第2話 豪華客船殺人事件
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!』
「さぁ観念したまえサイレント!」
『やめてぇぇぇぇぇマナちゃぁぁぁぁぁん!!』
サイレントは今新しく探偵事務所の仲間入りを果たしたマナに捕まれ巨大な桶に放り込まれていた
桶の中は泡だらけであり、黒ずんでいた
『あばばばばばばば』
「今回の依頼は場所が場所だ、悪いが手荒に行かせてもらうよ手洗いだけにね!」
『うまくねぇぇぇぇごぼぼぼぼ』
『諦めなよサイレント、僕も同じ目にあったんだから』
「すまないスケイル、代わりのお湯を入れてくれないか」
『御意』
『ごすずーん!!助けてぇぇぇぇ!!』
「ちょうどいい、綺麗にしてもらえ」
『ごすずんの人でなしィィィィィ!』
なぜダスティとサイレントがこうなったのか、それは約2時間ほど前に遡る
2時間前
カランコロンカラン
「いらっしゃいませ」
マナが来客に気づきそちらに目を向けるとそこには一般人と言っても過言では無い人物がいた。
屍探偵事務所は探偵事務所の中でもイレギュラーな探偵事務所であるため普通の人が依頼をしてくることは一切ない。
この探偵事務所にくる以来は異形討伐傭兵などでは手に負えない仕事ばかり来るのでここに依頼をしに来るものは大抵只者では無いもしくは金持ちや官僚の使いなどが大半だ
「お?屍探偵事務所もついに看板娘を雇ったのか?」
「彼女は看板娘ではない、グラディエル家の娘だ」
「あぁ例の事件の、どうもグラディエルさん、俺は柏崎だ、警察をしてる」
やはりというか彼はただの一般人ではなかった、警察…しかも私服警官というやつだろう。話し方から察するにラスティと仲がいいのかもしくは腐れ縁になるほど依頼を回しているかのどちらかだ
「柏崎、何の用だ。前回の依頼の報酬がまだ振り込まれてないぞ」
「その件は待ってくれ、上がいま色んな事件に経費回してるせいで後回しになってるんだ」
「なら今回の件も払えないということになるな?」
「それを承知でこうして頭を下げに来たんだ。報酬に関しては必ず払う」
「税金からか?」
「警官の経費なんてそんなもんだろ……まぁ話を聞いてくれないか」
ラスティは溜息をつきながら来客用のソファに座る、マナはスケイルと一緒に茶を入れてラスティの隣に座る
『あっ柏崎だ』
「やぁサイレントにダスティ、スケイルも元気そうだな」
『金払わないやつはいらないぞ、帰れ帰れ』
「俺のせいじゃないって……まぁ今回に関しては払える宛てがあるから」
どうやら金を払わなかったのは1回や2回だけではないらしい、ダスティとサイレントからも嫌われていた。
「警察からも依頼が来るのかい?」
「まぁな、だが警察からの依頼は7割くらい支払い放棄されるは支払いが半年後なんてあるからな」
「上はお前さんには頭が上がらんからなぁ……まぁその話はまた今度しよう。今回払う宛がある理由がこれだ」
柏崎が出したのは豪華客船パーティーの資料だった
「?客船パーティ?」
「あぁ、これかい」
「マナ、知ってるのか」
「もちろんさ、私の家もあの事件がなかったら出席予定だったよ、名のある大富豪や企業の社長などが集まって船上パーティをするというものだよ、仕事のパイプ繋ぎや融資の依頼などかなり複雑なものさ」
あの事件と言ったときマナの顔が少し暗くなった、ラスティはそれを1番よくわかっており頭を撫でてやった
「…まぁその主催者が護衛に軍隊をよこせって言ってきたみたいでな、というのもこのパーティは要人も参加するからな、とはいえそんなことに軍隊なんて派遣したら金がいくらかかるかわからん、だから我々警察とかにパイプがつながってる腕利きの傭兵などで代用しようって訳だ」
『てことは報酬は主催者側からって事っすか?』
「そうなる、だから報酬は期待していい」
『ごすずん、どうします』
ラスティはマナに目を配る、マナはラスティをみて首を横に振る
「私は気にしなくていい、むしろあのような悲劇を繰り返さないためにも」
マナは力強くこちらを見ている、これなら大丈夫だろうとラスティはうなづいた
「決まりみたいだな、じゃあ頼むよ」
『仕方ないっすね〜』
「あっそうだ」
柏崎は何かを思い出したようにポンと手を叩いた
「今回は言っちまえば豪華客船パーティだ、あんま汚い格好とかは辞めといた方がいい」
