外伝 ライアン、アスタレイ、オルヴァドル


1


ベテルムザクト司教との打ち合わせが一段落したので、僕たちは彼がアパサンから取り寄せたお茶とお菓子で、休憩を挟もうとしていた。

その時、街の人々がざわめくのが、感覚を通して伝わって来た。

何かあった。

瞬時にそう判断した僕は、押っ取り刀で駆け出した。

司教であると同時に勇者でもある僕は、王宮内においても帯剣を許されているが、盾や鎧までは携行していない。

だが、まずは何があったか確認しなければ。

そう思い駆け出したのだが、王宮を出るまでに少し状況が判明した。

クロだ。この気配には覚えがある。

彼との模擬戦の時に感じた、圧倒的な竜の気配。

その竜の気配をはっきり感じると言う事は、きっと彼は竜の姿で飛来したのだろう。

これは緊急事態だ。

聡明な彼が、周りの目を気にせず竜のままで飛来するなど、余程の事に違いない。

急がなければ。ユウはすでに駆け付けているはずだ。


王宮を出たその足で急いで屋敷へ戻ると、ユウが玄関の方へ歩き出すところだった。

何か、クロから事情を聞いて行動を開始したのだろう。

僕は足早に追い付き、ユウの横に並んだ。

「ユ……ルージュ、何があった?」

危ない危ない。ユウの名前は僕だけのものだ。

人前では気を付けないと。

「判らないわ。でも、ライアンもすぐ用意して。完全武装よ。」

僕はユウを見詰めた後、一度クロを振り返る。

あのクロが……泣いている。

「判った。」とだけ返事をし、僕はそれ以上何も聞かず、ユウの後に続いた。

あんなクロを見れば言葉は要らない。

何かがあった。だから助ける。そう言う事だね。

目指す場所は、離れに設えたエッデルコとファイファイチュチュの工房。

工房へ着くと、僕はエッデルコの下へと急いだ。

「エッデルコ、いるかい?緊急事態なんだ。」

そう声を掛けると、机にたくさんの紙を並べて、図面を引いていたエッデルコが顔を上げた。

彼は相変わらず、ドワーフにしては短い髭をしているが、徹夜続きだったのだろう。

今は少しだけ、いつもより髭が伸びていた。

「これは旦那様、丁度良いところへ。プレートアーマーの面積を減らして軽量化するとなると、下に着るチェインメイルにもう少し改良を加えたいところだ。そこでな……。」

彼は一日中、僕の為の新しい鎧について思案を巡らせている。

それはありがたいのだが、こだわりが強過ぎるあまり、作業は全く進展していない(^^;

それに、今はそれどころでは無いのだ。

「すまない、エッデルコ。その話はまたの機会だ。今は緊急事態なんだ。」

「……っと、そう言えば、そんな事を言っていましたな。何があったんです?」

「何があったかは判らない。だけど、私と妻の大事な家族が大変なんだ。すぐに出掛ける。だから、君の持参した竜の装備を貸して欲しい。」

「……仕方無い。俺の仕事が遅い所為で、新しい鎧はまだ完成図すら見えて来ない有り様だからな。俺の鍛えたドラゴンスケイルアーマーは、そこいらの鎧と比べればマシだ。悪いが、それで我慢して貰おう。」

そう言って、すぐに準備に取り掛かるエッデルコ。

しかし、謙遜が過ぎるよ、エッデルコ。

多分、君の竜鱗鎧は、この国の国宝すら凌ぐ逸品だ。

廃棄した僕のプレートメイルなんか、足元にも及ばない。

今考え得る、最高の鎧だよ。


「ライアン、準備はどう?」

そう声を掛けてユウが部屋に入って来た時、僕はエッデルコに竜鱗鎧を着せて貰っているところだった。

「もう少し掛かる。奥様の装備はそこに出してある。悪いが自分で装備してくれ。」

そう返事をしたのはエッデルコだった。

僕が着る竜鱗鎧はフルプレートアーマーなので、ひとりでは着られないし手間も掛かる。

だから、僕はじっとして、エッデルコに身を委ねていた。

それが一番早いんだ。

「良し、終わった。後、少し待ってくれ。」

ユウが自分の装備を確認している間に、エッデルコは手早く僕の支度を済ませてくれた。

その後エッデルコは、工房の一角でごそごそやり出す。

「よっ………こらせっ、と。」

エッデルコは、ラージシールドよりも少し大きな竜鱗の盾と、ロングソードよりも少し長いバスタードソードを引っ張り出して来た。

「旦那様のご要望とは食い違うが、俺が持参した中では最高の逸品だ。まぁ、精錬ミスリルのバスタードソードは羽根のように軽いから問題無いと思うが、ドラゴンスケイルシールドの方はどうだ?扱えそうか?」

