設定資料 その3
オーヴァン・ファランギス生涯年表
物語上では百年前に他界なされている魔女様のお師匠様です。
本人は登場しませんが今後もそのお名前が良く出て来ますので、彼の生涯年表と共に人となりを綴ります。
※現在物語上では聖王歴438年です。()内はオーヴァンの年齢。
■聖王歴238年(0歳)
オーヴァン誕生。
生れたのはサリィズ王国の西方にあるクラーン王国。
生れて直ぐに戦災で両親とは死に別れ、サリィズ王国へ移民らと共に流れ着いた。
まだ赤子だったが、カロン導師の弟子らに運良く拾われ北の森ソロモナリエへ連れ帰られる事となった。
この時まだ名は無く、カロン導師が初対面時に赤子の底知れぬ魔力を感知し期待を込めて古代の大魔導師オーヴァン・フィアロンから
魔法の才能ある子に古代の偉大な魔導師の名を付けるのは、結構ありがちだがオーヴァン・フィアロンはカロン導師が一番憧れていた魔導師なので、命名時の本気度が窺い知れる。
■聖王歴243年(5歳)
ソロモナリエでは乳母に預けられ、自身が戦災孤児である事も知らずに育つ。
すでに同年代の子供らよりも頭抜けて魔法の才能を迸らせており、友達に魔力制御のやり方を教え魔法使いごっこをして遊んでいた。
またこの頃に初めて天啓の石板の測定を行いギフト【一天四海】の所有者である事が判明する。
その後は乳母の家からカロン導師の屋敷に移され生活を送る事になった。
■聖王歴248年(10歳)
オーヴァンが10歳となり、正式にカロン導師が当主を務めるファランギス一門に弟子入りする。
魔法使いの一門に寄っては物心つく頃に弟子入りするが、ファランギス一門ではカロン導師の方針により、弟子入りは10歳を超えてからと定められている。
当時オーヴァンの上には5人の兄弟子がいたが、入門時からオーヴァンが本気を出したら誰も敵わないだろうと噂されていた。
■聖王歴253年(15歳)
十代の半ばに差し掛かると、オーヴァンは目覚ましい成長を遂げ年齢を超え名実ともにカロン導師の一番弟子としてその名を轟かせていた。
カロン導師は光と闇属性の精霊魔法を得意としており、オーヴァンは四属性と空間属性の精霊魔法の使い手だったため、基本的には自身で考えた修行を行う事が多かった。
オーヴァンはソロモナリエから離れて冒険者として研鑽を積むことが許されており、西都まで出かけて知り合った冒険者らと魔獣退治の討伐隊に参加する事も多々あった。
■聖王歴258年(20歳)
20歳になった日(拾われてソロモナリエに連れて来られた日を誕生日としている)に、カロン導師より免許皆伝を言い渡された。
諸国漫遊の修行旅に出る際に、カロン導師より魔導具を与えられる。
これは後に穹穿剣ブリューナクと判明するが、魂魄結紮するまでは全く扱い方が分からなかった。
ブリューナクは五本一組になっており、短剣の様な形状だが刃は無く空間属性魔力を通して空中に浮遊させて使用する。
一本一本に属性魔力を込める事が可能で、攻撃用の刺突武器として使えるが、防御用として周囲に強力な結界を張り巡らせる事も出来る万能な武器だった。
ブリューナクを扱えるのはオーヴァンだけであろうと思い、カロン導師は託した訳だが、それは見事的中した。
修行旅に出て程なくして、オーヴァンはブリューナクと魂魄結紮し当代最強の魔法使いとなる。
■聖王歴260年(22歳)
この年はサリィズ王国を出て、偶然にも生まれ故郷であるクラーン王国に訪れていた。
オーヴァン自身にこの地で生まれた記憶は無く、その情報も有して無かったが妙に居心地が良く感じていた。
その為当初の予定よりも長くクラーン王国に滞在し、その間彼は民衆の為に多くの魔獣や賊の討伐に参加し多大な戦果をあげた。
その活躍はクラーン王国の宮廷から誘いの声が掛かる程だったが、修行の身であると固辞し自由気儘な修行旅を謳歌した。
■聖王歴263年(25歳)
クラーン王国を出た後は冒険者として日銭を稼ぎながらゴーラ王国を経て、オウレン諸島連合国まで足を延ばした。
当時のオウレン諸島連合は海を挟んだ隣国のゴーラ王国との戦争が長期化しており、国家も民も疲弊していたため、オーヴァンは戦災で行き場を無くした子供たちを保護する活動に精を出した。
その活動を通じミイシャという同い年の女性と知り合い、やがて恋仲となる。
