異形探偵怪奇事件録

@Karasawa56

第1話 異形探偵怪奇事件録 令嬢護衛任務編

異形化


この現代社会で今最大の社会問題となっているもの…今から約10年前、私が大学生の時にその事件は起こった


「な…なんだ…これは!!」


私の左腕はこの世ならざるものに変じたあの日から世界各地で異形化の報告が相次いでいた。最初は日本だけだったが次第に世界中に広がり今やどの国でも異形化現象が起きている。

世界中の政府はこの問題に対し研究しているが未だになんの進展もない

問題解決よりも異形化を受止めた世界は異形化した人々のための社会保険や政策をした。だが異形化現象が起こしたのはこれだけでは無い

異形化した人々は人ならざる力を用いて犯罪に手を染め始めた。そして異形化した者に対しては武力を用いねばならず最悪の場合軍隊の派遣もしなければならないこともある…これも社会問題として異形化の犯罪に対しての対策も進められた。

だが次第に人々も慣れ始め、今では異形化した人々と暮らすのが当たり前のような時代になった。人間の適応力というのは素晴らしい…


『ごっすずーん、お茶にしましょー』


「あぁ」


私も異形化した人間として異形化した者に対する事件解決をするための探偵業をしている。

警察ではどうにも出来ないような現象に対しての融通きく傭兵のような役割だが、異形の中でも異例の私にはちょうど良かった

そもそも異形化した人々は個人にバラつきがあり、ちょっと耳が生えて半人半妖みたいになったりするもがいれば完全に化け物に成り下がる者もいる。これに関してもまだよくわかっていない、そんな中私はこれまで私以外に左腕、もしくは体の一部のみが異形化したものを見た事がない…私は探偵業をしているのはこの私の左腕のみ異形化することに対して調べたかったのもある…他にも色々調べたいこともあるため探偵というのはちょうどよかった。


『ごすずん今日なにがいいっすか』


「コーヒー」


『あいあいさー』


私に声をかけてきたのは青白い霊魂のようなものにまさに点のような目がつき、ボロ衣にボロボロの靴を履いた異様な存在。

彼はこの屍探偵事務所の従業員、サイレント。

探偵事務所を始める時、テナントの近くのゴミ捨て場に居たのを拾ったのだ


『スケイルーごすずんにコーヒー』


『御意…』


スケイルと呼ばれた存在は上半身のみの鎧と兜が浮いていいるサイレントと同じような異様な存在

スケイルに声をかけたのはサイレントと同じようにボロボロのローブに青白い霊魂に点のような目が着いた存在はダスティ。私は彼らが付喪神の1種だと思っているが、実際のとこよくわかっていない…ゴミ捨て場から引き上げたらご主人といいついてきた…謎の存在ではあるが害があるわけではなくむしろ探偵業の手伝いをしてくれる頼もしい者達である。語尾にッスがつくのがサイレント、無口なのがスケイル、普通の喋り方をするのがダスティだ


『ごすずん、新聞です』


「あぁ」


ダスティが新聞をもって来てくれたので目を通す。やはり日常的に異形化した人々による犯罪報道だ、力の使い方を理解していない者が力を使えばこうなるというのを知らしめていた、政府は異形化犯罪に対する罰を重くする方針でもめていた


