの背後にピントを合わせて、短距離空間転移を発動。

彼の背後から声を掛ける。

「そうとは限らないわよ。」

「えひゃいっ?!」と驚き、振り返りざま足をもつれさせるマーマドール。

「ど、どどどどど……。」

「ただ倒してお終い、と言うつもりなら、貴方が身動き取れない内に倒してるわよ。」

「そそそそ、……それもそう……であるか……。」

「すぐに殺さない理由はいくつかあるけど、ひとつは……その気になればいつでも殺せるから。」

「ひぃっ~!!」と腰を抜かすマーマドール。

……この子、多分Lv.的には20台ね。

そこまでLv.高く無いのに転生出来たと考えれば凄い事だけど、それってつまり、戦闘的な魔導士じゃ無くて、研究畑の魔導士だったと言う事でしょうね。

随分な態度だったけど、自分が強く無い事くらい、ちゃんと解ってるみたい。

「ふたつ。実験体で迷惑掛けるのを止めてくれるなら、無理に殺す必要無いでしょ。こう言う言い方は気に障るかも知れないけど、いつでも殺せるような相手は、悪ささえしなければどうでも良い程度の存在、って事。」

「ぐ、ぐぬぬ……。」と悔しがってるけど、反論しないで言葉を呑み込んでるって事は、それが事実だと言う事は認めてる、って事ね。

「みっつ。これが一番の理由かな。単なる知的好奇心。貴方は面白いわ。色々お話聞いてみたいの。殺しちゃったら、お話出来無いでしょ。」


「わ、我輩は、ホビット族の国家、リヤマンテト王国で王宮魔導士を務めておった、マーマドール=レジ=カントスと申す者……だった者である。」

あの後少し部屋を片付けて、私たちは机を挟んで向かい合うようにして椅子に腰掛け、改めて話を始めたわ。

「ごめんなさい。立ち寄った事はあるけど、貴方の国についてはそんなに詳しく無いのよ。どんな国なの?ホビット王国って。」

「そ、そうか。まぁ、仕方あるまい。今の国王は……、まだ変わっていなければの話だが、魔導研究を人間族に盗まれるのを嫌い、国を閉ざすほどでは無いが、どちらかと言えば閉鎖的な考え方をしておった。少なくとも、他国の魔導士ギルドとの交流は無かったのう。」

「へぇ、そうだったんだ。国へ立ち寄ったあの頃、まだ私盗賊ギルドと冒険者ギルドにしか顔を出してなかったから、そこまで閉鎖的には感じなかったわ。」

「ふむ、盗賊、そして冒険者か。どちらもホビットにとっては苦手分野だ。そこいらはむしろ他国の協力を仰いでいたのやも知れん。」

「ホビット王国って、代々そう言う方針なの?」

「いいや、時の国王の方針次第だ。我が国では王は世襲では無い。魔導王国としてその頂点に立つは最高の魔導士たれ。その考え方から、王が引退したり死亡した際、最高評議会で投票が行われ、魔導研究において多大な功績を収めた者の中から次の王が選ばれるのだ。」

ふ~ん、何だか王国って言うより、共産国の独裁政治に近いのかしら。

王の方針で国の方針まで変わるみたいだし。

「基本的に魔導士ばかりの我々だが、魔導の才に恵まれなかった者は商売に精を出す傾向がある。そうなると、評議員たちは有力な商人と繋がりを持つ者ほど力を持つようになり、王の選出にも金が絡むようになる。結局、最高の魔導士が選ばれる事は無くなった。」

「……それで、王に選ばれる目が無くなった貴方は、リッチとなって国を出た訳?」

「ぐっ……、そうだ。我輩は根っからの魔導研究者である。錬金術などでは無く、魔導具やキメラの研究を追求し、成果で得た利益は全てまた研究に回す。議員の買収など思いも寄らぬ事よ。」

ここで言う錬金術は、卑金属から貴金属を精錬してかねを生む学問と言う意味ね。

分類としては、魔導具の製作やキメラ製造も、アルケミーの範疇に入るわ。

「そう、元々キメラの研究してたんだ。……そう言えば、あの時倒したランドクラーケンって、確かLv.42もあったわよね。Lv.なんて目安に過ぎないけど、貴方、良くあんな化け物創れたものね。」

