第五章 スタイナーズスクリュードライバー


1


俺はまだ、そこまで上手く馬で走れないから、伝令のように素早く目的地まで辿り着く事は出来無い。

地形は全く違うが、エーデルハイトへは東京から東北地方まで移動するくらいの距離がある。

首都オルヴァ周辺は教皇直轄地であり、そこを抜けるにも1日は掛かりそうだ。

東北方面に直轄地を抜けた後、タイデル、オーヴァージュを通り、デルゲンを抜けた先がエーデルハイトとなる。

一応、急ぐ旅路ではあるが、一分一秒を争う訳では無い。

1日目は直轄地の端まで移動し、タイデル、オーヴァージュ、デルゲンと1日ずつ進んで行く事とした。

ルートの問題から、直轄地、タイデル、オーヴァージュでは大きな都市に寄れないので、デルゲンでは領都に宿を取り、英気を養うつもりだ。

移動による疲れも考慮しての事だが、問題はエーデルハイトだ。

まだ、実態は何も判っていない。

何がどう転ぶか判らないが、戦闘の可能性は常に考えておく必要がある。

まず無いと思うが、伯爵が司教側の人間、と言う事だってあり得るのだから。

ちなみに、落ち着いたらそのまま北方へ向かうつもりなので、オルヴァには戻らない。

だから、馬はこのまま乗り続けようと思い、名前も付けた。

ミラ、俺が現世で乗っていた愛車から取った。

もう30年以上も乗り続けたマニュアル車で、正規の交換パーツが廃番となり、毎回車検が通るか不安な日々だった。

それだけに愛着もあり、言ってみれば、唯一の現世への心残りだ(^^;

あいつの代わりに、ミラを大事にしよう。


大事を取って、1日の移動距離を短めにしておいて良かった。

ケツが痛ぇ(^Д^;

乗馬訓練には王宮の馬場を使ったが、整備されているとは言え街道はそこそこの悪路であり、思った以上に揺れるし疲れる。

勇者の体になって、もうひとつ克服出来た事があると気付いた。

多分、元の体のままだったら、俺、馬でも酔ったかも知れん(-ω-)

子供の頃から乗り物酔いが激しく、車に乗るようになっても他人の運転では確実に酔った。

自分の運転でさえ、1時間を超えると気持ち悪くなったくらいだ。

それが、今やケツが痛いだけで済む。

勇者の強い三半規管にも、感謝せねばなるまい。

ケツこそ痛かったが、順調な旅程だったと言えよう。

予定通り、4日目にはデルゲンの領都へと辿り着いた。

ケツの為にもゆっくりしたいところだが、一応ここでやっておきたい事もある。

それは、冒険者ギルドへの登録だ。

立て込んでいたので、オルヴァでは盗賊ギルドにしか登録出来無かった。

普段の表の顔は冒険者の方にしようと思っていたのに、今はまだ盗賊ノワールの顔しか持っていない。

そこで、都へ入る前に別人の仮面を赤い方に付け替え、その後宿へ向かう。

クリムゾンと記帳して、これでノワールは消えクリムゾンが登場。

エーデルハイトの情報収集を兼ねて、早速冒険者ギルドへと向かう事とした。


2


この地の冒険者ギルドは、典型的なスタイルだった。

クエストの斡旋やパーティーメンバーの募集、さらに冒険者同士の情報交換などを円滑に行う為、酒場を兼業している。

冒険者は、取り敢えずギルドで飲んだくれているだけで、その内仕事や仲間に有り付けると言う訳だ。

盗みの類を行わない、もしくは、盗みの傍ら冒険者稼業も営むタイプの盗賊もいるので、ギルド内には盗賊らしき者の姿もちらほら見える。

俺のような、筋骨隆々の盗賊ってのは、珍しいけどな(^^;

まずは、先に窓口へ行き、登録を済ませてしまおう。

そう言えば、盗賊ギルドに登録した時、発行されたギルドカードについて説明していなかったな。

ここで、ついでに説明しておこう。

俺も良く読んだ異世界転移、転生ものだと、現実世界の技術やさらに発展した科学に相当するようなオーバーテクノロジーを、魔法と言う便利な言葉で解決して盛り込み、チートカードとして扱っている事があった。

しかし、この世界では、そんな便利アイテムでは無い。

署名をした後、偽造防止に魔術的な処置を施しただけの、単なるギルド員証明書だ。

偽物を作るのは難しいが、持っている奴から奪えば、簡単に身分は偽れる。

まぁ、ある程度活躍して有名になった奴のカードでは、騙りに使えんだろうが。

名簿も、現代みたいにネットで瞬時に共有なんて出来無いので、全支部で名簿の共有化なんて事は、年に数回暇な奴への簡単な仕事として回されるだけ。

間違っても、ギルドカードで能力が確認出来る、連絡を取り合える、なんて事は無いのだ。


クリムゾンで登録を済ませ、ギルドカードの発行を待つ間、情報収集の為に周りの冒険者と酒を酌み交わす。

驚いたのは、食事が不味く無い事だ(^^;