『まぁたですか〜』


「仕方ないさ社会問題だからな」


『異形化ってやっかいっすね〜ごすずんみたいなやつらばかりじゃないっすし』


『…』


新聞に目を通していると


カランコロンカランコロン


事務所の扉が開かれた、そこには綺麗な姿をし、長い髪の毛の女性がいたが、細い龍のような尻尾と頭に生えた角が彼女を異形化した人間ということ知らしめていた


「こんにちは」


『いらっしゃいませ〜屍探偵事務所にようこそ』


「随分可愛らしい従業員ですね」


言葉遣いも丁寧だ、異形化しているというのに失われていない高貴な印象から彼女は育ちが良い人物だと理解するのは容易かった


『綺麗な方ッスね』


「ありがとう、さて…貴方が探偵事務所のオーナーかな?」


「あぁ」


彼女はこちらを見て挨拶してきた


「はじめまして、私はマナ・グラディエルです」


『グラディエル?』


『グラディエルって確か』


「名家だな、グラディエル家の令嬢ってとこだろう」


グラディエル家、現在その名を知るものは余りいないほど有名な家だ

異形化社会における異形化した人々の為の製品開発などに投資をしており、異形の人々にとってはまさに救世主に等しい家だ。

だが現在グラディエル家の当主が病に伏しているとの話だ…


「あぁ、その通りだ。今回私がここにきたのは私の護衛を頼みたい」


「護衛?お前さんならSPを付けるくらいできるだろう」


「たしかにそうだね…でも今回は事情が違ってね、異形化した人種から襲撃される可能性があるとね」


「なんだと?」


異形化した人々にとってグラディエル家は救いの神のような物、だと言うのにそれに弓引くような真似をする事をしようとしているのだ、この事務所にいる者たち全てが疑問を抱く


「君たちの疑問は最もだ。それに襲撃予告などもされてはいないのに…父上は私に君を護衛にと」


「…」


「報酬は望むがままと…」


私はこの依頼になにか引っ掛かりを覚えた。

だが本当に襲撃されようものならばほとんど異形化してない彼女では負けてしまう可能性が高い、なぜならほとんど襲撃するやつらは異形化により人ならざる力を得て調子に乗る奴らだからだ。

それでも彼女をねじ伏せるなど容易いだろう


「わかった引き受けよう」


「ありがとう」


「詳しい話はお父上としたい、まずは君の家にいこう」


「あぁ、わかった。よろしく頼むよえっと…ミスター…」


そういえば自己紹介をしていなかったと右手を出し私は名を名乗った


「ラスティだ」


「よろしく頼むミスターラスティ」


「ラスティでいい」


彼女と握手をかわし、サイレントとダスティに支度をさせ彼女の家に向かうことにした。






「ついたよ」


『おぉー!』


ついた場所は大豪邸、庭あり噴水ありとまるで漫画のような世界の豪邸にサイレントとダスティははしゃいだ


『広ーい!』


『事務所何個分すかこれ?!』


「ふふふ、あまりはしゃぐと庭師に怒られてしまうよ」


ダスティとサイレントがはしゃぐ姿をマナはくすくすと笑っていた。屋敷に入ればメイドや執事が迎えてくれた…と同時に


「…」


「…」


武装した集団が屋敷内にかなり居た襲撃に備えて雇ったのだろう

異形化による犯罪により銃刀法が見直され、今ではこのような武装集団や傭兵業が復活している。名家が怪物に襲撃されるかもしれないから傭兵を雇うなど珍しくない


『ごすずん?どうしました?』


だが雇うにしては多すぎる。20、いや30はいるだろう…さらに爆発物なども持つ輩がいた…相当厳重に警戒しているようだ。

まるで何かとんでもない化け物が来るのがわかっているような


「父はこの部屋で休まれている」


マナは扉を叩き中に私を入れてくれた


「父上、ご紹介したい人が」


「あぁ…」


そこに居たのはベッドから起き上がってはいるものの病に伏したせいでやせ細ってしまった男がいた、年はまだ50くらいだろうが老人のような見た目になっていた


「父上、今日から私の護衛をしてくださる」


「いや、知っている…ラスティ…異形探偵としての実力、聞いている…ゴホッゴホッ」


「ご当主に名前を覚えられているとは光栄だ」


「さしずめ君のことだ、私に聞きたいことがあるのだろう…マナ、席を外してくれ」


「分かりました」


「ダスティ、サイレント、マナについてやれ」


『『アイアイサー!』』


彼女の護衛に2人をつけ、当主と私の二人だけが部屋に残った


「さて…私に聞きたいこととはなにかね」


「単刀直入に聞く、娘さんを襲う異形を殺せばいいのか」


「…」


「私のことはわかっているはずだ、いやわかっているからあんたは私を娘さんの護衛に選んだ…違うか」


「…あぁ…」


「私は依頼をこなそう、それが仕事だからな。だが依頼主の意にそぐわぬことは信用を失うことになる…だから聞いておく、あんたの娘に降りかかる火の粉は全て祓う…それでいいな」