それから暫くオウレン諸島連合に滞在したが、ミイシャは志願兵としてゴーラ王国との戦争に参戦し非業の死を遂げてしまう。
オーヴァンは自身の特異性を良く理解しており、異国の地で戦争に関わるのは良くないと分かっていたが……ミイシャを失った悲しみと恨みを忘れる事が出来ず、戦いに身を委ねる事になる。
その結果……ゴーラ王国から殲滅卿と異名が生まれる程の戦果をあげることとなった。
現在(聖王歴438年)に至るまでオウレン諸島連合が存在しているのは、この時のオーヴァンの修羅の如き活躍があったからと伝承されており、殲滅卿オーヴァンは今なおオウレンの地では英雄視されており、ゴーラ王国では畏怖の対象となっている。
■聖王歴268年(30歳)
ゴーラ王国とオウレン諸島連合が停戦協定を締結したのを切っ掛けに、オーヴァンは北の森ソロモナリエの帰還を思い立った。
年齢も30を越え、一度自身の在り方を見直す為に5年もの年月を過ごしたオウレンの地を後にした。
■聖王歴269年(31歳)
ソロモナリエに帰還してからは、後進の育成に精を出した。
その傍ら、この頃より生涯を通じてオーヴァンのライフワークとなる遺跡探索や魔導具収集を始める。
10年に及ぶ修行旅で魔導具ブリューナクの威力を思い知っていたので、これほど協力な武器は然るべき存在が管理すべきだと言う思いが強かった。
サリィズ王国内に戻ってから、西方の地で殲滅卿としてその名を轟かせたオーヴァンには王侯貴族から登用の催促が引っ切り無しに届いたが、その全てを丁重にお断りした。
オーヴァン的には尊敬するカロン導師の様な人物が国家を統べるべきでは?という思いがあったので、権力と名誉に執着する王侯貴族の下で働く気にはならなかった。
この頃に第1次森林戦争が開戦となる。
■聖王歴273年(35歳)
第1次森林戦争終戦の年。
この頃のオーヴァンは西都キルケランの冒険者ギルドの主力として魔獣討伐隊の指揮を執っていた。
王国内での戦争が長期化しており、王国軍や領軍が魔獣討伐に兵力を割け無い状況だった。
■聖王歴278年(40歳)
第2次森林戦争開戦の年。
第1次森林戦争では当初サリィズ王国が物量で森の民シンアを圧倒したが、大森林の奥へ攻め入るまでは至らず結果は痛み分けとなった。
それから僅か5年で第2次森林戦争が開戦となる。
この理由は5年の間にサリィズ王国国王の世襲があり、新国王は目覚ましい成果をあげたいという思惑があった。
オーヴァンは開戦の一報を耳にした時、なんとも愚かしいと思ったがそれと同時に王国軍と森の民がどの様な戦いをしているのか興味心もあった。
そして彼は、大森林の調査を名目に単身戦地へと赴く。
その中で大森林を彷徨っていた時に……大樹の下に捨てられている森の民の赤子を拾った。
その赤子は明らかに耳が長く、幼いながら美しい顔立ちをしていた。
手を握り魔力感知をしてみると、途轍もない魔力を秘めており……この様な赤子を捨てるのは只事では無いと思い至りソロモナリエへ連れ帰る事にした。
ソロモナリエに連れ帰りカロン導師に事情を説明すると、その赤子はオーヴァンが命名し育てよと申し受けたので、古代の魔法使いメイヴィス・ソーンヒルから
メイヴィス・ソーンヒルは
■聖王歴279年(41歳)
第2次森林戦争終戦の年。
1年で終戦を迎えたのは、隣国との緊張が増したからとされているが実際は王国軍遠征隊の予算が組めなかったのが実情。
■聖王歴283年(45歳)
この頃のオーヴァンにはソロモナリエに慕ってくれる女性が幾人かいて、その女性らと居を共にしまだ赤子のままのメイヴィスの世話を任せていた。
自信は魔獣退治と魔導具収集や戦災孤児の保護に奔走する日々を送る。
この年の暮れに西都キルケランの酒場でとある出逢いがあった。
まだ十代であろう男爵家の青年は、瞳を爛々と輝かせ自身の夢や大志を大いに語ってきた。
酒を飲みつつ、青臭い話を聞いていたオーヴァンだが、不思議とその青年は魅力があり話を切る事が出来ずについには朝を迎えてしまった。
結局その青年は酔い潰れてしまったので名前を聞くのを忘れてしまったが、ソロモナリエに帰ったオーヴァンは西都で面白い出逢いがあったとカロン導師に伝えている。
■聖王歴284年(46歳)
この年の初めに、昨年西都キルケランで出逢った青年が北の森ソロモナリエに訪れた。
青年は昨年酒場で飲み明かした男が有名轟く殲滅卿オーヴァンとは知らずに探し求めてきたのだ。