まだ現代人の舌で美味いと呼べるレベルでは無いものの、特にパスタはソースが良い味を醸し出していて、調味料で誤魔化したジャンクな味では無かった。

素材の質は如何ともしがたいが、料理人の腕次第でちゃんと味は向上する。

それが確認出来ただけでも、大きな収穫だ。

あ、いや、料理では無く、エーデルハイトの情報収集な(^ω^;

こっちは、何も確認出来無い、と言う事が確認出来た。

どうやら、少し前からエーデルハイト領都近辺からは、何の便りも無くなったようだ。

周辺部においては、活気が無い為人の姿を見る事も多くは無いものの、作業をする農民たちの姿が少しは見える。

だが、領都へ近づくほど人影はまばらになり、伯爵や騎士たち、領都住民の姿は、しばらく見掛けていないそうだ。

かなり前から、経済的に衰退していたので、エーデルハイトへ商売へ向かう者もほとんどいなくなり、デルゲンとエーデルハイトの交流自体減少していた。

だから、ただその姿を確認出来無いだけで、何かがあったと言う事も確認していない。

わざわざ他の領地、特にあのエーデルハイト司教の領地に、無断で調査に踏み込む事も出来ず、デルゲン子爵もどうすべきか頭を悩ませているらしい。

そうこうする内カードも出来上がり、今日くらいはゆっくり休みたいから、宵の口にはギルドを後にする。

デルゲンで仕事をするつもりは無いが、裏の情報が何かあるかも知れないので、一応盗賊ギルドの方へ向かう。

場所は、冒険者仲間の盗賊から聞いておいた。

宿とは反対側になるから、少し面倒だな、と思いながら、多少千鳥足気味に夜道を行く。

スラムの程近くに差し掛かった頃、その声は聞こえた。

「だ、誰か、助けてっ!」


3


その声が聞こえた方から、徐々に喧噪が近付いて来て、複数の人影が姿を現す。

逃げる妙齢の女性と、それを追い掛けるチンピラ風の男2人……うわぁ、何このありがちな感じ(^^;

俺の存在に気付いた女は、当たり前のように俺の背後に回り、「お願いです、助けて下さい。」と来たもんだ。

そして、チンピラ2人も予想通りのセリフを吐く。

「退きな、兄ちゃん。痛い目に遭いたく無かったらな……。」

ま、俺の姿がはっきりして来るに従い、声が段々小さくなって行ったけどな(^Д^;

「ふ~……、お嬢さん、こちらのお2人は、貴女のお知合いですかね。」

酒臭い息を漏らしながら、背後の女を振り返ってやった。

こちとら、気分良く夜道をよろふら歩いていたんだ。

余計なトラブルは、あんまり歓迎出来たもんじゃ無い。

「ちょっ……、こ、こいつら、知り合いなんかじゃありません。人攫いです。」

頼った男が酔っ払いなのに気付き、少し動揺する女だが、藁をも掴むと言うやつだ。

しかし、なるほど、この女の格好は、粗末な衣服が所々擦り切れていて、どこかから必死に逃げて来たようには見えるな。

この3人はぐるで美人局とか、実は女の方が悪人、と言うパターンには見えない。

俺が女と話している間に、相手はガタイはデカいが酔っぱらいだと気付いたチンピラたちは、途端に態度が大きくなる。

「よう、兄ちゃん、ご機嫌じゃ無ぇか。今なら見逃してやるから、その女をこっちに寄越しな。」

「さっさとしねぇと、痛い目見るぜ、兄ちゃんよぉ。」

2人して凄んで来る。

うん、こいつらボコるのは別に良い。

だが、俺には一応急用があるんだ、そこまで急ぐ必要は無いけども。

面倒に巻き込まれるのは嫌だな。

「ん~~~、仮にあんたらの言う事聞いたら、この女をどうするんだ?ただのナンパなら別に良いけど、このお嬢さんはあんたらを人攫いとか言ってるぞ。」

チンピラAの表情が変わる。

「うるせぇぞ、デカブツ。良いや、面倒臭ぇ。こいつやっちまおう。」

と、懐からナイフを取り出す。

ふ~、やれやれ。

雉も鳴かずば撃たれまいに。

俺は、毒耐性・アルコール分解を発動し、瞬時に酔いを醒ます。

アルコール耐性だと酔えずにつまらないから、酔いの方をいつでも醒ませるようにしたのだ。

これで、どんなに飲んでも二日酔い無し。

スキルって、やっぱ便利っス(^^;

そして、即回し蹴りでチンピラAのナイフを弾く。

指をポキポキ鳴らしながら、「先にヤッパ抜いたのは、そっちだからな。」とお前が死ぬのはお前の所為だと告げておく。

次いで、突き蹴りを軽く水月に叩き込み、チンピラAの動きを止める。

動きを止めたチンピラAの体を、ブレーンバスターの体勢に捉える。

そのままの姿勢でしばしチンピラBを睥睨し、見せ付けるようにスタイナーズスクリュードライバーで叩き落とした。

(挿絵→https://43702.mitemin.net/i825153/)