「何だとっ?!きさ……お、お前があれを倒したのか!」

「まぁ、一応止めを刺したのは私。勇者クリスと一緒に戦ったのよ。」

「ぬぅ、そうか……。勇者クリスか、なるほど。しかし、よくもあのような化け物を……。」

「……その様子だと、貴方ランドクラーケンを持て余してたから棄てたのね。」

「ぬぅー、仕方あるまい。あのような化け物、我輩では御し切れぬわ。」

「そんなもの、どうやって創ったのよ。」

「そ、それは……。」

「……気付いてないかも知れないから言っておくけど、私、確かに盗賊だけど、魔導士でもあるのよ。多分、貴方なんかよりずっと強い魔導士。」

一瞬腰を浮かし掛けてから座り直し、視線を外すもちらちらとこちらを窺い見て、観念したように居住まいを正すホビットリッチ。

「あ~……、キメラと言うものは、魔獣同士を掛け合わせて創られるのはご存知であろう。」

そう。通常キメラ、合成魔獣は、2体以上の魔獣を掛け合わせ、それぞれが持つ特異能力を併せ持ったさらに強い魔獣を生み出すアルケミー。

当然、強いキメラを生み出す為には、強い魔獣を素材として集めなければならないわ。

「貴方は研究畑だったみたいだし、王宮魔導士の頃なら業者から買い集める事も出来たでしょうけど、リッチとなってからは中々強い魔獣なんて集められないはずよね。」

「むー、悔しいがその通り。間違っても、我輩自らクラーケンなんぞ捕まえては来られぬ。」

「それじゃあ、益々意味が解らないわ。」

「……魔獣以外を掛け合わせる方法は知っておるか。」

「……私の専門は暗黒魔法でもあるのよ。人間と魔獣を掛け合わせて、知能の高い厄介なキメラを創る邪法だったら私にも出来るけど。」

ガタッ、と思わず椅子から立ち上がるホビットリッチ。

「な、何と恐ろしい。お前は暗黒魔導士であったか……。」

……リッチに言われてもね(^^;

「ねぇ、キメラはともかく、転生の秘法はれっきとした暗黒魔法じゃない。貴方に言われたく無いわね。」

「……そ、そうだな。今や我輩も、暗黒魔導士であったか……。」

しょんぼりと座り直すホビットリッチ。

小っちゃいから、思わず可愛らしく感じちゃうわ。

「だがしかし、そのような邪法とは別の話だ。まぁ、人間とも掛け合わせられると言う事は、魔獣では無い普通の動物でも合成は出来ると言う事でな。我輩の研究は、主に弱い魔獣同士の組み合わせで強い魔獣を創る事と、魔獣と動物を掛け合わせて強い魔獣を創り出す事だったのだ。」

……メガテンの悪魔合体みたいなものかな。

つまり、狙うのは真っ当な合成結果では無く……。

「突然変異、大失敗、イレギュラー、何かしら予測不能な計算外の結果。そんな偶然の産物に期待した実験、って事ね。」

「……まぁ、そう言う事だな。法則通りの結果を積み重ね、それとは違うおかしな結果を示す組み合わせを意図的に繰り返し、稀にとんでもないものが生まれたりする。そんな法則破りの組み合わせこそ見出せても、それによる結果は予測不能であるから、我輩自身希少結果の再現は不可能。我ながら、研究としてはどうかと思うが……。」

「どうかと思うけど、とても面白くもある。それじゃあ、ランドクラーケンももう一度創れたりはしないんだ。」

「うむ。あれはいくつか複雑に組み合わせはしたものの、一応狙いに近くはあったぞ。何しろ、魔獣とは別に、近くの街から調達して来た、食材の烏賊を混ぜた結果だからな。」

「……烏賊……。クラーケンじゃ無くて烏賊。しかも、新鮮かも知れないけど、生きてる烏賊じゃ無くて活きの良い烏賊って訳?……ねぇ、もしかして、土の精霊魔法を組み合わせてる?」

