第9話:宮廷魔法使いに関して
「――まあまあ、お二人とも落ち着いて下さい。折角美味しい料理を頂いているのに、些細な事で喧嘩をしては振舞ってくれたリョウスケに失礼ですよ」
と、喧嘩の仲裁に入ったのはおれ……では無くてイケメン騎士のアランだった。
アランは結構イケる口らしく、料理を堪能しつつもかなり良いペースでクヴァスを飲んでいた。
サイラスがいるのでこの場でもダンマリを決め込む気かと思っていたが、アランの心はそこまで冷めては無いらしい。
年下であろう青年からやんわりと諫められたサイラスは、咳払いを二つしてから背筋を伸ばし改めて食事を再開した。
そして恐らくアランと同年代のソフィアは恥ずかしそうに頬を染めてグビグビと酒を呷り始める。
キミはそんなに酒に強く無いから……と言うべきか迷ったが、彼女の自尊心を傷つけたくは無かったので控える事にした。
このまま料理の話題を引っ張るのは良くないと思ったので、何か違うテーマを考えてみる。
サイラスとソフィアの過去に関しては……これは後でソフィアから聞いた方が良いだろう。
あれこれと下世話な詮索をするつもりは無いが、何も知らずに地雷を踏みたくは無いから。
それ以外に気になる事と言うと……騎士については先程アランから少し聞いたので、今回は宮廷魔法使いに関して色々と尋ねてみるとするかな――。
それぞれが食事や酒を進め、喧嘩の余韻が消えた所でサイラスへと声を掛ける事にした。
「――サイラス?宮廷魔法使いについて幾つか伺っても構わないですか?」
おれもサイラスも食事は終わらせていた。
ソフィアはお代わりしていたのでまだ食事中で、アランはじっくりと食事を味わいつつ酒を飲んでいる。
「ええ、はい。魔法使いに関してのことであれば大体答えれると思います」
サイラスは急に話を振られて少し驚いた表情を見せたが、すぐに気を取り直しクヴァスで喉を潤していた。
その隣りに座っているアランもこちらに興味を示しているので、割かし良い話題のチョイスだったかもしれない。
「では、まず、宮廷魔法使いとはどの様に選出されるのですか?」
まずはアランに騎士について尋ねた時と同様の質問を投げてみた。
するとサイラスは、彼にしては珍しく間の抜けた表情を浮かべていた。
「宮廷魔法使いの選出方法ですか?その様なことに興味が?私は魔法の事に関して問われると思っていましたけど……」
「ええ、魔法のことも興味があるので追々は話を伺いたいですけど、まずはサイラスが宮廷に仕える経緯とかどの様な仕事をしてるのか、という方に関心が強くて」
宮廷騎士たるアランは然程気に掛けた様子も無く答えてくれたが、ここで引っ掛かるのはサイラスの人間性の兼ね合いだろうか。
少し間が開く。
サイラスは指を顎先に当てて物思いに耽る様子を見せた。
飲みの場での軽いトークを展開しようと思っていたが、彼はどうやらこういう場でも言葉や会話を吟味するタイプの様だ。
それとも宮廷魔法使いの選定には国家の陰謀が渦巻いてたりするのだろうか?
酒を一口、二口と飲み進める。
場の空気が冷める前に別の話題を模索していたが、こちらが切り出す前にサイラスは静かに語り始めた。
「――私の場合は、宮廷に対し師匠が推薦してくださいました。その後、宮廷にてルーファス先生の下で雑務係を一年務め、先生が宮廷に推挙して下さり晴れて宮廷魔法使いになる事が出来た訳です」
それを聞き、今度は恐らくおれが間の抜けた表情を浮かべていたと思う。
至って一般的と言うか、陰謀もへったくれも無い普通な選出方法……だと感じたから。
何をそんなに出し渋る必要があったのだろう?
「確か、ルーファスは宮廷魔導師ですよね?要するに、宮廷魔導師からの推挙が必須という事ですか?」
「そうなります……ただ、なんと申しましょうか、全ての者が私と同じ道を辿る訳ではありませんので、身元のや素性の知れぬ者もちらほらいる、というか……」
「宮廷魔導師が関わって無い場合もあるという事ですか?」
「いやいや、それはありません。宮廷魔導師はルーファス先生を筆頭にお三方いらっしゃるのですが、何れの宮廷魔法使いも必ずいずれかの宮廷魔導師が見初めた人物しかなりえないのです」
かなり言葉を選んでいる様な口振りだった。
ちらちらとアランやソフィアに対し目くばせしてる素振りも……。
そして今更ながらに気が付いたのは、サイラスは恐らくこの場にいるのがおれだけであればもっとスラスラと話してくれていたのでは?という事。
要するに彼は、宮廷騎士のアランや宮廷薬師を父に持つソフィアを警戒して、言葉を選んでいる可能性がある。
「――つまり、宮廷魔法使いの選出には政治が絡んでいる……ということですか?」
サイラスを追い詰める気は無かったが、話の流れからするとそれに行きつくのは道理だ。
まさか適当に投げた質問でこんな雰囲気になるとは思いもしなかったけれど。
そしておれの問いに答えたのはサイラスでは無くて、隣りでグビグビ酒を飲んでるソフィアだった。
「その魔導師の三人の後ろ盾がね、それぞれ違うのよ。ルーファスはサリィズ王家派で、他の二人はレイトール大公派とクリソカル大公派なの。各派閥でお互いを敵視してるからね、すごく面倒くさいのよ宮廷魔法使いって」
彼女はまだ言葉に力があったが、若干呂律が回って無い様な感じもある。
しかしその空気を読まない力のお陰で随分と話を推し進めてくれたので、ここは感謝をしておくべきだ。
「えーっと、じゃあサイラスはルーファスから推挙されてるから、サリィズ王家派ってことですか?」
「ええ、はい、当然私は王家派です。しかし、今そこに居るソフィアは公然で宮廷内に派閥があるなどと申してましたが、これは公では伏せられています。ここにいるアランは宮廷騎士団に所属する騎士ですが、宮廷騎士団は騎士団長が一人で統制されているため派閥がありません。ですから我々宮廷魔法使いだけが目には見えぬ派閥の縛りがあり職務遂行もままならない場合があるとは、何人たりとも明かせないのが現状だと、ご理解ください」
サイラスは強い口調でそう言い切ると、器にあった酒を一気に飲み干した。
そして厳しい視線をソフィアへ向けるが、おれの隣りのどこでも寝る子ちゃんはいつの間にか項垂れ健やかな寝息をかいていた。
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