第4話:心身側の能力値

ルーファスの手元にある天啓の石板を覗き込み、今一度心身側の能力値を流し見た。


筋 力     45

耐久力     95

知 能     96

精神力     99

敏捷性     40

器用さ     90

魅 力     98

生命力   1994

知覚力     88

意志力     99

心身評価  2744


そのおれの様子が気になったのかルーファスは、石板をおれとサイラスに見えやすい位置へ置いてくれた。

もう記憶してしまったのか、大先生はこちらに石板を渡すと目を閉じて考察を始めた様子だった。

「――さてと、気になる点は幾つかありますが、上段の項目から順に質問する、でいいですか?」

この問い掛けの時に、サイラスも改めて能力値の確認をしていたみたいで、一呼吸の間をおいてからの返答となった。

「ええ、はい、そうして頂けると私も助かります」

「では、まず筋力の45についてですけど、これに関しては一般的な成人男性と比べるとどの様な所感を抱きますか?」

すぐ傍に大先生ルーファスが鎮座してるからか、おれもサイラスも何処か緊張を拭いきれずお互いに堅苦しい口調になっていた。

重大な会議の場でディベートをしてる様な心持ちと言えばいいだろうか。

それに関してはサイラスも似た様な心境……いや、直の上司が目の前にいる彼の方がストレス過多なのは間違い。

「まず心身側の能力値に関しては例外を除き最高値は100程度とされてます。その例外と言うのはギフトによる能力値の上昇になります。それを踏まえまして、心身側はどの項目も50~60が、成人男性として一般的とされています。ちなみに、私の筋力値は60程度です」

「なるほど。そうなると筋力値45は一般男性よりも少し劣るという事になりますね。けどそこまで卑下する必要は無い数値だと思いますけど、どうでしょうか?筋力値が50以下だとバカにされる、みたいな事はありますか?」

それこそ少し馬鹿げた質問だと思ったが、敢えてしてみた。

堅苦しい雰囲気でお堅い話題ばかりだと気が滅入ってしまうから。


「いえいえ、それは無いです。そもそも都合上一般的と言いましたが、天啓の石板で能力値を測定する事は一般的ではありませんので。市井の者は己のギフトや能力値を知らずに生き死んで逝くのが、文字通り一般的なのです。ただし、この能力値を以ってリョウスケが戦士を名乗った場合は、時と場合に寄り馬鹿にされる事はあると思います」

この切り返しと言い回しは、恐らくおれの意図を察してくれたな、と感じた。

案の定サイラスの顔を見ると、彼は口許に薄く笑みを浮かべていた。

「そうなると例えば冒険者や王国軍で戦士として活躍するには、どの程度の筋力値が必要になりますか?」

「王国軍で活躍となると、最低でも80は必要だと思います。以前、宮廷騎士の能力値を見させて貰った事がありますが、その騎士の筋力値は130ほどありました。80と130では大きな開きがある様に感じますが、宮廷騎士はこの国の最高戦力ですので桁違いで当然なのです。王国軍の一兵士であれば筋力値80で十分なはず。余談ですが、私とともに集落に来たアランの筋力値は200近くあるのでは?と思います。彼は宮廷騎士の中でも特に秀でた騎士の一人ですからね」

それを聞きおれは息を飲んだ。

アランの筋力値200は勿論だが、ではソフィアの筋力は一体どうなるのさ?と思い。

機会があれば彼女の能力値も一度見せて貰おう……縁起物扱いで申し訳無いけれど。


「では、次に耐久力ですけど、これは先程の説明を踏まえると、95なのでかなり凄い値になりますよね?耐久性の値が高いと低い人と比べて、どの様な優位性がありますか?」

「そうですね、耐久性は極めて高いと言える値です。ギフトに寄る能力値上昇を除けば、王国内で最高値になるかもしれません。耐久性が高いと物理的な攻撃や衝撃に強い点と毒や病気に対しての抵抗力の上昇が見込まれます。それを考えると、リョウスケの場合はギフト【不朽不滅】の影響が少なからずあるのかも、というのが私の見解になります」

なるほど、そう言う見方が出来るという事か。

ギフトの影響によりどの程度能力値が上昇してるのかは分からないらしい。

「そうなると、その下の……いや、おれの能力値は筋力と敏捷性以外は全てギフトの影響が反映されてある可能性が高い、という事ですね?」

「ええ、そうだと思います。特に生命力の値1994に関してはあまりにも桁違いですので、これは確定ですね。最後の十一項目目の心身評価は上記十項目の合計値になりますが、この値が1000を超えてるのを私は初めて見ました。心身評価は一般的に600を超えていれば人並み以上で、700を超えれば優秀とされてますので……」


サイラスの説明を聞く限り、おれの心身は人並み外れて超優秀という認識でいいみたいだ。

筋力が無くて足も遅そうだけど、欠点を補う得意が余り有り過ぎる!

これ能力ガチャだとしたら完全にアタリを引いてるし、リセマラ終了しても良いレベルだろう。

「あの、サイラス?ちなみに、生命力の下の知覚力と意志力ってどの様な特徴がありますか?その他の項目は大体なんとなく分かりますけど……」

「知覚力は主に五感の鋭さを示す値とされてます。敵の接近の感知能力や、天気の予測能力にも影響があるらしいのですが、これに関しては宮廷でも現在研究中ですね。意志力に関しては……これは全ての項目の中で一番の謎とされてます。成功者と呼ばれる傑物は総じて意志力が高い傾向があるらしいので、物事の推進力や全ての行動に影響を及ぼすのでは?と目されてますが……これに関しても宮廷の方で鋭意研究中としか言えません」

宮廷で研究中という事は、これらに関してルーファスに尋ねても似た様な回答しか得られないという事か。

まあ、でも能力値が高いに越したことは無い筈だから、ここは安易でも前向きに捉えるべきだ。


「では、能力値の説明はこのくらいにして。――サイラス?おれはこの能力を以ってして、今後このサリィズ王国でどの様に生きて行けばいいと思いますか?どの様な職が良いとか、どの街に住むのが良いとか。例えば、キミがおれのギフトや能力値になったとしたら、どの様に生きてみたい……とか、そう言う話がしたいんですけど、良いですか?」

サイラスとなら、本当は酒を飲みながらと洒落込みたいところだが……今日のところは薄い茶で我慢するとしよう。

「私が……リョウスケのギフトと能力を、ですか?そうですね、魔法が使えなくなるので取りあえず、宮廷魔法使いを辞することになるでしょう。それからまずする事は、活動資金の調達でしょうか。王都で物を仕入れ、海を渡りササラの国々で売り捌きます。イセリアの金属加工品や貴金属はササラの地で高く売れると評判ですからね。それで得た金でササラに拠点を設けます。ササラ人である限り、本拠点はササラ文明圏の国家に置くのが――」

と、軽快な口調で話してくれていたが、ここに来てルーファスがサイラスに茶を淹れ直してくれたのだ……普段より明らかに雑な感じで。

大先生は長考状態に入って以来、おれたちの会話など興味を示さないと思っていたが、耳だけは傾けていたらしい。

これによりサイラスは「ごにょごにょ……」と、話し半ばで口を閉ざしてしまった。

おれは気が付かなかったが、恐らくサイラスは大先生から何かパワハラめいた口留めをされたのかもしれない。

テーブルの下で足を蹴られたとか、もしかしたら魔法で精神的な攻撃とか。

おれからの質問に答えてくれていただけなのに、なんだか申し訳ない展開になってしまった。

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