二人は再会を果たし、オーヴァンは青年を自宅へ招きいれた。
この時青年は「エドワード・ロゴス」と名乗り、自身が弱小だが男爵領を拝する貴族であり先日父親が他界しロゴス家の当主となったと告げた。
エドワードは18歳になったばかりで、憧れのオーヴァンから何か言葉を頂戴しようと思い訪れただけだったが、この出逢いには運命を感じ自領の参謀を務めて欲しいと登用の申し出をした。
オーヴァンはそれを受け、彼もエドワードとは運命的なものを感じており早計かと思いつつも即時登用の申し出を受ける。
ここで二人は天啓の石板で能力値の測定をし、オーヴァンは【一天四海】を所有し、エドワードは【
貴族が騎士や魔法使いを登用する際に能力値の測定結果を見せるのは常識だが、登用する側の貴族が見せるのは異例のことだった。
【一天四海】……空間属性魔力と四属性魔力が極めて高く上昇する。
【仙姿玉質】……魅力と意志力が年齢を重ねるごとに増大してゆく。
まだ幼いメイヴィスはカロン導師に預け、オーヴァンはソロモナリエを後にした。
■聖王歴285年(47歳)
オーヴァンはコースト男爵領ロゴス家の参謀として、まずは自領を隈なく歩き調査をした。
それから挨拶がてら周辺勢力を渡り歩き始める。
コースト男爵領は西都キルケランの東方片田舎にあり、その近隣はサリィズ王国の支配が行き届いて無い状況だった。
男爵領、子爵領の領境線は曖昧で小競り合いが絶え間なくあり、有力な騎士家は無く未だ豪族家には勢いがあった。
その上近隣では山賊や海賊の被害が多く、魔獣の出現も頻繁でロゴス家は流石のオーヴァンも目を覆いたくなる様な状況に陥っていた。
■聖王歴286年(48歳)
ロゴス家参謀に就任して2年目の年。
精力的に活動を始めたオーヴァンの名を聞きつけ、周辺地域から修行旅中の若い魔法使いや騎士が集まり始めた。
オーヴァンの指揮で賊や魔獣狩りを行うと、腕利きの傭兵や冒険者なども多く集まり有能な者はオーヴァンから声を掛けてそのまま登用する事も多々あった。
自領内の荘園管理者の再編成と戸籍調査は徹底して行い、まずは領民が住みやすい環境を整えた。
着任初年度に自領内の整備を行い、2年目以降は周辺地域の領主や豪族らとも積極的に意見交換を行い、治水工事や道路整備などの公共事業は出来るだけ協力して取り組む様にした。
■聖王歴287年(49歳)
ロゴス家参謀に就任して3年目の年。
領地運営も軌道に乗りはじめたので、カロン導師に依頼しソロモナリエから有能な若者を出向してもらい官吏や職人として働いて貰う様になった。
ソロモナリエは戦災孤児や難民を国や民族の垣根を越えて受け入れており、様々な技能を有する者たちも多かった。
またオーヴァンは測量士の育成を進め、周辺地域の詳細な地図作りに着手する。
■聖王歴288年(50歳)
ロゴス家参謀に就任して4年目の年。
オーヴァンが作成した地図は評判を呼び、キリウス伯爵領オウグリッド家へ献上する事になった。
イセリア文化圏では上級貴族(大公、公爵、侯爵、伯爵など)の領地内に下級貴族(子爵、男爵)の領地を置くのが主流。
大公領は小国規模、公爵侯爵は州や地方規模、伯爵は県規模、子爵男爵は市町村規模。
オウグリッド家当主ザイラールはオーヴァンの地図を見て、キリウス伯爵領内全域の詳細な地図作成を依頼。
それを快く受けたオーヴァンはキリウス伯爵領内全域の子爵男爵領の領境線だけでは無く、小さな荘園や集落まで克明に描き記した領地図を年内に作成し(依頼された時点で既に下地はあった)献上した。
その領地図を目にしたザイラールは涙を零すほどに感銘を受けた。
■聖王歴289年(51歳)
領地図作成の一件でオウグリッド家とロゴス家の関係性は深まり、以前よりエドワードの事を気に入っていたザイラールは一人娘を嫁がせることにした。
この時ザイラールは齢60を超えており、男子の後継は無くキリウス伯爵領の支配権をロゴス家へ移譲するとサリィズ国王へ奏上していた。
これは異例であったが、ザイラールの意志は固く男子の後継も無かったためこの奏上は受け入れられ、この年の終わりにはキリウス伯爵ロゴス家が誕生する事となった。
ザイラールは引退後20年以上も生き永らえたので、そもそも領地支配に嫌気が差していたのでは?という噂が絶える事が無かった。
■聖王歴290年(52歳)
