三.

九月十六日 処女宮


Alju-arraが再度部隊を結成、hrru-juuoへ


総攻撃をかけている最中に、Alju-arra側で多少の


不穏が起こったことが、無駄に血を流さずに大国を


生み出すこととなる。


 


 


 


「無駄な説明はせぬ、一言も逃すな。


私がこれから話すことを、そなたの胸に刻め、


リブラ」



 その日の自分の呼び出しが只事ではないと


感じてはいたが、王が重い容態にも関わらず正装で


玉座に座っているのを見たとき、そして何より王の顔を


みたとき、それは自分が想像している範囲を超えていたことを


リブラは知り、いつにも増して心を引き締めた。


「はい、陛下」


 


その言葉はびしりとリブラにつき刺さった。


「今日限り、ヒルジューノとの戦をやめる」


 


 リブラは目を見開いた。



「なっ…何故でしょうか、陛下」


答えない国王を攻めた。


「姫をヒルジューノの皇太子殿の妃に


差し出すというのですか?」


 


「それもありえるな」


王の目は、いつにも増してリブラを見つめる。


わからない。


リブラは声が荒がるのを止めることが


できなかった。


 


「何故でしょう、陛下!


姫の意志はどうなるのでしょう!?」


王に思わず歩みよった。


王は只、リブラを鷹の目で見つめている。


王と同じくらい、リブラは炎を宿らせていた。


それは、なんの炎なのだ、リブラよ…。


王は只、静かな炎で、リブラの炎を


返した。


リブラはひるまない。



「姫をヒルジューノに差し出すのは、それは


向こうと対等にたちあった我々の国を売るも


同じことではないのですか!?


 


 姫には思い人が……」


 


「その思い人が、


リブラ、お前だと知っても、


まだ何か言う気になるかな?」


 


 


 リブラの体を、たとえようのないものが


かけめぐった。愕然とした体から、息が漏れる。


リブラの動揺を王ははじめて、目の当たりにした。


 


暫くの沈黙を、国王は、破る。 



「…私は姫の思い人は、男だと思っていた。


是非会って、姫を貰って欲しい……、そう願う


つもりだった。


 


 この戦も、国威が関わっていたとはいえ、


娘を国の制略にかけることは、できるだけ避けたい、


そう思っていたところもあったのだ……


 


民も、娘を思う私の気持ちを、苦しい戦が


続くことを、私に免じて許してくれた。」


 


 ここで国王はくぎりをいれた。


動揺が幾許か納まり、自分の話に意識を


集中させるリブラを見つめた。 



 「しかし二日前に、娘から、思い人がそなただと


聞かされたのだ…。自分は、皇女でもなんでもなくていい、


そなたと一緒に居たいと言った…。


 


 私の気持ちがわかるか、リブラ……。


あいつは私と我が国と、我が国の民に泥を塗ったのだ…。」


 


 王の弱々しい、しかし怒りに震える顔を、


声を、もはやリブラは直視できなかった。王は涙こそ


流しはしない。が、声からそれが伝わってくる。



リブラは騎士の顔を取り戻した。


王の話を、その空気で促す。



「…すでに国中でよからぬ噂が広がっておる…、


 


娘のよからぬ恋のために、


国を巻き込んで、無駄な血を流している、


とな……。」



 王も、国王の顔に戻った。


「私は娘のことは、もはやどうでもよいのだ、


リブラよ…、国民の不満を抑えられるのならば、


ヒルジューノに娘を差し出すことで戦を終える


こともできる。


 


もしもお前が娘を欲しいというなら、


皇族の身分を解いてやってもいい…。


 


私の役目は、アルジュハラを治めること。


さぁ、どうする。


決めてくれ。」


 


 国王に、リブラは、深く、ただ深く、頭を垂れた。


自分に答えを出すことを許してくれる王に、返せることは…、


自分が、騎士として答えを選ぶことだ、リブラはそう直感的に


解っていた。


 


立場。


それを守らねばならない。


誰にも代わることのできない、


立場。


 


それが、長年生きてきた中で、


リブラが学んだことなのかもしれない。


 


迷いは、なかった。


目をとじ、そして、開く。


リブラは顔をあげた。



「私が敬愛してやまない、我らが国王よ…、


この私が一人、この国から去らせていただく故…、


どうか姫のご身分を解かれることだけは


お留まりください…」


 


(責任をすべて、被るというのか、リブラよ…)


「うむ…」


 


「陛下のお怒り、どうかお静めください…、


全ての原因はこの私にあります…


姫をお責めになりますな」


 


(国のために…)


「…すまぬなリブラ……」


「いいえ、陛下…」


 


長い長い沈黙が訪れた。


 


国王の目が、きらりと光ったのを、


リブラは読み取った。



その言葉を待った。


「…そなたが我が娘のことを本当のところ


どう思っているのかはわからぬが…、


 


今宵そなたがする事には一切関知


しなかったことにするとしよう…」


 


 リブラは微笑む。


「ありがとうございます。


…では失礼いたします、陛下…


おだやかにお過ごし下さい」



深い敬礼をする。


 


(…そなたが我が国のために


尽くしたこと…、生涯、私の名において


忘れはせぬぞ、リブラ…)


 


王はがっくりとうなだれる。


振り返ることなく、リブラは謁見の間を出た。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る