第8話:例えば経験値的なパラメーターがあった場合
「――ノームに会いたかったけど、その口振りからするとお父さんの夢は叶わなかったのかな?」
そう尋ねるとソフィアは残念そうに頷き返した。
「ええ、寝る間も惜しんで旅をしたらしいけどね。そもそもノームを含めた原住の民は、太古の戦争後に大陸の遥か北方域へ移住してしまったと伝承があるから。けどね、凄い山奥でノームを見かけたとか、大森林の奥地でエルフに遭遇したとか……そう言う噂や言い伝えはどの地方にもあるのよ。ろくに調べも無しにその全てが嘘偽りだと決めつけるのはあり得ない!って、これは父の口癖なんだけど」
要するにこのファンタジー世界でもオカルト的な話が各地に言い伝えられているという事だ。
元居た世界で言うところの未確認飛行物体とかUMAとかと同様に。
「その……ソフィアのお父さんは、薬師であり格闘家であり冒険家でもあるってこと?」
「今は宮廷薬師を務めているからずっと王都にいるけど、若い頃はウリヤの国々を渡り歩いて神聖魔法と格闘術の修行をしてたって言ってたわよ。今でも重責を担って無ければ、気の向くままに大陸中を旅したいんじゃないかなあって思うけど」
記憶が確かならば、ソフィアの父ライザールは三十五年前に終結した第七次森林戦争に、ルーファスと共に参戦していた筈だ。
そうなるとソフィアは二十代だから森林戦争後に生まれた子で……それを考えると今の年齢はルーファスと同様に六十代頃になるのか?
「お父さんは第七次森林戦争に参戦してたって聞いたけど?」
「十代の頃に最後の二年間って聞いてるわ。そこでルーファスや、現国王とも知り合ったらしいわよ」
「え?十代で戦争に?」
「そんなに珍しい話では無いと思うけど。騎士家の子は十三歳頃までには初陣を飾らないと恥ずかしいみたいな話をしてたしね。ギルもたしか十五の頃には王国軍に入ってたと言っていたから」
それを聞き前のめりだった姿勢を崩して背もたれに身体を預けた。
そして改めて自分が今いる世界の状況や常識を思い知る。
現在は平和な日本でも四百年も時代を遡れば、武家の子息が十三歳頃までに初陣を飾るのが常識だった。
「――そうか、そうだよな。では、ソフィアのお父さんは今五十代なのかな?」
「ええ、今年で五十二の年よ。と言ってもまだまだ壮健で三十代と言っても通じると思うわ。宮廷での仕事を誰かに引継ぎをして、原住の民を探す旅に出たいって未だに言ってるくらいだから、身も心も若いのよ、私の父は……」
ここでソフィアもおれと同様に背もたれに身体を預けていた。
最後のくだりで声が物悲しく聞こえたのは、現状を見る限り父親の望む境遇では無いからだろうと思った。
「ソフィアは、お父さんと同じ様に色々な国々を渡り歩きたいとは思わないのかい?」
「うーん、それはどうかなあ。私はさ、ほら……行く先々で喧嘩ばかりしちゃうから。父はね、喧嘩もするけど仲良くなるのも上手なのよ。けど、そうね、気心の知れた人達と色々な国々に冒険の旅に出るのは面白そうかもって……」
そう言えば彼女は自分にギフト【言語理解】があれば、全てを投げ捨てて旅に出たいと言っていた。
父ライザールの血を色濃く引いてそうだから、コミュニケーション能力さえ備わっていたら今頃は女性冒険家として名を馳せていたかもしれない。
神聖魔法も格闘術も高いレベルで習得している彼女は、困難や過酷な環境を乗り越えれそう……と、こうして親身に話をしていると、おれが彼女を冒険の旅に連れ出す役目を帯びている様な気がしてきた。
コミュ障の美女を片田舎の集落から連れ出して世界を渡り歩く大冒険へ……みたいなシナリオは、ゲームであれアニメであれ極々普通にありそうだ。
「――あのさ?そう言う生活を送っている人達はいるのかな?例えば街で依頼を受けて報酬を貰って生活をする様な……冒険者とか傭兵を生業にしてる人たちの事なんだけど」
色々と妄想は膨らむばかりだが、取り合えず話の流れに乗ってみることにした。
おれに物語の進行を選択する権限があるのかどうかはさて置き、【言語理解】というギフトを授かったからには、話しが出来る相手とは気が済むまでとことん話し込むべきだと思う。
例えば経験値的なパラメーターがあった場合、戦士職であれば戦うことで経験値が得られ成長出来て、魔法使いであれば魔法を使い、狩人であれば弓矢を射て成長するのがセオリーだと考えれば……実際その通りであれば分かり易さの反面怖さもあるけれど。
……ともかくそれを考えると、おれの場合は他者との会話やコミュニケーションをとる事により経験値が得られる可能性があるのではないだろうか。
これは全くの中二秒的妄想でしか無い可能性もある。
しかし現状はどちらであったとしても否定は出来ないので、後々プラスに働くかもしれない可能性の芽を摘む事はするべきでは無い。
ソフィアを相手に経験値云々を考えて話したくは無いけれど……。
そんなおれの胸中を知る由も無く、ソフィアはこちらの問いに真剣に受け答えてくれる。
「――色々な国々を冒険して渡り歩くなら文字通り冒険者でしょうね。傭兵は国々と言うよりは戦地を渡り歩く仕事だと思うから。けど、線引きは曖昧かな。今みたいに大きな戦争が起きて無い時は、稼ぎ所を失くした傭兵が冒険者になるのが世の常だって、ギルが言ってたし。ほら、あの人は王国軍を辞めたあとは傭兵とか冒険者をしてたらしいから、そう言う事情には詳しいのよ」
「今は冒険者が多い時代ってことか。じゃあその冒険者たちはオークを倒したり、遺跡とか洞窟を探索したりして生計を立ててるのかな?」
「各地で大量に発生した亜人種や魔獣狩りとか、秘境にしか生えて無い薬草の採取とか……。そう言う冒険だけじゃなくて、例えば行商人の護衛とか野盗や山賊の拠点を潰したりとかも今は冒険者の仕事らしいわよ」
取りあえず経験値云々は棚上げするとして、冒険者関連の話は膨大過ぎると思うので今はソフィアの得意な事に話を戻そうと思い至る。
冒険者や傭兵関連の話は、それこそギルに尋ねるべきだ。
神聖魔法関連の話に戻した所で、情報量の膨大さから逃れれる訳では無いけれど……。
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