まず手始めに行ったのは伯爵領の再編成で、下級貴族の領境線を刷新した。
領軍の編成にも着手し、若手魔法使いにはオーヴァン自ら魔法の指導を行った。
特に有能な指揮官には、自身がライフワークとして収集した魔導具を惜しみなく与え、これによりキリウス伯爵領軍は再編後間もなくサリィズ王国北部域で最強と称される。
■聖王歴293年(55歳)
エドワード・ロゴスがキリウス伯爵領を拝してから4年の年月が流れた。
この間オーヴァンは自領の内政改革や公共事業に注力していた。
サリィズ王国北部域は、依然王家に抵抗する豪族や賊の類が多く存在しており、オーヴァンはこれらの討伐の準備を整える。
サリィズ王家と幾度と無く交渉を繰り返し、抵抗勢力を討伐した際はその領地をキリウス伯爵領に併合する、と約束を交わす。
■聖王歴294年(56歳)
この年よりオーヴァンは内政から手を引き、領軍の最高指揮者として辣腕を振るい再び殲滅卿として名を馳せる事になる。
この件で抵抗勢力の三分の一は戦わずしてキリウス伯爵領への併合を懇願したと言う。
■聖王歴298年(60歳)
この年にサリィズ王国内の領地再編が執り行なわれた。
殆どの領地は僅かに領境線が変更になる程度であったが、周辺地域の抵抗勢力の領地を併合し尽くしていたキリウス伯爵ロゴス家は、その領軍勢力、経済力、領民数に置いて他の伯爵家よりも頭抜けていたため、キリウス侯爵領へと格上げとなった。
侯爵領は王家から見て外様の貴族に与えられる領地。
ロゴス家はサリィズ王国建国時はサリィズ王家に組する古豪の騎士家だった為いわゆる外様では無いが、公爵に格上げは不当と一部の上級貴族から猛反発があり、侯爵領を拝することになった。
■聖王歴299年(61歳)
第3次森林戦争開戦。
侯爵領へ格上げとなった翌年より三度森林戦争開戦となり、王家への忠義を示す為に、キリウス侯爵領からは大規模な遠征を行う事となった。
オーヴァンは領地と戦地の行き来を繰り返し、多忙な日々を送る。
王侯貴族が戦地視察へ来る際は戦下手なエドワードは領地から出さずに、幾度と無く影武者を立てて難を逃れた。
■聖王歴301年(63歳)
第3次森林戦争終戦。
キリウス侯爵領軍は第2次森林戦争時に森の民に占拠された地域(現在のコトナ集落がある地域)の奪還を果す。
大森林外に建てられた森の民の砦も殆ど打ち破り、全軍の中で最大の戦果を挙げた。
■聖王歴303年(65歳)
北部域騒乱の始まり。
成り上がりのロゴス家を目の敵にする貴族家は多く、隣接する公爵家や侯爵家と領境沿いで小競り合いが起こる様になった。
当初は離れた距離での罵り合いやお互いに石を投げ合う程度であったが、この年はついに死者が出る衝突が生じてしまう。
王家は仲裁に入りなんとか和解をする様に求めたが、当時の殲滅卿オーヴァンは売られた喧嘩は買う方針だった為一歩も引かず、数回行われた和解交渉は全て決裂に終わる。
■聖王歴307年(69歳)
北部域騒乱の終わり。
4年もの間、敵意を見せる上級貴族らとの小競り合いが続いていた。
このままではキリウス侯爵領の衰退だけでは無く、サリィズ王国自体の存亡にかかわると、オーヴァンはここで一つの決断を下す。
キリウス侯爵ロゴス家は、西都キルケランを領都に置くクリソカル公爵ガルヴァイン家に対し宣戦布告をした。
サリィズ王国の貴族法典に則った正式な宣戦布告であり、当事者外の上級貴族らは参戦を認められない。
ガルヴァイン家は格下からの宣戦布告を蹴る事も無視する事も出来なかった。
同国内の上級貴族同士の戦いはその殆どが、3カ月ほど睨み合いをし和平交渉に至るのが常道だった為、ガルヴァイン家は友好関係にある貴族家からの援助を受けつつのらりくらりとしていた。
オーヴァンはその隙を突き、魔導具を装備した猛者を含めた手勢を引き連れ西都キルケランへ攻め入りたった1日で落としてしまう。
ガルヴァイン家の当主とその後継者を処刑し支配権を無力化した。
この件があり、その後オーヴァンは改めて殲滅卿としてサリィズ王国の王侯貴族らから恐れられ、最早王国内で殲滅卿オーヴァンに逆らえる人物も組織も皆無となった。
■聖王歴308年(70歳)
キリウス侯爵領とクリソカル公爵領を併合し、クリソカル大公領へ。
ロゴス家はこれを機にカールロゴス家へ家名を変更。
クリソカル大公カールロゴス家の誕生。
カールロゴス家は聖王以前に隆盛した貴族家。
