第25話 おっさんと予想外の熱量
帝都、謁見の間。
戦いを終えた俺は負傷した革命の牙メンバー、そしてルシアと共に転移させた子供達の様子を見に来ていたーーのだが…。
「うわああん!! みんな死んじゃやだあああ!!!」
「な、泣かないで下さい! 大丈夫ですから」
泣き出す子供をあやすエリシア。
「リズ!! 何をしている!!」
子供の対応に追われている側近兵のラズが大きな袋を抱えた同僚に叫ぶ。
「ああ、ラズ。今ヘソクリのジャーキーを持って来た。肉を食べればこの子達も元気になるに違いない」
「肉バカも大概にしろ!! そんな訳ないだろう!!」
「おねえちゃんありがとう! これおいしいね!」
「それでいいのか!?」
ラズがショックで項垂れた。
「……何なんだこれは?」
「っ!? アラベルさん!!」
俺に気づいたエリシアが駆けてくる。
「これはどういうことですか!?」
ある意味それは俺のセリフでもあるんだが…。
俺はエリシアに事のあらましを説明した。
「…なるほど。状況は理解しました。では子供達の保護と…ーー少々お待ちください」
するとエリシアは項垂れているラズに駆け寄ると肩をぺしぺし叩いた。
「ラズ? 目を覚ましてください!」
「はっ!? 私は一体…へ、陛下! どうされましたか!?」
「ラズ。革命の牙の方たちを治療院へ案内してもらえますか?」
「はい! かしこまりました」
するとその会話を見た革命の牙の獣人達がぽかんとしていた。
「なあアラベル? オイラ達獣人だぜ? 女王は気にしないのか?」
気を失ったラッシュを担いだガジュが信じられないものを見る目で問う。
まあ獣人差別の根付いた国、そのトップの対応としては不思議に映るのも当然か。
「エリシアは、というか『王族』は気にしねえよ。安心しろ」
「そ、そうなのか…」
獣人達は狐につままれたような顔でラズに治療院へ連れていかれた。
まあ事情を知らない奴には不思議に映るよな。
だが国政の中枢に関わる者にとってソレは常識だ。
なぜならーー
「ご主人様」
ルシアが相変わらずの無表情で俺を呼んだ。
その尻尾はどこか不安そうに揺れていた。
「お身体は大丈夫なのですか?」
「ん? どうしてだ?」
「この人数をこれだけの距離転移させたので…」
どうやら俺の心配をしてくれているらしい。
やはりゴロツキ共にはもったいない良い子だ。
「おう! 大丈夫大丈夫! 俺、魔力切れたことないから」
「そうですか」
表情は変わらなかったが尻尾が元気に振れている。
安心したのだろう。
「アラベルさん」
エリシアが俺の名を呼ぶ。
その瞬間、ルシアの尻尾がピンっと伸びた。
…最近よく見るがこれはどういう意味なのだろうか?
「子供達のことはこちらに任せてください。所でお二人はゲルファに戻るのですか?」
「今さら戻る気はしないな。今日はこっちで寝て明日、ゲルファに戻るよ」
「でしたら夜も遅いですし城の客室を使ってください」
「おう、ありがとう。助かるよ」
「っ!?」
そう言うとエリシアは顔を真っ赤にして玉座の裏に隠れてしまった。
「べ、別に当然の対応ですので…」
女王スイッチの切れたエリシアが顔だけ覗かせてそう言った。
◇
城内、廊下。
「ご主人様」
客室に向かう途中ルシアに声を掛けられる。
「どうした?」
「その…」
ルシアが分かりやすく言い難そうにしている。
こんなに表情に出るとは珍しい。
「この前の約束の件なのですが…」
「ああ。『何でも言う事を聞く』ってやつな」
ルシアがこくりと頷く。
「その…明日、私が勝てたらで良いので…」
頬を朱に染めるルシア。
『何でも言う事を聞く』と言っているのに条件を付け足すとは…。
一体どんなお願いをーー
「ご主人様を名前で呼んでも良いでしょうか?」
「え?」
すると俺の反応を勘違いしたルシアが慌て出す。
「す、すみません! やはり
「ああ、いや。今の反応はそういう意味じゃない」
「…では?」
「むしろそんな事で良いのかと思ったんだ。俺は構わない」
「っ!!!」
ルシアは残像が見えるくらい激しく尻尾を振っている。
「というかそのくらいならーー」
「ご主人様」
『今すぐにでも』という言葉は言えなかった。
何故ならーー
「私、明日は何があっても勝ちますので」
背後に鬼神がいるのでは、と思うほどのルシアの気迫に気圧されてしまったからだ。
俺は「お、おう…」と答えるのが精一杯だった。
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