たしかにそんなお偉いヤツらが集まるパーティなどで、私服や汚らしい格好などで出席したらつまみ出されてもおかしくない、ラスティはダスティとサイレントに目を向けた
『……え?』
「つーわけだ、少なくとも身だしなみは綺麗にな」
『まてぇ!今回オイラ達行けないってことっすか?!』
「いやそうじゃねぇ、傭兵連中もいるから別にピシッとしろって訳じゃねぇが流石にお前ら2人は綺麗にした方がいいぞ?さすがに汚れすぎだ」
たしかにダスティとサイレントは付喪神のようなものとはいえ、ずっと洗っていないためものすごく汚いと言われても仕方ない。
ダスティとサイレントは活動する上で大切な偵察役なため護衛任務などでは欠かせない存在だ、となると彼らを洗わねばならない
「なら、私に任せて欲しい」
マナは腕をまくりやる気満々だった、それを見たダスティとサイレントは
『『嫌な予感』』
「さあ覚悟したまえ2人とも!」
…
「ふぅ」
ひと仕事終えたマナは額の汗を拭った、サイレントとダスティは物干し竿に干され天日干しにされていた
『オイラのマナちゃんの好感度下がったっす』
『いや仕方ないよこれは』
「ありがとうマナ」
『お茶…』
「ありがとうスケイル」
お茶を飲みマナは一息ついた
「私がここにきてからの初仕事だからね、すこし張り切りすぎたかな」
「いや、彼らは私に必要なもの達だ。今回の依頼達成のためにもな」
「私も力になれると思っているよ」
「まさか来る気か?」
マナはまさか自分が置いていかれるのかと言う顔をしていた。
護衛は一歩間違えたら死ぬようなものだと言うのに彼女は着いてくる気だった
「まさか置いていく気だったのかい?」
「危険な仕事だ、君がどんな目にあうか」
彼女も一応異形化してるとはいえ女性だ、負けでもして強姦される可能性だってある。そんなことになればラスティは亡き彼女の父親に合わせる顔がない
「大丈夫、きみのそばを離れないようにする、それに私がいた方があの場で立ち回るのはいいと思うが?私はグラディエル家の娘だ、パーティ内を見張るなら私がいた方がいいはずだ」
そう言われては反論ができない、失敗して警察から文句言われるのもめんどくさいので今回は成功のためにも彼女を連れていく方がいいと判断した
「だが私からも離れるなよ」
「わかっているよ」
彼女もこの探偵事務所の一員、仲間はずれも良くないだろう……彼女の初仕事は大きな仕事だが不思議と彼女ならば成し遂げるのではと思った
『なんか雰囲気良くないっすか?』
『気のせいだよ』
『おー!!』
当日、聞いていた場所に向かうとそこにはまさにタイタニック号のような豪華客船があった
『オイラ船初めてっすけどこんな豪華な船乗っていいんすか?!』
『サイレント、あんまりはしゃぐと落とされるよ』
「ふふ、まるで子供だな」
「あぁ」
とはいえラスティもこういう船は初めてで内心戸惑っていた
「ラスティ君?」
「すまん船がデカすぎてな」
「私も来るのは1年ぶりなのでね、だがグラディエル家は崩壊したからもう来ないと思っていたけどね」
『ごすずーん!マナちゃん早くするっす〜!』
「今行くよ」
サイレントが子供のようにはしゃいでおり、ラスティは幼児退行して仕事を忘れてないかと心配した。
乗り込んだあとすぐさま出港した。どんどん陸地を離れていく様子にサイレントとダスティははしゃいでいた
「なぜ出港する必要がある」
船上パーティーをするならば出航する必要は無い、わざわざ逃げ場のない海のど真ん中に行く理由が分からなかった
「おや?ラスティ君はこういう事情は知らない感じかな?」
マナはフンと鼻息を粗げ得意げに話し出した
「確かに海ならば逃げ場はない、だが逆にいくら異形でも船で殺人を犯したとして陸まで泳いで逃げることが出来るかな?君が今まで見てきた中で魚人という存在はいたかね?」
『いや魚人はいないっすね』
『正確にはいたけどみな死んでるですね』
異形化し魚人になったものたちも確かにいるだが大半は息が出来なくなり陸上での窒息死が多く、異形化で魚人化したもの達が死んでいくのが大半だ
「つまり海の上ならば魚人化した異形でも殺すには先に船に乗らねばならない、船に予め乗ると死んでしまうからね。そして殺人を犯した場合逃げることが出来ない。だから船上パーティーなのさ」
