第5話:派閥のお話

おそらくソフィアの父親は、ルーファスや宮廷から多大な支援を受けるので領主として取りあえずの成功を収める事が出来ると思う。

問題はその成功例を見てから、後に続く王家派の資産家たちをどう導いていくかのか、という点で。

おれの提案に寄りその問題の全てが解消される訳では無いが、いくつかの無駄な失敗を止める事は出来るかもしれない。

目の前の老魔法使いの表情の変化を見る限り、彼も何か手応えを得たのでは無いだろうか。


「――それでその新領主の候補には王家派以外の資産家も名乗りをあげているのですか?」

それがあるからこそ王家派の擁立を急がなければならないのだと思うが、一度派閥絡みの話もしておきたかった。

「この件に関しては王家派以外の方が動きが早いのじゃ。それゆえに王家派としては失敗する可能性が低いライザールの擁立を急いでおる」

「あの、では王家派以外の派閥の説明ってしてもらえますか?王家派と他の派閥の関係性を知らなければ、宮廷に関わる話は分かり難いと思うので」

先程サイラスは、宮廷魔法使いが派閥で割れている事実を認めたく無さそうな感じだった。

それに比べるとルーファスは、然程気に掛けて無い様子だったので詳しい話が聞けるかもしれない。


「ふむ、確かにのう。本来は宮廷外ですべき話では無いが……まあ、お主になら構わぬか」

そう言うと老魔法使いは喉を鳴らし、茶を一口二口と啜っていた。

おれになら構わない、という件に関しては……今はポジティブに受け取っておくことにしよう。

「まずは、王家派から説明するのが良かろう。サリィズ王領を統べるサリィズ家を筆頭にした王国における最大勢力じゃ」

「それって領地名と家名が同一ということですか?」

「お主はまた細かい所に気が付きよるのう。元々は別の領地名があったが、サリィズ王国建国時にサリィズ王領と改めたと建国史には記されておる」

確かに細かいとは思ったが、それを即答するのだから自分だって細かく調べてるじゃないか、とここは思うだけ。

「すみません、話の腰を折ってしまい。続きをお願いします」

「ふむ、まあ良い。その建国の際に特に注力をした有力貴族家に王領の周囲の領地を与えたのじゃ。それが連綿と受け継がれ現在の王家派を為しておる」

「ちなみにおれたちが今いる土地は王家派の領地内ですか?」

「この地は王家派の領地じゃのう。この地の領主たるアードモア公爵ランカイゼエル家は、サリィズ王家が国造りを始めた当初から賛同し惜しみない支援をしていたらしいのじゃ。それゆえに、その繋がりは他の貴族家よりも強固と言えような」

今更ソフィアの父親の件を蒸し返す事はしなかったが、これは改めて合点のいく話だった。


「――では、次は……分かり易く王家派に次ぐ勢力の話を聞かせてください」

少々露骨な言い回しとなってしまったが、今はこちらから提案や口を挟む事を許されている様な空気感があった。

この老魔法使いがその気になれば容易く口を封じてしまうだろうから、口が開く内は聞きたい事を伝えた方がお互い有意義な時を過ごせる。

「王家派の次点となると、レイトール大公派じゃな。王家派のことは宮廷派や王都派とも呼ばれるが、レイトール大公エーデルヴァイン家の拠点は副都コールネスゆえに副都派とも呼ばれておる。エーデルヴァイン家は歴史深い家柄でのう。サリィズ王国内においては最古の気高き貴族家なのじゃ。建国時は領内で飢饉が起こり疫病が蔓延したため国力が落ちサリィズ王家に後塵を拝した、と史書には記されておる」

その当時は後塵を拝したけれど、現在は王家派に次ぐ勢力になっているという事実は率直に怖く感じた。

「そのエーデルヴァイン家と共に副都派に名を連ねるのは、どの様な貴族家なのですか?」

「主に王国内の西方域の領地を有する貴族家じゃ。エーデルヴァイン家は古来より大領主ゆえに、その関係性は強く揺ぎ無いのう。現在に至ってはサリィズ王国から独立して、レイトール大公国と宣言しても不思議ない勢力を有しておる」

「それは……怖い話を聞いてしまいましたね。副都派に関しては他にも色々と聞きたい事はありますが、取りあえずはその次の派閥の話をお願い出来ますか?」


ここでルーファスは新たに茶を淹れてくれた。

話し始めてからどのくらいの時が過ぎただろうか。

小窓から見える外は暗く夜の深まりを感じる。

森の中にある集落なので、時折甲高い獣か野鳥の鳴き声が聞こえるが、もしかしたら恐ろしい化け物の遠吠えかもしれない。

ファンタジー中二脳が恐ろしい化け物を自動生成してしまい、思わず身震いがでた。

そんな小心者を余所に、喉を潤した老魔法使いは静かに語り始める。

「――副都派の次はクリソカル大公カールロゴス家を筆頭にした派閥じゃ。カールロゴス家の拠点が西都キルケランゆえに西都派とも呼ばれておる。カールロゴス家は百年程前に頭角を現した貴族家でのう。建国時より国内の北西域は王家の統治が及ばぬ無法地帯じゃったが、当時は無名に等しいカールロゴス家が中核となり、あれよあれよと言う間に北西域の制定を為してしまったのじゃ」

「それは、その当時のカールロゴス家に英雄と呼ばれる様な人物が現れたから為しえたのでしょうか?」

「正にお主の言う通りじゃ。英雄の中の英雄と呼び声高きエドワード・カールロゴスの立志譚は、今も尚語り継がれておるからのう。人徳があり兵法家としても名高い人物じゃ。わしはエドワード・カールロゴスが好きでのう、若かりし頃には彼の英雄が残した兵法書を幾度と無く読み返したものじゃ」

思わず、貴方って魔法使いですよね?とツッコミを入れそうになったが、ルーファスはいつに無く上機嫌で熱く語っていたので、スルースキルを発動する事にした。

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