第8話:サイラスの能力値
風習とか慣例とか仕来りを理由に断られるのは仕方ないし、それはそれで諦めがつく。
ルーファスは検討してくれている様な雰囲気はあったが、サイラスの発言から少し間が空いている。
確かに天啓の石板の測定結果は自身の長所短所を如実に表すので、国家の要職に就いている人物がその公開を躊躇うのは道理だ。
むしろホイホイと見せびらかさない方が好感を持てるし、石板が示す能力値の重要さも感じる事が出来る……今となってはだが。
「――ふむ、そうじゃのう。本来であればわしの様な立場にある者が、主君以外に石板の測定結果を見せる事は有るまじき行為じゃ」
この発言を聞き、恐らくおれよりもサイラスの方が驚いていたと思う。
今回は特別に……と、公開を示す様なニュアンスがあったから。
「他の魔導師らに知られたら叱責を喰らうのは目に見えておるが……のう、サイラスよ?わしは、己に如何ほどの時空間魔力が
これは嬉しい反応だった。
無理やりでは無く、自身の興味心を埋める為に能力の開示をほのめかしてくれている。
おれからすれば一番好ましい展開だ。
「そ、それは私も同意です。ならばルーファス先生?この度は実験という形を取れば良いのではありませんか?この天啓の石板は明らかに他の物とは表示が違う様なので、検証は必要だと思いますし……」
大先生の想いを受けたサイラスは若干芝居がかった言動を見せる。
恐らくこれは茶番というか、他者に露見してしまった際の説明作りをしてる様な感じがあった。
そこで、ここはおれも一役買うべきか、と思った訳だ。
「勿論おれは、お二人の測定結果は他言しませんよ。能力を開示して貰った事も胸の内に秘めます」
これが後押しになるかどうか。
おれの発言を聞き、二人はこちらへと視線を移した。
「ふむ、ここはリョウスケの言う事を信じるとする。サイラスの申した通り、天啓の石板の調査は我々の領分でもあるゆえ、今はそれを果たすのみじゃ。では、早速わしから――」
大先生はいつに無く早口で、最早自分の能力値を見たくて見たくて堪らない感じが溢れ出ていた。
テーブルの真ん中にある天啓の石板を引き寄せるべく手を伸ばしていたが、そこへサイラスが手を伸ばし遮った。
「不敬をお許し下さい、ルーファス先生。ここは私が先に能力の開示を致します。部外者に能力の開示など慣例はありませんが、格下の私から行うのが筋かと思いましたので……」
また、少しの間が生まれる。
これはサイラス的には勇気ある行動だと思った。
大先生は五月蠅い引っ込んでおれ!と言い出しかねない雰囲気を醸し出していたが……どうやら能力値見たい欲を押し殺せた様で「う、うむ……それは、そうじゃの。良い、サイラスから先に開示せよ」と言い、伸ばした手で石板をサイラス側へと押し寄せた。
「は、はい、それでは、お先に失礼いたします」
石板を受け取ったサイラスは立ち上がり、息を吐いた。
そして、石板の位置を正しその上へと手を乗せる。
石板は直ぐに反応を示し、青白い光を放った。
先程と比べ光は一呼吸の間もなく消え、石板上にはサイラスの能力値が浮かび上がる。
サイラスは石板上から手を離し、自身の能力値を確認すると石板をテーブルの中央へと移した。
「――まずは私の測定結果をご確認下さい」
ギフトの欄には【風属性魔力増大】と【魔力操作増大】が表示してあった。
魔法関連のギフトを二つも所有しているのは流石は宮廷魔法使いと言った所だろうか。
取りあえず先に心身側の能力値を確認してみる事にした。
筋 力 61
耐久力 55
知 能 82
精神力 78
敏捷性 51
器用さ 65
魅 力 73
生命力 68
知覚力 72
意志力 77
心身評価 682
確か心身評価は600以上が人並みで700を超えれば優秀と言っていたので、サイラスの数値だとそこそこ優秀と言ったところだろうか。
全部で十項目あるので、心身評価700以上とは平均で70以上が求められる事になる。
それを考えると、この評価を以って優秀とされる人物は世の中に一握りしかいないのではないだろうか?
――と、まあ色々と考察はしたいのは山々だが、引き続き魔力側の能力値へと視線を移す事にした。
光属性魔力 98
闇属性魔力 61
火属性魔力 30
水属性魔力 84
土属性魔力 45
風属性魔力 532
時空間魔力 10
空間属性魔力 10
魔力操作 155
魔力耐性 85
魔力評価 1110
こちらは如何にも風属性魔法の使い手と言った感じの能力値だ。
残念ながら時空間魔法に関しては、双方とも10……恐らくこの値だと、素養は無い見るべきだろう。
ギフトが反映しているみたいで、風属性魔力と魔力操作は他の属性魔力より飛びぬけており、その結果魔力評価は1000を上回っている。
果たして大先生はこの結果を見て何を思うのか――。
「ふむ、ふむ……。そうか、サイラスの時空間魔力は10とな。なるほどのう……0では無い訳じゃな。そうなると、先ほどあった石板の更新とやらは、ある程度以上の時空間魔力を有した者が石板に触れた際に発動する、という認識で良いのか」
大先生の発言を受けてからサイラスは椅子に腰を下ろした。
そして茶を一口。
普段は軽く啜る程度だが、今は喉を鳴らして飲んでいた。
「私は、0の可能性があると思ってました。時空間魔力や魔法とは伝説上のものという認識がありましたので、たった10でも自分に備わっているのかと思うと感慨深いです」
なるほど、この場合は0じゃ無くて有難いという見方になるのか。
確かに可能性が無いのと僅かでも有る場合とでは、感じ方は全く異なって来るだろう。
当然、おれとしてはサイラスの能力値を見ながらあれやこれやと談義をしてみたいが……それを申し出る間も無く、大先生は石板を手元へ引き寄せていた。
石板上にはまだサイラスの能力値が浮かび上がったままだ。
恐らくは、その状態でも次の人物が手を置いたら新たに測定が始まると思うが、ここは余計な口を挟まずに見守る事にしよう。
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