ロゴス家と同様に弱小領主からの成り上がりで有名。
既に断絶しているが、オーヴァンは以前から改名の時機を見計らっていた。
ロゴス家とは全く関係の無い家柄だが、成り上がり貴族が過去の名家の家名を襲名するのは良くある事だった。
■聖王歴310年(72歳)
クリソカル大公領の再編成に一区切りがつき、オーヴァンはいよいよ国盗りを目論んでいた。
自信が鍛え上げた領軍は王国内で最強を誇り、王国軍を相手に回しても負けない自信があった。
【仙姿玉質】を有するエドワードの人望と名声は、サリィズ王国内だけに留まらずイセリア文化圏全域に鳴り響くまでに至っていた。
この勢いで国を興せばカロン導師とソロモナリエを仲間に引き込み、王都も副都も飲み込めるだろう、と。
エドワードは44歳になっていたが、彼が50の歳に届く前までには……。
オーヴァン自身にとっても、これが最後の仕事と腹を括る事にした。
■聖王歴313年(75歳)
オーヴァンは大望を果す為着々と準備を進めていたが、この年の冬にエドワードは大病を患い、殆ど寝たきりの生活となってしまった。
自ら薬師の役を務めるが衰弱するエドワードを診て、快気の見込みが無い事を悟る。
■聖王歴314年(76歳)
エドワードがクリソカル大公領主とカールロゴス家当主の座を長男のアルフレッドに譲る。
オーヴァンは西都のエドワードの邸宅に住み込み、看病の日々を送っていた。
後継のアルフレッドは父エドワードの様に恵まれたギフトは有して無かったが、オーヴァンからの助言を良く聞き、安定した統治を心掛ける良い領主となった。
■聖王歴315年(77歳)
エドワード・カールロゴス永眠。享年49歳。
本来なら後継のアルフレッドが喪主を務めるが、エドワードの遺言によりオーヴァンが喪主となった。
エドワードを弔った後、オーヴァンは参謀としての務めを終えアルフレッドに引退を表明した。
その後すぐに西都の邸宅を引き払い、故郷であるソロモナリエへ帰郷した。
■聖王歴316年(78歳)
この頃にメイヴィスはおよそ40年続いた幼生期を抜け、成長の兆しが見え始める。
オーヴァンは自身の寿命もそう長くは無いと思い、メイヴィスを連れ王国内を巡る旅に出る事にした。
まずは王国北部域から隅々まで周り、気に入った土地に流れ着いたら長期間宿を取り飽きたら別の土地へ移る優雅な旅路だった。
エドワードと共通の友人があれば、遠路でも足を延ばして昔話に浸る日々を送る。
旅先で悪事を見つけたら放っては置けず、弱きを助け強きを挫く……(まるで水戸黄門みたいな感じの)旅でもあった。
■聖王歴319年(81歳)
この年にオーヴァンとメイヴィスはトリス街へと行きつく。
副都から王都へ向かう途中で、当初からトリスかマグダフで長居をしようと考えてはいた。
すでに≪耳長の美少女を連れた偉大な魔導師≫の噂はサリィズ王国内に流れており、トリス街でもすぐに知れ渡ってしまい何処に行っても盛大な歓待を受ける。
殲滅卿オーヴァンが自領に滞在してると聞きつけた、ルードアン辺境伯ジェイラス・ヴェッティンはオーヴァンを探し当て、来る日も来る日も大いに持て成した。
ジェイラスは第三次森林戦争時のオーヴァンの戦いぶりを見て心底惚れ込んでおり、トリス街にある自身の邸宅をオーヴァンに譲り永住まで提案していた。
領民とも分け隔てなく酒を飲むジェイラスは何処かエドワードに似たところがあり、オーヴァンは暫く邸宅を借りトリス街に滞在する事にした。
■聖王歴321年(83歳)
第4次森林戦争開戦。
ルードアン辺境伯領はゾルアン大森林に隣接しており、ジェイラスは王国軍の指揮権も与えられ(押し付けられ)戦いの中に身を置く事になった。
オーヴァンはジェイラスとは懇意になっていたし、ここ数年世話になりっぱなしだった為協力を打診したが、ジェイラスからは丁重に断られた。
最早殲滅卿オーヴァンは見る影も無く、領民から愛される好々爺を戦争に巻き込みたく無いとジェイラスの意志は固かった。
■聖王歴323年(85歳)
ジェイラス・ヴェッティン、戦地にて森の民から強襲を受け戦死。享年49歳。
奇しくもエドワードと同じ歳で永眠となった。
ジェイラスに子は無く、近親も戦死してる者が多く後継を立てる事が出来なかった。
しかし、以前森林戦争は続いており早急に誰か……となった時に、トリス街に滞在してるオーヴァンに白羽の矢が立つ。