そう言われたので、早速左腕一本で盾を構えてみる。

「これは……、確かにかなりの重量だね。……しかし、この盾には付呪の余裕がある。すまない、ルージュ。軽量化を頼めるかい?」

「……うん、大丈夫。任せて。」

ユウはすぐさま、軽量化の作業に取り掛かる。

ただ構えるだけなら然程問題無いけど、僕は盾を使って相手の攻撃を受け流しながら戦う。

正面から受け止めるのでは無く、力の方向を逸らして相手のバランスも崩すんだ。

その為には、繊細な取り回しが必要になる。

それを考えると、さすがに少し重い。

いや、同程度の大きさの他の盾と比べれば、驚くほど軽いんだけどね。

本当に、古代竜の鱗で作った防具は、他の防具よりも別格だ。

「すまんな、奥様、旦那様。俺の仕事がもっと早ければ、こんな半端な装備で送り出さなくて済んだのに。」

「何を言う、エッデルコ。君のお陰で、私は実力以上の力を発揮出来るだろう。本当に、君がいてくれて良かった。」

心からそう思う。

悪いが、王宮付きの鍛冶師たちでは、決して真似の出来無い素晴らしい仕事ぶりだ。

僕の言葉に、最初は照れていたエッデルコだが、すぐに表情が曇った。

「そう言って貰えるのは光栄だが、やはり半端な仕事は俺の矜持に関わる。旦那様の専用装備は、この世にふたつと並び立つ物の無い逸品に仕上げてみせよう。……だから、ちゃんと帰って来て下さいよ。」

「……あぁ、大丈夫。ちゃんと愛しい妻を護って、ふたりで帰って来るよ。」

そうだ。

何があったか判らないが、クロを助け、そしてユウと無事に帰って来る。

僕が聖騎士として修練を重ね、護りの力を身に付けたのは、愛する人たちを護る為なのだから。


2


僕たちはその後すぐに飛び立ち、クロの背中に乗って移動を開始した。

クロから聞いた話、ユウが知り合いの魔族アスタレイから聞いた話によると、アスタレイの部下のひとりが悪魔に取り憑かれ、大悪魔の降臨の為に古代竜を生贄に捧げようとクロの故郷の島へやって来て、クロのお爺さんを捕まえたと言う事だ。

こちらは、ユウの人脈もあって、クリスティーナとパートナーの古代竜シロ、アスタレイと部下のゴンドスさん、そしてもうひとりのユウの子供であり、一応僕も職務上信仰している事になる主神オルヴァドル。

人間族の勇者に古代竜、魔族、神族が揃ったのだ。

本当に、いつもユウには驚かされる。

そんなユウだから、皆もユウが指揮を執る事を承認した。

そして、ユウの采配により、僕は島へ渡りアークデーモンを倒す事になった。

本当はユウの背中を護って戦いたいけど、ユウの作戦は理に適っている。

世界の命運が懸かっているのだ、私情は禁物。

何より、悔しいが僕の実力ではユウの足手まといになりかねない。

ひとりドワーフの集落防衛に回る事となったゴンドスさんの、悔しさが僕にも良く判る。

しかし、僕の役目も重要だし、簡単な役目では無い。

気を引き締めて臨まなければ。


……壮絶な光景だった。

いざ島へ渡ってみると、空を覆い尽くさんばかりの悪魔の群れ。

これはまさに、世界の終りの光景だ。

実を言えば、僕は悪魔と戦うのは初めてだ。

神聖オルヴァドル教国内において、魔族に遭遇する事すら稀なのに、本当の悪魔など普通はお目に掛れない。

運良く僕はデビルサマナーに遭遇した事は無かったし、間違って招喚された悪魔が暴れる事態も起こらなかった。

もちろん、聖騎士としての能力には、対悪魔を想定したものも少なく無いから、実力的には悪魔と戦うのに不足は無いけど、つい気後れしそうになる。

今まで戦って来たこの世の化け物どもとは、物が違うのだ。

それがこの数である。

そんな事を考えていると、アスタレイが北へと転進するのが見えた。

……なるほど、もう近くにアークデーモンの気配があるな。

彼は、北の1体に向かって行ったのか。

そして、オルヴァドルが僕らに近付いて来る。

次は、僕の番と言う事だ。

「……死なないでね、ライアン。私は、貴方と明日も生きる為に、これから死地に向かうんだから。帰って来た時、貴方がいない世界なんて御免よ。」

ユウが語り掛けて来る。

ユウも怖いんだ。……僕がユウを喪うのが怖いのと同じように。

「……君も死ぬんじゃないぞ、ユウ。もし駄目だと思ったら私の許へ帰っておいで。最期はふたりで迎えよう。僕も、君のいない世界なんて御免だからね。」

フルプレートを着込んでいるから口付けすら交わせないけど、僕らは互いを抱き締め合う。

世界の為に戦うけど、僕らには世界より大切な者がある。

「……オルヴァドル、ライアンをお願い!」

主神オルヴァドルが強いのは認めるが、やはり漢として少し悔しい気持ちになるね。

「……うん、ママ、まかせて。ライアンさんは、絶対守ってみせるよ。」

子供に嫉妬するなんて、何て僕は器の小さい男なんだろう。

フルフェイスヘルメットに隠れて、僕はそんな小物じみた事を考えながら、オルヴァドルの掌に乗り死地へと出陣したのだった。


僕とオルヴァドルが南下を始めてすぐ、ユウはクロの背から飛び立って、クロとともに西へと飛び去った。

彼の役目の方がとても大変で、当然危険も伴う。

僕の方が弱く、この先戦う事となるネームドが如何に強くとも、降臨する大悪魔と相対す事もあり得る彼の方が心配だ。

こう言う時に力になれないなんて、僕は不甲斐無い夫だな。

せめて、与えられた役目は全うしなくては。

まずは、1体目のアークデーモン。もう100mほどの距離だ。

「オルヴァドル!もう降ろしてくれて良い。君も自分の役目を果たしてくれ。」

すると、オルヴァドルは高度を下げて行き「わかった。ライアンさんも気をつけてね。」と返事をした後、ふわりと掌を開く。

かなりスピードも出ていたので、フルプレートのまま着地をするのは難しかったが、丁度良いところにグレーターデーモンがいて、そいつをクッション代わりに上手く着地出来た。