SSDがどんな技か判らない方は、グーグル先生に聞いてみよう(^^;

……しかし、下がリングでは無く石畳だったとは言え、凄い威力だな、SSD。

首があらぬ方向に曲がったチンピラAは、確かめるまでも無く、即死だ。

武器で戦うのが当たり前のこの世界では、無手は戦場で武器を失った時の最後の手段として、一応想定されているだけ。

俺が知る限り、今のところこの世界に無手格闘術は存在しない。

だから、投げられるなんて事も無いに等しく、受け身も知らない。

そんな相手に、手加減無しのSSDは少しやり過ぎだったようである。

これからは、プロレス技はちゃんと加減して使おう。

ま、さすがに相当の実力差が無ければ、実戦でブレーンバスターの体勢に相手を捉える機会など、そうそう無いけどな。


4


茫然自失のチンピラBには、インビジブルダガー(透明な投げダガー)を刺して昏倒させる。

アストラル体へ直接大ダメージを喰らうと、人は気絶するのだ。

この後どうするかは思案のしどころだが、下手に逃げられても困るからな。

さて、まずは女にもっと詳しい話を聞くべきだが……この隙に逃げててくれんかな(-ω-;

そう思いながら振り返れば、果たして彼女はそこにいた。

はぁ、仕方無い。

「取り敢えず、話を聞こう。後の事は、それからだ。」

「は、はい。妹を、妹を助けて下さい。まだ、奴らに捕まったままなんです。」

「落ち着け。こいつらは本当に人攫いで、あんたは何とか逃げて来た。だけど、まだ妹さんが捕まっている。そう言う事だな。」

「は、はい。あ、いえ、捕まっているのは、妹だけではありません。他に何人も捕まった人たちがいました。」

「そうか。となると、こいつらの仲間ってのは、結構数がいるのか?」

「はい。正確な人数は判りませんが、10人以上いました。」

ふむ、組織的な人攫いで、彼女や妹が狙われた訳じゃ無く、人を狩り集めているのか。

俺は、気絶したチンピラBを肩に担ぎ、道を戻り始める。

「あ、あの……。」

「兵士の詰め所へ行くぞ。それだけ数がいるなら、この街の兵隊たちに助けを請うのが筋だろう。」

「で、でも、早くしないと、妹が……。」

「なら、急げ。」

俺が助けてやる義理は無い、そう言い掛けて、口を閉じる。

危ない、危ない、またいらん事言うとこだった。

まだ不満そうだった彼女も、さっさと先を歩く俺を追い掛けて来る。

俺の強さを目の当たりにして、頼りたくなる気持ちは理解出来るが、本来こう言う事はお上の仕事だ。

危ないところを助けてやった、それだけで、ただの通りすがりの俺は、もう充分なはずだ。

巻き込まれはしたが、今のところクエスト扱いにもなっていないしな(^^;


兵士の詰め所へ着くと、チンピラBを転がした後、事情の説明に入る。

彼女は人攫いに遭い、そこから逃げて来た。

追って来たチンピラを、たまたま通り掛かった俺が倒して、彼女を助けた。

だが、人攫いたちは大勢いて、まだたくさん捕まっている人がいる。

すぐ助けに向かって欲しい。

大変な事態だと言う事は判ったようで、立ち番の兵はすぐに上官へ知らせに走る。

やって来た上官が急がず慌てず、面倒臭そうな態度なのを見て、嫌な予感がする(-ω-)

「話は判った、ご苦労。そのごろつきと女性の身柄は、こちらで預かろう。後は上に報告して、判断を仰ぐ。お前は帰って良い。」

「ちょ、ちょっと待って下さい。まだ妹は捕まったままなんです。すぐに助けに行って下さい。」

心底面倒そうに、その上官は答える。

「ですが、お嬢さん。相手はたくさんいるのでしょう?まとまった兵を動員するには、上の許可が必要なんですよ。2~3人なら、警邏中の兵を回す事くらい出来ますがね。それじゃあ彼らに、死にに行けと言うようなものでしょ。」

「で、でも……。」

「大丈夫です。ちゃんと許可さえ下りれば、一両日中に人攫いどもは壊滅出来ます。」

「それじゃあ、遅いんです。もう、今夜には攫った人たちを連れ出すって言っていたんです。」

「そうは言われましても、すぐに兵を出動させる事など、無理なのですよ。」

「そこを何とか。妹が、まだ妹が……。」

そこからは、無理だ、お願いします、無理だの繰り返し。

は~、やれやれ。

最初から、こうなる気はしていたけどな。

だが、俺は勇者でも英雄でも無いんだ。

世界中、困っている人を助けて回るつもりなど毛頭無い。

しかし、これはゲームじゃ無く、現実だ。

オープンワールド系アクションRPGだったら、メインクエストを進めずにいくつもサブクエストを同時に請け負い、そのサブクエストも目的地が遠かったりしたらしばらく放置。