「……お前が我輩より強い魔導士と言うのは、はったりでは無いようだな。精霊魔法にも通じておるのか。」

「ふふ、悪戯精霊については、人間族も詳しいのよ。」

そう。そんな馬鹿げた変異は、精霊の悪戯って考えた方が納得が行くわ。

毎回同じ結果にならないのも、精霊たちの遊び心。

でも、意図的に精霊に悪戯させられる組み合わせを見付けたって事だから、それはそれで充分素晴らしい研究成果ね。

「それで。キメラの研究って、生前から続けてたから今も続けてるの?何か目的はあるの?」

「……目的?……そうだな。そう言えば、キメラを創りスポンサーに引き渡し、それを元手にさらにキメラを創り……と繰り返して来た訳だが、もう引き渡し相手などおらぬのだな。我輩より強いキメラなぞ言う事聞かせられないから邪魔なだけだし……、我輩は何故、キメラなんぞを創っておるのか。」

研究の為に研究を重ね、いつしか研究そのものが目的にすり替わってしまう。

ありがちな話だけど、それが不老不死の存在による永劫に続く研究となると、あまりに膨大なる時間の無駄。

彼のキメラは、迷惑の度合いも大きいし。

「それじゃあ、迷惑だからキメラ製造はお終い。魔導研究そのものを取り上げるつもりは無いけど、自分の手に余るキメラなんて、もう創らないで頂戴ね。」


7


「……、……、……。」

「どうかした?」

「いや、本当に我輩を見逃してくれるのだな。……解っておるが、それだけ我輩が取るに足らぬ存在と言う事だな。」

しょんぼり小リッチは、本当に可愛らしいわね。

「確かにその通りだけど、もうひとつ言ったでしょ。貴方は面白い。私も魔導士の端くれだから、貴方の研究、実験には大いに興味があるもの。……それにね。」

「それに?」

「魔導士の本質は、その戦闘力の高さには無いわ。叡智と言うものは、戦闘とは違う局面で人々を助けてくれる。Lv.や強さなんて、魔導士にとってはついでよ、ついで。」

「さ、然りとて、強ければ我輩は魔獣を制御出来ようし、お前をこうして畏れる事も無い。我輩は長い人生を捧げて、ついに至高の存在たるリッチと成りし者。本当であれば、何者をも平伏せさせ得る強者であったはず……。」

……致命的に真実が見えていないけど、ランダム性に頼らず完全制御下で魔獣合成に成功すれば、アルケミストが強かろうが弱かろうが魔獣は言う事を聞くものだし、リッチと化した時点で成長はむしろ鈍化、場合によっては止まってしまうし、どこまで強くなっても私には敵わない。

そして、残念だけど、転生の秘法にはさらなる先があって、リッチを至高の存在と認識してる時点で志が低いわよ。でもね……。

「強さを求めるなら、体を捨てるのは間違いでしょ。リッチになったんだから、魔導を極めれば良いだけ。そして、魔導を極めるのなら、研究に勤しむのは間違いじゃ無いわ。」

「そ……そうかのう……。」

「……私は以前、死に掛けた時に、研究畑の弟子に命を救われた事があるわ。その子は人々を救うと言う使命もあったから、戦闘はからっきし。でも、その子がいなければ、私はその時死んでたわ。」

ソウルイーターに背中を斬られた時、オーガンがいなければ私の二度目の人生は早々に終わってた。

……ライアン……との幸せな日々も無かったかと思うと、あの子には感謝してもし切れないわね。

「私ひとりでは気付け無かった事も多い。弟子や共同研究者の発想もあったからこそ、今の私があるわ。」

オーガンやキャシーがいたからこそ、気付けた事、出来た事、色々あるのよ。

実践に限れば誰も私に敵わない、私こそこの世で一番の魔導士と言って過言では無いと思うけど、そんな私でも気付け無い事はいくらでもある。

まぁ、確かに、今の私、となると、神の知識すらあるからちょっと次元が違っちゃうけど(^^;