ある意味異形対策をした手段なんだろう…どちらかと言うと魚人対策と言うより殺した異形を逃がさないが本命だろうが
「理解した、よしダスティ、サイレント、船内偵察とあと異形が居ないか確認してこい、怪しいヤツはマークだ」
『『アイアイサー!』』
ダスティとサイレントはその場から船の形に沿って船全体の偵察を始めた
「マナは私から離れるな」
「あぁ、君も離れないでくれ?私のそばに居た方が会場内での護衛がしやすいはずだよ」
この時ばかりはマナに感謝した。会場内に殺人を犯した異形がいるなら即両断する気でいた。
マナのおかげでやりにくい仕事がやりやすくなったようだ。
マナの跡をついていくように歩き会場内へ、会場内ではすでにパーティーが開かれており、中には雇った傭兵もちらほらいたがやはり異形対策に異形SPなどもいた
「ラスティ君、なにか食べるかい?腹になにか入れておかねばあたしが回らなくなるかもしれない」
「君が適当に見繕ってくれ、私は好き嫌いは無い」
「わかった」
マナが食事をよそうのをそばで見守りながら会場内の様子を確かめる、要人と傭兵、SPなどの数や配置などを頭に入れる
「ラスティ君、どうかな?」
「やはり厳重だな、大剣を振り回すのは少し控えた方がいいな」
「怪しい人物はいないかい?」
「今のとこは…だがな」
「なにやら不安そうだね」
「当たり前だ、異形社会における事件で犯人が異形となると警察も肩を落とすからな」
「それはなぜだい?」
「異形が犯人なら普通ならできない犯罪ができてしまい証拠もへったくれもない犯罪の捜査をしなくちゃならんからな、凶器、指紋、痕跡が人間の犯罪以上に少ない上擬態する異形なんていたら迷宮入りだ。今回も異形の仕業だとするなら捜査は大変だ」
「君はそういうのに慣れてるのでは無いのかい?」
「まぁな、だが私はどちらかと言うと探偵より護衛の仕事が多い、異形犯人探しは出来ればしたくないがな、骨が折れる」
「そう言わないで欲しい。君が諦めたら誰が犯人を捕まえるんだい?」
「随分私に期待しているなマナ?」
マナからの期待に対して疑問を抱くとマナはトングをカチカチと言わせながらニッコリと笑った
「私はあの日父も私も救ってくれた君を信頼しているよ」
「救った…ねぇ、あれを救ったと言えるのか?」
ラスティは彼女の父を助けれなかった、殺した張本人だと言うのにマナはラスティを攻めなかった
「父はわかっていたんだ、異形化するのを……だから君に殺すよう頼んだんだ……父の願いを聞き届けてくれて私の願いも聞いてくれている君には感謝しかないんだ」
「……」
『ごっすずーん戻ったッス』
話をしているとダスティとサイレントが帰ってきた
「戻ったか、どうだ」
『異形らしい異形は何人かいましたね、武装してたから傭兵ッス』
「そうか」
「おかえり2人とも」
『マナちゃんごすずん変なことしてなかった?』
「大丈夫だよ、少し話をしていただけだ」
二人が帰ってきたと同時に会場が暗くなった
「皆様!ようこそお越しいただきました!」
このパーティーの主催者であろう人物の挨拶がはじまった
「マナ、あれは?」
「彼はこの船上パーティー主催者の次男坊だよ、時期副社長と言われてる」
「時期社長は兄か?」
「あぁ、彼らは武藤、人間ようの用品を主に取り扱っており、対異形用防犯用品とかも作っている」
「異形反対派か?」
「いや異形反対派というわけではないが異形関係の製品に力を入れる会社が増えたのに対し人間用品の会社が減ったのもありいま武藤グループが人間用品を牛耳ってるってだけさ」
『確かに異形用品っていくら作っても足りないですもんね、人は人って括りにはなるけど異形ってそこから多岐にわたるわだけだからオーダーメイドに注力してるって企業が多いですね』
「しかし船上パーティーを開くくらいというのだ懐はあったかいだろうな」
「実際今の人間用品はほとんど武藤グループの手が入ってる、武藤グループが船上パーティーを開くのも対異形防犯用品の開発のために異形用品を作ってる会社とのパイプ繋ぎだろう」
「詳しいな」
「私も武藤兄弟とは嫌というほど顔を合わせているからね。彼らの思惑を見抜く時間は沢山あったよ」
マナもマナで苦労しているのだなと3人は同情した、説明を受けている間に挨拶は終わったらしく、次期社長である武藤兄の出番が回ってきた
