第51話涼花の大バカ者はどこだ!!

「とつげぇぇぇえきっっ(シュトゥルムアングリフ)!!!!」

 親衛隊決死の突撃は、聖教軍の中央左側に食らいつくとその精強さ、獰猛さをいかんなく発揮した。

 聖教軍からしてみれば、一〇倍以上の兵力で包囲していたにもかかわらず、何の前兆もなく突撃してくる敵がいるなど夢にも思わず、正面から完全な形で奇襲を受けた形となった。

 しかし、油断していたとはいえ、聖教軍の正面を担当する最精鋭、その程度の事で容易く打ち破られるような実力ではなかった。

 なかったのだが、相手が悪かった。

 そもそも、正面から正々堂々と不意を突ける機動と攻撃力を持つ涼花と親衛隊の錬度、攻撃力はまともではないのだ。

 元々親衛隊は、涼花に心酔する熱心な聖教徒であった。

 それを涼花はカルトの洗脳修行とブートキャンプを掛け合わせ煮詰めた、過酷と表現するにも言葉足らずな執拗な訓練により、この世界最高レベルの連携力を持つ狂信者集団に育て上げ、正規軍を打ち破った。

 それが幾十もの戦場を戦い抜き、連携と狂信に磨きをかけ、更に経験までも身に付けた百戦錬磨の古強者となった。

 その最強の古参兵達が、窮鼠と化し今この戦場で刃を振るっているのだ。

 聖教軍の魔術師達も精鋭ではある。

 だが、親衛隊はそれをも上回る最精鋭なのだ。

 聖教軍はまるで焼きたてのパンにナイフを入れたように──とは、後の歴史書に書かれた表現である──その陣を引き裂かれた。

 親衛隊のマーチが赤い花を咲かせる度に聖教徒の断末魔がそれに続く。

 圧倒的に少ないはずの親衛隊が押し、圧倒的多数の聖教軍が引き裂かれる。

 涼花と親衛隊は、その実力でもって十倍以上の兵力差を覆し戦場を支配していた。

 そして今、幾百もの聖教軍の屍を築いたその先に、包囲の果て、希望の活路が煌いた。

 ドンッッ!!

 その瞬間、猛撃を加える親衛隊の側面に衝撃が轟いた。

 涼花を含めた誰もがその方角を振り向いた。

 宙に舞う親衛隊。

 火山の如き怒髪天を突く怒声が舞った親衛隊を更に高く押し上げる。

「りょぉうかあぁぁぁぁあっっ!!!!」

 その声の主は、非魔術師であれば立っている事すら困難であろう分厚い白銀の甲冑に身を包み、兜の下、バイザーの中から二つの眼をメラメラと怒りの炎に燃やし揺らめかせていた。

 片手に握られた無骨なメイスは、その出縁型頭部に親衛隊の血を滴らせヌラヌラと輝いている。

 またメイスの柄から伸びた鎖に繋がれた棘付きの鉄球は、テレジアの細腕で振るわれるとはにわかに信じがたいほどに巨大で禍々しい。

 しかし、それが事実振るわれる度に親衛隊は弾け、彼女の目の前は真っ赤な道が開かれた。

 恐ろしいほどに強大な彼女が総大将であり、その総大将が自ら最前線の更に先を突き進み、悪鬼羅刹の如き憤怒の形相でメイスを振るうと言う事だけでも恐ろしい脅威である。

 更に脅威なのは、その彼女の雄姿に触発され、恐慌状態であった聖教兵達が落ち着きを取り戻し、総大将に続けと本来の実力を十分に、いや、本来の実力以上の力を発揮し、彼女が開いた真っ赤な道を更に大きく広げた。

 そう、テレジアの一撃が戦況を逆転させたのだ。

 先ほどまでの聖教軍が焼きたてのパンだとすれば、今の親衛隊は吹けば吹き飛ぶ綿毛も同様であった。

 涼花と親衛隊にとっては、今活路が開かれようと希望が見えた瞬間、横っ面を殴り飛ばされたこの悪夢のような状況は、正に悪夢であって欲しい現実であった。

 一体一人で何人、何百人打ち倒したのだろうか。

 当初白銀だったテレジアの鎧は、一切の傷を負わないまま親衛隊の返り血で真っ赤に染まっている。

「涼花の大バカ者はどこだ!!どこへいった!?」

 立ち塞がる全てをなぎ倒し、親衛隊中枢に乗り込んだテレジアは、バイザーを上げ、憤怒の表情で周囲を見渡した。

 しかし、どれほど見渡せど涼花は影も形も存在しない。

 呆然とするテレジアの婚約者、オタカルは、怒り心頭の彼女に睨まれると咄嗟にその行き先を話した。

「さ、先ほど神の言葉を聞いたと修道の旅へいき

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