第8話 転生者の実力

「おい、オズ!可愛そうじゃねえか!!負けてやれ」


 ヴァルロゼッタ達のやり取りを聞いて、ギルドの仲間がヤジを飛ばした。


「やかましい!今まで苦楽を共にしてきた仲間だろ。――貴様らは一体どっちの味方だぁ!?」


「勿論、我がギルドの新たな華。ロゼッタちゃんにきまってるだろ!」


「気に入らないんなら、てめぇが出ていけばいいだろ!」


 次々と上がるのは、オズバレットを非難する言葉ばかり。

 

「な……、なぁ!?」


 この場にいるほとんどの観客がヴァルロゼッタを応援してくれているようにも見て取れる。


 思ったよりも、この方の人望は無さそうですね……。少し同情した。


「へへ……頑張ってくれなロゼッタちゃん、俺も賭けさせて貰ったからよぅ」


「は……、はぁ、どうも」


 挙句には、ウォルフまでもが、ニタニタした顔で手を揉みながら近づいて来る。


「ああ!?ウォルフさんまでー!!この裏切り者ぉ!!!」


 哀れ。オズバッレトの見方はこのギルドに居ないのではないだろうか?そういう疑問まで浮かんできた。


「さぁて何のことかなー。――と、細かいことは置いといて、そろそろ決闘を始めようぜ!」


 バツが悪くなったウォルフは、急いで決闘の開始の催促さいそくをする。 


「あの……」


 と。


 流れを止めて申し訳ないと、ヴァルロゼッタは小さく手を挙げた。


「なんだい?嬢ちゃん」


「魔術は使用しても?」


 願わくば、こんなお遊戯会なんぞ魔術の一撃でさっさとお開きにしたかった。


「おお、嬢ちゃんは魔術騎士師様かい!武器の指定以外はなんでもありだ。――まぁ、オズ坊はは使えないがな、遠慮はいらないぜ!がははははっ!!」


「魔術が使えない……」


 ……って事は。あれ、この決闘、滅茶苦茶わたくしに有利なのでは――!?


 亜人であれば、魔術が使えなくてもに超人的に発達した身体能力があるのだが、もちろん人間のオズバレットには関係ない。


 人間でも魔力による身体強化は出来るのだが、それも亜人に比べれば大したことのない。


 ましてや、ヴァルロゼッタは異世界転生者。魔術も使えない一般人を相手になど、手を抜いたとしても負ける方が難しいくらいだ。


「なぁ!?ウォルフさん!!!敵に有利な情報を……、卑怯だぞぉ!!」


 始まる前からオズバッレトの敗色は濃厚。


 ヴァルロゼッタは、自分の勝ちに全財産賭けておけば良かったと少し後悔していた。


「へへ、オズ坊。勝負ってのは如何いかに楽して勝つかが重要なんだぜ?そんじゃぁ、両者見合って……、」


 合図に互いに身構える。


「――決闘開始ィ!!!」


「うおおおお、良いぞお派手にやれぇ!」


 一番に声を上げたのは野次馬たちであった。


 辺境の地の刺激の少ない閉鎖的生活では、こういったもよおし物はいつでも大歓迎なのだ。


 血の気の多いであろう冒険者なら猶の事だ。


「ちぃっ、どいつもこいつも。こうなったら仕方が無い。――おい、


「……何でしょうか?」


「先手をゆずってやる、来い」


 オズバレットは、悪戯っぽく歯を見せ、古典的な手招きの仕草で挑発をする。


 何かを企んでいるような顔にも見えた。自暴自棄になったという訳ではなさそうだ。


 もしくは、この期に及んでヴァルロゼッタの実力を読み間違えているか。


 どちらにせよ、この挑発行為には何故か無性に腹が立つ。


「……。あまりそういった態度は感心できませんね……。――相手を甘く見ていると痛い目に会いますよ?」


「ふぅん、構うものか。貴様と俺ではそもそも強さの次元が違うのだ!――それに俺は油断などしていない。チートスキルなんぞ腐るほど見てきたからなぁ!!!」


「……」


 チートスキルの事まで知っているのですか……。なぜそれを知っていてわざわざ立ちはだかって来るのかという事には、一考の余地があった。


 が。


 相手の武器は木製の剣一本のみ。二人の距離は約5メートル程。近接戦をするには、遠かった。


 しかも、魔術の使えるのはこちらのみで、例え相手が何か企んでいようとも近づかなければ怖くはないハズだ。


「……。では、行かせていただきますが、後悔しないでくださいね?」


「ふんwww」


「……」


 色々と気掛かりな点はあるものの、先ずは目の前の問題の排除が先決。ヴァルロゼッタはこのをすぐに終わらせたい。


 疑問点は痛い目を見て貰った後に、ゆっくりと尋問おはなしでもすれば良いのだ。


 かざす手には既に、魔導式の円環が展開されている。


 魔力が充填されて、輝きが増す。


「ブラスティア――」


 一応、手心は加える。


 遠慮はしないで良いとの事だったっが、こんなことで人殺しになるのも嫌なので、あくまで良識の範囲内の威力で放つつもりだ。


 正直、思いっきりブチかましやりたい気分だが、ここは我慢。


 ヴァルロゼッタは王族としての教育を徹底的にされている。のだ。


 手の甲の魔導紋が煌々こうこうと光を放つ。魔力とマナが反応し、魔導式の前に紅の火球が形成されていく。


 魔導式の展開からここまでに2秒程。発射準備のシーケンスは完了した。


「なんだ?只の火属性魔術ではないか。――どんなチートで楽しませてくれるかと思ったが、心底つまらん奴だなw」


 イラッ――。


「ボルトォ!!!!!」


 あ……。


 少し手元が狂った。


 速度は抜群。並の人間であれば回避はまず不可能。


 地上の太陽が如く輝く弾丸がオズバレットを目掛け、飛んでいく。


 間もなく。


 鈍い地響きと共に着弾し、砂煙が巻き上がった。


「おいおい……、なんでぃあの威力は……」


 ウォルフは、口をあんぐり開いてくわえ煙草を足元に落とす。


「あー……。やり過ぎてしまいました……」


「お……、おおう……」


 ドン引きする野次馬たちに、ヴァルロゼッタは少し反省をする。


 気に食わない相手ではあったものの、やろうと思ってやったわけではない。


 不慮の事故だったのだ。


 幸い、ギリギリのところで理性が働いて、見物人たちは巻き添えにならないくらいの威力には抑えられていた。


 それでも、目の前で花火が爆発したくらいの規模ではあった。


 尊い犠牲でした――。骨折くらいで済むといいが。


 一応。やり過ぎてしまったことを心の中で謝っておいた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る