「だから、私は貴方も尊敬に値する魔導士だと思うのよ。敵としては取るに足らない相手だけど、同じ魔導研究者としては一目置く価値がある。それじゃあ、ご不満かしら。」

「いや……いやいやいやいや。そうか……そう言ってくれるのか。誰も……誰も我輩の事など、認めてくれぬものと思っておったのに……。」

……王宮魔導士って言ってたけど、いつか王になろうと努力してライバルたちともしのぎを削り、でもロビー活動とか袖の下なんかに頭は回らず、その研究内容に対して正統な評価は得られず、いつしか自分を認めない者たちを見返してやろうと暗黒魔法に手を染め……。

もしかしたら、この子がリッチに転生したのって、悪魔に唆されて……だったりして。

「それで、貴方がリッチに転生した秘法って、人間がリッチに転生するのと同じ術式、儀式様式なの?」

「お、おぉ、さすが、そこに気付くのかね。我輩が見出したのも、最初は一般的な転生術でな。被検体で試してみたが、成功率は0%であった。」

今は神の価値観として心底どうでも良いけど、彼の被検体はどんな出自なのかしら。

私は善意の協力者を募ってたけど、ホビット社会の犯罪者の扱いなんか知らない。

ホビット相手でも、悪人に人権は無い、で通るのかな?

「どうやら、創り替える前の素体の状態を指定している部分があるようでな。そこを、ホビット用に改良する必要があったのだ。」

なるほど。それなら、同じ手順を踏めば、さらなる転生術探究も可能なようね。

「良し、決めた。貴方、もっと強くなりたいんでしょう?それなら、リッチよりさらに先を目指してみない?」

「……リッチより、先?……う、うむ、確かにヴァンパイアやノーライフキングの事は、我輩も知っておる。と言うより、この身となって後に知った。今更、どうにもならぬであろう。だからこそ、より強力なキメラを……とも思うておったのじゃが、身を守るどころか我輩の身が危うくなる始末……。」

「そうね。リッチからヴァンパイアに、ノーライフキングに転生するのは不可能よ。ただし、私なら貴方を、ホビットに戻す事なら出来るわよ。」

「は?……それって、どう言う……。」

リッチの体は転生したものとは言え、その骨は彼自身の骨。

骨の遺伝子からホムンクルスクローンを作成し、彼のアストラル体を龍脈の恩恵で活性化して死と言う属性を消してから、クローンボディへ押し込めオフィーリアの祝福で閉じ込める。

そうすれば、私はこの子を、蘇生させる事が出来る。

まさに、神の奇蹟って奴ね。

「貴方がさらなる転生の秘法を獲得出来たら、その時は私が力を貸してあげるわ。だから、どうせ研究するなら、もうキメラは止めて転生の秘法にしなさい。」

「……も、もちろん、それは構わぬが……。」

「うん、決定。これでもう、迷惑キメラが現れる事は無いし、貴方も研究を続けられる。私も、ホビットのリッチなんて珍しい玩具おともだちを喪わずに済む。めでたしめでたしよ。」

