第41話『王侯将相寧んぞ種あらんや』って言葉を知らないの!?(知らないでしょ)

 涼花はトリポリ伯軍を打ち破りその領土の大部分を手中に収めた。

 更にその勢いのまま、返す刀でエデッサ伯国に侵攻。

 各地で徴兵を行い数においても勝る涼花はこれも難なく打ち破り、聖地周辺の三国を支配する大国を築き上げた。

 無論その報は聖都ロムにまで届き、涼花の悪行は異端であると断罪され、勇者号の剥奪、破門が宣言された。

 と、弾圧され逃げ出してきた、聖都等西に残り親衛隊の新規募集と練兵を行っていた涼花狂信者達から報告を受け、涼花としては「そもそも聖教徒になった覚えはないのだけど?」と笑った。

 問題はその偽勇者に対する討伐軍が結成、派兵までも決定された事だ。

 流石にすぐさまという事はないだろうが、聖教のみならず聖教圏国家を完全に敵に回した事にオタカルは絶望した。

 しかし涼花は「独自の武力を持たない教皇に誰が従うと言うの?金だってもうないはずだし、実力のない権威に力は宿らないわ」と語り。

「テレジアさんが戻ってきたら?」

 というカワサキの不安にも「テレジアさんがロマに連行されるずっと前から今も悪い噂を流し続けているのよ?今頃良くて幽閉、上手くいけば処刑されてる可能性もあるのよ?」

 と悪魔の如き返答をしてみせた。

 そして、その涼花は今……

「ガーーハッハッハッ!!乱世乱世。力が物を言う良い時代よね!!」

 謁見の間で百官を従え、面積の少ない危うい衣を着せた美少年や美少女を侍らせ、金糸をふんだんに使った絹製の豪奢なクッションに身を沈めたまま、なみなみと注がれたワインを一気に呷りげっぷを吐いて大いに笑った。

「げぇ~っぷ。ガハハハ!オイ、次の献上品を持って来い!」 

 涼花の指示に次々と運び込まれて来る金銀財宝に高価な調度品の数々、それら以外の搬入しきれない食料や兵士の書かれた目録が差し出される。

 が、涼花は歯の間に挟まったカスをシーハーシーハーと爪楊枝でつつきながら不満そうに吐き捨てた。

「アタシに対する感謝にしては少ないんじゃない?」

「いえ、流石にこれ以上税を上げるとなると……」

 オタカルが額に汗を浮かべ、困った表情で苦言を呈すると、涼花は発作的に手に持った食べかけのチキンを投げつけた。

「バカモノっ!これは税ではなくアタシへの感謝の気持ちなのよっ!たとえ懐が寂しかろうと、心の底から感謝していればいくらでも金は作れる物よ!!無理というのは嘘吐きの言葉なのっ!!」

「そ、そんな無茶苦茶な……」

 とんでもない暴論にオタカルとカワサキ、そして百官の内の良識派が顔を強張らせどうしたものかと頭痛に悩んだ。

 しかし、涼花に陶酔しきった一部過激派は「流石勇者様っ!」と、恍惚と驚愕で目を爛々と光らせている。

 げに恐ろしき派カルトの洗脳である。

「ですが、戦続きで穀物や一部生活必需品の値上がりが激しく──」

 チキンをぶつけられながらもオタカルはなおも食い下がる。

 涼花は軽く舌打ちをすると、油でベトつく指を舐めながら少し考えた。

「なら、感謝の少ない都市の自治権を取り上げるわ」

「なっ!?そんな事したらっ──」

 抗議の声を上げるオタカルに再度チキンが投げつけられる。

 しかし、それにもめげずオタカルと幾人もの良識派官吏が声を上げる。

「──反乱が起きますよっ!」

「自治権が与えられているからこそ、各都市は従っているのですぞ!」

「自治権を取り上げて、どうやって統治するのですか!?全都市を統治できるほどの内政官はおりませんぞっ!」

 流石の涼花も人材不足、まともに読み書き、四則算の出来る人間の不足は十二分に理解しているのか、苦虫を噛み潰した表情で小さく唸った。

「ぐぬぬぬぬ」

「(なんとか制御できた)」

 オタカルがホッとした時、並んでいた百官の一人が自信満々に前に出て跪いた。

「統治なら私にお任せくださいませ」

 その全てをぶち壊さん発言にオタカルはその声の主を睨んだ。

「私なら都市の一つや二つ見事に治めて見せましょう」

 傅く法族の色男に良識派官吏達は口々に発言の撤回を求めた。

「貴様の様な下層民に何が出来る!」

「エヤレトおべっかだけでは国は治まらんのだぞ」

「貴様がこの場にいるだけでも場違いなのだ!発言を撤回して出て行け!」

 罵詈雑言を受けながらもエヤレトと呼ばれた色男は、平然と涼しい顔で傅いてまま動かなかった。

 そして、その様に涼花はこれ幸いと膝を叩いて喜んだ。

「よく言ったわ、ええと……」

「アシュラフ・エヤレトです勇者様」

「そうよ、アシュラフよ!エヤレトの家名は覚えていたけど名前がどうしても思い出せなかったのよ!エヤレト、アンタに都市の一つを任せるわ!」

 この唐突な都市太守(ベイ)任命にオタカル達良識派は抗議の声を上げた。

「待って下さい!こんなまともに読み書きの出来ない身分卑しき者に──」

「だまらっしゃいっ!!」

 諌める官吏の声を遮り涼花は堂々と言い放つ。

「『王侯将相寧んぞ種あらんや』たとえどんな生まれであろうとアタシには関係ないわ!実力ある者はその能力に相応しい職に付くの権利がある!アタシの下では全てが平等、誰もが将軍(パシャ)や太守になれるのよ!」

「しかし、この者は──」

「くどい!問答無用!」

「では──」

 抗議の声を一刀両断した涼花に別の声がかかる。

「──このマクミリアン・ジョルジュ・エベールにもお任せ願います。身分卑しい者にばかり活躍されては、貴種としての誇り、祖先への顔向けが出来ませぬ」

「是非私にも!」

「いえいえ、この私こそ!」

「俺だってやってやるぅ!やってやるぞ!!」

 続々と上がる自薦の声に涼花は大声で笑った。

「ガハハハハッ!よし!お前ら全員ベイにしてあげるわ!!」

 オタカルとカワサキのため息が涼花の高笑いにかき消された。

「「不安だ……」」


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