第54話四方山話『魔族』

「今更なんですが、魔族……法族と人の違いってなんなんですか?」

 失言を訂正するカワサキに魔王は微笑ましそうに笑みを浮かべた。

「魔族で構わんよ。そうじゃのう、違いと言っても魔族は人種の一つでしかないのじゃが──」

 何と言って説明していいか、魔王は可愛らしい顎に指を当てながら少し考えた。

「──他の人種と比べて魔力に秀でた者が多い事、魔力が多い魔族は身体的変化が起きやすいくらいかのぅ?」

 くらいと言うには大きな違いにカワサキはこれが突っ込み待ちのボケなのか、それとも天然なのか判断し辛かった。

「その身体変化ってのは?」

 とりあえずスルーした質問に魔王は少し残念そうにしながら耳を指差した。

「肌の色の変化、角や羽が生える者、鼻が伸びる者、南方大陸の獣人にも似た獣の特徴の出る者、ワシの場合はこの耳じゃな」

 魔王はそう言ってファンタジー作品に出てくるエルフの耳のような可愛らしい長い耳をピョコピョコと動かしてみせた。

「きゃ~。すっごく可愛いですぅ~」

 喜ぶカワサキに魔王は上機嫌で笑う。

「そう褒めるでない。お茶菓子くらいしか出んぞ……ジャアフル」

「もう持ってきてますよ。世界一お耳の愛らしい魔王様」

 砂糖をまぶしたドライフルーツの皿をテーブルに置くと大宰相は魔王の横に座りお茶を口に運ぶ。

「アンタは何か身体変化はないの?」

 珍しく今まで黙っていた涼花が尋ねた。

「僕は老化の停止ですね。魔王様よりかなり遅れましたが、おかげで永遠に魔王様と一緒にいられます」

 ニコリと笑う大宰相に涼花は薄ら寒いものを感じたが、カワサキは「ロマンスですね~」とうっとりとしている。

「魔王様にかなり遅れたって事は、魔王様も老化が止まっているって事よね?一体幾つなの?」

 嫌な寒さを吹き飛ばす為に涼花はわざと失礼な事を尋ねた。

 しかし、魔王はゆっくりとお茶を口に含むと余裕を持ったすまし顔で答えた。

「今年で二八くらいじゃったかのう?」

 意外な年齢。

 若いが、外見からすると大人すぎる年齢に驚くカワサキ。

 しかし、大宰相は冷酷な言葉を告げた。

「いえ、魔王様は僕の一つ上なので八二です」

「「「……」」」

「……八二じゃ」

 魔王は還暦を大きく越えていた。

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