何と無く、マーマドールのされこうべが引きつった笑いを浮かべたような気がしたけど、気の所為ね。

後は、面倒だけど彼の拠点の場所を確認して、残ったキメラを処分しちゃいましょう。

それでこの件は、一件落着よ。


マーマドールには、私とコンタクトを取りたくなったら、バッカノス王国王都モーサントの魔導士ギルドマスター、キャスリーン・ポーラスターを訪ねるようにと言っておいた。

まぁ、リッチの姿のまま訪問したりはしないでしょうけど、キャシーには伝えておかなくちゃ。

世界樹巡りの間には、黄金樹のあるモーサントへは何度も訪れるつもりだから、それで連絡は付くでしょ。

それから、私がどうやって拠点に入り込んだかまでは伝えていないわ。

きっと、外に出ようとしたら驚くわね。

でも、あのカタコンベ調研究施設は、神々の慟哭にもびくともしない頑丈さがあるから、崩落して生き埋めになったりはしないでしょ。

少しずつ、廃坑を整備し直して、いつか自力で這い出せるはずよ。

マーマドールにはもう、寿命なんて無いんだから、時間はいくらでもあるんだもの。

一応、あの施設に残っていた分の実験体は、私が廃棄しておいた。

部屋には、中身を丸ごと外へ廃棄出来る転移魔法陣が組み込まれていたから、手に負えなくなったらあれで外に棄ててたのね。

その気になれば、あの転移魔法陣でマーマドール自身が外に出る事も出来そうだけど……、そうなると、あの子自力で戻れないわね。

まぁ、他にも拠点はあるんだから、そっちに移動すれば済む話だけど。

マーマドールの研究拠点は、ここミシティア公国内に9箇所。

ミシティア公国を拠点に選んだのは、リッチへの転生の秘法が記された古文書を発見したのが、ここミシティア公国にあった古代遺跡だったから。

今でもその遺跡は、拠点のひとつとして使ってるそうよ。

残り8つの拠点に残った廃棄物も始末しなきゃだけど、それは後でゆっくり片付けるわ。

私には、いくらでも時間がある。

一段落付いた事を、先にクリスティーナに報告しましょう。

彼女には、多くの時間は残っていないんだから……。


私は再び、ステルス状態で黄金樹へ赴き時間潰し。

神になってから……、そうね、ヨモツヒラサカに引き籠ってから、何だか時間感覚ってものが無いわ。

私は、いつクリスティーナたちを訪ねたんだっけ?

昨日の夜?それとも、何日も前?1週間は経っていないわよね。

今が朝か昼か夜かなら判るけど、時間に対する関心が驚くほど希薄だわ。

永遠を生きるのって、ただ永生きと言うだけで無く、色々ものの見え方も変わるものなのね。

私はまだ人間的な部分を残してるけど、最初から長命種、超越種として生まれ付いた者たちと人間族とでは、価値観が大きく違って当たり前ね。

判ってるようで、グラスランダーたちの気持ちもちゃんと解ってなかったのかも知れないわ。

マックス、カーソン……、私は貴方たちが幸せに生きる手助け、ちゃんと出来たのかしら。


夜を待って、もう一度クリスティーナ邸を訪ねた。

今度は、勝手に入って寝室のドアを叩く。

「こんばんは、クリスティーナ、シロ、ヨーコさん。戻って来たわよ。」

シロに支えられて、体を起こすクリスティーナ。

「お帰りなさい、ルージュちゃん。随分早かったのね。」

そうか。やっぱり、そんなに時間は経ってないのね。

「え~と、やっぱりモンスターが現れた付近に拠点があるんじゃないかと思って、まずはメンデに飛んだの。久しぶりに、美味しいパンも食べたかったから。さすがに一発で当たり、って訳には行かなかったけど、次にクリスティーナたちと初めて逢ったダンガリンへ飛んだら、そこで見付かったわ。だから、あんまり時間は掛からなかったわね。」

「そうか。あの頃は何故あんなモンスターが出現したのか原因など考えもしなかったが、君の推測通り実験体ならば、出現地点近くに研究施設があって然るべきだった訳だ。」

「でね、でね。ここからが面白いのよ。さて、そこにいたのは何だったでしょう。」

「長生きのお爺さん魔法使い!」と、ヨーコさんが元気いっぱいに答える。

「ふふ、そう、私やキャシーの事を考えれば、その可能性もあったわよね。」

「あ~、そう言えば、普通の人間じゃ死んじゃうから、ホビットだ。」

「そう、それもひとつの可能性。」

「え~と、後は何だっけ?お金持ち?」

「ヨーコさん、ちょっと発音違うわよ。rじゃ無くてl、richじゃ無くてlichの方よ。」

って、現地語だとどうなんだろ?(^^;

そもそも、日本人の私には、richもlichも同じリッチにしか聞こえないけど。

「???意味判んな~い。」

「ふふふ、駄目よ、ルージュちゃん。それは英語の話でしょ。」

そうかも知れないけど、じゃあ何でヨーコさんはお金持ちなんて勘違いしたのか(^ω^;