親友ジェイラスの死の報せを受け悲しみに耽るオーヴァンは当初王家やアードモア公爵からの申し出を固辞するが、ルードアン辺境伯領の後継を担ってくれればなんでも要求を飲むと王家側が言い出したため、それならばと引き受ける事にした。
以下は、この時オーヴァンが王家側に提示した条件。
①メイヴィスをオーヴァン・ヴェッティンの養子とし、イセリア人として認めること。
②メイヴィスをオーヴァン・ヴェッティンの後継として認めること。
③ルードアン辺境伯領の内政に関してはサリィズ王家とアードモア公爵家で分担して行うこと。
④また上記の件に関して、メイヴィスが支配権の移譲を求めた際は速やかに返還すること。
⑤メイヴィスの子孫もヴェッティン家の子孫として認めること。
⑥第5次以降の森林戦争に関してヴェッティン家は関与しない。
⑦第4次森林戦争の全権をオーヴァン・ヴェッティンに委ねること。
⑧また第4次森林戦争の戦災復興に関しては、王国内の全上級貴族から王家の名で支援を募り、その全てを漏れ無く移譲すること。
⑨オーヴァン・ヴェッティンと森の民との直接交渉に口を挟まないこと。
⑩以上の件、ひとつでも破る事があれば王都及び副都へ殲滅卿が乗り込む事を覚悟すること。
オーヴァンからの条件を受けとった王家宮廷側は、この様な条件を飲んで良いものか大騒ぎとなったが、カールロゴス家の後押しも有りこれにてオーヴァンはルードアン辺境伯領の支配権を拝しヴェッティン家の当主となった。
■聖王歴324年(86歳)
第4次森林戦争終戦。
早速戦地へ赴いたオーヴァンは森の民の捕虜全員を引き連れ、森の民の里へと向かった。
殲滅卿オーヴァンは第3次森林戦争時の影響で森の民からは恐れられており、里に着いてからの交渉は驚くほど滞りなく進んだ。
森の民は偉大な魔導師(=シャーマン)には敬意を払う文化があり、オーヴァンは敵であったが全く敵意を見せず無償で捕虜を解放したので、すぐに打ち解ける事が出来た。
ここでもオーヴァンは森の民に対し和平の条件を提示する。
①本日を以て、第4次森林戦争は終戦とすること。
②双方共に捕虜は無償解放すること。
③戦後、森の民シンアはヴェッティン家からの復興支援を受け入れること。
森の民側はこの条件をその場で受け入れ、これにより第4次森林戦争は終戦を迎える。
オーヴァンはこの交渉の後に、40年程前に森の中で森の民の赤子を拾い自分がいま尚育てている事を森の民の指導者に告げた。
この里に連れて来ても良いか?と尋ねたが、恐らくその赤子は火の神に愛されているから捨てられた、この里には連れて来ないで欲しいと告げられる。
メイヴィスは余りにも火属性の魔力が強すぎ、いずれ大森林に厄災を招く恐れがあるため森に捨てオークの餌になる予定だったのだ。
これを聞かされオーヴァンはメイヴィスを連れてくることを断念するが、別れ際にメイヴィスが森の民のククラハ家に出自が有る事を教わる。
■聖王歴325年(87歳)
領地内と森の民への復興支援の陣頭指揮を執りつつ、コトナ集落とトリス街を行き来する日々。
足が弱くなってきた為、王家に馬車を用意させた。
この頃、メイヴィスはトリス街にある青蘭亭という酒場の女将に預ける事にした。
青蘭亭の女将は若かりし頃はジェイラスの妾をしており、青蘭亭を始める時の出資もジェイラスが全て出している。
その関係もあり、オーヴァンは青蘭亭には良く顔を出していた。
■聖王歴326年(88歳)
森の民への復興支援を通じ親交が深まると、山岳の民ドラドを紹介される。
オーヴァンは山岳の民とも直ぐに意気投合し、ドラド鋼の武器やクヴァスの造り方を教わった。
■聖王歴327年(89歳)
復興支援も落ち着き、森の民からはお礼としてコトナ集落に家を建てて貰った。
山岳の民からも手伝って貰い、地下遺跡へと続く螺旋階段と地下室の改造もして貰った。
この頃よりオーヴァンはエドワード・カールロゴスの伝記を執筆し始める。
自分が特異な人間であることは自覚があり、この様な人物の存在を後世に残すべきでは無いだろう、という想いがあった。
その為、オーヴァンは自身とエドワードを統合したような超英雄を創作し、その人物を主人公にフィクション戦記の構想を膨らませた。
■聖王歴328年(90歳)
この頃、トリス街からメイヴィスをコトナ集落へ呼び寄せ、正式にファランギス一門の弟子とした。