そうして放置したクエストは、進行が止まるからいつ再開したって問題無い。

やりたくなったら、レベルが充分高くなってから、時間が経過した後でもクリア出来る。

だが、これは現実だ。

今この時、彼女を見捨てれば、それこそお役所仕事で数日後に人攫いたちは倒して貰えるかも知れないが、妹さんは売られてしまう。

彼女にとって、それでは意味が無いのだ。

一応、俺は急ぐ身だ。

ただ、俺が金を届けない限り、事態が好転する事も無いが、俺が金を届けなくとも、今すぐ何がどうする訳でも無い。

もちろん、急いで向かっていれば防げるような事態が、今まさに起こっている、と言う可能性もあるがね。

それに、先に決めた目的は、エーデルハイト救済だ。

それを優先するのも、ひとつの価値観だ。

俺は、勇者でも英雄でも善人でも無い、が、悪人になりたい訳でも無い。

乗り掛かった舟から、途中下船するのも気持ち悪い。

彼女の為じゃ無い、俺自身の為に……、言い訳は、これくらいで充分かな。

「おい、女。人攫いたちがいる場所まで案内しろ。」

俺は、彼女の手を引いて、連れ出そうとする。

「おい、ちょっと待て。その女性は我々が保護したんだ。勝手な真似をするな。」

本当に面倒なおっさんだ。

「俺は冒険者だ。兵隊さんが動けないなら、代わりに偵察して来てやるよ。な~に、心配するな。俺も馬鹿じゃ無い。たった1人で乗り込んだりしないよ。その場所まで案内させるだけだから。」

「え~い、そんな事は関係無い。これはもう、我々の仕事だ。冒険者風情の出る幕では無いわ。」

本当、出世だけが上手い奴ってのは、どこにでもいるもんだ(-ω-)

今は、一分一秒が惜しい。

俺は、懐から金貨を1枚取り出し、その上官に見えるよう差し出してから、指で弾いて宙へ舞わせる。

それを目で追い、我が物にしようと醜態を晒し、見事臨時収入を手にした奴が我に返った時には、俺と彼女の姿は忽然と消えていましたとさ。


5


俺は、彼女の手を引き、元来た道を歩いて行く。

その手を、彼女が振り解く。

「ちょっと待って下さい。」

俺は足を止め、彼女と向き合う。

「どうした、急ぐんじゃないのか?」

「そ、それはそうですけど、貴方も仰っていたじゃありませんか。1人じゃ乗り込めないって。」

案内は必要だし、置き去りにも出来無い以上、彼女を納得させる必要はあるか。

「まず、兵隊たちは当てに出来無い。あんたの目的は、妹の救出だ。すぐに動けなきゃ、何の役にも立たない。そうだろ。」

「それは……そうです。」

「と言って、今から冒険者ギルドに駆け込んだって、簡単に人が集まらないのは同じだ。冒険者相手じゃ、報酬だって必要になるしな。」

「それじゃ……、もうどうしようも……。」

「だから、俺が助けてやる。袖振り合うも他生の縁ってね。俺の故郷の言葉だ。逃げるあんたを助けたのも、何かのお導きだろ。俺は神なんか信じてねぇけどな。」

神聖オルヴァドル教国内で、今の発言は余計だったか。

「でも……、1人じゃ貴方だって……。」

こんな目に遭ってりゃ、彼女も助けてくれない神なんて、信じられないのかもな。

「さっきも見たろ、俺は強いんだ。それに、急がなきゃならない以上、他に選択肢も無ぇだろ。」

「……はい。」

不承不承ながらも、一応納得はしてくれたようだ。

「それじゃあ、先導してくれ。」

俺は、走り出す彼女の後を追った。


その場所は、一見廃墟に見えた。

スラム街の中だけに、周りも似たようなものと言えなくも無いが、そこは屋根も落ちていて完全な廃墟に見える。

奥の方に、階下へと下る階段があり、床には何人もの人間が行き来する痕跡が、ありありと残されていた。

空間感知スキルでは、15人ほどの人間が確認出来た。

しかし、ひとところにまとめられている者、規則性のある並びで動いていない者の反応は無い。

不味いな、もう捕まった人たちは連れ出された後らしい。

「あんたは、そこら辺に隠れていてくれ。」

「わ、私も行きます。」

「足手まといだ。俺は盗賊系冒険者でな。多勢に無勢、隠密スキルでこっそり忍び込む。あんた、そんな芸当出来るか?俺が隠れていても、あんたが見付かったら全部台無しだ。」

