第3話:巨岩地帯で朝食を
「そうなると自身の深層魔力に干渉してる訳では無く、精霊種が勝手に喰らい憑いてるだけと言うことになるんですね。でも、それってよくよく考えると結構怖く無いですか?綜呑した精霊種に深層魔力を喰らい尽くされてしまうのでは?という懸念が生まれますけれど」
それに魔女様はサラマンダーとイフリートの二種も取り込んでいるのだから、深層魔力の消費量が大きいのでは?とも思ってしまう。
「そうそう、だからさその懸念を解消するためにササラ人は凄い発明をしたんだよ。この魔紋にね、大気のマナを取り込み精霊種へ直接魔力を供給する呪法を組み込んだのさ。要するに魔紋には精霊種と深層魔力を繋げる事と、精霊種にマナを供給する二つの役割りがあるんだ。これにより体内に精霊種を取り込んだササラ人らは召喚呪法を使う事が可能となる」
今までの情報を精査すると、間接的にだが深層魔力に干渉してるササラ人たちは、イセリアやウリヤよりも魔法文化的に進んでいると言えるのかも知れない。
「ではササラの召喚呪法の特徴とは何ですか?」
「まずは昨日私がオークどもに行使した様に、精霊種をありのままの姿で召喚すること。次に精霊種を武器や装具品に変化させて召喚すること。もう一つは精霊種を自身に宿らせ、精霊種と同じ戦い方が出来ること。この三点だよ。それぞれ得手不得手があるからね、三点の内どれかひとつに特化した奴が多いね。神妖とかを宿してる奴らはどれでも自由自在に扱うけどさ」
「魔女様みたいに複数の精霊種を宿してる者もいるんですか?」
「市井の者たちは殆どが一種のみだよ。複数種宿してるのは軍属か神職に就いてる者たちだね。ササラの神皇は神妖を三体宿してると聞いた。この三体の神妖は代々の神皇が元居た大陸から宿して引き継いで来てるんだって。だから神皇の継承は血の繋がりでは無くて、神妖三体を引き継げる器が必要になるらしい。過去には市井に出自を持つ神皇もいたって聞いたし、男も女も関係ないみたいだね」
日本とは異なる文化だけれど、やはりササラには親近感がある。
親和性が高いと言うべきか。
どちらにせよ、どうせ異世界転移するならササラ文化圏にしてくれた方が色々とスムーズに事が運んだろうに……と今更ながらに思ってしまった。
「ウリヤと同様にササラにも深層魔力の概念は有りませんか?」
「ササラでは魔力の事を妖力と呼ぶんだけどさ、精霊魔法の様に魔力を三分割する概念は無いね。その点で言うとササラとウリヤは魔法文化的には近しい。ウリヤでは個人の魔力をプラーナと呼び、大気に漂うマナをエーテルと呼ぶ。ササラでは個人魔力を妖力、大気の魔力を妖気と。個人魔力を細かく分類してるのは精霊魔法だけと言うことになるけど、これはエルフの文化をそのまま引き継いでいるからだと私は見ている。森の民の使う魔法の原理が精霊魔法と殆ど同じだと言う事実があるからさ、これはもう間違い無いよ」
「要するに魔法学においては数千年前からエルフが抜きんでていて、その理論や様式は現代でも揺ぎ無いと言うことですね?」
だとすれば益々イセリア人たちがエルフを含む原住の民らに、どの様にして勝ち得たのだろうか?と疑問が深まるばかりだが……。
「私がイセリア、ウリヤ、ササラと渡り歩いた結果行きついた答えがソレって話だよ。これが正解かどうかは、恐らく私よりも長く生きるお前が検証しておくれ。さて、私は魂魄結紮の際に使う結界の調整に入るから魔法の講義はここまでにしようか」
そう言うと魔女様は再び目深にフードを被って、黙してしまった。
胡坐をかき座禅を組んでいる様に見える。
これは邪魔してはならないと思い、おれは荷台の上から流れる景色を堪能し時を過ごした。
魔女様が静かになってから暫く(多分三十分か四十分くらい)進行方向の右手側に巨岩群が観えて来た。
