第55話四方山話『ビザンチンの女帝』

「そいえば、魔王の家族っていないの?」

「親戚が何人かに地方の太守を任せておるが、なんじゃ突然?」

 涼花の質問に魔王は「(こやつワシの親族を利用して何かする気か?)」と疑いながら答えた。

「権力者って重要な役職を親族で固める事多いでしょ?でも、魔族領じゃあ魔王の親戚よりも大宰相の身内の方が要職にいるでしょ?だから気になったのよ」

 魔王はなるほどのぅと納得するとお茶を啜った。

「何、ただ戦乱で親族の多くが命を落としたというだけじゃよ。ほんの少し前まで弟もおったんじゃが……」

 少し寂しそうな魔王の声に涼花とカワサキは察した。

「それは、悪い事を聞いたわね」

「いや、もう昔の事じゃ。それに主犯の聖教徒の魔術師にも十分報いを受けさせたから怨んでもおらんよ」

 そう物悲しそうな表情で笑う魔王にカワサキはかける言葉を失った。

「報いというなら、個人じゃなくて所属集団全てに与えるべきよ!いつの日かロムは無理でもビザンチンくらいは攻め入ってうばってやるべきよ!」

 そう力説する涼花に魔王は慌てた。

「まてまて、確かに弟の件は悲しい過去者が、そんな事をしては弟が悲しむ」

 止める魔王に涼花は意外そうな表情を浮かべた。

「何、弟さんは異教徒相手にすら反戦主義だったの?」

「そうではないが、弟の為に弟の領地に攻め込むのは不味かろう?」

「「……弟の領地!?」」

 予想外の発言に涼花とカワサキは驚きのあまり目をまん丸にして聞き返した。

「ど、どういう事よ!弟さんは聖教徒の魔術師に殺されたんじゃないの!?」

「し、失礼な!殺されておったら魔術師一人を処刑する程度では済ませておらんわ!」

 行き違いに気付いた両者は自然と認識のすり合わせを行おうとした。

「じゃあ、弟さんは今何を?」

「ビザンチンで皇后をしておる」

 その行いは一歩目から涼花に混乱を招いた。

「お、弟さんよね?どういう事?」

「おぬし達、ビザンチンで皇帝に謁見したのじゃろ?その時皇帝と共におらんかったか?」

 混乱する涼花を余所にカワサキは思い出したと手を打った。

「アレですよセンパイ!田〇源五郎の漫画に出てきそうな熊みたいな皇帝の横にいたすんっっっごくスケベな衣装の女性いたじゃないですか!」

 そう言われ、涼花の脳内にも謁見の光景が再生された。

 古式の由緒正しき皇帝の衣装より、肉体労働者の作業ズボンと白のランニング、冠よりもタオルか安全ヘルメットの方が似合いそうな、ガチムチ皇帝とその横に控える踊り子にしても過激すぎる薄絹の淫猥な衣装の妖艶な少女。

 あの時は気付かなかったが、今思い出せば少女と思しきかの人物の股間は、人並み以上にもっこりとふくらんでいた。

「ホモ臭い皇帝だとは思っていたけど、本当にホモだったのね……」

「聖教では同性愛が流行っておるらしいからのぅ……」

 のほほんと遠い目でお茶を啜る魔王に涼花はポツリと溢した。

「姉がロリババアなら弟は男の娘とか性癖のサラブレッドかしら?」

「とんでもない人と同じ時代に召喚されてしまいましたね」


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