それにしても、今の私は全ての言語が混じっちゃってて、むしろ良く解らなくなってるわね。

闇の神が、口を使わず念話で話してたのが何故なのか、今なら何と無く判るわ。

「実はね、ホビットとリッチ、どっちも正解だったのよ。」

「どっちも正解~?余計判らないわ。」

「……君は本当に、面白いものに出遭うものだな。私も、今の今まで想像した事も無かったよ。そうか。何も転生するのは、人間ばかりとは限らない、と言う事か。」

「ふふ、そう、その通り。ホビットは人間と同じように、魔導を学問として修めるわ。その延長線上として、転生の秘法をホビット用に改良して転生した、ホビットのリッチだったのよ。」

そうして私は、マーマドールと出逢った話を、3人に聞かせたのだった。


「そう……。でも、許して仲間にしちゃうところが、貴女らしいわね、ルージュちゃん。」

「仲間?……そうかしら。」

クリスティーナにしてみたら、実験体を野に放って人々を何人も殺めた重罪人。

人じゃ無いし、永遠を生きるリッチなんだから、そのまま放置したらいつまた恐ろしい実験を始めるか判ったもんじゃ無い。

倒してしまおうと考えても、不思議じゃ無いわ。

もう勇者として、自分が人々の盾にもなれないのだし。

「やっぱり、始末した方が良かった?」

「……私が何でもひとりで抱え込むタイプだったら、そうして欲しかったところね。でも、もしまた何かあったら、シロちゃんが何とかしてくれるかも知れないし、ルージュちゃんだって放っとくつもりは無いんでしょ。だったら問題無いわ。」

「そうだな。そのリッチ、よもや君に逆らおうなどとは思うまい。その程度には強いのだろう?君が興味を引かれるくらいなんだから。」

「そうね。私の力に気付くほど賢く無いけど、あの子の性格なら研究に打ち込んで、もう悪さなんかしないと思うわ。」

確かに面白いリッチだけど、多分彼自身の魅力よりも、私の知的好奇心であの子は命拾いしたようなものね。

人間族以外の種族によるノーライフキングへの転生、ホビット族の蘇生。

神の知識を以てしても、それらは実践してみなければ判らない領分。

心の湖面に波風が立ちにくい私が、未だ興味をそそられる数少ない娯楽……娯楽って言っちゃった(^^;

「世界樹の面倒を見るのも長くなりそうだし、あの子の面倒もその間の暇潰しにはなるわ。ちゃんと見とくわね。」

「お願いね、ルージュちゃん。……一所懸命守って来たつもりだから、アーデルヴァイトは私にとっても子供同然。ルージュちゃんが見ててくれるなら、安心して旅立てるわ。」

「クリスぅ……、貴女も逝っちゃうの?」

寂しそうなヨーコさん。

「ごめんね、ヨーコちゃん。もう少ししたら、私も旅立つわ。……ルージュちゃん、私ね、決めたの。」

「決めた?」

もう時間が無い貴女が、一体何を?

「向こうに着いたら、私、ライアンちゃんを探すわ。」

「……え?」

「私ね、思うの。あのライアンちゃんが、貴女との約束、破ったり忘れたりするはず無い、って。」

私も……そう信じたい……けど。

「きっと、迷ってるのよ。ううん、もしかしたら、邪魔されてるのかも。何しろ、向こうは魔界のすぐ近くだし。だからね、ライアンちゃんを見付けて、一緒に目指すわ、ヨモツヒラサカ。」