当主は死にかけていた目を光らせ、力強くうなづいた


「構わない。たとえ私が救おうとした異形化した人々であろうと私の大切な娘に手を出すならば…どんなものも許さない…だから頼む、私の宝を…マナを頼む」


「わかった」


聞きたいことを聞いた私は部屋を後にした、途中すれ違った執事にマナはどこに行ったかを聞いたら庭でサイレント達と遊んでいるようで私は彼らがいる庭に向かった


『あっごすずーん!』


「おや」


遊んでもらっていたのだろう2人はご機嫌だった


「お前達何をしてる」


「すまない、2人とも庭を走りたいと言ってな」


「すまないな」


「構わないよ、それより父上とはなんの話を?」


「君を護衛するにあたり殺生を問わないという話だ」


「なるべくなら…そういう事がないといいのだが」


「あぁ、そうだな」


だがこの社会にそんなことあるはずがない、法で縛ることが出来ない獣を律する方法など力でねじふせる以外に方法はないのだから


「では今日からよろしく頼むよ、明日は大学があるから朝7時にはこちらに来て欲しい」


『あれ?お泊まりできないんすか?』


「すまない、父が雇った者たちで溢れていて」


「構わない、だがダスティとサイレントはそばに置かせてくれ、何かあれば役に立つ、それにこいつらは私の事務所の場所を知ってるからなにかあれば逃げ込める」


「わかった」


『よろしくー!』


「よろしく頼むよ」


「私は事務所に戻る、色々用意せねばならんものもあるからな、ダスティ、何かあれば連絡をくれ」


『アイアイサー!』


私は準備のため、一時解散する事にした。

ダスティとサイレントが遊ぶことにかまけて護衛を疎かにしないか心配だったがそれよりもこの家の当主が異様なまでの警戒心で集められた護衛の方に私は不安を覚えた


(あの護衛の数…あの当主…なにか知っているのか?)


当主に疑念を持ちながら私は1度事務所に戻るのだった




翌日


「…おはよう」


「おはよう」


『ごっすずーん!おはようッス!』


私は身の丈より大きなケースを背に指定された時間に屋敷に来た、少し眠たそうな顔をしてるお嬢様とは裏腹にダスティとサイレントは元気だった


「サイレント、ダスティ、異常は」


『無いですねー寝ずの番をしてましたけど雇った傭兵が交代で見回りしてましたから問題ないかと』


『というか夜中に屋敷のなか調べ周ったすけどこの屋敷塀から侵入できないようになってるっス』


「細かい話は後で聞こう、大学にはどうやって」


「あぁ…リムジンを」


彼女が指さした先にはこれまた漫画に出てきそうな長いリムジンが


「おはようございますマナお嬢様」


「あぁ、また頼むよ」


『オイラ達も乗っていいんすか?!』


「あぁ」


『やっほーい!』


『サイレントはしゃぎすぎだよ』


サイレントが子供のようにはしゃぎながらリムジンに乗る、やはり珍しいのか子供のようにぴょんぴょん跳ねていた


「ふふふ、可愛らしいね」


「サイレント、塀の話をしてくれ」


『あっそうでした』


サイレントはすぐさま落ち着き席に座って話し始めた


『この屋敷警備が凄いっす、塀の上に対異形用の為のガトリングがあったっス』


「え、そうなのかい?」


『塀に近づこうもんなら蜂の巣っすよ』


『塀全部に?』


『正面玄関以外全部ッス、ただ見たことないセンサー使ってるみたいっすけど…』


「おそらく対異形用のセンサーかもしれないな、塀を超えて侵入しようもんなら蜂の巣というわけだ、最近じゃ薄い壁じゃあ異形タックルで破壊なんて簡単だからな」


「たしかに数年前に塀の工事があった…そういうことだったのか…」


警戒心を抜きにしてもかなり厳重だった、だから尚更だ。中に傭兵まで入れてまで警戒するあの警戒心…おそらく


『てかサイレント、よく撃たれなかったな』


『地縛霊みたいな奴撃ってどうするんすか』


「そういえば君たちは異形…なのかい?」


『んえ?』


彼女の疑問は最もだ、ダスティ、サイレント、スケイルの3人は異形化した訳でもない、ましてや異形化しても大抵人間だった痕跡がある…だが彼らは人間ではなく魂というのが正しい