彼女はしゅんとしてしまうが、仕方無い。

急がねばならないのだ。

「後で必ず声を掛ける。だから、そこら辺の見付からない場所で、じっとしていてくれ。良いな。」

こうまで言われては反論も出来ず、彼女は素直に崩れた壁の裏へ隠れに行く。

悪いが、実力的な意味では無く、人手と言う意味で、本当に多勢に無勢だ。

急がなければ、間に合わなくなる。


さて、階段を下りながら、敵の配置を確認する。

これは完全に、ステルスゲームだな。

必要なのは情報だ。

殺して回る訳には行かない。

上手く、見付からないように、全員気絶させねば。

ステルス状態で敵の背後を取れば、サイレントキルが発動出来る。

同様に、サイレントノックアウトも可能だ。

相手が1人なら、完全に隙だらけなのでマニュアルでも良いのだが、周りに他の敵がいる状況で失敗は許されない。

静かに相手を失神させる神業は、オートマにお願いしよう。

より正確な位置を把握する為、空間感知の魔法を発動し、敵同士が視界に入らない位置の敵から1人ずつ、ノックアウトして行く。

順調に数を減らすも、さすがに全員は位置的に無理がある。

残り5人。

インビジブルダガーを用意して、一気に仕留める。

これで15人、実力的には物の数では無い。

サイレントノックアウトした10人は、そこいらにあったロープできつく縛り上げる。

後の5人は、回復してやらない限り、1日は目を覚まさないから放置だ。

よし、ここからが本番だ。

先に言っておくが、俺は人を拷問するような趣味は無い。

これからやる事は、決していつもやっている訳じゃ無いんだからね(^Д^;

と言う事で、10人全員の頬を叩いて行き、目を覚まさせた。

「状況は判るな。お前らは全員捕まった。今から拷問タイムだ。急いでいるんでな、質問にのみ答えろ。」

当然、従わない奴はいる。

「ふざけるな、誰がそんな事……」

そいつの顔を蹴り上げ、再び気絶させる。

そして、そいつの前へ行き、目を覚ますまで頬を叩く。

「質問にのみ、答えろ。」

抑揚を付けず、静かにゆっくり語る。

「……けっ、こんな事くらいで、誰が言う事なんか聞くかよ。」

見上げた根性だ。

では、こいつに犠牲になって貰おう。

「そうか、聞く気が無いなら、こいつは要らないな。」

そう言って、俺は得物でそいつの右耳を切り取った。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ……。」

痛みに身悶えるが、ロープがきつく動きを縛る。

俺は、切り取った耳を、無造作に放り捨てる。

「知っているか?耳ってのは、穴の奥にある鼓膜で音を聞くんだ。だから、耳介って言うんだが、この外側の飾りは無くても大丈夫なんだよ。」

もちろん、だからと言って切り取って良いものじゃ無い。

あくまで脅し文句だぞ(^^;

そいつの左耳を引っ張りながら、俺は質問を続ける。

「質問に答えろ。攫った人たちは何処だ。」

「ふ、ふざけるな……ここまでやられて、はい、そうですかって……。」

俺は、残った左耳も切り取る。

「っっっぎあぁぁぁぁぁぁぁっっ。」

右耳と同じ場所、他の奴らに良く見える場所に、左耳も放り捨てる。

「耳と同じで、鼻も呼吸に必要なのは穴だ。だから、これも要らないな。」

今度は、間髪入れずに鼻を削ぐ。

そして、耳と同じ場所へ、放り捨てる。

この光景を見た他の奴らは、多分素直に吐くだろう。

協力者にも、チャンスをやろう。

「これが最後だ。攫った人たちをどうした。」

しばらくもがき苦しんだ後、そいつは顔を上げ俺を睨み付ける。

「知らねぇよ、馬~鹿。殺すならさっさと殺せやっ!」

本当に、見上げた奴である。

素直に吐けば、耳も鼻も治してやったのにな。

まだ切り取ったばかり、細胞は生きている。

この状態なら、レベルは高い必要があるが、通常のヒールでもくっ付く。

もちろん、こいつはそんな事知らなくて、自暴自棄になっているのかも知れない。

ま、良いけどな。

俺は人見知りなんで、敵に容赦する気は無い。

と言う事で、希望通りさっさと殺す事にする。

「判った。そうする。」

そう言って、躊躇無く得物をそいつの頸動脈に這わせ、わざと粗く斬り裂く。

吹き出す鮮血が、狙い通り他の捕虜たちに降り注ぐ。

これにて、仕込みは完了。

これで、素直に話す奴が、最低1人はいるはずだ。


「と言う事で、俺の聞きたい事は判ったな?攫った人たちをどうした。」

皆が一遍に話し始めても困るので、得物を突き付けた相手に発言を許す。

「ボ、ボボボ、ボスが連れて行きました。」

「いつ、どうやって。」

「す、少し前です。商品は、ここで護送用の馬車に乗せて行きました。」

見れば、轍の先には、上へと続く坂道がある。

どうやら、馬車のまま外へ出られる出入り口もあるらしい。

「どこへ向かった。」

「ににに、西にあるサンドーヴェルの村です。いつも、そこでボスが商品の引き渡しをしています。」

西か。

空間感知広域展開っ、西方に集中、魔力拡大……いたっ、これか。

複数の反応がひと纏めになって同じ速度で移動している、間違い無い。

「よし、確認した。お前らの役目は終わった。ご苦労。」

慌てる男たち。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。ちゃんと質問に答えたんだから、せめて命だけはっ!」