■聖王歴332年(94歳)
エドワード・カールロゴスの伝記が完成する。
これをオーヴァンはエドワード・カールロゴス自伝と命名し著者もエドワードとした。
この原本をドナルドの曽祖父マッケイに金貨10枚で売り、マッケイはこれを大量に写本して大々的に売り出し財を成した。
■聖王歴337年(99歳)
約10年に及ぶ修行を終え、メイヴィスを免許皆伝とする。
自身はほぼ寝たきりの生活となり、メイヴィスには修行旅に出ろと命じたが、彼女はそれを拒否しオーヴァンと共にコトナ集落で穏やかな日々を過ごした。
この年の終わりにオーヴァンはカロン導師に「最期に、一目お逢いしたい」と手紙を送る。
■聖王歴338年(100歳)
この年の初めにカロン導師がコトナ集落へ訪れる。
約10日の滞在の中でオーヴァンは衰弱する身体を押し、カロン導師と言葉を尽くし語り合った。
その中で、自身が集めた魔導具や天鉄製の武器等を封印して置きたいと告げ、カロン導師と共同で地下宝物庫の出入り口に複合封印魔法を施術する。
これがオーヴァン最後の魔法となり、カロン導師はオーヴァンの死を看取ってからソロモナリエへ帰還した。
この歳にカロン導師はオーヴァンが愛用した魔導具ブリューナクを形見として持ち帰っている。
この間のメイヴィスの記憶が曖昧なのは、彼女はまだ幼生期を抜けたばかりで人間の年齢に換算すると10歳に満たないため、記憶力が安定して無かった。
以上、オーヴァン・ファランギスの生涯年表になります。
オーヴァンは転生者ですが、この年表はオーヴァン・ファランギスとしての生涯年表になるので、転生者としての視点は記入しませんでした。
以下は、殲滅卿オーヴァン最盛期(40~60歳くらい)の天啓の石板の測定結果です。
※
ギフト 【一天四海】【精霊躍】【絶至妙】
筋 力 60
耐久力 75
知 能 133
精神力 124
敏捷性 65
器用さ 142
魅 力 89
生命力 125
知覚力 86
意志力 128
心身評価 1027
光属性魔力 25
闇属性魔力 25
火属性魔力 1960
水属性魔力 1975
土属性魔力 1995
風属性魔力 1965
時間属性魔力 30
空間属性魔力 1985
魔力操作 795
魔力耐性 892
魔力評価 11647
前世代最強魔法使いである殲滅卿オーヴァン(最盛期)の能力値は……まあ、そりゃあ恐れらるよなという感じになっております。
そもそもカロン導師を以てして史上最高の才能と言わしめた人物ですので、そんな彼が強力無比なブリューナクと魂魄結紮したら、こう言う感じになってしまう訳です。
こんな滅茶苦茶な能力の人が属性付与されたファンネルみたいな魔導具を使う訳ですから、それはもうめちゃくちゃ強いのです。
過去様々な人物の能力値を公開してきましたが、魂魄結紮したオーヴァンを以てしても2,000の壁を越えないので、この辺りが人類(イセリア人)の限界値みたいな感じになります。
しかし、メイヴィスの火属性魔力が1,998なので彼女が火属性の魔導具と魂魄結紮したら限界突破があるのか、無いのか。
メイヴィスが超えられるのであれば、森の民の中にも2,000オーバーがいるかも知れ無いし、原住の民エルフの中にもいるかも知れない。
この辺りは今後物語上で触れてゆきます。
※以下は年表に書き切れなかった事をダラダラと。
オーヴァンの能力値を知るのは師匠のカロン導師一人だけ、あまりにも異常過ぎる為に主であるエドワードにすら開示する事はありませんでした。
オーヴァンは長い時間を掛けてカロン導師と語り合う中で、この異常さは後世に残すべきでは無い……と言う考えに至りました。
人生百年の中で余りにも多くの人の命を絶ってしまった事を、晩年は後悔し酒に溺れる日々が続きます。
多くの女性と浮名を流しましたが実子は無く、その愛情の全てはメイヴィスへと向けられる事になりました。
メイヴィスに魔法使いとしての才能が有り過ぎるので、他で誰かに教わるくらいであれば自分の手で育てよう……となり、ファランギス一門に入れますが、これは大いに悩んだ末の決断でした。
なぜなら自分ほどでは無いにせよメイヴィスも、魔法使いとならば多くの人の命を絶てる才能が間違いなくあるから。
