第2部 序章
もしくはきみが知ってる、おれの知らないおれ
「――リョウスケ……聞こえてるかな?」
少年らしき声が頭に響く。
その寸前までは何か別の夢を見ていた様な気がするが、これは次の新たな夢なのだろうか?
「ん?えーっと、聞こえてるけど?」
おれは取りあえず、返事をしてみた。
声が出せるかどうか分からなかったけれど、取りあえずおれの声は響いてくれた。
「ああ、すまないね、既に一度直接介入してしまったので、今は声だけしか届ける事が出来ないんだ」
未だよく分からない状況が続いていた。
彼?の言う通り、その姿は見えないし……いや目を開けられない状況なのだろうか?
金縛りの様な感覚と言えば良いだろうか。
息苦しいとか、誰かに押さえ付けられている感じでは無かったけれど。
「申し訳無いが、状況が全く掴めないんだけど?これってもしかして、おれは目覚めたら元居た世界に戻るとか、別の世界に転移してる……みたいな笑えない状況なのかな?」
元居た世界へ戻れるのなら、それはそれで笑えるのか……と思ったが、それを敢えて口にする気にはならなかった。
「なるほど、間接介入だけであれば、キミの記憶は戻らないのか。これは新しい発見だね」
「もう少し情報をくれないか?これは夢?それとも……魔法的な、ゲームやファンタジーな世界ならではの現象なのかな?」
「いや、これはボクからすれば極めて現実的な現象なのだけど、今のキミからすれば非現実的な現象になると思う」
それを聞かされてもなんの問題解決にもならない……と思ったが、それも言う気にはならなかった。
「きみは何か用事があって、おれに語り掛けて来たのかな?」
「今回は次回の為の確認……みたいなものだね。導入前試験というか、事前テストと言うべきか」
「あの、わざと回りくどい言い方をしてるよね?」
少し苛ついた口調になってしまった。
冷静に対話しようと思ってはいたが、余りにも状況が飲み込め無すぎて腹立たしくなってしまう。
「今回の間接介入でキミの記憶が戻って無いという事は、目が覚めたらこの記憶が残ってしまう可能性があるんだよ。こちら側の記憶を残したくない、と言うのはキミの要望だからね。ボクはキミの為に回りくどい人物を演じる羽目になっているだけ、と理解して欲しい」
「要するに、おれからの問いには何も答える気が無いってことかな?」
「そうして欲しいと、ボクはキミから言われているからね」
「では、先ほど口にしていた、既に一度直接介入してしまった……と言う件については?」
「ああ、あれは思わず口を滑らせてしまった。出来れば忘れて欲しい……けれど」
「今回の件が記憶に残ってしまうのなら、おれは今後この事ばかり考えてしまう事になると思うけど、きみ的にはそれで問題無いのかな?もしくはきみが知ってる、おれの知らないおれ的に――」
もしかしたら本当に夢かも知れない。
子供の頃から訳の分からない夢は幾度と無く見てきたから。
けれど、この対話してる相手は、もしかしたらおれを異世界へ送り込んだ存在なのかもしれない……と直感があった。
「いや、いや、それは本意では無いよ。キミには、今度こそキミには、この世界を存分に堪能して貰いたいと、ボクは心からそう思っているから。勿論これは、ボクの知っている、キミの知らないキミも同じだと思うし」
「ああ、うーん。そうか……なんとなくキミがどういう存在か、少しだけ理解できたと思う」
「本当はなんの制約も無く、キミと沢山お喋りしたい。これがボクの本音だから」
「それでは、直接介入の件だけ……出来れば端的明瞭に教えてくれるかな?それ以外には何も聞かないと約束するよ」
「うーん、仕方ないなあ。あまり時間も無いことだし、今回は特別に。――大先生の滅殺魔法を、慌てて無効化した。これがボクがしてしまった直接介入だよ。あの時に、ボクは膨大な魔力を費やしてしまい、今は声しか届ける事が出来ない、ということ」
「ああ、そういうことか。あの無効化はおれのギフトや特殊能力では無いって事か。もしかして、このままだとまた誰かに殺されかねないから【不朽不滅】を授けてくれたのかな?」
それ以外には何も聞かないと言ったが、思わず問い掛けてしまった。
あの酷い眩暈や頭痛は【不朽不滅】を無理やりインストールしたからでは?と思ったから。
「【不朽不滅】はキミに内緒で、ボクが最初から仕込んでおいたんだよ。これ以上緊急で直接介入は出来ないからね。だからさ、何度も言っただろ?転生よりも転移の方が難易度が高いから危険すぎる、と。いつもの様に転生にしておけば――ああ、シマッタ。ダメだ、ダメだ。もうこれ以上の情報は与えられない。本当に時間も無いしね。そろそろボクは引き上げるよ」
「えーっと、またいつか会える……みたいな事を言っていたよね?たしか、さっき」
「また、いつか、その内にね。じゃあ、ね、バイバイ、リョウスケ――」
バイバイ、とは久しぶりに聞いた別れの挨拶だ。
おれも声の主に対して、バイバイと告げようとしたが、そこで意識は暗転してしまった――。
第2部 序章
もしくはきみが知ってる、おれの知らないおれ
END
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