第2話:アップデート
この世界へ来てから天啓の石板を見るのはこれで二度目となる。
改めて目にすると、石板と称されてはいるが材質は石では無い様に見えた。
取りあえず都合上の石板に手を置く前に、側面に指を掛け手前に引寄せてみる。
前回は手を上面に置いただけだったので、思いの外軽い事に驚いた。
これは益々石材では無さそうだと実感を得る。
勿論金属でも無く、樹脂製の物の様な軽さだった。
「――勿体付けるつもりは無いですけど、今回改めて天啓の石板の結果を見る理由はありますか?おれが石板の文字を読めるかどうか試すのは後付けだと思うので」
席に着いた時には既に用意してあったので、ルーファスなら何か特別な理由があるかも知れないと思いと思ったのだ。
「ふむ、理由は至って明確じゃよ。サイラスが伝説級のギフトを一度は見てみたいと申したからじゃ」
ルーファスは淡々とした口調だった。
一方のサイラスは……若干恥ずかしそうな表情を浮かべている。
おれの視線に気が付いたサイラスは「こ、これは私でなくとも、誰しもが一度は見てみたいと思う筈です。しかも太古の聖人エステルと同じギフトなんて、今を逃したら今後見る機会は訪れないでしょうから」と普段より大声で早口だったが、これにより吹っ切れたのか椅子をおれの方へと引き寄せ前のめりとなった。
要するに縁起物みたいな扱いを受ける訳か、伝説級のギフトの所有者になると。
おれの場合は偉大な聖人様が有していたギフトなので、そう言う観点からすると想像していたよりも価値が高いのかもしれない。
取りあえず、興奮冷めやらぬサイラスの期待に応えるため、右手を天啓の石板の上に乗せた。
一呼吸の後、石板は反応を示し青白い光を放ち始める。
前回はこの光が消えたら上面に文字の羅列が表示されたが……今回は中々光が消えない。
消えないどころか、益々と輝きが増している様な感じが――。
「え?ちょっと、これ大丈夫なんですか?あの、ルーファス?このまま手を置いたままで?」
そう声を上げる前に手を離せばいい……と思ったが、石板に張り付いているみたいで微動だに出来なかった。
青白い仄かな光はいつしか白金の輝きを放ち、今はもう直視出来ない程に。
そして、ひと際強く光輝いたのちに瞬間的に光は無くなってしまった。
もう手は動かせそうだったが、おれは動かさずに様子を窺った。
「――こ、この現象は正常ですか?それとも異常ですか?」
まずは大前提の質問から、何方へともなく発してみる。
ルーファスとサイラスの驚嘆の表情を見る限り、前者で無い事は分かっていたが。
「い、異常じゃ。今まで幾度と無く天啓の石板の反応を見てきたが、この様な反応は初めて見たわい」
そう口にしたルーファスもいつの間にかサイラスと同様に前のめりになっていた。
一方のサイラスは言葉は無く、ルーファス、おれ、石板と目まぐるしく視線を変えている。
「取りあえず……石板から手を離すべき、ですよね?」
指の隙間から文字の羅列が見え隠れしていた。
「ううむ、そうじゃのう。こうなったからには、そうするしか他あるまい……」
この偉大なる宮廷魔導師を以ってしても初めての経験なのだ。
彼が正解を有して無い事は理解していたが、おれが独断で動くよりも良いだろうと判断した。
石板の上から手をゆっくりと離してみる。
上面の中央付近に青白く光る文字が浮かんで見えた。
「――じ、時空間魔力感知の為……制御・機能・出力などの情報を更新中、と表示されてあります」
目に見える文字は魔方陣に使われていたものと同系統だと思う。
視覚的には全く理解出来ないが、頭の中にはその羅列文字の意味が浮かび上がってくる。
「時空間魔力の感知じゃと!?確かに、わしにも時、空間、魔力などの文字は読めるが、その後に続く難解な文字列も読めてしまうのか。流石は【言語理解】よのう。して、その言葉の意味は分かるのか?」
ルーファスは興奮の面持ちながらも、落ち着いた口調だった。
「うーん、多分ですけど……この石板は恐らく端末のひとつで、何処かにサーバーと言うか本体みたいなモノがあって、そこからデータ……って言うか新しい情報を送って来てて上書きしてる最中なんだと思います。この表示を見る限りは、時空間魔力を感知したら、自動的に更新される様になっていたという事かな?今まで、石板の能力値の項目に時空間魔力ってありましたか?」
「い、いや、無いのう。それゆえ、時空間魔力の存在に疑義を唱える者が多いのじゃ。古文書や太古の壁画では稀にその存在を肯定する様な記述や描写はあるが、肝心の天啓の石板にはその項目が無いからのう……」
そう言うとルーファスは椅子から腰を上げた。
居ても立っても居られない様子だ。
サイラスもいつの間にか立ち上がっていたが、彼は絶句していて呼吸ひとつも困難そだった。
そして更新中の文字が消え、更新完了の文字が浮かび上がる。
それが消えると、すぐに石板上一杯に文字の羅列が浮かび上がった。
石板の上方約四分の一程度のスペースがギフトの表示欄で、その下四分の三程度のスペースが能力値を示す欄の様だ。
まず誰よりも先にルーファスが「なんじゃ、これは……?」と、声を漏らした。
恐らく彼の視線の先にあるのはギフト【言語理解】の右側に表示されてある文字列だろう。
おれの記憶では、前回見た時は空欄だった筈だ。
「【
この短期間で新たなギフトを得たと言う事だろうか?
そうなるとやはり、今朝の激しい眩暈の時がそのタイミングの様な感じがする。
文字が読める様になったのも、恐らくその時だと思うし……。
「サ、サイラスよ。これは大事じゃぞ。ギフト【不朽不滅】じゃと?永遠に朽ち滅びないとな?その様なギフトは見た事も聞いた事も無い!それを【言語理解】と併せ持つ存在など、この世に存在し得るのか」
「わ、私も、永遠に朽ち滅びないギフトなど聞いた事がありません。過去のどの聖人や英雄も、その様な世の理を逸脱した能力を秘めたギフトの所有は、記憶にありませんが……」
目の前で宮廷に仕える魔導師と魔法使いは、最早興奮の面持ちを超えて……恐怖や絶望を味わっている様な表情を浮かべていた。
その両者の前で完全に置いてきぼりを喰らってしまったおれは、彼らが落ち着きを取り戻すまで、石板下方の能力値の確認をすることにした。
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