第53話四方山話『大宰相のお友達』

 魔王は手ずからお茶を入れると大宰相と自らの前に茶菓子と共に並べた。

「それで、聖教国との和平は可能なのじゃな?」

 大宰相は傍らにおいてあった幾つかの書類を魔王に渡すと、お茶の香りを楽しみながら答えた。

「ええ。内密にではありますが、教皇と皇帝と書面での合意は得られました」

 まだまだ問題は山積みではあるが、建前上聖俗双方のトップからの合意が得られれば、少なくともまともな交渉のテーブルに付く事は出来る。 

 魔王は書類を確認しながら、まだ熱いお茶を口に運び満足そうに頷いた。

「勇者には少々悪い気もするが、やりすぎじゃからのぅ」

「自業自得ですよ。最後くらい勇者らしく世界平和の礎になってもらいましょう」

 完全に割り切っている大宰相とは異なり、魔王は勇者に後ろめたさを感じていた。

 心を痛めている魔王に見かねた大宰相は小さくため息をついた。

「まぁ、可能であれば命だけは助けれるよう取り計らってみますよ」

「おおっ!流石ジャアフルじゃ!何だかんだ言っても優しいのぅっ♪」

 パァっと花の咲くように笑顔を浮かべた魔王に大宰相のほほが緩む。

「まぁ、友人達も勇者の命を寄越せなんて一言も言ってませんし、生かして利用する方法を提示すれば多分何とかなると思いますよ」

 機嫌よくお茶菓子を口に含んだ魔王は、友人“達”という複数形に疑問を抱いた。

「皇帝とは前からやり取りをしていたのは知っておったが、達というとあの教皇とも仲良くなったのか?」

 始まりこそスパイを通してであったが、大宰相とラテン帝国皇帝は“宗教”以外の学問という共通の趣味によって親友と言っていい信頼関係を築いていた。

 しかし、史上最悪の教皇、聖書に全く興味のない、権力欲塊、とまで言われるアレキサンダー六世を友人と呼ぶ程に仲が良かったというのは、魔王も初耳だった。

「フェデリーコ(皇帝)の仲介ですよ。(手紙で)話してみるとなかなか良識的というか、信頼に足りる理性的で実に交渉しやすい相手でした」

 皇帝とは私的、同好の士的な友人。

 教皇とは公的、打算的な友人といった感じの仲であると魔王は理解した。

「ふむ、何か信頼に足る決定的な出来事でもあったのか?」

 魔王は豆菓子を放り投げ口でキャッチした。

「聖教圏に逃げ込んでた魔王様の政敵、アレを暗殺してくれました」

「お、おう」

「依頼料は高くつきましたが、こうなったら一蓮托生。裏切ったらこちらに協力した事ばらすので不義理は働けないでしょう」

「……」

 大宰相と教皇の友情(?)は、魔王の想像以上にドライであっ

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