……、……、……。

「だから、元気出してね。ライアンちゃんのついでに、私の事も待っててね。」

私の涙は、もう枯れ果てたと思ってた。

でも、頬を伝う涙が、後から後から溢れて来て止まらない。

もう、声を荒げて泣く事は無いけど、私は跪いてクリスティーナの痩せ細った胸に顔を埋めた。

ここでなら、また泣いても良いような気がした。

さすがに、もう慟哭はしないけど、静かに、静かに優しく、私の頭を撫でてくれる親友の胸で、私は涙が止まるのをずっと待った。

シロとヨーコさんも私に触れて、優しく包み込んでくれる。

私はまた、掛け替えの無い人を喪う。

それでも、私は生きて行く。

それが、神として永劫を生きる事となった、私の新しい運命だった。


第八巻につづく


あとがき


第六章は、神となり再始動、ガリギルヴァドル、ミシティア公国のおかしなモンスターたち、この3ネタだけだから短過ぎたらどうしよう。

そう思って書き始めたら、むしろボリューム増えちゃって、中々書き終わりませんでした。

細部の展開も、私自身が思ってもみない展開になっていて、キャラたちが勝手に動いてくれて嬉しいです。

今巻で、ユウは行き着くところまで行き着きました。

後は、愛しい男が待つ場所を目指すだけ。

ですがその前に、まだやらなければならない事が、恩人の愛したこの世界に残っています。

だからまだ行かない。

毎日鏡を覗きながら、世界がもう大丈夫と思えるその日まで、この世界に留まり続ける。

第八巻は、そんな新たな永い人生の中で、袖振り合う人々との束の間の邂逅を、一巻単位でエピソード化したものとなります。

そんなエピソードを、八巻、九巻、十巻……と積み重ねられたら最高なんですが、現在の予定では、八巻の後最終巻を書き上げ、その後九巻以降の発想が降りて来た時に、最終巻の後に九巻を追加する、と言う形を考えています。

理想としては、折角生まれたユウと言うキャラを使い、吸血鬼ハンターのような独立エピソードを積み重ねて行く事です。

Dほど魅力的なキャラとは言えないと思いますが、そう出来たら良いなぁ、と言う事で。


ちなみに、お気付きの方も御座りましょうが、各巻のサブタイトルにはドラマのタイトルを付けています。

一応、自分が観た事のある日本のドラマ、と言う縛りを守っています。

「僕の生きる道」は、言葉の意味として内容に即しています。

「きのう何食べた?」は、ドラマの内容が勇者クリスの正体に掛かっています。

ちなみに、原作は漫画ですが、私はドラマ版しか観ていないので、私にとってはドラマ(^^;

「神はサイコロを振らない」は魔族との邂逅を表し、「天国と地獄」はちょっとサブタイトルにはそぐわないと思って「~サイコな2人~」はカットしましたが、中身が入れ替わると言う内容に即したものです。

ここまではすんなり決まっていたので、ドラマ縛りと言うネタとして守る事にしました。

「ホーリーランド」は苦労しました。

こっちに「神はサイコロを振らない」を取っておけば良かった(^^;

最初は、「エンジェル・ハート(仮)」だったんですが、私は週刊少年ジャンプで連載中だったキャッツ・アイを読んでいた頃からの北条司ファンなので、上川隆也さんがちゃんと冴羽獠になっていたドラマ版は大好きなんですが、どうしても「エンジェル・ハート」と言えば漫画と言うイメージ。

そこで、昔観たドラマの録画DVDを引っ張り出して、「ホーリーランド」を発見。

こちらもドラマ版しか観ていないので、私の中ではドラマ。

意味は字面そのままです。

「ぼくが地球を救う」も悩みまくり、昔観たドラマの録画VHSを引っ張り出して発見。

結果、サブタイトルに引っ張られて、章題もクロ目線になりました。

「いちばん暗いのは夜明け前」は、すんなり。

ソニン主演って事で観たけど、タイトルに引っ張られたのか画面が暗過ぎて何をしているか判らないドラマ、として印象深かったので、良く覚えていたんですよ(^ω^;


まぁ、そんな馬鹿な縛りの所為で、サブタイトルには悩みます。

まだ八巻は大まかな流れが浮かんでいるだけで煮詰まっていないので、下手をすると第八巻「(仮)」のまま更新しちゃうかも(^Д^;

まだ、展開がどう転ぶか判らないんですよ。

相応しいドラマ、見付かるかなぁ。

いや、私のつまらないこだわりに過ぎないんですけどね。

むしろ、八巻よりも最終巻の方が煮詰まっているくらいなので、果たして八巻の執筆が順調に進むかどうか判りませんが、少ないながらもお付き合いして下さっている読者の方がいてくれるので、頑張って書きたいと思います。

どうか、よろしくお願いします。

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