『オイラ達は異形じゃないっすね』


『僕たちもよくわかってないんだ』


「え?」


『オイラ達はごすずんがゴミ捨て場から拾い上げた時に目を覚ましたんス、いわばオイラ達はごすずんから産まれたんス』


「君からかい?」


「あぁ」


実際、彼らが産まれてきたかはさておきゴミ捨て場から引っ張り出した時、それは意志持つように動き始め、さらに彼らの素体のような青白い魂がローブなどに憑依し彼らは産まれたのだ


「私もよくわかってない」


「生みの親である君が分からなければ分からないのだが」


「異形化に関しては今だよくわかっていない、それに私もそのよくわかってない部分だからな」


「どういう意味だい?」


「私は左腕のみ異形化した…左腕だけだ、最初はそんな、症例かと思ったがどうやら違うみたいでな、左腕だけこのようなことになったなどと言うのは聞いたことがない。私だけが左腕だけ異形化したんだ」


「…それはまたなぜ」


「わからん、私が探偵をしているのはある意味この答えを探しているからかもしれないな」


話をしていると目的の大学に着いたらしく、車が止まる、マナはバッグを持ちリムジンから降りた、私も彼女に続き降りた、そこは金持ちや名家の連中が通う名門大学だった


「立派な大学だな」


「ありがとう、勉強は頑張っているからね」


「キャー!マナ様ー!」


「マナさんだ!」


やはり令嬢、学園でも人気らしい

男女問わずモテモテだ、名門校であるし金持ち大学なため高貴な振る舞いや堅苦しい挨拶しかしない奴らしかいない、正直長いはしたくない…とくにサイレントやダスティは


「マナ様?そちらの汚らしい者は」


『誰が汚らしいだー!』


『ダスティ落ち着くっす!』


「彼らは私の護衛だよ、最近物騒だからと父上がね」


「それは失礼しました…しかし」


「私の友人をあまり酷く言わないで欲しいな」


「す…すみません!」


『マナしゃん…』


「すまない、皆高貴な身分ゆえ失礼をするかもしれない…」


「気に病む必要は無いだろう、とりあえず仕事の時間だ。ダスティ、サイレント、学園をあらかた見てこい、何がどこにあるかを把握しておきたい」


『『アイアイサー!』』


返事をした2人はすぐさま大学を走り回りに行った


「早いな、彼らは」


「自慢の斥候だ」


マナは一限目の教室に向かう、途中お迎えや護衛らしき存在がちらほらいた。やはり家柄があったり令嬢やら坊ちゃんがいるからには大事な跡取りを死なせたくないからと傭兵を雇うなんて珍しくないのだろう


「どうかしたかい」


「いや、どこも考えることは同じだなとな」


「そうかい?君はどうするのかな?」


「依頼主が死んでは困るのでな、なるべく近いとこで見貼らせてもらう」


「それなら大丈夫だ、ほかの護衛もいる…むしろ君には外から来るかもしれない者を見張ってほしい…この場だと君もいずらそうだし」


どうやら察してくれていたようだ、ならばと私は彼女の提案に乗り校舎の敷地内の探索に向かうことにした。周りには確かに小綺麗な親衛隊みたいな奴らもいる、同じく異形化した奴らだがまぁ小汚いやつよりましだろう

私は教室から離れて校舎を出る、敷地内の地図もあり現在地や施設把握も兼ねて見ているとサイレントとダスティが調査を済ませ戻ってきた


『ごっすずーん』


『戻りましたー』


「あぁ、どうだった」


『広すぎっす』


『激同』


「そうか、なにか怪しいとことかはないか」


『特にはなかったすけど強いてゆうなら監視用のカメラとか結構あったすね』


『至る所にあるっすね、やはりお嬢様らを預かってるからか防犯に金かけてますね』


「いや防犯に金をかけてるならそれでいい、護衛が楽になる」


『ちなみにごすずんなぜここに』


「気を利かせてくれた依頼主が重たい空気をどうにかしてくれた」


『まぁオイラ達歓迎されてないっすからねぇ』


「屈強な異形ガードもいる、まかせて大丈夫だろう…それよりも見晴らしがいいとこにいくぞ、何も近くにいるのが全てでは無いからな」


『アイアイサー!』


小汚い奴には小汚いらしいやり方が向いている、高貴なやり取りで護衛ができるならば傭兵なんていりはしない、私はすぐ側でボディガードをするヤツらとは違い遠目に標的が来ないか見張るようにした



