第43話四方山話『技術とコスト』
カワサキは涼花に対し幾つか疑問を持っていた。
いや、涼花に対して疑問は山のようにあるのだが、この異世界に来てよくあるアレを彼女がしないのが疑問で仕方なかった。
「センパイ。どうして鉄砲や火薬を作らないんですか?」
涼花はこちらで地球の知識、技術を使う事が多々あったが、大々的な技術革新というものを行おうとしなかった。
特に火薬兵器など簡単に技術無双が出来るはずなのにとカワサキは考えていた。
しかし、涼花は軽く馬鹿にするようにため息を吐いてカワサキに向き直った。
「馬鹿ねカワサキ。アンタ鉄砲を作るにどれだけ材料が必要だか知っているの?」
その言い方に流石のカワサキもカチンと来た。
「むっ。それくらい知っていますよ!まずショウセキに……イオウ?それから……何でしたっけ?」
その返答に涼花は更にため息を吐くとまたいつぞやの博士コスプレを何処から取り出して着込んだ。
「黒色火薬なら硝石と硫黄と木炭よ。因みに割合は用途によって違うけど大体七五対一〇対一五よ」
その説明にカワサキは先ほどまでの機嫌の悪さはどこかに消え、ほえ~っと素直に感心した。
「それだけわかっていてどうして作らないんですか?」
その純粋な問いに涼花はまたため息をついた。
「少しは自分で考えなさい……まず第一に硝石の入手が困難なのよ」
「???」
よくわからないと言う顔のカワサキに涼花は諦めて説明を続けた。
「火薬が発明されてない世界であるかどうかもわからない硝石を入手する手段が殆どないし、古土法で作れたとしても手間とお金がかかるのよ」
「つまり、火薬のコストが高くて割りに合わないんです?」
「火薬だけなら兎も角、鉄砲や大砲も高いのよ」
「そりゃあ、鉄砲も高いでしょうけど、兵士の習熟を考えたら安い買い物では?」
やっとまともな質問をした涼花は内心少し嬉しくなったが、顔には出さず首を振った。
「鍛造にせよ鋳造にせよこの世界の冶金技術が低すぎるのよ」
そう言われカワサキは自身が持たされている曲刀を抜いて見る。
「そうですか?刀に比べたら劣りますけど、十分いい出来だと思いますけど……」
「刀なんて鉄が貴重だったが故の変態技術の結晶と比べるのが間違いよ。それにそれ一本で平民の一〇年分の年収よ?」
その言葉にカワサキはビックリして曲刀を取り落としそうになり慌てて鞘に仕舞った。
「な、なんでそんな高い物を……」
「こっちは魔術が盛んでしょ?そのせいでその手の技術も魔術頼りなの。魔術を使わない低品質か、魔術を使った高級品の二択しかないのよ。それで戦争に利用出来るだけの数を揃えてなんていられないわ。そもそも銃の仕組み自体一から教えないといけないしね」
銃身の強度に火皿や火蓋、引き金の構造、製造が比較的簡単な黒色火薬を使用するにしても調合の比率、使用時の粒子の大きさ等、一言に銃と言っても課題は山のようにあった。
異世界におけるコストと技術、カワサキは涼花の考えになるほどと感心した。
「つまり、銃の運用より人命の方が安いのよ!古代ローマで蒸気機関が発達しなかったのと大体同じね!冶金技術がお粗末で奴隷が安かったから必要なかったのよ!あ、それなら現代日本も同じね。最新の機械を入れるより派遣の方が安いもの」
「センパイ。もう少しオブラートに包みましょうよ……」
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