第7話:言うべきか、言わざるべきか
そして、更にギルが追い打ちを掛け偉大さを説いてくる。
「ルーファスの功績の中でも特に大きいのが軍制改革でなあ。第七次森林戦争後に新しい戦術を幾つも提案し、装備品から運搬用の荷車に至るまでありとあらゆる改良やら改善を考案して実証実践してみせたってんだからよ。俺は軍に居たから、その有難さは身をもって経験してるしな。今はもう半分引退したようなもんだけどよう、それでも国家が危機に瀕したら今回みたいにすぐさま召還されるんだから、すげえよなあ」
しみじみと語り感慨深げな表情を浮かべていた。
彼は表裏の無さそうな印象があるので、老魔法使いに対する心酔ぶりは表面通り受け取っておくことにしよう。
今まで得た情報を踏まえると、宮廷魔導師ルーファスとはレオナルド・ダ・ヴィンチの様な万能の天才と言えるのだろうか。
芸術的なセンスは分からないが、精霊魔法だけでは無く都市開発から軍制改革に至るまでこれだけの実績を誇っているのだから、歴史に名を残す人物と言って過言は無さそうだ。
「――ルーファスは地位も実績も凄いって事か。ところで、おれは明日一緒に王都へは行けないけれど、王都での受け入れ準備が整ったら迷わず王都へ行くべきだと思う?今後もルーファスの庇護下にあるべきか?って話なんだけどさ」
ふと思い浮かんだ質問だった。
生い立ちも年齢も立場も違うギルとアランの意見を聞いてみたくなったのだ。
二人は一瞬顔を見合わせていたが、先に答えてくれたのはアランだった。
「私は、迷う事無く王都へ向かうべきだと考えます。むしろ間を空ける事無く、明日一緒に同行すれば良いのでは?と、思いますし。ササラ人でありギフト【言語理解】の所持者となると当面は注目の的になるのは間違い無いですけど、ルーファス様の庇護下にあると周知すれば、面白半分にちょっかいを掛けて来る輩も減るでしょうから」
どうやらこの若き騎士は、おれの事を好意的に受け入れてくれているみたいだ。
王都行きを前向きに捉えてくれているし、彼も王都の住人の一人と考えると王都行きを検討する上では明るい要素の一つと言える。
「けど、ルーファスは王都や宮廷の環境を整えてからおれを召喚すると言っていたから、些末な事も含め色々と厄介事はありそうだよね?」
「ササラ人がこの国で何かを為そうとする場合は、何処で何を為そうとも厄介事は付きまとうと、私は思います。それを踏まえると、より強い庇護下で生活を送るのが最善なのでは?という意見ですね、私は――」
アランは顔も身体もこちらに向けて、実に真摯に受け答えてくれた。
彼の「より強い庇護下で生活を送る」と言う提案は正に最善だと思うし、自衛手段の無いおれからすれば何よりも優先すべき事項だ。
恐らく多忙であろうルーファスからは放置される様な気がするけれど。
おれとアランの会話を目を閉じ腕組みで聞いていたギルは、話しが止むのを待っていたみたいで、アランが言葉を切ると「――俺としては……」と、呟き何か思いがあったのか口を閉ざし、喉を鳴らした。
そして仕切り直しで「俺もアランの意見のは概ね賛成する」と声を上げた。
「概ね賛成という事は、他に何か提案か補足が?」
アランは口早にそう切り返すと、身体をギルへと向けた。
「いや、そんな大層なもんじゃねえけどよ。王都みたいなデケぇ都市にいきなり行くよりは、トリス街あたりで慣れておいた方がいいんじゃねえか?って事だ。明日ルーファスが直々にリョウスケを王都へ連れて行くってんなら反対はしねえがよ、暫くここに置いていくってんなら、トリス街の出入は出来る様にしておいた方がいいと思うぜ」
相変わらずギルは親身におれの事を考えてくれているみたいだ。
見るからに豪放磊落な男だが、その実は親切で心優しく細やかな配慮も出来るとか……女性にモテそうな要素がテンコ盛りだな、ギルは。
「では、リョウスケをこの地に残していくと言う話になったら、トリス街の件は打診してみる事にしましょう。すべてはルーファス様の思惑次第になりますが……」
アランはそう言い嘆息をついた。
そう言われてみると、彼がルーファスと会話してる所は見た事が無い。
宮廷での身分の違いから気軽に声を掛けれる相手では無さそうだ。
「――どちらにせよ、ルーファスの意向に従う事にするよ。この地で待つ場合も、余所へは行かずに集落に留まっていて欲しいかもしれないしね」
ここらでおれに関する話をまとめて、格闘術がらみの会話へ回帰しようという腹積もりだった。
昔から答えの出ない会話を延々とするのは苦手な性分だし、格闘技や戦闘の話の方が興味を惹かれるのも事実だ。
と、そんなおれの思惑を知ってか知らずか「うーーーーーん」と下腹に響く唸り声を上げた。
おれの行き先の事でまだ悩んでくれているのだろうか?
アランはおれと視線を交わした後に「ギル?取りあえず、この件に関してはルーファス様と直接話し合って……」と、語り掛けていた。
「ああ、いや、まあ、なんて言うか……リョウスケの所在に関してなんだが、今後何処に住むかに寄って、それの煽りを食う奴らが少なからずいると言うか……」
ギルにしては歯切れの悪い物言いだった。
当事者たるおれは彼の様子を見て、既に何か不都合が生じている、と感じ取ってしまった。
それを聞き出そうと口を開く前に、ギルはこちらを真っすぐに見据えて語り出した。
「浄化は済んでいるがな、リョウスケよ……お前は少し得体が知れなすぎるんだわ。腕っぷしは弱そうで喧嘩も碌にしたこと無さそうだけどよ、あまりにも特殊過ぎて危険だ、と集落の奴らは考えている訳だ。それでな、お前が来た翌日から一部の集落の民は近くの集落へ移してるんだ。子供と年頃の娘と、その世話をする大人たちをな」
このギルの告白には流石にショックを受けた。
既にこの集落の住民には受け入れられていると言う思い込みを、粉みじんに打ち砕かれてしまう。
「ああ……そうか。どおりで限られた人たちとしか顔を合わさない訳だ」
「明日、ルーファスがお前を王都へ連れて行くってんなら、わざわざ言う必要はねえってのが、集落長と俺の考えだったんだがよ。それを今からルーファスに掛け合うってんなら、集落の現状も考慮に入れて欲しい。当然、この事はルーファスも知っているがよ、あの人は長年国家の大仕事に取り組んでいるからか、小さな集落の内情には疎いんだよな」
ギルはそう言うと、長い溜息を吐いた。
本来なら集落長が言うべきであろう事を、彼は敢えて損な役回りを買って出てくれたのだ。
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