昼休みまで異常という異常は無かった。

昼休みになれば皆食堂に向かうため1度合流しようとマナから連絡が入った、食堂の位置は把握しているためすぐさま向かうと彼女が入口で待っていてくれた


「こっちだラスティくん」


「授業の方はどうだった」


「問題ないよ。そっちは」


「ネズミ1匹入ってきてないな、問題ない」


『うわ食堂も豪華っすねー』


『僕たち入れなくない?』


「そういうと思って今日は弁当を持参してきた。外で食べよう」


『やっほーい!』


正直あんな重苦しい空気の中警護は嫌なため助かった、校舎には綺麗な池があるためそこで昼食にすることにした


「すまない、息苦しい真似をさせて」


「構わない、仕事だからな」


『まぁ小汚いって言われるのは癪っすね』


「すまない、決して悪い者じゃないんだ」


『マナさんは謝らなくていいですよ』


弁当を広げた彼女と共に昼食を摂ることに、ダスティとサイレントは食べる必要が無いため私とマナの2人で昼食を食べることになる。

私は周りをみて人がいないのを確認したあと彼女に抱いていた疑問を突きつけた


「マナ、君の母親は」


「え?」


「君の母親はどこにいる」


その話をふるとマナは少し顔を暗くして話し始めた


「7年前に亡くなってしまった」


「病気かね?」


「いや異形化だ…母は元々体が弱く異形化したせいで体が変わってしまい治療ができずそのまま亡くなってしまったんだ」


これも異形化の問題のひとつだ、異形化した人間は身体の構造抗体アレルギーも変わってしまい入院中に異形化したせいで治療不可となり亡くなるケースも珍しくない、そのせいで異形化現象が起きてから入院患者の死亡率は上がってしまっている


『そんな…』


「それから父は異形関係に力を入れた、母のようなもの達を出したくないと」


「実際君の父上に関しては素晴らしいの一言に尽きる。医療機関、生活用品開発など異形化した人間達が生きるための制作をしている。私もこれには頭が上がらない」


「私も父と同じように異形化した人々を救いたい…だから私は跡を継げるように頑張っているんだ」


「いい夢だ、このような娘を持つのは親としても嬉しいだろう」


「ありがとう、さてそろそろ昼の授業だ。私は行くよ」


『行ってらっしゃーい』


彼女は弁当を、まとめ校舎に戻って行った。


『ごすずん?』


私は彼女のその背中を見て少し頭を抱えた。この異形社会においてその美しくもたくましい夢を持つものにほど残酷な運命が襲いかかってくるのだから




一日が終わりを告げマナが眠りについたあと、私は今日は屋敷にて一夜を過ごすことにした


『ごすずん、スケイルほったらかしっすけど大丈夫すか?』


「掃除が捗るらしい、今は大掃除しているそうだ」


『うわー今事務所入れないなぁ』


そんな事をいいながら屋敷の中を歩く、ダスティやサイレントの言うとうり屋敷内でかなりの数の傭兵がいた、さらに武装も普通よりも重武装が多い


『なんかロケランとかいません?戦争する気ですか?』


『屋敷吹っ飛ぶっすよ』


「吹っ飛ぶで済めばいいがな」


私はダスティとサイレントを連れ庭に向かう、サイレントに塀の上にあるガトリング砲台を見てきてもらった


「どうだ」


『ちゃんと動いてるっす』


「いや、銃口は」


『外側に向いてるっすー』


「ふむ」


『ごすずん?どうしました』


「やはりな」


『やはり?』


「なぜこれ程強固な要塞のような屋敷だと言うのに今更傭兵なんかを入れて固めているのか」


『?ご当主が病気だからでは』


「考えてみろ、このガトリングなら大抵の異形なら殺せる、だと言うのにこれ以上何を警戒する」


『地面ほってくる異形とか?』


『有り得そうな話やめるっす。無理ゲーッスよそんなやつ』


「おそらく当主もわかっているだろうな、だから私を呼んだのだろう」


『ごすずんをよんだ…あ』


「ダスティ、サイレント…準備しておけ…今回の仕事は思ったより悲惨なことになりそうだ」




それから1週間、護衛を続けたがなんの問題もなかった。今日はマナが帰りに買い物をしたいと言い徒歩で帰っている


「買い物に付き合ってくれてありがとう」


「いや、構わない」


『オイラ達にも買ってもらったす!』


『大事にする!』


「ふふ」


「あまり2人を甘やかさないで欲しい」


「すまない、なんだか可愛らしくて」


「…そうか」


「その…護衛の期間が終わってからでも構わないのだが…たまに遊びに行ってもいいかな?」


『え!マナちゃん遊びに来てくれるんすか?!』


「あぁ、私としても君たちと居るとありのままの自分でいられるからね」


『やったー!ごすずん!いいっすよね?!』


「構わないが掃除しないとな」


『ゲッ、スケイルの奴には愚痴愚痴言われるぞこれ』


「ふふふ…ん?」


ドガァァァァン!


「む!」


「なんだ?!」


『屋敷の方っす!』


屋敷の方で爆発音がした、私はケースを手に持ち屋敷へと走った


『ごすずん!!』


入口に着いた時には既に屋敷は崩壊、使用人や傭兵が皆その場で死体となっていた


「!!爺や!メイド長!!」


「下がれ」


そして全てを破壊したろう異形はそこにいた、身の丈は3mはあるだろう躯体に犬の首が3つついた化け物…伝説の地獄の番犬ケルベロスににた化け物が


「あれがみんなを!!」


「ダスティ!サイレント!マナを守れ!」


ケースから私は獲物を取り出す、真っ黒な刀身だが先端が折れた大剣を


「あれは?!」


『ごすずんの武器っす、あれでごすずんは色んな異形を真っ二つにしてきたんす』


「だがあれは明らかにほかの異形とは違う!いくら彼でも」


『大丈夫っす、ごすずんなら…でも問題は』


「ふん!」


剣を振りかざし切り裂こうとするが皮膚は鎧のような鱗があった、これはケルベロスの姿をしたなにかだ


「硬い」


ガァァォァァァウ!


天敵とわかるや否やケルベロスはこちらに襲いかかってきた、巨体に対してかなり素早い動きであった。

だが見切れないほどでは無い


「ふん!!」


グワァウ?!


私は左腕でケルベロスの頭をつかみ地面に叩きつけた、私の左腕は異形化の永久がいちばん強く、そこいらの岩など簡単に持ち上げることなど可能なほどの怪力を発揮できる加えて


「清浄!!」


ドガァァァァ!


私の腕はほかの異形とは違い何らかの力を発揮できる、その源は分からないが私はこの力を使い様々な化け物を葬ってきた、今回も同じように問題なく倒せるとわかった


「そうだ父上!」


『あっマナちゃん!』


『待つっす!』


マナが屋敷に向かい走り出した。それをケルベロスが見逃すはずがなく


ガァウ!


「しまった!」


「父上!!父上!!」


『マナちゃん危ない!』


「?!」


屋敷のの一部が崩壊し、マナの上に落ちてくる


「しまっ」


ガラガラガラ!ズドーン!!


「うっ…」


死んだ…かと思われたが…マナは無事だった…マナを守ったのは誰でもない…ケルベロスだった


「なぜ…?!」


マ…ナ


「!!」


自分のことを呼んだ、自分の名前を呼んだ、それだけでマナは理解した。目の前にいるケルベロスは


「父…上?」


自分の父であると


「フゥン!」


グギャァァァァァァ!


「父上!」


私はマナから引き剥がすようにケルベロスの頭を1つ刃で串刺しにし、左腕で頭をつかみ投げ飛ばした


「待ってくれ!あれは父上なんだ!」


「わかっている」


「なら辞めてくれ!あれは私のたった一人の」


「もう…無駄だ」


「え」


ケルベロスは立ち上がり身をさくような咆哮を上げた


ワォォォォォォン!!!!


「君の父上は最初からこうなるのをわかっていた」


「なんだって?!」


「君の父上は自分が異形化することに気づいていた、病というのは嘘で異形化を隠すためだった、そして彼は自分の異形化を理解していた。自分が化け物になればおそらく君を殺すのだと」


「そんな…」


「私を呼んだ時点でわかっていたさ、私が呼ばれるときは大抵異形関係で手を上げた時だ、どうしても殺して欲しい異形が出た時だ、探偵なんて名ばかりで私は異形を専門の殺し屋のようなものだからな」


『ごすずん…』


「…父は…助からないのか?」


マナは涙目になりながら私に訴えてくる、この涙を私は何度観てきたか


「君の父上は完全に化け物と化した、あれが最後の正気だろう…もし君が父上を思うのならば…今この場で君を傷つけないためにも殺してやるべきだ」


「…」


マナは泣き崩れた、だがそれを待つケルベロスではなかった


『ごすずん!!』


「マナ、恨むなら恨んでくれて構わない、だが私は君の父上の約束を守らねばならぬ…どんなヤツであれ君を守るとな」


私は再びケルベロスに正面から挑む、ケルベロスの真ん中の頭に私は左腕の一撃を叩きこむ


「清浄!」


殴り飛ばしたあとさらに追撃し大剣で目を潰す


ゴギャァァァァァ!