左手側には遠目にオークの森が望める距離だ。
太陽の昇り具合から見て午前七時か八時頃だろうか。
荷馬車を操縦してるザーフィラは巨石群へと進路を切り始める。
近付きくる巨岩群は人工的に設置されている感じはあったが、余りにも強大な岩が幾つもある為、なんらかの自然現象でこの場所にあるのかも知れない。
周囲は平地でこの半径百メートルほどの土地に集中して巨岩が乱立してる感じだった。
その巨岩群の中に用水路から引いたと思われる溜池があり、ザーフィラはその近くで荷馬車を停めた。
彼女はそのまま操縦席から降りて馬たちの世話を始める。
魔女様は依然黙想状態にあったので声を掛けるのは止め、荷台から降りる事にした。
おれたち以外に人の気配は無かった。
ひと際大きな巨岩を眺めつつその周囲をぐるりと回ってみる。
自身の身長と比較して全高は十メートルほど。
地面の上にあると言うよりかは、地中から地表に突き抜けている様な感じだった。
その巨岩の上部には、彫って刻まれたであろう魔法陣が描かれてある。
「――結界、光属性、吸収、発散、日の出、日の入り、か。大きな文字は読めるけど、細々とした文字は頭に浮かぶイメージが散漫としていて理解しにくいな」
しかし、魔法陣を見ただけで概ねどの様な効果があるのか分かるだけでも有難い。
そのまま暫く巨岩地帯を散策していると、ザーフィラが歩み寄って来た。
「おい、リョウスケ?腹が減っているだろう?」
相変わらずの仏頂面だが、今日の彼女はより勇ましさが増して見える。
「ああ、そうだね。そう言えば起きてから何も食べて無かった」
「カン砦の兵士から携行糧食を貰って来たから腹ごしらえをしておこう。魔女様は準備にもう暫く時を要するらしいからな」
そう言うと彼女はおれを溜池近くまで引き連れた。
荷馬車の馬たちは荷台から切り離され、それぞれ水を飲んだり草を食んだりしている。
ザーフィラは操縦席からザックを引き摺り出して、中から器二つと小袋を一つ取り出した。
その小袋の中には赤黒と茶黒い固形物が一杯に入っている。
一瞬それらは食糧では無く火を焚く固形燃料かと思ったが、彼女は一掴みずつ固形物を器へと投じた。
「ザーフィラ?この黒っぽい物はなに?」
「ん?この赤いのが干し肉で茶色のは干し芋だ。塩水で茹でてから干しているらしい。ここに水を入れてふやかしてから食べるんだ」
そう言うと彼女は小袋の中から小さな水色をした石ころを取り出した。
そしてそれを器へ入れ、手をかざす。
するとその水色の石は仄かに輝きを放ち溶け崩れ器は水で一杯になった。
「おお、なるほど。水属性の石を魔力制御で反応させて綺麗な水を産み出すのか」
水で一杯になった器を手渡されたので、まずは一口啜ってみた。
早くも淡い塩味があり、全く美味そうには見えないが食欲が湧き立つ感覚はあった。
「リョウスケも水を出したり火を点ける程度の魔力制御は出来た方がいいぞ。イセリアでの生活は基本的な魔力制御が出来なければ不自由するからな」
「確かに、それはそうだ。それでこの干し肉と干し芋がふやけるまで暫く待つのかい?」
「水を少しずつ飲みながらふやけるのを待つんだ。芋の方が早いから先に芋を食い、干し肉は最後に食う。この小袋一つで一人の兵士の三日分程度の食糧となるらしい」
ザーフィラは水を啜り、芋を一つ摘み取り口に入れていた。
それを真似ておれも芋を一口。
もちゃもちゃとした食感だった。
餅ほどの粘度は無いが、奥歯に纏わりつく食感は若干うざったい。
しかし、食べれない程不味いとか臭いとか無く、おれたちは粛々と食事を進める事になった。
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