しかし、メイヴィスは森の民シンアに戻る事は出来ない、イセリア人(ヴァース教徒)からは疎まれてしまうので、死期が近い事を悟っていたオーヴァンはその人生の最期に、この世界で生き抜くためにメイヴィスを弟子にし魔法を教えた。
空中魔法陣や仮想魔法陣をメイヴィスに叩き込んだのはオーヴァンで、当時(作中の100年前)空中魔法陣は開発されてから百年程度しか経っておらず一般的では無かった。
仮想魔法陣に至っては、開発者がカロン導師でそれを実戦で初めて使ったのがオーヴァン。
現在も地面に描く魔法陣が一般的で、魔法使いの会話の中で使われる魔法陣とは地面に描く魔法陣の事を指す。
空中魔法陣は修行を終えた魔法使いが、修行旅の中で自発的に学び訓練する技術と考えられている。
仮想魔法陣は当初ファランギス一門の門外不出の技術だったが、カロン導師の弟子らがカールロゴス家のお抱え魔法使いとして活躍する中で、情報が世に流れてしまった。
魔導師とは「魔法使いを教え導く人」という意味合いがあり、各一門の師匠は魔導師と称される。
カロン導師の場合は、北の森ソロモナリエにて魔法使いだけでは無く一般民衆も教え導いているためカロン魔導師では無く、敬意をもって「カロン導師」と称されてます。
作中でメイヴィスが使っていた多重構造の空中魔法陣は、カロン導師が死ぬ間際のオーヴァンとで構想を語り合い、お試しで宝物庫に封印魔法陣を敷いてみた。
その後オーヴァンは他界してしまい、カロン導師一人では解除出来ず現在に至る。
カロン導師的にはオーヴァンと自分が揃わなければ何人たりとも封印の解除は出来ないと自負があった為、強力無比な魔導具やお宝がある事は分かっていたが、放置する事にした。
オーヴァンの名を歴史好きな大先生も知らなかったなんて事がありえるのか?という点について。
大先生は作中で67歳で、オーヴァンの死後30年以上経て誕生しました。
大先生が10歳の頃にクロウサス一門の門弟になり、20歳頃に修行を終える。
この時点でオーヴァン没後50年が過ぎているため、世の中にオーヴァンと直接会った事がある人は殆どいない事になります。
オーヴァンの存在を消されたエドワード・カールロゴス自伝を、大先生は若い頃から紙が擦り切れるくらい愛読していたので、エドワードを敬愛するに至る。
貴族の自伝なのに、やけに魔法使い目線で書いてあるよなあ、と思いつつ若かりし頃の大先生は純粋だったのでフィクションを本物として信じ込んでいた。
大先生だけでなく、現代を生きる人々はエドワード・カールロゴス自伝を実話として捉えている。
高名な魔法使いは自身の研究成果を論文にまとめ、宮廷に提出する風習があるが、ファランギス一門はそれを一切行わないため、宮廷もファランギス一門の実情を掴めて無い。
メイヴィスがルードアン辺境伯ヴェッティン家の現当主である事は承知していて、前代がオーヴァン・ヴェッティンである事も知っていたが、このオーヴァン・ヴェッティンなる人物の記録はどれだけ探しても見つける事が出来ず調査を断念している。
生前オーヴァンはカールロゴス家に対し、自身の死後は存在を証明出来る証拠隠滅を依頼しており、カールロゴス家はオーヴァンの依頼を滞りなく遂行した。
カールロゴス家の宝物庫にはオーヴァンとの関係性を示すお宝があるとか、無いとか……。
メイヴィスは大先生がエドワード・カールロゴス自伝を愛読してる事を知っていたが、オーヴァンの事を明かす事は無かった(単なる意地悪で)
オーヴァンが何故そこまでして自身の存在を消そうと考えたのか。
ここまで彼の人生を書いて思い至ったのは、自身が異世界転生者であると自覚があったからで。
オーヴァンとしてこの世界を愛していたから、異物である己の存在証明は消すべきだ、と思い至った訳ですね。
カロン導師には……師匠であり友人でもある彼には、最期の時に全てを明かしていると思うので、このあたりは作中でいずれ触れます。
サリィズ王国から遥か西方のオウレン諸島連合には殲滅卿オーヴァンの銅像が幾つもあり、100年以上経た現在でも英雄視されている。
一方、殲滅された側のゴーラ王国では、「オーヴァン」の名を禁忌とし、子供に名付ける事を現在も禁止している。
以上で今回の設定公開は終わります。
もっと色々と企画してましたが、オーヴァン生涯年表で力尽きました。
次回から第16章の幕開けです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます