第22話 帰り道
帰りはひと騒動だった。
「あーぼ、おあぶん、おあぁぁぁぁぁ、やぁぁぁあ」
赤ちゃんドラゴンが絶叫し、足を踏み鳴らす。
「ほら、嬢ちゃん、あっしはまた来ますから。ね。泣かない泣かない」
「あーぼぅ」
「嬢ちゃん、ほら、パタパタできやすか、ほらね? 」
「うん」
傘を閉じたり開いたりするビニール傘の相棒にあわせて、赤ちゃんドラゴンが小さな羽を羽ばたかせる。
「お兄ちゃんもやってみな。ほら、うまいもんだねぇ」
番傘の親分におだてられてお兄ちゃんドラゴンは得意げだ。並んで羽ばたく兄と妹に、タカも思わず微笑んだ。だが、今は、可愛い兄と妹を愛でている場合ではない。
タカは一歩下がった。母親のドラゴンがゆっくりと動き、タカを赤ちゃんドラゴンの視界から隠す。番傘の親分とビニール傘の相棒が母親ドラゴンの影からそっと現れた。
番傘の親分とビニール傘の相棒の柄をひっつかみ、タカは父親ドラゴンに軽く頭を下げると坂道を一気に駆け下りた。
「あぁぁぁ、あーぼ、ないない。あぁぁぁ。あおぶん、おあぶん。うあぁぁぁ」
赤ちゃんドラゴンの絶叫が追いかけてくる。だが、ここで足を止めるわけにはいかない。
タカは山道を駆け下りた。
タカは今までの人生で一番必死に走ったかもしれない。
「つ、疲れた」
林の中に入ってある程度進んだところでタカは足を止めた。
「まぁ、ここまでくりゃ、大丈夫だろう」
「タカ、お疲れさんした」
「あぁ」
タカは走っていたが、傘たちはタカに振り回されていただけだ。何かちょっと変な気がしたが、気にしても仕方ない。
「帰ろうか」
「そうだな」
「そうっすね」
「町にいるときは、大きいけど可愛いって感じだったけど、妹といるとお兄ちゃんだったね」
「いいお兄ちゃんしたね」
「立派な親父さんで、ありゃお兄ちゃんが憧れるってのもわかるねぇ」
「本当に」
なんだかんだと話をしていた一行が町に着くころには、日はとうに暮れて、夜空に星々が瞬いていた。
「あら、おかえり。タカさん」
猫又姐さんの声に出迎えられて、タカたちは席につく。
「ただいま」
最初のころは照れくさかった挨拶が、タカの口から自然に溢れるようになったのはいつからだろうか。
「別嬪な猫又姐さんのお出迎えとありゃあ、今日の疲れも吹き飛ぶってなもんよ」
「あら、番傘の親分ったら」
「姐さんの持たせてくれた弁当も最高っした」
「あら、ビニール傘の相棒もお上手ね。ありがと。褒められとくわ」
「はい。美味しかったです本当に」
「あらあら、タカさんも。嬉しいことを言ってくれるじゃないの」
猫又姐さんが朗らかに笑う。
「んだよ。あんたの飯は最高だ! 」
店の客たちからの賛辞が猫又姐さんを包む。
「ご機嫌ってことは、守備は上々だったか、タカ。どうだった」
「お兄ちゃんのご家族には会えましたか」
保安官のジョーと見習い保安官の吸血鬼は、タカたちを待っていてくれたらしい。
「会えました。色々話もできました」
タカと番傘の親分の話を聞いた吸血鬼は、慎重に口を開いた。
「洞窟で奥行きがあるならば、予め棺桶を運び込んでおくことができそうですね」
「夜の間に運んでおいたら何とかなりそうだな。背負って飛べるか」
「はい。一度、夜の間に飛んで、ご両親に挨拶をしておきたいのですが。それなりに大きさがありますから」
初対面のときとは違う、大きく成長した吸血鬼が、タカの目の前にいた。
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