オルヴァドルが、それも見越して降ろしてくれたようだ。

本当に、彼は立派な主神様なのだな。

僕はそのまま走り出し、進路上のレッサー、グレーターを数体斬り伏せた後、アークデーモンを再び視界に捉えた。

レッサーデーモンは山羊面で痩身の裸の男、グレーターデーモンは山羊面だが巨躯であり、裸だが毛むくじゃらの男、と言った風貌だ。

アークデーモンの見た目はグレーターとそう変わり無いが、煌びやかと見える甲冑を身に纏っている。

一見すると魔族軍の将軍とも思える出で立ちで、多くのアークデーモンが似た姿の無個性な存在と言われているが、自らの存在を誇示する為のその煌びやかな姿が、悪魔など見慣れていない僕には充分個性的に見える。

そのアークデーモンの足元からは、今この時も、レッサーが数体魔界より這い出そうとしている。

「神の奇跡、輝玉となりて、敵討ちし力、七つの軌跡が敵を追いて、今ここに顕現せしむる。ホーリーオーブ!」

僕は走りながら、素早くホーリーオーブを発動する。

七方に発した光玉は、すぐさま軌道を変えて進路上の敵を討ち、さらに這い出そうとしたレッサーを討ち、アークデーモンへの一本道を切り開く。

すかさずシールドバッシュ(突進して盾を敵に叩き付ける戦士系スキル)を発動し、一気に間合いを詰めた。

今回は、盾で攻撃する事が目的では無い。

スキル特性としてのダッシュにより間合いを詰め、少し大きめの盾により僕より長身のアークデーモンから自分の姿を隠す。

そのまま盾だけ残し、死角から背後へ回り込むと、己を誇示する為に華美に彩られた造りの甘い鎧の隙間に、渾身の力を籠めて精錬ミスリルのバスタードソードを突き刺した。

アークデーモンたちは受肉しているので、これだけでも充分効果はあるのだが、そこに追撃を加える。

「神の奇跡、邪悪を滅ぼす力、今この手に宿りて、ともに敵を討ち果たさん。ホーリーウェポン!」

バスタードソードに乗せた僕の闘気と魔力に、さらに聖なる力を上乗せする。

「グォゥアッ!」と、アークデーモンは刺された時以上の苦鳴を上げる。

やはり悪魔には、神の力が効果的だ。

僕はそのまま、乱暴に刃をねじると、アークデーモンの体内から肩口へと逆しまに斬り上げる。

その傷口から、塵と化して行くアークデーモン。

良し、これで1体目。

がららん、と音を立てて転がったのは竜鱗の盾だけで、煌びやかだった甲冑はアークデーモンとともに塵と化す。

この甲冑も、受肉したアークデーモン自身の体だった訳だな。

わざわざこんな目立つ格好をして存在を誇示する辺り、己の存在を隠そうとする狡猾でより強力なネームド悪魔よりも、やはり格が劣るようだ。

しかし次の相手は、そんなアークデーモンでありながら、ネームドにも引けを取らない力を持つ規格外の悪魔。

それを、僕は抑え込まないといけない。

今度は、こうも簡単に事は運ぶまい。

僕が盾役を担い上手く注意を引き、アスタレイに攻撃の機会を作るのが良いだろう。

さぁ、急いでアスタレイと合流しよう。

僕らの戦いは、次が本番だ。


3


ふざけやがって。

才能があって良く勉強もしている若い純魔族だからこそ、目を掛けて部下として傍にも置き、裏の仕事にも就かせたアストンヘイトンが、選りにも選って悪魔なんかに取り憑かれた。

しかも、才気溢れる純魔族を欺けるほどの悪魔だからこそ、その目的まで尋常じゃ無いと来た。

大悪魔の降臨だと!?

しかも、その候補がこの面々で……そして生贄は古代竜だと?

この悪魔の目的は、魔王降臨か!?

だが、一番ふざけているのは、こいつだ、こいつ。

久しぶりの再会を、俺は状況も忘れて思わず喜びそうになったが、冗談では無い。

俺はあの後、研鑽を続けて確実に強くなったと自負している。

永く生きて来て、もうこれ以上上は望めないと思い込んでいたのに、こいつと出逢った事でさらなる高みへ至る事が出来た。

感謝してもし切れないが、だからこそ、強くなった力を拳に込めて、感謝の気持ちとして打ち込んでやろうと思っていたのに……オルヴァの勇者は化け物か?!

……いいや、こいつが異常なんだ。

俺は今まで、ほぼ全てのオルヴァの勇者をこの目で見て来た。

どうやら、アーデルヴァイトと奴らの世界では、時間の流れに違いがある。

1万年前の勇者たちは、アーデルヴァイトの文明と然程変わり無い世界から来たようだった。

その世界の文明は同程度で、しかし魔法が存在しない為、最初の勇者たちはアーデルヴァイトで手に入れた力に酔っていた。

良くあれを、勇者などと祭り上げられたものだと感心したな。

単に、魔族の領土に踏み込んで来て略奪の限りを尽くし、魔王をも殺して行っただけの、強盗同然だったのにな。

主神教どもは、本当に上手くやったもんだ。

しかし……地球だったか。

地球では、永く戦乱が続いていた為か、皆戦闘意欲に満ちた者たちだった。

様子が違って来たのは、ここ千年くらいだろうか。

戦争を知らずに育つのが当たり前の世界なのだと、いつかの勇者が語っていた。

地球にも変わらず戦争は存在するが、戦争していない国も多いのだとか。

比較的、ニホン……、ニホン帝国とは別の、ニホンと言う国があるらしいが、そこから来る人間の比率は多めで、そのニホンには、軍隊すら無いと言うではないか。

さすがに耳を疑った。

専守防衛を掲げる国や中立国ですら、自衛の為の軍隊を持つのは当たり前なのに。

まぁ、そう言う平和な世界だからこそ、プロレスなんて恐ろしい格闘術も発展したのだろう。

あれは凄い。

剣闘などは、暴力と人の死を見せ愉しませ、戦意を高揚させる催しだ。

精々、凄惨な過程と惨たらしい死に様さえ見せれば、それで観客は満足する。

だが、プロレスを始めとした地球の格闘術は、人殺しの業では無いと言う。

娯楽として観客は楽しむから、戦いの過程が重要となる。

だからこそ、あんな馬鹿げたド突き合いを、正面から繰り広げる事となった。

それが堪らなく愉しかったが、それこそ戦争が日常の世界ではあり得ない話だ。

平和だからこそ享受出来る娯楽であり、しかしそんなプロレスが俺の戦場の拳を打ち破る。

滑稽、且つ爽快だったよ。

それがどうだ、ふざけやがって。

強くなったはずの俺をあっさり置き去りにして、あんなに遠くまで行きやがって。

これじゃあもう、正面からド突き合う事なんか出来やしない。

俺が耐えられない。

本当に残念だよ。

再会の時が訪れたなら、もう一度あの素晴らしい体験をと、期待していたのにな。


はぁ、さらに呆れたのは、こいつの人脈の広さだ。

まだ勇者クリスは良い、こいつも勇者だったんだ、あり得る話だ。

そして、勇者クリスが古代竜の英雄である以上、こいつも古代竜と繋がりがあって当然だ。

だがな、神族、しかも主神と仲が良いだと!?

結局こいつは、魔界へは来なかった。

ウチの魔王様には会っていない。

それなのに、神の国に出向き主神と仲良しになるなど、何だか知らんが負けた気になる。

……いかんな。俺は神族なんてどうでも良かったんだが、こいつを取られたようで悔しくなっている(^^;

我ながら……面白い。

俺のような異端でも、やっぱり魔族なんだと再認識したよ。

だが、今回は事情が事情だ。

勇者クリスとも、主神オルヴァドルとも、手を取り合わねばならない。

アストンヘイトンの尻拭いを俺自身の手で果たす事は難しそうだが、ここまで事態が進展した以上、こいつの力を借りて解決するしか無い。

久しぶりに思い出した俺の魔族としての矜持など、些事に過ぎん。

クリムゾン、つくづく面白い漢だ。


クリムゾンと別れて半日、途中休憩は挟まず飛び続け、バルドサンド共和国に入った頃にはその気配がはっきり感じられるようになっていた。

勇者クリス……、名前だけは聞いている。

中央諸国に留まっているだけに、俺は直接邂逅した事は無いが、何人もの仲間がその凶刃に倒れた、と聞いている。

これは戦争だ。その言い方もどうかとは思うがな。

俺たちだって、何人の人間族を殺して来たか判らん。

どちらも、殺したくて殺しているんじゃ無い。

これは戦争なんだ。

そして、はっきり感じられたのは勇者クリスの気配じゃ無い。

一緒にいると言う、古代竜の気配の方だ。

不思議な事に、この古代竜は気配を抑えている。

古代竜がそんな事をするなんて、俺は聞いた事が無かった。

ここまで近付いて、ようやく捉える事が出来た気配だが、その強大さは窺い知れる。

正直、勇者クリスの方は、あの日のクリムゾンと比べても、そう大した事は無い。

今の俺の敵では無いが、こちらの古代竜は底知れない。

ふたりがコンビを組むとなれば、俺ですら敵うかどうか。

充分、心強い援軍、と言う事だな。

……どうやら、目的地の近くで降りたようだ。

良し、そちらへ合流させて頂こう。


ファリステ近郊の森の中で、勇者クリスたちは待機していた。

俺とゴンドスは、その少し開けた場所へと降り立つ。

初めて目にする勇者クリスは、顔立ちや髪色こそ違うが、クリムゾンに良く似た筋肉質の大男だった。

大剣を背負って金属鎧を身に付けているから、クリムゾンと違って戦士系のようだがな。

古代竜の方は何とも小さな白い小竜で、勇者クリスの肩に乗っている姿は一見すれば可愛らしいものだが、俺にはその恐ろしさとのギャップから余計に怖くも見えた。

「……話は聞いていると思うが、俺の名はアスタレイ。魔族だ。こっちのはゴンドス。俺の部下だ。」

事が事だけに、向こうも理解はしているはずだから警戒する必要も無いのだろうが、気を許す事は難しい。

お互い、微妙な距離を保って対峙する事となった。

「……勇者クリス、で通じるわね。こっちの小竜は古代竜のシロちゃんよ。」

「……シロだ。君たちも、そう呼んで良い。」

「……あ、あぁ、宜しくな。」

えぇと……、勇者クリスってのは、あ~、何と言うんだっけ?