ぎゃーぎゃー五月蠅い奴らだ。

別に無意味な殺生はしねぇよ(-ω-)

まぁ、一々説明する時間も惜しい。

俺は、インビジブルダガーを9人に素早く撃ち込み、静かにさせる。

生き残りの14人は、後で兵士たちに何とかさせれば良い。

すぐさま取って返し、隠れている彼女に声を掛ける。

「時間が無い。すでに馬車で連れ去られた後だ。俺はすぐに後を追う。あんたは、さっきの詰め所に戻って、状況を説明してくれ。この下にいた奴らは、皆気絶させてあるから。」

「え、え、え、どどどどう言う……。」

「とにかく、俺は行く。何だったら、下の様子は自分の目で確かめろ。ここはここで放置出来無いから、状況が呑み込めたら、兵隊を呼んで来い。」

俺はすぐさま歩き出す。

「ちょっと待って。」

「止めるな。付いて来るな。とにかく急ぐ。妹を助けたければ、言う事を聞け。」

それだけ言って、俺は手近な建物の屋根へと飛び乗る。

屋根の上を宿方面へ直進した方が、地上を走るより早いからな。

今は、空間感知を広域展開したまま、頭の中で馬車を捕捉し続けている。

……空間感知し続けるのって、結構疲れるんだな。

すっげぇ、脳が疲れる(-Д-)


