第9話:ロッタ少年の才能

ここで今まで大人しく話を聞いていたロッタは、急に食事を片付けを始めた。

おれも腰を上げて手伝おうとしたが「すぐ終わるので、待っていて欲しいのです!」と、少年は空になった食器を重ね集めてパタパタと部屋から出て行ってしまったのだ。


「――ロッタの事を気に掛けずに話してしまっていたけど、彼も神聖魔法やノーム古式流をやっているのかな?」

少年と初めて出会った時、彼はルーファスの描いた魔方陣を観ていてその方面に知識があると言っていた記憶がある。

「ロッタは今のところ神聖魔法だけね。格闘術はあまりやりたがらなくて。けど神聖魔法に関しての素質は私よりもあると思う。最近はルーファスから精霊魔法も教わってるみたいだし……私には内緒にしてるみたいだけど」

「それはルーファスから教わってるとキミに知られたら、怒られるか機嫌が悪くなるって思われているからじゃない?」

ここは少し踏み込んで質問を投げ掛けてみた。

彼女とも気心が知れてきたので、そろそろこう言うやり取りも必要かと思い。

「別に……私は、そんな事でロッタを怒ったりしないわよ。けど、私に内緒にするって言う事は、ロッタからはそう思われてるって事よね?」

「それはロッタにしか分からない事だよ。その事に関して気になるのであれば、ロッタと話す機会を設けた方がいいと思う。ルーファスから精霊魔法を学ぶ事は、彼にとっては良い事だと思ってるんだろう?」

「それは勿論。宮廷魔導師から直接精霊魔法の手解きを受けるなんて、普通ではあり得ない事だから。ルーファスは、この国の精霊魔法の頂点に君臨してると言って過言無いくらいだし。しかもその頂点から才能を認められているとなると、イセリア人である限りは精霊魔法の道に進んだ方が良いかもって思うくらいだから……。けど、ロッタは父のお気に入りだからね。あの子は神聖魔法の才能も飛びぬけてるから。私が王都から出る時に、誰か従者をつけてくれるとは聞いていたけど、まさかそれがロッタとは思いもしなかったもの」


ソフィアが王都を追放された時の状況はなんとなく察するに至るが、愛娘を想い優秀なロッタを従者につけたのは間違いないと思う。

それに付随してロッタの才能の芽を摘ませない意味合いもあったのかも知れない。

ソフィアが、正妻の子よりも優秀な妾の子として疎まれていたという事は、その血筋であるロッタも同様に酷い扱いを受ける可能性は十分にあるだろうから。

――と、ここで片付けを済ませたロッタ少年が戻ってきた。

彼は人数分のお茶を用意してくれて、それを手早く配るとすぐに椅子に腰かけおれの事をキラキラとした瞳で見つめてくる。

その純真さを一身に受けて、思わず笑みが零れてしまった。

「今までの話を聞いてて面白かったかい?」

少年に対しそう尋ねると彼は「リョウスケのお話しは凄く面白いのです!それに、ソフィア姉さまが大人の男の人とこんなに楽しそうにお話ししてるのを、僕は初めて見たのです!」と元気一杯に返してくれた。

それを聞いてソフィアは若干苦い笑みを浮かべていたが、これは正しくロッタの本心なんだろうな、と感じた。

この流れでソフィアは先程の件をロッタに切り出すかと思ったが、そう言う雰囲気にはならなかった。


「――面白い話を提供出来てると良いけど。おれは自分が気になってる事を手当たり次第に聞いているだけだからね」

この世界についての知識が皆無なので、当分話題に困る事は無いだろう。

魔法や格闘術のことだけでは無く、衣食住すべてにおいて興味は尽きないしどのジャンルの話でも楽しく感じる。

「リョウスケと話していて不思議に思う事は、知らないから聞いてる筈なのにすぐに高度な質問を投げ掛けてくるところね。そうかと思えば、常識的なことを全く知らなかったりするし」

そう言うとソフィアは茶を一口飲んでいたので、それに釣られておれも茶で喉を潤した。

この爽やかな口当たりは、たしか王都で流行ってる茶……に似た茶葉を使ってると言っていたやつだ。

冷たくしても美味しく頂けそうなので、同じものでは無いかも知れないがこれはこれで流行りそうな気がする。

「おれの育った環境では無かったものに溢れているからね、この世界……国は。けど、知らなかった事でもおれが知っている知識と少なからず共通項はあるから、それが高度な質問に結びついているだけだよ。意図的に高度な質問をしようと考えている訳では無いから、そんなに身構えずに答えてくれれば嬉しい」

「確かに身構えてたところはあるかも。これは思い過ごしかも知れないけど、適当に答えたく無くなる……と言うか、しっかりと受け答えし無いとって思えてくるのよ、貴方と話していると……そう言う思いがこみ上げてくる、みたいな感じなんだけど」


「――それって他の人と話している時には感じ無い感覚だったりする?」

もしかしたらその感覚は【言語理解】の影響かも……と、ふと思い浮かんでいた。

文字通りの様々な言語を理解する能力だけでは無くて、プラスαの効果を秘めている可能性は十分にある。

もしくは天啓の石板には【言語理解】とだけ表示されているが、様々なギフトをひとつの纏めている可能性もあるのでは無いだろうか?

例えば【ギフト①】と【ギフト②】を所有してる者は、天啓の石板の表示が【ギフト①】【ギフト②】では無く、統合されて【ギフト③】になると言った感じで。

下位ギフトが統合されて上位ギフトに変換される……ギフトの複数持ちが少ないのは、その結果なのかもしれない。

出来ればこの可能性に関しては、ルーファスと別れる前に是非その見地を聞いておきたいものだ。

「うーん、似た様な感覚で言うと、父と話している時とか?あとはヴァース教の司祭とか神聖魔法の重鎮とかかしら?目上の人と話す時って、噓偽りなくって思うじゃない?誠心誠意の言葉を尽くしたい相手と話してる時と言うか。貴方と話す時って、それと似た気分になるのよ。まったく同じでは無いけど、それに近しい気分と言うか感覚というか……」

おれのギフトが会話に関連するステータス全てにプラス補正が掛かっているとしたら、今ソフィアが言った感覚は間違いなく【言語理解】の恩恵だろうと思われる。

それを考えると、おれと同じギフトを有した聖人エステルが、言葉を尽くして世界から戦争を失くしてしまった伝説にも真実味が帯びてくる訳だが……。

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