オカマ?ニューハーフ?

人間族のその辺の事情には疎いんだが、まぁ、戦士としての力量とは関係無い話だからな。

あれだけの筋肉を身に纏いながら、しなやかな身のこなしをすると考えれば、むしろプラスなのか?

そう言えば、クリムゾンの奴も夫がいるとか言っていたから、神聖オルヴァドル教国ってのはそう言う文化なのかもな。

別に問題は無い。

人間族は俺たちと違って、放っておいても増えて行くんだ。

魔族にとっては男女がパートナーになるのが当たり前だが、それも呪いに起因する価値観だ。

種族が違えば、価値観も変わると言う事だろう。

「……今回は迷惑を掛ける。どうか力を貸してくれ。」

すでに世界の命運が懸かっている以上、もう魔族だけの問題では無い。

しかし、その原因を作ったのは紛れも無く魔族であり、俺の部下だったアストンヘイトンなのだ。

「……何だか、想像とは違ったわ。アスタレイさん、だったわね。もちろんよ。その為にここまで来たんだし、シロちゃんの故郷が襲われてるんですもの。皆で力を合わせて、世界を救いましょ。」

世界を救う、か。実に、勇者らしい発想だ。

こっちは、想像通りだったよ。

いや、性格の話であって、それ以外は想像と著しく違ったけどな(^^;

その後は、何と無く全員押し黙ってしまった。

俺たちは本来、敵同士だからな。

挨拶は交わしても、それ以上仲良くなる必要も無い。

とは言え、気持ちの悪い時間が続く。

クリムゾンよ、早く来てくれ。


4


何たる事だ。

まさか、主神がこんな奴だったなんて……。

子供のような精神なのは問題じゃ無い。その力だ。

その制約もあって本来同格のはずの魔王より強いのは仕方無いとして、多分あいつ・・・よりも強いだろう……。

参った。元より俺は、神族を倒そうなんて望んじゃいない。

しかし、人間族の陰に隠れて、この1万年自ら戦って来なかった神族には負けないと言う誇りくらいあった。

魔族最強の戦士と神族最強の戦士を比べた時、神族の方が勝っているなど素直に受け入れ難い。

……だが、それが現実って訳だ。

……まぁ、今更か。この場にいる者の中で、最強なのは最弱種であるはずの人間なんだからな。

クリムゾンもルージュも偽名だから本当の名は知らないが、この地球から来た異世界人の前では、俺の常識など滑稽に過ぎるな。


さて、そうこうする内、ルージュによって作戦も決まったし、後は……あぁ、そうだ。

こいつには、聞かせてやった方が良い気がする。

「あ~、ルージュ。どうでも良い事かも知れないが、一応伝えておく。今回の事件を引き起こした馬鹿の名前は、アストンヘイトン。……すでに奴は死んでいるも同じだ。お前の手で、引導を渡してやってくれ。」

救ってやれないし、俺の手で始末も付けられない。

だが、こいつになら託しても良い、そんな気にさせる。

「……判ったわ。アストンヘイトン、もうひとりの悪魔の犠牲者。彼も悪魔の計画が失敗する事を望んでいるはずよ。その志は果たしてあげるわ。」

「……あぁ、頼んだ。」

アストンヘイトンと言う名の馬鹿もいたな。

全てが終わって、そんな思い出話が出来るよう、全力を尽くそう。

「それじゃあ、行くわよ、皆。死ぬんじゃ無いわよ!」

「応っ!」と、ルージュの掛け声に応え、俺も他の奴らと一緒に、死地へと飛び立った。


その後、島へ到達すると、予定通りゴンドスの奴は、ドワーフの集落へと降りて行ったようだ。

残念だが奴の足は遅く、今回は最後まで面倒を見てやれない。

いや、どうやら風の精霊の力を借りて、黒い古代竜の速度を上げているようで、島へ近付いてからは俺も付いて行くのがやっとなくらいだ。

俺にも意地があるから言わないが、付いて行く為に無理をして、少し体力と魔力を消耗している(^^;

見れば、主神の奴は余裕で付いて行っているようで、俺が劣等感を抱く羽目になるとは思いも寄らなかったぜ。

それに、何だ、この数は?!

いくらレッサーやグレーターなら相手じゃ無いとは言え、この数は異常だろ。

まかり間違って俺とゴンドスだけで突っ込んでいたら、間違い無く任務は失敗しただろう。

アストンヘイトンに取り憑いた悪魔は、どれほどの大物だってんだ。

「アスタレイ!北の1体をお願い。」と、俺は念話で呼び掛けられた。

……む、これか。くそっ、こんな悪魔だらけの中で、良く的確に感知出来るもんだ。

「捉えた。任せろ。……後を頼んだ。」

そう念話で応え、俺は素早く軌道を変えて、北のアークデーモンへ向かい高度を下げて行った。


アークデーモンへ接近する前に、進路上の悪魔どもと軽く一戦交えてみる。

まずはレッサー、バーンナックル1発で軽く消し飛ぶ。

そしてグレーター、こいつは1発目を耐えやがったが、今の俺のバーンナックルは、言ってみればバーンナックルワンツーだ。

1発目を耐えたなら、すかさず左の拳も叩き込んでやる。

さすがに、グレーターも2発目には耐えられず、塵と化して行く。

俺はあの後、クリムゾンから教わった様々な格闘術を取り入れたが、それでもこいつには思い入れがあり、研鑽を止めなかった。

今のように、1発で決められない事は考慮しても、やはり初撃はこいつで行く。

闘気や魔力の扱いもさらに上達したから、バーンナックルの速度も上昇した。

グレーターであっても、こいつを躱す事は出来無い。

確実に当てられて、一撃、乃至二撃で撃破可能だから、こいつらは俺にとって脅威じゃ無い。

が。

1体1体倒して行くなど、この数を相手に無意味だ。

そこで、俺は暗黒魔法も試してみる。

取り敢えず、ダークジャベリン(闇属性の投槍状の攻撃魔法)を連射してみた。

これなら複数を相手に攻撃出来るし、威力もそこそこで、MP消費は自然回復力でほぼ無効だ。

しかし、レッサーを撃墜する為に5発は当てる必要があったし、グレーター相手では牽制くらいにしかならなかった。

やはり、闇耐性と高い魔法防御の所為で、悪魔に対して暗黒魔法は効果が薄い。

と言って、もっと強力な上位魔法を使うとなると、俺も消耗するし連発は利かない。

その上、それでまとめて十数体撃破出来たとて、焼け石に水。

ふん……、判っていた事とは言え、ルージュの言う通り俺は多数を相手取るには向かないな。

そんな俺の遥か頭上を、光の帯が悪魔たちを薙ぎ払いながら横切って行く。

適材適所……、と思うしか無いが、今の主神は化け物だな。

俺は、二代目のゴルベリウスには遭った事は無いが、戦場において遠目に見た初代の主神ヴェールスムマイルは、あそこまで強く無かったはずだ。

闇の神々の試練じゃあるまいし、子供のような精神によってここまで強くなったとして、何故そんな事が起こり得たのか。

あの巨体……、やはり、神の血を色濃く遺す神族の方が魔族を凌駕する、と言う事なのか?