程無く宿まで辿り着き、急いで馬番に声を掛ける。

「緊急だ。急いで馬を出してくれ。」

椅子に座って舟を漕いでいた馬番が、ハッと我に返って動き出す。

「は、はい、只今。」

取り敢えず、ここで少し脳の休憩だ。

俺はまだ、馬には慣れていない。

馬具の装着も、自分でやると時間が掛かる。

ここは、馬番にやって貰う方が早い。

幸い、人攫いのボスは、追手が掛かっているとは思っておらず、馬車の速度はそう速く無い。

飛ばせば、小一時間で追い付くはずだ。

ミラには、無理をさせる事になるが。

少しして、鞍を乗せたミラを馬番が引き出して来る。

俺は、馬番に銀貨3枚を握らせて、礼を言う。

厩舎の使用代込みで、宿代が銀貨5枚だ。

チップとしては充分だろう。

俺はすぐさま、ミラに跨り魔法の黙詠唱に入る。

追跡の為に、耐久力と素早さを強化するのだ。

そして、走り続けている間、俺はミラにヒールを掛け続ける。

別に、体力回復の為では無い。

身体への負荷の軽減の為だ。

現実はゲームでは無い。

身体強化は、便利な魔法だと思うだろう。

しかし、リスクを伴う。

あくまで、体は自分の体なのだ。

無理矢理力を強化すれば、その反動が来て当たり前だ。

思考加速をすると、脳が疲れて糖分が欲しくなる。

下手をすれば、気を失う。

身体強化の場合、若い時には翌日、年取ると2~3日後にやって来る筋肉痛、あれが身体強化が切れた直後に襲って来る。

当然、強化の強さや長さでその反動は強くなり、時に激痛となる。

某戦闘民族が2倍とか4倍とか戦闘力をアップさせるが、10倍とか倍率上げて無理すると苦しむのと同じだ。

軽くゴンさんになるようなもんとも言えるw

出来れば、身体強化なんてするもんじゃ無い。

勇者として真っ当な戦いをする必要があった俺自身の、実体験に基づく話である。

だが、今は急を要する。

すまんな、ミラ、無理をさせるぞ。


6


予測通り、小一時間ほど走らせたところで、視界に先行する馬車を捉えた。

問題は、どうやって止めるかだ。

全力疾走で無いとは言え、それなりに速度は出ている。

馬車自体の重量もあり、急には止まれない。

帰りの事もある、馬や馬車は出来るだけ無傷の方が良い。

そこで、スリープを輓馬2頭に掛けるが、そのまま眠ってしまっても困る。

勢いが付いたまま眠っては、多分馬車が横転する。

スリープは得意では無いが、改良はこの場でも出来る。

眠らせるのでは無く、眠気を誘うようにする。

詠唱の『眠れ』の部分を『眠くなる』に変更する程度の事だ。

もちろん、魔法の本質は魔力の巡りなので、この変更により発動すらしない、と言う事もあり得るのだが、今回は上手く行ったようだ。

少しずつ、馬車の速度が落ちて来る。

ボスが気付き鞭を入れれば途端に眠気など吹っ飛んでしまうので、すぐさま次の手を打つ。

馬車の前方、ある程度離れた場所に、幅を広げたアースウォール(大地の壁)を屹立させる。

それに気付いたボスは、馬の速度を上げるのでは無く、止まる為に下げるだろう。

果たしてアースウォールに追突する事無く、馬車はその動きを止めた。

今度は、逃げ道を塞ぐ番だ。

馬車一帯を囲うように、円形のアースウォールを生み出す。

ふぅ、やれやれ、これで第一段階は完了だ。


俺は、その場でミラから飛び降りると、首をひと撫でした後に、アースウォールの上に短距離空間転移で移動する。

もちろん、この時点でステルスは発動済みだ。

位置としては、馬車を左後方から見下ろす形で、御者台で立ち上がり周りを警戒しているボスの姿も見えた。

ボスの身柄は確保して、背後関係を吐かせる方が後々の為には良いのだろうが、ここは人命優先、一気に殺してしまおう。

そう思い、弓を構えようとして気付く。

あ、弓と矢筒、宿の部屋に置きっ放しだorz

さすがに、街中では使う事も無さそうだから部屋に置いて出て、冒険者ギルドで情報収集を兼ねた飲みニケーションの帰り道、ついでと盗賊ギルドに向かう道すがら事件に巻き込まれたので、そのまま部屋に置いたままだわ(-ω-)

これが、戦士だったら常在戦場の心得忘るべからず、ってところだが、俺はそう言う堅っ苦しいのは嫌いなんだよ。

とは言え、今回は失敗したな。

これで、選択肢がひとつ減ってしまった。

ステルス狙撃でヘッドショット、これが理想の一撃必殺なんだが。

まぁ、無いものは無い、人は配られたカードだけで勝負するものなのだ。

……避けたいのは、俺が攫われた人たちを助けに来たとバレる事。

そうなれば、彼らは恰好の人質だ。

ふむ、そう言えば、俺は盗賊だ。

助けるのでは無く、商品を奪おうとすればどうだ。

彼らが救出対象では無く、ただの商品であるならば、余程追い込まれでもしない限り、ボスはわざわざ自分の商品を傷付けたりはすまい。

と言う事で、俺はステルスを解除し、アースウォールから飛び降りる。

それに気付いたボスは、こちらを迎え撃とうと御者台を降りる。

俺たちは、馬車の左側で対峙する形になる。

「これは、お前の仕業か。」

ボスには動揺も見えず、隙も無い。

結構、こいつはやるかも知れない。

「中々、良い商品だ。俺が貰ってやる。」

「手前ぇ、何者だ。俺様が誰か、いや、この積み荷が誰のもんか、判って言ってんのか?」

「知らねぇよ、そんなもん。目の前に美味しい木の実がなっていたら、そいつをもごうとするのは自然な事だろ?」

「馬鹿が。知らねぇってのは恐ろしいもんだ。良いか、良く聞け、こいつらはな……。」

丁度頃合いだと考えて、一気に間合いを詰める。

そして、ショートソードを居合抜きのように抜き放ち、ボスに斬り掛かる。

ボスは余裕すら見せ、腰の蛮刀を抜きざまそれを受け、しかし俺の膂力が思いの外強かった為、後ろへ飛び退いた。

そこが、俺の罠の中とも知らずに。

ボスが着地する瞬間、地面に魔法陣が出現し、光を放つ。

その紫光は天へと伸びて、1本の光柱となる。

だが、その光柱の中は紅蓮の炎で満たされ、中のものを焼き尽くそうとのた打ち回る。

ヴァイオレットシャイニングピラー(焔紫)、ガイゼル王国の国宝だった焔紫の、その中二病っぽいネーミングに触発されて、俺が開発した攻撃魔法だ(^Д^;

いやまぁ、結果論だけどな。

俺が目指したのは、物質体とアストラル体を同時に攻撃する強力な魔法の開発だ。

物質体へのダメージは、代表的な攻撃魔法ファイアーボールの炎を、アストラル体へのダメージは、様々なアストラルサイドへの攻撃効果を持つ魔法をいくつか選別し、上手くファイアーボールと組み合わさるものが無いかと試したところ、この形に落ち着いた。

その際、アストラルサイドへの攻撃効果を持つ魔法の多くが、紫色の輝きを放っていた為、こう言う色合いになったまで。

だが、何と無く、焔紫をイメージした事は確かだ。

だから、ヴァイオレットシャイニングピラーの和名は、焔紫。

と、俺は勝手に思っている(^^;

まぁ、スキルツリーに登録するつもりは無いから、別にどう呼ぼうと関係無いんだが。

それから、一応説明しておくと、焔紫は先に仕込んでおいた。

俺が姿を現す事で、ボスは多分正面に立つと踏み、その後方に仕掛けたブービートラップ。

ヒカルの碁で囲碁を始めた俺は、ヘボ碁ではあったが、数手先くらいなら読めるのだ(^Д^;

焔紫は、詠唱時に範囲指定した場所に魔法陣が描かれ、通常は即発動する。

今回は、範囲指定した場所に何者かが侵入した瞬間、発動するように改造したバージョン。

戦いながらの黙詠唱は、中々に疲れる。

だから、焔紫くらい高位の魔法の場合、詠唱に気を取られれば隙になりかねない。

それを避け、且つ、先に詠唱する事で消費したMPを回復する時間も稼げる。

所詮、俺はまだ駆け出しだ。

色々研究してその成果も身に付けたが、MPの総量はそこまで多く無い。

魔導士では無く盗賊だし、まぁクラスとしては勇者のままなんだが、勇者もあくまで魔法戦士系であって専業魔導士では無いから、どちらかと言うとフィジカル方面の方が強いのだ。

