第4話:イメージトレーニング
例えば、オンラインのシミュレーションゲームとかだと、開始から何日間かは敵勢力から攻撃を受けないと言った、新規プレイヤーを保護するサービスがあったりする。
新規プレイヤーはその保護期間でゲームについて学び、取りあえずは内政に着手したりする訳で。
現実世界でそんなゲームみたいなシステムを導入出来るかどうかはさて置き、新規領主向けに何かしらサービスやボーナスみたいなモノがあっても良いのでは?と思うのだ。
出兵要請の免除や税の軽減と言った措置は、そんな簡単に出来る話では無いと思う。
しかし王家や宮廷側はそれくらいはやる覚悟や姿勢を見せないと、新たな領主を一人前にまで育てるのは難しいだろう。
目の前の老魔法使いはおれの提案を聞いてどう思っただろうか。
彼との会話は今まであまり途切れた事が無いので、反応が無いと少し不安になってしまう。
特に沈黙が苦手な訳では無かったが、ルーファスの醸し出す威厳と言うか偉大さみたいな雰囲気がこの静けさに何か意味を持たせているかの様な……そう言う感覚に陥ってしまうのだ。
あと一呼吸か二呼吸しても沈黙が続くなら、観点を変えた提案を投げてみるかと息を吐いた時に、老魔法使いは喉を鳴らした。
「――自らの領地と領民を守るのは貴族の務めじゃからな、その責務から逃れる事は出来ぬ。しかし、国外への派兵に関しては……そうじゃのう、最前線への派兵は免除出来るかもしれぬのう。後方支援か戦地から離れた地方の国境警備などに兵を回せば良いのか」
ルーファスの返答を聞き、暗雲が晴れた様な気分になった。
おれの提示した件を適当に流すこと無く、真剣に考えてくれていた事が何よりも嬉しかった。
「恐らくですけど領主未経験の資産家からすれば、その程度の事でも後押しになると思いますよ。あの……ルーファス?例えばの話で、もし貴方が今の地位では無く王家派の資産家の一人だったとして、今この瞬間に何処かの爵位領地を得た場合、まず何から取り掛かりますか?」
「ほう、それは面白い試みじゃな。例えばの話か……ふうむ、そうじゃのう。まずは
思いの外、この試みに老魔法使いは気分良く乗ってくれたみたいだ。
今までは常にその視線をこちらに向けていたが、今は目を閉じて王家派の資産家になりきってくれている。
「まずは情報収集と言うことですね。では粗方情報を得たあとにする事は何でしょうか?」
「情報を得たあとは……まずはわし好みの領地運営が出来る様に、官吏や領兵の配置換えをするじゃろう」
「元々いた官吏や領兵だけでは思う様な領地運営が出来ない場合はどうしますか?」
「ふむ、思う様に運営が出来ない場合は……わしであらば王都や副都に出向いて優秀な人材を引き抜いて来るであろうな。素養のある者を一から育てるのが一番じゃが、それではちと時が掛かり過ぎるからのう」
この老魔法使いはその立場的に王国の情勢と法律に精通し、国政に影響力を及ぼす程の地位と権力を有しているのだから、彼の答えは最適解なのだろうと思う。
新米領主からすれば、最初の一年二年をどう乗り越えるか、というところが懸念点になるはずなので、ここをサポート出来る人材が傍にいてくれたら心強いと思う。
もしくは気軽に問い合わせ出来るシステムがあれば……。
「その他の領地から人材を引き抜く行為は、法的に問題は無いのですか?引き抜かれた側の領主との関係が悪くなったりしませんか?王都や副都の様な大都市では無く、小さな領地から引き抜きを仕掛ける場合もありますよね?」
「ふむ、そうじゃのう。当然、真っ当に引き抜きするなら金は掛かるわい。有能な官吏や指揮官という存在は、領主からすれば価値のある資産と同じじゃからのう。小さな領地で引き抜きを行えば、確かに引き抜かれた側の領主は快く思うまい。引き抜きに必要な金も、引き抜かれる側の領主の気持ちひとつで大にも小にもなるわい」
「相手方の領主と今後も良いお付き合いをするとなると、真っ当な手順で引き抜かなければならない、という事ですね。では、真っ当では無い引き抜きとは?」
なんとなく察しはついていたが、ここは敢えてルーファスの口から聞いておきたく思い質問を投げ掛けた。
すると老魔法使いは閉じていた目を開き「そんなもの、闇夜に紛れて
国家の中核の担う人物がこれを堂々と言うのだから、この世界で言うところの引き抜きとは闇夜に紛れる方が常套手段と言えるのかもしれない。
「では、真っ当であれ闇夜に紛れてであれ、好みの官吏と指揮官を揃える事が出来きた後は?」
そう問い掛けると、ルーファスは再び目を閉じてしまった。
白く長い髭を手で揉みしだきつつ、妄想に興じてくれているみたいだ。
「好みの官吏を揃えた後は、領地内の一番大きな街か村へ赴きその地の活性化に尽力するであろうな。街がひとつ潤えば近隣の村や集落も同時に潤うものじゃからのう」
「ようやく街づくりというか、領地運営に乗り出せると言った感じですかね?」
「そうじゃのう。街を活性化させるために多くの商人や職人を呼び込み、新たな家を建て人口を増やす……。ここまで為せれば次は領地内の亜人種や魔獣討伐に出る余裕が生まれるやもしれぬ」
すでにルーファスは気が付いていると思うが、要するに新米領主からすればこれまでの流れを一体どの様な手順で進めればいいのか?と、不安で堪らないはずだ。
領内の亜人種や魔獣討伐に乗り出せる様になるまで、新米領主をサポート出来る人材の貸し出しやサポート機関の創設出来れば、これは大きな後押しになると思う。
「ルーファスは知恵も知識も豊富なので、為すべき事が明確に見えていると思います。しかし領地運営経験の無い者からすれば、駆け出しの間に補佐してくれる人材か、問い合わせにすぐに応じる機関があれば心強く感じるはずです」
それを聞いた老魔法使いはゆっくりと目を開いた。
「ふむ、それに関しては今お主とのやり取りを経て感じておった。この件は王都へ帰還次第着手してみるわい」
この反応を受け、おれは思わず目を見開いてしまった。
それだけ目の前の国家重鎮殿の言葉には重みがあり、観察的だった視線は熱く活力のある眼差しへ変化していた。
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