……えぇい、詮無い事を。

今は、目の前の悪魔どもを片付ける事に専心しなければ。

俺は視界に捉えたアークデーモンに向かい、一気に間合いを詰めて行く。

その距離30m……、まだ奴は油断している。

俺は体内の闘気と魔力を爆発させて、その30mを一瞬で天翔けた。

ドパンッ!とアークデーモンの頭が弾け飛ぶ。

俺の体が軋み、体表から一斉に蒸気が噴き出す。

「ぶはぁっ!」と息を吐き、その後しばらく、荒い息の下身動きも取れない。

真バーンナックル……とでも呼ぼうか。

クリムゾンとの戦いの後、色々と話した中で耳にした気功と言うものの概念を、俺なりに昇華して一瞬にして極限の身体強化を施す技として身に付けた。

それを利用した真バーンナックルの反動はこの通り、想像を絶する苦しみだ。

しかし、速度も威力も桁違いに跳ね上がる。

これが、俺の切り札だ。

今は、前座に構っている暇は無いし、一応実戦で試しておきたかった。

身動きが取れなくとも、レッサーやグレーターの攻撃程度物の数では無い。

しかし、これがアークデーモンを超越したネームド相手となると……、一撃で仕留め切れなければ、俺の命が危ういな。

回復に時間が掛かる事よりも、致命的な隙を作る事になるのが問題だ。

ここは、上手くルージュの旦那と連携するべきだろう。

どうやら奴は、その装備を見る限り、守りの力を得意とするようだしな。

存外、俺と組むのは相性が良さそうだ。

主神様の援護も期待出来るんだ。

抑え込むなんて言わず、きっちり倒してやろうじゃないか。


5


パパの報せを受けて色々用意をしたあと、日課だからヨモツヒラサカを見に行ったら、いつもと様子がちがってた。

大きな顔のひとはあれから見ていないけど、いつもならほかの悪魔は何人かいるし、瘴気も濃かった。

なのに、今日はだれもいない。瘴気も薄い。

鏡が壊れたのかと思ったけど、魔界の景色はそのままだから、ちゃんとつながったまま。

何かがおかしい。そんな胸さわぎはしたんだ。

その答えがこれだったんだね。

本当に、すごい数の悪魔たちだ。

みんなこっちに来ていたんだ。

でも、たまに見る本当に怖いひとたちはいない。

パパも言ってた。本当に怖い悪魔はこうかつで慎重だって。

たぶん、ようすを見ているんだ。

やくそくもなしに勝手に出て来ると、もっと怖い悪魔に怒られるのかもしれないし、僕たちに見つかったら攻撃されちゃう。

でも、これだけたくさんの悪魔が出て来て、あたりまえのように瘴気がただよっている今のこの島なら、こっそり出て来ることだってできるはずだ。

だけど、こうかつな悪魔たちは、僕たちが失敗するのを確認したら、その時はじめて顔を出すんだ。

だから、このたくさんの悪魔たちは怖くない。

全部たおしちゃえばいいだけだ。

そうおもって、僕はたくさんの敵をいっぺんに攻撃できるアストラル・レイを空にはなった。

よわい悪魔たちだから、ひかりがあたっただけで消えちゃう。

アストラル・レイをみぎにひだりに動かすだけで、どんどん死んでく。

……でも、ぜんぜん減らないなぁ。

少しうんざりしていたら、ライアンさんもアスタレイさんも、アークデーモンを倒したみたいだ。

今は、いちばん大きなアークデーモンのところへいそいでいるところだ。

僕も少し場所をうつそう。

いつでも、ライアンさんを助けに行けるように。


移動しながらアストラル・レイも撃ちつづけて、でもやっぱりぜんぜん減らない。

まだアークデーモンがひとり残ってるから、悪魔がどんどん湧いているんだろう。

見れば、壊れたたくさんの家がある場所に大きなアークデーモンはいて、さきについたアスタレイさんが戦いはじめていた。

すごい。思いっ切りアークデーモンの顔をなぐってる。

ちゃんと効いているんだけど、あれではきっと倒せない。

空の悪魔を倒してもきりがないように、どれだけなぐってもきりがない。

いたいけど死なない、そんなかんじだ。

大きいアークデーモンは、自分の体ほど大きな斧をふりまわして戦っている。

同時に、体のまわりからエネルギーボルト(短槍状の純粋な魔法力による攻撃魔法)をたくさん撃っている。

エネルギーボルト自体は初級魔法だけど、だからこそ悪魔にとっては消耗しないで使える便利な魔法で、この悪魔くらい強ければ威力も充分。

アスタレイさんの魔法防御なら痛いくらいだとおもうけど、痛いだけでも邪魔だよね。

少しでも気をとられて、斧をよけそこなったら大変だ。

やっぱり、この大きなアークデーモンは強い。

ひとりじゃあぶないとおもったところに、ライアンさんがやって来た。

え、なんで正面から戦うの?