美しき紫光が消え去った後には、燻りながら両膝をつき、蛮刀で体を支えたボスがまだ生きていた。

こいつは凄い。

確かに炎はファイアーボール並みなので、骨まで残さず人体を焼き尽くす、程の火力は無い。

だが、アストラルサイドへのダメージは、インビジブルダガーの比では無いほど強力だ。

生きていたとしても、まさか意識まで保っているとは。

このボスは、相当な手練れだったようだな。

さて、生きていたら生きていたで、この後どうするか。

もう戦闘力は残っていそうに無いが、攫われた人たちと一緒に運ぶ訳にも行くまい。

あ、そう言えば……。

「よう、凄いな。あれを喰らってまだ意識があるとは。そう言えば、お前の口上の途中で斬り掛かっちまったから、聞きそびれていたな。お前は誰で、この荷は誰のものだって?」

煙を上げながら、虚ろな目を上げ、こちらを見詰めるボス。

「……へっ、お前ぇ、何者なんだよ。まぁ、どうでも良いか。良いか、今度こそ良く聞けよ。こいつらは、リトルドクターの患者だよ。リトルドクターの患者を横取りしようなんざ、お前ぇ、死んだぞ。」

……、……、……。

エーデルハイトからは人影が途絶えているそうだから、仮に司教の玩具を用意しようと思っても、もう上手く集まらない。

だから、お隣のデルゲンに狩場を移して、ある程度集まったらオルヴァへ送る手筈、そんなことろか。

しかし、そう言う事なら問題無い。

このボスに、次の荷物の要求をする依頼人は、もうこの世の人では無いのだから。

「リトルドクターか。確かに、あんな奴に目を付けられるのは御免だな。」

「もう、遅ぇぜ。相手はリトルドクター、これじゃあ俺だって殺されかねねぇ。」

「まぁ、その心配は無用だ。さて、最期にひとつ聞かせてくれ。お前の名は?」

「……ブルース。」

「そうか。では、ブルース、先にあの世でドクターが待ってるぜ。」

「え……?」

俺は、ブルースに止めを刺す。

心臓をひと突きにしたショートソードを引き抜き、血を払っていると、経験値が獲得される。

結構な数値だ。

やはり、かなり強い奴だったんだな。

鑑定Lv1の俺には、レベルいくつなのか判らんが(^^;


その後、助けた者の中から御者を選び、領都へ戻る。

夜明け前には帰り着き、あの女は妹と再会を果たした。

俺は、すぐさま荷物をまとめて宿を後にし、ミラに跨り宿の周りを一周する間に、別人の仮面をクリムゾンからノワールへと付け替える。

そして、同じ宿にノワールとして泊まり、思いっ切り惰眠を貪った(^ω^;

そう、すっげぇ疲れたから、とにかく眠りたかったのだ。

後で聞いた話だが、予想通り、宿には詰所からの使いや助けた人たちが押し掛けて来て、クリムゾンとの面会を望んだそうだ。

一々取り調べに付き合うのも面倒だし、助けた奴らからお礼を頂く必要も無い。

今一番大事な事、それは眠いから寝る。

それに、仕方無いから助けよう、と決めた時点で、今回の事件はクエストになっていた。

ちゃんと、経験値と言う報酬は頂いた。

それだけで充分。

営利目的の誘拐では無いから、どうせ助けた奴らからの報酬なんて、大した額でもあるまいし。

ちなみに、勇者の体の素晴らしいところがもうひとつ。

眠るのも、体力要るんだよねぇ。

だから、年取ると中々ぐっすり眠れない。

頻尿で、何度も目を覚ます人もいる。

しかし、明け方からその日の夜中まで、約20時間も一度も目を覚まさずぐっすり眠れたわヽ(^∀^)ノ

起きたら真っ暗だったけど、滅茶苦茶爽快でした。

まぁ、魔法を使いまくり戦闘もこなしたので、かなり特殊な疲れ方をしていたのかも知れない。

本当、先読みしてノワールになっておいて良かった。

で、眠気は覚めたが、めっさ空腹だ。

そこで、まだ夜中だし、行きそびれていた盗賊ギルドへ赴く事にした。

ここのギルドは、スラムの中で酒場を兼業しているのだ。

今回は、味より量でたらふく平らげ、酒も呷って情報も買う。

だが、結局大した事は判らなかった。

裏の情報網に引っ掛かるような事も、特に無いと言う事が判っただけだ。

もう現地へ行くしか無い。

宿へ取って返し、酒の酔いは醒まさずに、少し仮眠を取る。

そして、夜明けとともに出立、いざエーデルハイトへ。

少し予定より遅れたが、ようやくメインクエストを進められそうである。


つづく

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