第8話:そろそろチュートリアルが

ギルはむに已まれず話したと言った感じだった。

浄化の後に集落長の家で会った男衆らはそれ以来顔を見てないので、彼らが子供らを引き連れて近隣集落へ退避してるのかも知れない。

「本来なら集落に入れること無く、森の中へ放り出されてるって事だよね?ルーファスが引き入れてしまったから、集落の人達は致し方なく……と言う事か」

その事実を知った瞬間はショックだったが、その件についておれは誰を責める事も出来ない。

むしろこの世界の事を教えてくれたり、食事を提供してくれたりと感謝しか無い訳で。

しかし自分の意志でこの世界へ来た訳では無いので、心底申し訳ないという気分にはなれなかった。

「もしリョウスケが凶悪なササラの暗殺者だったり悪魔憑きだった場合、一溜りもも無いからな、この小さな集落では……。得体の知れぬ者を集落内に引き入れる時は、子供らや年頃の娘を避難させるのがこの辺りの集落では昔からの決まり事になってるんだ」

ギルは淡々とした口調で語ってくれた。

普段の豪快さは鳴りを潜めているが、その分誠実さが際立っている。

「浄化の儀式を終えても、信用は得られないってこと、だね?」

「ここは基本的に封鎖的な環境だからな。ソフィアと集落の奴らの関係性を見てりゃ分かるだろ?同じイセリア人でも中々受け入れられないヤツもいる。コールやロッタは持って生まれた愛嬌があるが、それでも馴染むまでには半年くらいは掛かったんだ。俺は元々この集落の出だが、それでも出戻って来る時はすんなりとは受け入れられなかったからな」


これと似た様な話は元居た世界でも聞いた事がある。

元同郷の出戻りや同じ民族ですら中々受け入れられないのだから、異民族どころか異世界人である事実を知られたら永遠に相容れる事は無いだろう。

「そうか……では、例えばおれがトリス街の出入許可を得た場合、この集落で起きた事と同じ事が起きる可能性は?要するにおれの為に街から退避する人がいるか、いないかという話なんだけど」

正直な話、ある程度大きな街でも受け入れ時に何かしらネガティブな要素が発生するとなったら、今後イセリア人の文化圏では息苦しくてまとな生活は送れないと考えていた。

いっそのことササラ人が住んでいるエリアへ移ってしまった方が色々と丸く収まるのでは?と。

「トリス街はここから一番近隣の大きな街でな。王国内でも有数の陸上交易の要衝なんだ。勿論、王都や副都とは比べもんにはならねえけどよ。けどまあ、デカい街だからな、受け皿もデケえんだわ。ウリヤ人の自治地区とかもあるし、冒険者ギルドと契約した異民族も結構いる。あの街はリョウスケが一人増えた所で誰も逃げ出したりはしない――」


――ギルからの説明を受けつつ、脳内では得意の夢想が展開しつつあった。

どうやらおれの異世界転移はそろそろ序章チュートリアルが終わり、物語は本編へと差し掛かっている様だ。

どうせならガチャとか回して伝説級の武器とか魔法とかゲット出来れば心強いが、今の所そう言ったシステムは無さそう……今後はどうか分からないけど。

明確な分岐は王都ルートかトリス街ルートと言った所か。

ソフィアルートはライザールのストーリーが進まない限りは展開し無さそうなので、一旦は棚上げにしておくべきだ。

それまでこの集落でスローライフを楽しむのもアリかと考えていたけれど、流石にギルの話を聞いた後では考えを改める他ない。

いきなり大都会の王都へ乗り込むのも面白そうだが、規模が小さいとは言え交易の要衝であるトリス街でこの世界に順応するのも楽しそうだ。

そうなると王都とトリス街でどちらの方が難易度が高いのか?という点を少しは考慮しておくべきかも知れない。

王道RPGだと難易度の低い順にストーリーが展開するが、自由度の高いMMOとかだといきなり高難易度エリアに入り込めたりするから……。

スライムを狩って少しづつレベルを上げるか、決死の覚悟でドラゴンに挑戦するか。

今はチュートリアル終了後にいきなりバトルてんこ盛りの展開にならないでくれよ、と願うばかりだ。


「――おい、リョウスケ?聞いてるのか?」

大きな声で白昼夢から呼び起こされる。

視線の先には心配そうにこちらを見詰めるギルとコールとアランの姿があった。

「ああ、すまないね。少しぼーっとしてしまったよ。それでなんの話をしてたんだっけ?」

しっかりと睡眠はとっている筈だが、眠りが浅いのだろうか?

元々夢想癖はあるが、ソフィアの時と言い少し度が過ぎている様に感じる。

「本当に大丈夫なのかよ?いや、トリス街に行くなら俺が責任もって連れて行ってやるし、住む所や仕事の手配もしてやるって話してたんだが……」

ギルは椅子に腰を下ろしつつ話を続けてくれる様だ。

かなり心配そうな表情を浮かべたままだけれど。

「それは助かるよ。そうかトリス街ルートに進むと、そういう支援が受けられるんだね。ちなみにこの集落とトリス街はどのくらいの距離があるのかな?歩いてどのくらいで着くのか?って聞いた方がいい?」

話しながら気が付いたが、まだ現実と夢想が混濁している。

気分も若干ハイになってると言うか。

深刻な問題の筈なのに、楽観視したくなるようなと言うか……。


「この集落からトリス街は旅慣れた奴の足なら一日半ってところだ。イリース川沿いに下って行けばいいから迷う事はねえ」

「それって夜明けから日没まで歩き通して一日半ってこと?」

「途中何度か休憩はとるけどな。普通は明るい内に歩けるだけ歩くものだ」

「なるほど。では、ちなみに王都へはどのくらい掛かるのかな?」

漸く脳みそが夢想から抜け出た感覚があった。

今は頭の中が妙にスッキリとした感じがする。

これは明らかな変化だ。

王都がらみの問いになったからか、今回はアランが受け答えてくれた。

「王都まで歩き旅となりますと、そうですね……休息日を設けなければ十日から十二日ほどでしょうか。行商などは商いをしつつになるので、三十日ほど掛かるかもしれません。途中船を使えば、風向きや潮の流れ次第ではその半分くらいの日数で十分です」

「道中で、魔獣とか野盗とかに襲われたりすることは?」

「王都への旅となると、長旅になりますので道中は様々な危険があります。極力安全な経路を選定しますが、如何に王領内とは言え絶対に安全な地域などあり得ませんからね」

ギルとアランの話を踏まえると、単純に旅路の長い王都ルートの方が難易度が高いと考えるべきか。

どちらも一人旅にはならなそうなので、トラブルに巻き込まれた際は強者たちに命運を委ねるしかない。

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