第10話:夢想家

誰かと言葉を交わす度に新たな世界が広がり、また新たに聞きたいことが増えゆく。

元の世界には実在しなかったファンタジー要素だけでは無く、国内外の情勢や日常生活に至るまで興味は尽きない。

興味という点では、ルーファスの誘いを受け王都や宮廷に行くのは魅力的に感じるし、大変だと思うがソフィア父娘と領地を切り盛りするのもやり甲斐はありそうだ。

まだそれ程面識は無いが商人のドナルドと共に、この世界の商いを体験するのも悪くないと思う。

おれに宿ったギフトがソフィアの様に戦闘に特化していたら、冒険者や傭兵を志しても良いとは思うが【言語理解】を神様から授かってしまったからには、荒事よりかは和事を選ぶべきだろう……と言うのが今のところの考えだ。


例えば、神=おれをこの世界へ転移させた存在、だったとして。

【言語理解】というSSR級のギフトを授けたからには何かしら意図があると思う。

あって欲しいと言うかあるべきだと言うか、いわゆる使命とか役割とか、みたいな。

今現在ルーファスとソフィアとドナルドとで、ある程度明確な分岐点があるという事は、その選択肢を用意したのも神(或いはそれに近しい存在)なのでは?と思わなくも無い。

どの様に時が流れたとしても、この集落でのんびりと幸せなスローライフを送る選択肢は用意されてないのではないだろうか?

要するにお釈迦様の掌の上で暴れていた孫悟空の如く、全てはその存在の思うがまま……神の描いたシナリオ通りなのかもしれない。

それを考えると選択肢がある様に見せかけて、実際は既にルートは決まっていると考えるべきなのだろうか?

ソフィアルートを選んだとしても、この世界の強制力が働いてルーファスの下へ行かざるを得ない状況に追い込まれるとか。

勿論、その逆も然りで。

いや、だとしたら最初からおれの前に存在を明かして、目的なり目標を告げた方が話が早いし確実なはず。

自由度の高さを装う意味なんて無いと思うし、あるのなら是非教えて貰いたいものだ。

それとも何かおれに告げれない問題があるのだろうか?

今まで視聴した異世界転移モノのアニメや漫画や小説だと……神様の手違いで天寿を全うできなかったら異世界転生や転移をさせた、とか。

異世界側の魔法使いが召還魔法を用いて召還または転移させた、とか。

大体、不慮の事故に巻き込まれたり神の如き存在の手違いとかが原因の場合が多い。


何か元居た世界には居れなくなった理由とか、事故死したとか……何かしら理由があれば腑に落ちて吹っ切れて、新しい世界でやるぞ!みたいな気持ちになるしか無いが……。

おれの場合は、元居た世界とこの世界を繋ぐ記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっているからモヤモヤとしてしまうのかも知れない。

この世界で生きて行こうとは思っているけれど、そのモヤモヤが払拭されない限りはいつまでも中途半端な存在であり続ける様な気がする。

それはこれがゲームの世界だったとて、だ。

異世界であろうがゲームの中であろうが、何故おれはココにいるんだ?と、この世界で目覚めてから最初に抱いた疑問が解決出来ない限りは、何をしても前に進めて無い様な気がしてならない。

結局は幾ら思考を巡らせてもソコに行きつく。

それを考えると、おれと一番因果か因縁の深そうなルーファスルートを選択するのが、正しい道なのかも知れない。

それが正解かどうかはさて置き、一番後悔の無い選択になるのでは?と、今はそう思う。


「――ねえ?リョウスケ?聞いてる?」

ふと、思考の深みから呼び戻された。

顔を上げるとソフィアが心配そうにこちらを見ている。

「え?ああ、ゴメン。少し考え事をしてたんだ。何の話をしてたっけ?」

ああ、しまった。

これは幼い頃からの悪い癖だ。

仕事の会話や会議中にも、夢想に浸って上司から怒られる事が何度かあった。

「考え事?急に黙りこくっちゃうから心配になるじゃない。今日は近くの集落から診断を受けにくる人がいるから、リョウスケはどこかで時間潰してて欲しいなって話よ。女の人ばかりだからね、今日の予定は……」

さすがにソフィアも呆れ顔に呆れ声だった。

「うん、分かったよ。取りあえずギルの家に顔を出してみる。アランのことも気になるしね」

「そろそろ意識を戻してるころだと思うけど。あ、そうだ……ギルの家に行くなら以って行って欲しい物があるの。少し待っててもらえるかしら――」

そう言うとソフィアは自室へと入って行った。


ロッタ少年と二人になったので、何気なく語り掛けてみる。

「ロッタは幼い頃から魔法を習っているのかい?」

神聖も精霊もどちらの才能もあると聞かされているが、後者を習っている事は内緒にしてるみたいなので、その話題は避けることにした。

「初めは、ソフィア姉さまの魔法の練習に付き合っていただけなのです。多分、五歳とか六歳ころの話で……姉さまの横で見てて、なんとなく僕も出来そうだなあって思って、教えて貰ったらすぐに出来る様になって。それからはライザール様に教えて貰える様になったのです!」

相変わらず可愛らしく元気一杯の返答だった。

「ソフィアのお父さんは厳しい人だった?」

「凄く厳しい方なのです!意味なく怒る方では無いですけど、魔法の勉強を怠けるとめちゃくちゃ怒られちゃうのです!僕は魔法の勉強が好きなので怒られた事はないですけど……ソフィア姉さまは、あのう、格闘術の方が好きだったから魔法の訓練の時に、そのう、毎日毎日、めちゃくちゃ怒られてて……えーっと」

そんな感じで、ロッタ少年があからさまに言葉を濁した所でソフィアが自室から出て来た。


「はい、これ打ち身に効く薬だから持って行ってあげて。治癒魔法は嫌いでも薬くらいは塗ってくれるでしょう」

そう言うとソフィアは、白い二枚貝を手渡して来た。

手の平に収まるサイズの物で、開けてみると中には黄土色のクリームが入っていた。

「塗り薬だね。貝殻を入れ物に使ってるという事は海が近いのかな?」

「この地域からは遠いけど、王都は臨海だからね。昔から塗り薬は貝殻にいれて保管する風習があるのよ。店で売る時も貝殻でだから」

良く見ると細切れの葉や木の実らしきものが練り混ざっている。

匂いの方は……鼻に纏わりつく若干の刺激臭と言った感じだ。

「じゃあ、そろそろおれはギルの家に行くよ。ロッタ、朝食ありがとう。ごちそうさまでした――」

おれはさり気なく礼を述べたつもりだったが、少年は恐縮して椅子から下りておれの見送りをしてくれた。


第8章

ソフィアの強さ

END

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