第42話J(女王)R(涼花政権)倒壊
「勇者様反乱ですっ!!」
「何ぃぃぃいいっ!!?」」
寝室に作らせた黄金の湯船に浸かりながら、優雅に酒を飲んでいた涼花は、自信が裸である事も省みず驚きのあまり立ち上がった。
「なっ、ちょっ!?勇者様!前!前っ!!」
顔を真っ赤にしオタカルは抗議の声を上げるが、涼花は全く気にせず怒鳴り声を上げる。
「そんな事どうでもいいから、どういう事か説明しなさいっ!」
「勇者様はどうでもよくても、俺が困るから何か着て下さいっ!」
怒鳴り返されるとは思っていなかったのか、涼花は渋々といった様子で絹のガウンに袖を通した。
「ちっ!ケツの穴の小さな男ね……これでいいわね。早く話しなさい」
ガウンの隙間からチラりと覗く白くまっ平らな胸、その上に薄っすらとピンクの乳首を見ないよう真っ赤な顔を背けながらオタカルは口を開いた。
「反乱です。先日勇者様があの男、エヤレトに任せた都市とその他幾つかの都市が連携しで反乱が勃発、エヤレト及びその配下は討ち取られ、都市は魔王(スルタン)に恭順の意思を示し保護を求めています。また、それに追随し連鎖的に反乱が起きています」
「はぁっ!?あの無能なにやってるのよ!アタシは何か変わった事があったら、小さな事でもすぐに手紙で相談するよう言っておいたはずよ!」
オタカルは地団太を踏む涼花のチラリと覗く際どい柔肌に慌ててまた顔を背けながら答えた。
「ですから、エヤレトは文字の読み書きが出来ないと──」
「なんでそんな奴が……誰もなんで教えてくれないのよ!!」
「言いましたよ!聞かなかったのは勇者様じゃないですか!」
「聞いてないわ!」
言っておきながら自身が無茶苦茶を言っているのがわかっているのか、やり場のない怒りに涼花はドスドスと足音を立てながら乱暴に椅子へと腰掛けた。
「あーもうっ!これだから底辺出身は駄目ね!教養も血統も駄目っ!!あんな下民とは違う優秀高貴なエベール達に討伐軍を出させるわっ!」
エベール等貴族出身のベイは、小まめに連絡を行い、その統治はかなり上手くいっていると涼花に報告していた。
であれば、涼花としては虎の子の親衛隊を動かさず、彼等に反乱を抑えさせ、自身と親衛隊は本拠地アンティオキアを離れず、留守を狙い反乱が起きないよう睨みを利かせておくべきであると判断した。
涼花はガウンのまま筆をとり、早速その旨の命令書を書こうとしたその時、ノックも無しに勢いよく扉が開け放たれた。
「セ、センパァ~イ!反乱ですぅっ!……って、男性の前でなんて格好してるんですかっ!!?」
カワサキは手に報告書を持ち、涼花のあられもない姿に興奮しながらもオタカルに警戒するという器用な事を行いながら叫んだ。
「あーもうウッサイわね。エヤレト達下民に任せた土地で反乱が起きた話しならもう聞いたわよ」
そう言って、羊皮紙に向き直ろうとする涼花にカワサキはチラリと覗くその薄い胸を見つめ、ガウンを正しながら驚いた。
「え、エヤレトさん達のところでも反乱が起きたんですか!?」
その言葉に涼花の動きが止まった。
「……おい、反乱が起きたのは何処だ?」
「エベーr……」
涼花は話を聞く時間も勿体無いと言いかけたカワサキを無視し、その手にある報告書を奪い取りそれに目を落とし怒りに身を震わせた。
「やられたっっ!!!」
そして、せっかくカワサキが整えたガウンが乱れるのも気にせず椅子へと勢いよく倒れこみ手足をジタバタと暴れさせた。
「どうしたんです?」
予想される最悪にオタカルが顔を青ざめさせながら尋ねると、涼花は苛立たしげに報告書を投げ渡した。
「一杯食わされたわ!」
オタカルは恐る恐る報告書に目を通した。
どうやらエベール等賢く動き革命を生き残り、涼花の下でベイにまで成り上がった元貴族の聖教徒達は、涼花の統治法を学習し任された地方を上手く治めていた。
そう、上手く治めすぎたのだ。
涼花から与えられた強権を行使するよりも領民との融和を重視し、無茶な改革を行わず自治を尊重、地元の風習に沿った行政を行った。
ほぼ涼花の統治が上手くいっていた時の再現であった。
結果、彼等は中央、涼花よりも領民の支持を重視し、似たような状況の都市、反涼花の意志の強い都市で連合し反乱を開始した。
内幾つかの都市では傀儡の法族領主まで立てるほどに僅かな間に土着化している。
「こ、これは──」
言いよどむオタカルに涼花は言葉を続けた。
「──エベール達の所の反乱に乗じたか、それどころかその反乱と組んだか、煽った可能性まであるわね」
涼花は歯軋りをすると書きかけの羊皮紙を破り、捻り、投げ捨てながら怒鳴った。
「これだから腹黒い上流階級出身は信用できないのよ!!」
涼花が、ギャース!と喚き暴れる中、部屋の扉がノックされる。
コンコンッ
「──、入りなさい」
涼花は動きを止め、しかし、乱したガウンのまま椅子に逆さまになりながら返答する。
「失礼します」
そう言って入ってきた親衛隊員は、なにやら厳重に封のされた密書を涼花に手渡すと、すぐに部屋を後にした。
「今度は誰の謀反かしら?」
そして、それを受け取った涼花はこれ以上最悪な状況など無いだろうと不貞腐れながら雑にその封を解いた。
「……何…………だと……」
しかし、それを読んだ涼花はその内容に絶望した。
「一体何と書いてあるんですか……」
オタカルは、涼花の手から零れ落ちた密書を拾い上げると恐る恐るその内容に目をお通した。
そして、激務で顔色の悪い顔を更に真っ青にして嘆いた。
「流石にこれは不味いですよ勇者様」
そして、遅れながら密書の内容を読み終えたカワサキも震えながら聞いた。
密書には対涼花討伐軍に何処からか大規模な資金投入が行われ、かつてないほどの大規模な軍になり、そしてその討伐軍の総司令官にとある人物が抜擢されたと書いてあった。
「ど、、どうしましょうセンパァイ」
「どうしようもこうしようもないわ!こんなに早くアタシへの討伐軍が出せるなら、アタシの聖戦軍にももっと金と兵を寄越しなさいよ!!てか、そんな事より討伐軍の司令官がテレジアさんって何よ!!なんでテレジアさんがまだ生きてるのよ!!!」
涼花はF○ck!と伏字になるような暴言を吐き、小一時間ほどなりふり構わず周囲に当り散らた。
部屋を半壊させやっと少し落ち着いたのか、据わった瞳でポツリと呟いた。
「そうだ、魔王城に行こう」
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