「それでは我が兄武藤圭一より挨拶を!」
スポットライトが舞台に照らされた瞬間
「うわああああああああああああ!!?」
「きゃあああああああああ?!」
パーティーは悲惨な現場に変わった、武藤圭一だろう人物が首から血を流しながら逆さで吊り下げられていた
「あっ…」
みなが動揺する中ラスティだけは舞台に走る、サイレントとダスティも続いて走り出し、それを見たマナもようやく走り出した
「はやく下ろせ!会場をしめろ!」
「えっあ」
「早くしろ!犯人に逃げられるぞ!!」
「は…はい!」
迅速な行動もあり迅速に扉を封鎖され、ネズミ1匹逃げられないようになった
「ラスティ君!」
「ずいぶん大胆なことをしたな」
『ごすずん!』
「ダスティ、サイレント、下ろせるか」
『アイアイサー』
サイレントは浮き上がりワイヤーを見る
『下ろせるっす、どうやら後ろのスクリーンに繋がってるっす』
「スクリーンを下ろしてくれ」
「あっはい」
操作盤を操作し、被害者を地面に下ろす。
被害者の足にワイヤーを括り付けられれていた
「ラスティ君…彼は」
「もうダメだな、喉元が食いちぎられてる」
「食いちぎ…?!」
マナがみた遺体には喉にぽっかり空いた穴があった
「これは?!」
「見ての通りだ。異形の仕業だな」
ラスティはため息をついた。面倒くさい事件になったと呟いて
「兄さん?!」
「君が弟か?」
「はい…司会を務めてます武藤陽斗です」
「陽斗さん、お兄さんはどのように登場予定でしたか」
「兄は…暗闇に紛れてこの場で立ってました…」
「移動したのが消灯したあとだと考えると挨拶の間の数分か」
「そんな!私はすぐそばに居たのです!兄が殺されたなら1番早く私が気づくはず!」
「叫び声をあげることが出来ないようにしたんだ、声帯を食いちぎって出てきている。」
他に外傷がないため死因はこれで間違いないだろう…次になぜワイヤーに吊るしたか……
「ワイヤーに吊るしたのはなぜだい?」
「おそらく民衆の目を向けさせるためだろう、あんな死に方してスポットライトまであてられたんだ、注目しないはずがない、その間に逃げたんだろう……食いちぎった傷跡からみて標的はかなり小さい」
『ワイヤーはどうやって取り付けたんすか?』
「……」
ワイヤーの取り付け、たしかにこれをするためには暗闇の中で動く必要がある…スタッフの配置場所はステージに陽斗、その他のスタッフは裏方にいるそう考えると可能な人物は陽斗だけになる、だが彼はスポットライトを浴びて挨拶をしていた。彼の犯行は不可能だ
だがそれは普通の人間の犯行ならの考え、異形のしわざだとするなら全ての話が変わってくる……
喉元を的確にくい破り尚且つターゲットを飲みを殺している。さらには小型、となるとこれは知性がある小型の異形集団となる
「……」
だがそんな異形が船の中に入るのは不可能に近い、入口なども厳重な警備があり、小型の異形がカサカサ入ってきたら即発見される、貨物に紛れてきたとしても積み込む前に検査をしているためすぐにバレる。
なら答えは簡単だ。
『ダスティ、サイレント、裾の長いドレスをみにつけた女性を探せ!なるべく体型が大きいやつだ!』
『『アイアイサー!』』
「わかったのかい?!」
「異形の犯罪ってのは人間に出来ない暗殺方法ができる、だが逆に言えば人間に出来ない暗殺方法を使用すればそれは異形の仕業とすぐ分かる、ならば異形の特徴、犯行手口などを考えれば犯人の正体や容姿を特定するのは容易い。人間が完全犯罪するためのトリックを推理するよりよっぽど簡単だ」
「というと?」
「今回の異形は小型群体異形、知恵もある。だが小型の異形が侵入するにはこの船の警備をくぐりぬけるのは骨だ。なら連れ込んだ奴がいる、そいつが親玉だ」
「裾の長いドレスの意味は!?身体検査はしたのだろう?!」
「おそらく体内にいたんだろう、身体検査を乗りきったあと産み落としたんだろう、トイレかどこかでな、そして用が済んだら奴らを回収して逃走といったプランだろうな!」
『ごすずん!身長2m程のドレス着た人がいるッス!』
「どこだ!」
『真っ先に逃げようとしていたのか出入口付近にいるッス!』
「よし」
ラスティは入口付近にいる女性に向かってケースから大剣を引き抜いた、そして2m近い女性に斬り掛かる
ガッキィィィン!
「チィ」
「くっなぜ分かった!」
女性はやはり異形だった、腕に見えた部位はカマキリのような鎌を備えた擬態腕だった
「賢いな」
「貴様まさか異形殺しか!」
「まぁそんなところだ」
周りの客はみな叫びながら逃げ惑った、狭い会場はすぐさまパニックになった
『ギャァァァァァァァ!』
『サイレントぉぉぉ!』
「いかん!パニックに…」
カサ
「え?」
みなが離れた真ん中ではラスティと異形の女との戦いが続いていた、向こうも暗殺をしてきた異形なだけあり守りが硬い。
「清浄!!」
「ぐはっ!?」
だがやはり武はラスティにあった、異形化した左腕で弾き飛ばし体制を崩す、崩れたとこにトドメをさそうとしたら
「動くな異形殺し!周りを見な!」
「!」
周りの客人、果てにマナにまでも虫のような小型の異形がまとわりついていた
「貴様」
「私の勝ちだね、動くんじゃないよ、うごけば首を食いちぎるよ。私を殺してもいいけど食いちぎられても知らないよ」
「ラスティ君……」
多人数の命をやつは握っていた、ラスティもこの状況で大剣を振るほど非道ではない、大人しく動きを止めた
「は…よくもやってくれたね…仕事が終われば逃げる予定だったけど私のをこんな有様にしたんだ…命を持って償ってもらわないとね」
「仕事……やはり裏に依頼人がいたか」
「私の暗殺成功率は100%だからね、武藤グループの独占が気に食わなかったんだろうね」
「なるほど、お前の依頼人は武藤グループのライバル企業か」
「さぁ、それはあの世で調べるんだね……さて…動くんじゃないよ…」
チャキンチャキンと鎌をとぎながらラスティに近づく、このまま首を切り飛ばす気だろう
「ラスティ君!!」
「死にな!異形殺し!!」
鎌を振りかざす、首が飛ぶと思われたその時だ
スチャッ、パァン!!
ラスティは拳銃を取り出し天井を撃ち抜いた
「なにを」
プシャァァァァァァ!
「わっ!」
『うわぁ!!』
「なにぃ?!」
スプリンクラーを破壊したのだ、壊れたスプリンクラーから大量の水が溢れ出す
「悪あがきを…!?」
女が気づいた時にはラスティは既に大剣を振りかざしており、それを見た女は死を悟る
「忘れたの?!私を殺せばどうなるか」
女の警告も無視しラスティは女を叩き斬った
「ガハッ…!!」
だが小型の異形が動かずポトポトと身体から落ちてゆく
「…?」
「な…馬鹿ななぜ」
「小型の異形の正体が分からなくてあまり手出し出来なかったが…虫型だとわかったならお前の暗殺のカラクリは分かった」
「なに…?」
「貴様、暗殺する際子分にフェロモンを出していただろ」
「!!」
「フェロモン?」
「女王蜂など司令の時に出すフェロモン、それは言葉を交わさずに命令を出す手段だ、貴様はそれを出し自分の子分に暗殺命令を出していたんだろう。そしてこの虫どもは頭がいい、細かい指示でも的確に動くだろう…だがフェロモンさえなければお前の声はやつには届かない」
「貴様まさかスプリンクラーを破壊してフェロモンを!」
「あぁ我々には香らない匂いだとしても雨の中や水の中では伝達しない貴様が死ぬ間際に出すフェロモンすらもな、女王からのフェロモンを失った子分はどうしたらいいか分からず貴様を探し始めるだろう」
足元にはいよってきた小型の異形に大剣を刺し串刺しにする
「頭はいいがフェロモンがなければただの無能だな」
「貴様…私の可愛い子を」
「お前には後で聞きたいことがある、楽しみにしていろ」
ラスティは大剣の平たい部分で頭を殴り気絶させるのだった、小型の異形から開放された皆は安堵の声を上げ事件解決となった
犯人は警察により連行された、船から降りた探偵事務所一行
船が戻ったときには待っていたと言わんばかりに警察が待機していた
「ご苦労さん、だが暗殺されたって話だが」
「本当の目的は暗殺者の逮捕なんじゃないのか?」
「まぁそんなとこだ、実を言うと今回のパーティに現われるだろうとは思っていた」
『オイラたちを騙したんすか』
「いや、護衛の仕事は本当た、我々の狙いはアンタが来ると分かれば手を引けばよし、仮に手を出すならばアンタが捕まえてくれるんじゃないかと踏んでいた」
「警察というのはいつからそんなに汚くなったんだい」
明らかにマナの機嫌が悪い、警察が自分達の生命を優先したことに対してだろうか、どちらにせよ柏崎はマナに引け腰だった
「悪かった、お偉いさんがアンタらを使って捕まえろって言ってたんだ、俺は反対したんだか警察も異形事件での殉職率が増えているんだ…人員をこれ以上死なせたくないんだ」
「1人の命で捕まえれたら良しと君はいいたいのかい」
「そんなつもりは無い、たしかに市民の命を守るのが俺たちの仕事だ、本来なら俺達がラスティのいる場所にいるべきだ。税金泥棒と言われても仕方ない……だがこれ以上仲間を死なせたくないんだ」
「だからといって」
「やめろマナ」
ラスティはマナの頭をつかみがしがしと撫で回す
「柏崎、今回の件をこう伝えておけ、前回の依頼料を払うまで貴様らの依頼は受けないとな」
「あ…あぁ」
「マナ、行くぞ」
「ラスティ君…」
「怒りは分かる、だが無闇に死なせたくないのもまた事実…柏崎も警察も悪くは無い。悪いのはこの世界にはびこる異形なんだからな」
ラスティはマナの怒りを沈める、マナは不満も怒りもラスティは理解していた。だがその怒りを柏崎にぶつけたとこで無意味だということもマナはわかっていた…全ての原因はこの異形化という現象、そして力に溺れた異形達なのだから
豪華客船の事件から1週間、武藤グループから報酬を渡された
「この度はありがとうこざいました」
「確かに受けとった」
武藤陽斗の顔は暗かった、無理もない目の前で救って来たはずの異形に兄が殺されたのだから
「陽斗君……大丈夫かい」
「兄を殺され…時期社長には私がなることになりますが…私は今回の件で異形を憎いと感じています」
「……」
「私は異形とどう向き合っていけばいいか」
「……無理に向き合う必要などない」
「え」
ラスティは腕を組み、陽斗の顔を見ながら話し始めた
「異形化したヤツらは恩を仇で返すなど平然とやる、そんな最悪な奴らがゴロゴロいる、だから私のような異形殺しが重宝されるのだ、憎む気持ちは分かる。復讐をしたいなら止めはしない」
「ラスティ君!」
「だが他にも優しい異形がいる、共存の道を選んでいる異形達はごまんといる、そういうもの達と話してみるといい、彼らもあんな暗殺業をする異形とは一緒になりたくないはずだ」
「……はい」
「異形製品会社と話をしてみたらいい、あそこにいるのは少なくとも君に理解ある異形達だ」
ラスティはいくつかの会社を紹介する、それを聞いた陽斗は社長になるにあたり異形化した人々の見解を知るために挨拶するといい探偵事務所から去っていった
「…彼は大丈夫だろうか」
「大丈夫だ、歩ける力があるなら立ち直れるさ」
「…」
「マナ、君の気持ちは分かる、だがこれから先異形化について知るならばこのような苦汁はいくらでもある、君は今は忍耐をつけるといい」
「…君はこんな理不尽が許せるかい?」
「理不尽?」
「力ない人々が異形に蹂躙される理不尽を君は許せるのかい?私は許せない…今も私はあの時の父を変貌させたのが許せない」
「それでいい」
ラスティはマナの頭をまた優しくなでた
「君は君の父をかえた異形化が許せない、だから私の元に来た、異形化をこの世から無くすために」
「…あぁ」
「ならそれを忘れるな…異形化を無くすためにはその怒りや復讐心を忘れてはならない。異形化に怒ることこそ異形化解決の糸口かもしれないからな」
「……」
「これからもよろしく頼む」
「…あぁ」
マナの力強い頷きをみたラスティは彼女のなかの異形に対する怒りを読み取った、彼女はこれから頼りになるだろうという確信をもちながら……
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