この世のものとは思えない声、聞きなれた異形の苦痛の声…恨みなど沢山買ってきた


「人殺し!」


「なんで助けてくれなかったの!!」


私はそんな声を沢山聞いてきた、異形殺しの探偵として…今回も同じだ、また恨みを買うだけだ


「ふん!!」


私は無慈悲にもケルベロスを切り裂く、ケルベロスはもはや瀕死だ…確実にトドメをさせるほど弱らせた


「ご当主」


私は左腕に力を貯めた、青白い光が腕から放出される


「約束は守った…貴方の覚悟…見事だった」


ケルベロスは動かなかった、だが自然と笑ったふうに見えたそして


ありがとう


そう聞こえた気がした




「父上…」


マナは自分の父の怪物化した遺体をみて座り込んでいた


「なぜ…」


「…」


『ごすずん…』


「ラスティ…」


「何かね」


「本当に…父上は助からなかったのだろうか…」


「…」


何度も聞いた声、助からなかったのか…それはいいたいだろう…だが助けられるならば私も助けていた…それが出来ないのがこの異形化だ…全てが分からない…それが答えだ


「私も何件も異形と関わってきたが…こうなったものはもはや歩く厄災でしかない、生かしておけばいずれ君すらも殺すだろう」


「…」


現実を受けいれられないのも無理は無い。1日にして全てを失ったのだから


「父上…」


マ…ナ…


「?!」


『こいつまだ生きてたの?!』


「まて!」


今明らかにしゃべった…最後の最後に正気を取り戻したというのか


「父上!!しっかりしてください父上!!」


すまない…マナ…


「父上…」


私は…お前を…1人にしてしまうだろう


「そんな…嫌です父上!しっかりしてください!まだ助かる方法があるはずです!」


いや…それは…むりだ…マナ


「何故ですか!」


私はもう…長くなかった…化け物になり…お前を殺したくなかった


「やはりアンタわかってたのか、自分が異形化することを」


あぁ…ラスティ殿…君には辛い役目をさせた


「構わない慣れている」


『ごすずん…』


マナ…彼を…恨まないでやってくれ…私が…望んだことなのだから


「…父上…」


ありがとう…愛しい我が娘よ…願わくばお前に…幸せな未来があらんことを…


「父上!!」


そこからもう当主は喋らなかった…マナは自分の父の亡骸にしがみつき泣き叫んだ


「父上…!父上ぇぇぇぇぇ!」


『ごすずん…これからマナちゃんどうなるんすか?』


「…」


私はダスティに通帳を渡した


「ダスティ、近くの銀行に行って記入してこい」


『こんなときに何言ってるんですかごすずん!』


「いいから」


ダスティは疑問を持ちながらも近くの銀行に向かい通帳を記載してきた、幸い歩いて5分のとこにあったのですぐ戻ってきた


『記載してきました』


「…」


『なにがあったんすかごすずんってなんすかこれ?!』


通帳には約5000万程のお金が振り込まれていた


『5000万なんて初めてっすよ!』


「なるほどな」


私の宝を…娘を頼む


その意味を理解した私は泣き崩れるマナのそばに歩み寄った、そして当主の遺体に触れる


「ご当主、確かに依頼は承った…あなたの娘にかかる火の粉は私が全て振り払おう」


「え…」


「ご当主は…どうやら自分が死ぬことも計算していたようだ…この大金は君の護衛の長期契約料だ」


「長期契約…」


「ざっと50年ほどのな」


「!」


「私は君の父の命を奪った者だ、君が私を恨むのは自由だ。もし君が私などいらないというならばこの金は君に返し、契約破棄をしよう…どうする」


「父上…」


またマナは父の亡骸にふれ涙を流した


「…分かりました…父上…父上の願いだと言うなら私は生きます…」


『マナちゃん…』


「ありがとうございました…父上」


「…」


サイレンが鳴り響き次々と警察や消防車が来た、異形事件とわかり静まるまで来る気がなかったとみえる


『今更っすか』


『仕方ないよ余計な犠牲者出したくないもん』


「マナ、動けるか」


「…ラスティ」


「なんだ」


「父上の墓を立てたい…どうにか出来ないか」


私は当主の体を持ち上げた、投げ飛ばすなんてことが出来たんだこのくらい容易い


「行こう、近くの山に」


私は当主の遺体を持ちながら警察車両を退かし山に向かう、途中事情聴取しようとした警察官がいたがサイレントが蹴り飛ばして撃退した




「父上…こんな墓しか立てれなくて申し訳ありません」


裏山にて簡素な墓を作り弔った、穴を掘るは私が何とかしたが埋める時は素手でせねばならず、マナの服も手も汚れていた


『ごすずん…マナちゃん大丈夫すかね』


「大丈夫だ、あの当主の娘だ」


弔いを済ませたマナは立ち上がりゆっくりとこちらに歩いてきた


「ラスティ…君は自分の左腕や異形化を知るために探偵をしているのだったね」


「あぁ」


先程とは一変、彼女は力強い眼差しでこちらを見てきた


「頼む!私を探偵事務所で雇って欲しい!」


『『えぇぇぇぇぇ?!』』


マナの提案にサイレントとダスティはびっくりしていた


「私はもう父や母のように異形化に苦しむ人々を見たくない、私は父のようになろうとした…でも異形化はたくさんの人々から大切なものを奪う…私はそれが許せない!私はこの世から異形化を根絶したい…だから頼む!私を雇ってほしい!」


マナは土下座してきた、サイレントとダスティはその行動に戸惑っていたが、私は笑っていた


「あの当主にしてこの娘か、なるほど君の家がこの異形化社会で生きてきた理由がわかったよ」


私はマナの肩に手を置いた


「私は探偵という異形化殺しだ、それをわかっているな?」


「あぁ」


「君の父上を仇だ」


「違う、君は父の願いを叶えてくれた…君を仇だなんて思わない、むしろ恩人だと思っているよ」


「そうか…」


私は立ち上がり踵を返した


「たしかスケイルが大掃除して部屋がひとつある、大学には歩きで行くことになるが、まぁ近いから大丈夫だろう、今までと違いかび臭い生活になるし血なまぐさいぞ、それでもいいか?」


「!!あぁ」


「なら行こうか」


マナは立ち上がり一緒に歩き始めた


「父上、私は強く生きます」


父に別れを告げたマナは自分の新しい人生を歩み出した、その姿は出会ったころよりもさらに逞しく力強い彼女へと変わっていた






グラディエル家崩壊事件から数日、いつものような日常に変化が訪れた


「ただいま」


『おかえりーマナちゃん』


「ただいまダスティ、サイレントは?」


『サイレントなら散歩っすよ、ごすずんは寝てます』


「そうかい、たしかそろそろ依頼人が来ると聞いたのだが?」


『マナちゃん初仕事だねぇ』


「あぁ頑張らせてもらうよ」


「あまり張り切るな。私の依頼はくだらないやつばかりだからな」


私は起き上がり気合いをいれてるマナを静止した


「すまない、だが異形化についてしるいい機会だからね、勉強させてもらうよ」


『勉強より人の汚い部分が見えるっすけどね』


散歩から帰ってきたサイレントが誰か連れてきていた


『ごすずん、依頼主ッス』


「さて、マナ…初仕事といこう」


「あぁ」


頼もしい仲間が一人増えた我が探偵事務所は新たな目的と共に再び出発し始めた



「ようこそ屍探偵事務所に」

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