第27話 おっさんと強者の特権

ヨークに勝利したルシアに歓声が降り注ぐ。

 しかしルシアはそれを気にも止めずこちらに一目散に駆けてきた。


「ご主人様、勝ちました」

「おう。よくやったな」


 そういえば以前褒める時は頭を撫でて欲しいって言ってたな。

 思い出した俺はルシアの頭を優しく撫でた。


「っ!」


 振れた瞬間ルシアがビクッと驚く。

 だが撫で始めると目を細めて気持ちよさそうにしていた。


「あの…ご主人様」

「どうした?」


 話しかけられたので手を止める。


「あっ……」


 ルシアがめちゃくちゃ寂しそうな顔をした。

 何か悪いことをした気になったのですぐに撫でるのを再開した。


「~♪」


 ルシアはご機嫌な様子。


「それでご主人様、約束の件なのですが…」

「おう。名前を呼ぶってやつな。いいぞ」

「っ!! あ、ありがとうございます。では…」


 緊張しているのかルシアはゆっくり深呼吸をした。

 そしてーー

 

「アラベル様」


 俺の名を呼んだ。


「おう」

「っ! 返事をしてくれました」


 何故かルシアは俺が答えたことを報告した。

 その表情は分かりにくいがどこか嬉しそうに見えた。

 

「そりゃ呼ばれたら答えるだろ」

「そうですね。…アラベル様」

「おう」

「っ!! だめです…これはだめです。だめになります…」


 ルシアは小声でそう呟いた。

 本人は至って真面目な顔だ。

 それならやめたほうがいいかと思い撫でるのを止めーー


「続けてください」


 ようとした瞬間ルシアに早口で言われた。

 

「アラベル様」

「どうした?」

「すみません、呼びたかっただけです」

「そうか」

「アラベル様」

「おう」

「~♪」


 ルシアは何度も俺の名を呼んだ。

 表情は相変わらずだが分かりやすく浮かれている。

 尻尾も過去最高の振りだ。


「…アラベル、ルシア殿。もう付き合ったらどうだ?」


 ラッシュがどこか呆れた様子でそう言った。


「何でそうなるんだ」


 俺がそう言った瞬間だった。

 突如コロシアムにガジャルの笑い声が響き渡った。


「ヨークの奴負けやがった!! しかも一発で!! がっはっはっは!!」


 ガジャルは敗北したヨークをわらっていた。


「そうだよ。あんなメイドに一発でやられるなんてヨークって案外大したことないんだな」

「だな! 俺でも勝てたりしてな」


 観客もそれに乗っかって口々にヨークを馬鹿にする。

 俺達3人は顔をしかめた。

 

「おい、てめえら」


 突如ガジャルの地の底から響くような低い声が観客の声を割った。

 静まり返るコロシアム。


「てめえら、ヨークより強いんだろうな? そうなら出てこい。今すぐあのメイドと戦わせてやる」


 手を挙げる者は一人としていなかった。


「…フンッ、雑魚が嗤ってんじゃねえよ」


 ガジャルは吐き捨てるように言った。

 そして静まったコロシアムで一人、嗤うのだった。

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