……なるほど、ライアンさんはおとりになって、アスタレイさんを援護するつもりなんだ。

ライアンさんも剣で斬ってるけど、これは効いていないな。

だけど、アークデーモンの大きな斧は、うまく盾で受けながしている。

エネルギーボルトは、マジックシールド(体の周囲に物理、魔法両方に効果のある守りの盾を張る防御魔法)が防いでいるし、ライアンさんは守りが得意みたいだ。

ライアンさんが悪魔の気をひき、すきを突いてアスタレイさんが殴ってはなれる。

うまく連携できているけど、やっぱり与えるダメージは小さくて、ライアンさんひとりが攻撃されつづけるから心配だ。

そんな時だった。

いきなり空が落ちて来たかと錯覚するような、強烈な感覚が襲って来た。

僕はおもわず山の方をむいたけど、同じようにライアンさんも動きが止まってしまったみたいだ。

ガキィッィィィーン!と、うるさい音がして、あわてて見たらライアンさんが盾で斧をまともに受け止めてしまっていた。

一度離れて、体勢をととのえなおすライアンさん。

でも、少しダメージをくらっちゃったみたいだ。

まずい。ママの方でなにかがおこったみたいだけど、油断したらライアンさんたちがあぶない。

僕は、一度空の悪魔たちをほうっておいて、ライアンさんを援護することにした。


ライアンさんとアスタレイさんが距離をあけている今、僕が奇襲をかける好機。

いっきに空から間合いをつめ、僕は大きな悪魔に高位神聖魔法ギルティチェインズ(罪の鎖)を発動した。

この魔法は、よこしまなる罪人に聖なる鎖を何本も巻きつけ、その体にくい込ませて、ついには死にいたらしめる神の奇蹟だ。

ただ、そういうふうに説明されているけど、実際には善悪なんて関係ない。

たとえば、人間の罪人にこの魔法をかけても、悪魔ではなく魔族にかけても、聖なる鎖は巻きつくことはなく、切れて消えてしまう。

この魔法は神じきじきにお創りになった悪魔と戦う魔法で、ここでいうよこしまなる罪人とは悪魔をさすんだ。

つまり、対悪魔用最高位神聖魔法であり、今回の僕の切り札だ。

相手が悪魔ひとりなら、アストラル・レイよりもはるかに強い魔法なんだ。

その分消耗もはげしいから、何度も発動できないけどね。

大きな悪魔の足元から無数の光るふとい鎖が飛び出て来て、大きな悪魔の体に巻きついた。

そしてその鎖が、悪魔の体に食い込んでいく。

……でも、それだけだった。

なんて強い悪魔なんだ。

神族は神代の戦いのとき、この魔法を神々から与えられたからこそ、魔族ではなく本物の悪魔たちとも戦えたと聞いている。

それなのに、この悪魔はギルティチェインズに耐えたんだ。

その鎖は体に巻きついたまま、たしかに効果をあらわしている。

たぶん、それなりに悪魔をくるしめ、力を束縛しているはずだ。

でも、本当だったら鎖に体を引きちぎられ、死んでしまうはずなんだ。

……本当に、この悪魔はママがいうように、名前を与えられるような特別なアークデーモンなのかもしれない。

僕は奇襲を終えて、もう一度空を飛んで距離をとった。

これ以上消耗すると、アストラル・レイを無制限に発動し続けられなくなる。

それでは、本来の僕の役目が果たせない。

そう、あの悪魔の相手は、ライアンさんとアスタレイさんの役目。

僕の奇襲でダメージを受け、聖なる鎖の束縛も受けた悪魔に、ふたたびライアンさんがいどみかかっていく。

でも今度は、アスタレイさんが動かない。

……力をためている。

ママにはおさえこむよういわれていたから、あのまま攻撃をつづけてもいいんだけど、なにかしかけて倒すつもりなんだな。

今は、機をうかがいながら、必殺の力をねっているみたいだ。

!……、……、……またなにか山の方であった。

僕はまた、おもわず気をとられちゃったけど、たぶんこれ、ママの魔法だ。

すごい。なんて大きな魔力だろう。

そして、今度は大きな悪魔も気をとられたんだ。

そのすきを見のがさず、ライアンさんは盾をすて両手で剣をにぎり、おもい切り悪魔の体に突きさした。

剣はふかくまでささって、悪魔はとても苦しんでいる。

そうか。僕は最初、ライアンさんが剣で斬っても効いていないとおもったけど、あれもわざとだったんだ。

まともな攻撃なんてできない相手だって、悪魔におもい込ませたんだ。

でも、ライアンさんの攻撃は本当は充分強くて、今かんぜんに悪魔の動きを封じている。

この瞬間こそ、アスタレイさんが待っていた好機。

とてつもない力をこめた拳をたたきこみ、大きな悪魔はその一撃で吹きとんだ!

あんまりの威力にライアンさんも巻き込まれそうになったけど、すばやくうしろにさがって盾をひろい、衝撃から身を守った。

すごい。本当に見事な連携だ。

なによりも、アスタレイさんの今の一撃は、僕のどの攻撃よりも強かったとおもう。

だいぶ疲れたみたいだから、アスタレイさんの本気の本気なさいごの切り札なんだろうけど、僕が命をけずって一撃をはなっても、あれにはかなわない。

アスタレイさんは僕の方が強いといったし、たしかにそのとおりなんだけど、攻撃力だけならアスタレイさんの方が強いんだ。

それなら、アスタレイさんより強い魔王って、僕より強いのかもしれない……。

魔族と本気で戦おうなんておもわないけど、平和な生活で衰退して行った僕らは、きっと魔族より弱くなっちゃったんだな。

やっぱり、アーデルヴァイト・エルムスから出ないようにするという、僕の考えは正しかったとおもう。

僕たち神族は、このままゆっくり最期の時まで、平和のなかで滅んで行こう。

それが主神として神族のみんなを守る、ゆいいつの方法なんだ……。


戦いは終わった。

とてつもない強烈な感覚の主は去り、アークデーモンたちも滅んだ。

あとは可能なかぎり、あふれ出て来た悪魔たちを倒すだけ。

これは僕の役目だ。

そして、島を出てしまった悪魔たちは、きっとアルスクリスたちも倒してくれるだろう。

それが終わったら、アーデルヴァイト・エルムスに帰ろう。

アーデルヴァイトは僕らの世界じゃない。

もう、人間の世界なのだから。


外伝おわり


第七巻につづく


あとがき


と言う事で、古代竜の島での決戦時、ユウ以外はどんな戦いをしていたのか、ライアン、アスタレイ、オルヴァドル視点から書いてみました。

ライアンのキャラクターを深掘りする事の一環ですが、お気に入りキャラであるアスタレイと、その対極にいるオルヴァドルもついでに書いた格好です。

この作品は一人称で書くと決めているので、内容的に書きづらい事もあります。

そのいくつかを、他のキャラの一人称と言う形で書く事で、ほんの少し補完するのも目的です。

そして、おこがましい考えなのは重々承知していますが、やはりもし作品が認められていつかマルチメディア化して貰えたら、なんて妄想をしてしまいます。

その場合、漫画やアニメなら三人称になって、エピソードを演出する際の振り幅として、この時このキャラはこうしていた、と言う同時進行は定番なので、そんな感じで考えてみました。

その中で、アスタレイには色々と、伏線と言うか設定絡みの心の声も喋らせてみました。

読者の想像を刺激出来たら、さらに楽しんで頂けるのではないでしょうか。

わざと本編では書かないようにしたり、外伝でも濁した表現にしているので、判る必要はありません。

ただ、小説は読みながら色々と想像を膨らませるのが、漫画やアニメとは違う楽しみのひとつだと思っているので、外伝と言う形でそんな楽しさを盛り込めたらと。

あくまで外伝ですが、お楽しみ頂けたら幸いです。


さて、第七巻から最後となる第三部が始まります。

新たなる発見によるさらなる変化の兆しと、運命の刻が待っています。

エピローグはいくつか候補があってまだ決めかねていますが、この先の展開そのものは煮詰まっています。

出来るだけ早く形に出来るよう、これからも頑張ってみます。

何とか完結させたいので、数少ない読者様、これからもどうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る