第6話:ソフィアの覚悟と決意
それから結局「それじゃあ当面はオークや魔獣退治や、ルードアン辺境伯領内で悪さをする賊などの征討をする、義賊ってことにしておこうか」と魔女様が今後の方針を定めた。
人通りのある道へ戻る前に、今一度四人で顔を寄せてひそひそと小声で話しを始める。
ここまで行き当たりばったり過ぎると、まるでコントの様な感じだった。
おれは恐らく笑みを浮かべていただろうし、ドナルドとソフィアと魔女様自身もニヤケ面だった。
「世間が慌ただしくなるまでは、魔女様が仰られる通りの活動に精を出すのが一番かも知れませんね。冒険者ギルドから依頼を受ければ纏まった収入が得られますし、地域住民からの信頼も得られますから」
このコントノリが良かったのか、魔女様の前では若干緊張気味だったドナルドもいい具合に力が抜けていた。
それにソフィアが続く。
「私は、当初の予定通り薬師ギルドで仕事を受けようと思ってます。冒険者として稼ぐよりも収入は低くなりますけど、仕事柄様々な業種や身分の人々と知り合う機会があるので仲間を増やす切っ掛けが作れるかもしれないので」と、彼女は内緒話しが苦手なのか普通の声で話していた。
表情だけは神妙なので、その心意気は伝わってくる。
「ソフィアは基本的に薬師ギルドで仕事を受けてくれて良いけど、魔獣討伐の遠征隊を組む時は参加して欲しい。アンタの場合は前衛でも大丈夫そうだけど、後衛支援で頼むよ。だからさ、トリス街に着いたら一応冒険者登録もしておいて欲しい」
魔女様からのお願いを聞いたソフィアは目を爛々と輝かせていた。
「あの、魔女様?私、魔獣討伐なら前衛でも良いですよ!人間が相手だと本気で戦えないですけど、魔獣相手だったらノーム古式流で全力で戦えると思うので!」
今更だが思うのは、ソフィア嬢は白夜からおれの事を押し付けられたからここに居るのではなくて、元々自身の能力を存分に
彼女がハイスペックなのは間違い無いし、性格からしても片田舎の集落にいつまでも留まっていられるとは思えないし……。
「うーん、そうだねえ。ソフィアの気持ちも分かるけど、魔獣狩りの前衛となるとザーフィラ並みの強さと経験が必要となる。要するに徒手同士では無くて、武器を扱うザーフィラと同等以上の強さが無ければ、魔獣狩りの前衛では使えないって話さ」
やはり魔女様はこの手の話になると、しっかりと分析が出来て釈然とした語りとなる。
魔法や戦い全般と魔獣や亜人種などに関しては比類なき見識見聞を有しているが、政治や庶民の生活と貴族や騎士の社会に関しては興味が薄そうだ。
「では、武器を所持したザーフィラを相手に勝ことが出来れば、魔獣討伐の際に前衛に入れてもらえますか?」と、ソフィアは鼻息が荒い。
勝気なこの子が、この程度のあしらわれ方で気持ちが折れないのは分かっていたけれど。
「それとあとは、気後れせずに人間を殺せるかどうか。魔獣退治の遠征をしてると移動中や野営の最中に賊から夜襲を仕掛けられる事は多々とあるからね。危機に
魔女様が言いたいのは、気構えや覚悟と役職の価値の問題か。
これだけ提示されると、ソフィアとしてはぐうの音も出ないだろう。
実際彼女は魔女様から冷静に諭されて、口を開き何か発しようとしたが言葉は出さずに飲み込んでいた。
勝気でお嬢様気質ではあるけれど、彼女は物分かりが悪い子では無い。
そしてこの時ふと思い感じたのは、ソフィアが魔女様のお子様たちと同年代であることだ。
魔女様はソフィアの父親とは旧知の仲だとも言っていた。
それを鑑みると、魔女様がソフィアに対して親心や母性を抱いていても不思議は無い様な気がする。
「――まあ、魔獣狩りに関しては追々話を詰める事にしようか。ソフィアの前衛への投入も絶対に不可では無いから。例えばソフィア以上の治癒師が見つかれば、当然ソフィアの立ち位置も変わる。アンタに武器を所持したザーフィラを圧倒出来る程の強さがあれば、魔獣討伐時だけ前衛に投入って作戦もあり得ない話では無いしさ」
それが如何に難題かどうかは、顔を引き攣らせたソフィアを見れば明らかだった。
ザーフィラも武器を持ったら絶対に負けないと豪語していたし、魔女様もそれを承知で吹っ掛けている様にも感じた。
「わ、分かりました魔女様。私以上の治癒師に関しては心当たりがあるので、トリス街に着いたら声を掛けてみます。武器を持ったザーフィラに勝てるかどうかに関しては……こちらは、善処します」
ソフィアはそう言うと魔女様に対して軽く頭を下げていた。
これにて彼女の主張は終了の様だ。
話しが切れた機を逃さずに、ドナルドが仕切り直しで拍手をひとつ打った。
「はい、では今後の方針も決まりましたし、そろそろ宿酒場へ向かいましょう」
明るい笑顔と声だった。
先ほど国家の内情を語っていた時とは別人の様だ。
まずはドナルドが先導し、その後に魔女様が続いた。
知らない土地なので先行く二人から離れない方が良いと思っていたが、まだ歩み始めないソフィアを残して歩き出す事は出来なかった。
「――魔女様が絶対不可では無いと言っていたから、その言葉通りだと思うよ。ソフィアの望みを叶えるのは困難な道のりだとは思うけど、それで立ち止まる人では無いだろう?キミは……」
あまり適当な事は言いたく無かったが、今はこれ以外に彼女へ掛ける言葉は無かった。
「うん、大丈夫よ。ザーフィラに勝てるかどうかはさて置き、トリス街はウリヤ人が多く住んでいるから、まずは先生になってくれる人を探してみる」
「恐らく魔女様は、覚悟の決まり方を推し量っているんだと思うよ。魔獣狩りは通過点でしか無くて、その先では必ず人間同士の戦争になるから」
「いざって時に迷い躊躇う者に背中は預けられないものね。けど絶対に相手を殺す必要はないでしょう?要は無力化出来ればいいわけだし。それが魔女様に認められるかどうかは分からないけど……取りあえず私は、私に出来る事をやってみる」
そうおれに告げると、彼女は力強い笑みを浮かべて歩き始めた。
颯爽と歩む様は勇ましく、美しい。
若干天然で笑い上戸なお嬢さんだけれど、彼女の様な人は困難も時代も切り拓いて進んで行くのだろう。
そんな彼女たちの後に続いて、おれも人通りのある道へと出た。
今後の方針は大雑把で砦の領軍の情報は殆ど無い状態で、飲み会に参加するのは不安だが……魔女様の威光とドナルドの立ち回りでなんとかしてくれるだろうと、思うしかない。
ソフィアはすぐに酔い潰れてしまうだろうから、おれとしてはカン砦側と良い関係性が構築出来る様に立ち回るべきか。
ササラ人が相手側にどの様に受け入れられるのかも興味がある。
じわりじわりと気分が昂っていく感覚があった。
そして先導するドナルドは立ち止まり「――魔女様、この店です。中から声が聞こえるので、既に宴は始まっている様ですね」と言い、店の扉に手を掛けた。
第17章
カン砦の事情
END
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