第24話 おっさんと苦渋の決断
壁の瓦礫を乗り越え兵とならず者達が向かってくる。
ザッと見た感じ数は50を下らない。
対してこちらは十数人。
戦力差は明らかだった。
「おい! 例の獣人のメイドは見つけた奴が好きにするってことでいいんだよな」
ゴロツキが下卑た笑みを浮かべている。
「ああ、早い者勝ちだ。他の獣人共は殺そうが売り飛ばそうが好きにしろ。だが貴族は殺さず捕らえろ。晒し首にしてやる」
それにガジャルの私兵が答える。
「ルシアを賞品扱いか」
こっちはルシアがまだ小さかった時から知ってるんだ。
あいつらにくれてやるにはもったいない。
ルシアにはもっと誠実で優しい、それでいて稼ぎのしっかりある男でなきゃ認めん。
「ちょっとお灸を据えてやるか」
「いや、アラベルは下がっててくれ」
「黙って見てろってのか!?」
ラッシュが首を振る。
「アラベルには中の子供達を逃がしてもらいたい。我らはその時間を稼ぐ」
「…勝算はあるのか?」
「ジョットと子供達さえいれば我らの夢は途切れない。ならば役目は決まっている」
ラッシュが自身の敵を真っすぐ見据える。
その表情から揺るぎない決意を感じた。
俺にはラッシュを止める言葉が見つからなかった。
「…子供達を逃がしたらすぐに戻る」
「ああ、感謝する」
そう言ってラッシュは儚げに微笑んだ。
◇
扉を開け放つ。
「ご主人様!!」
二階からルシアが駆けてくる。
「襲撃だ! 子供達を逃がす! 起こして一か所に集めてくれ!」
「かしこまりました」
ルシアはすぐに子供達を起こしに向かう。
話が早くて助かる。
そうして俺たちは子供らを起こして一か所に集めた。
「今からお前らを安全な場所に転移させる。着いたら大人しくしてるんだぞ」
子供達は不安そうな顔で頷いた。
「ね、ねえ…ラー兄たちは?」
リヨンが震える声で尋ねる。
他の子供も心配そうに俺の返答を待つ。
「大丈夫だ! すぐラッシュ達も後を追う」
「…わかった!」
リヨンはそう言って笑顔を浮かべた。
しかしよく見ればその手は震えている。
…リヨンは状況を正しく理解している。
その上で感情を抑えてするべきことをしようとしている。
まだ小さいのに強い子だ。
「じゃあ転移させるぞ」
そして俺は子供達を転移させた。
「ルシア、俺達も加勢するぞ」
「はい」
外に出ると敵は30人程まで減っていた。
対してこちらはまだ辛うじて全員立っている。
だが全員傷が酷い。
「皆っ! 我から離れろ!!」
ラッシュの指示に従い他の獣人が素早く飛び退いた。
瞬間、ラッシュと周りの敵が突如地面に広がった暗い空間に飲み込まれた。
一気に敵の数が半分程まで減る。
「おい! あの魔法あんな使い方して大丈夫なのか!?」
ただでさえ魔力消費が激しそうなのにあの人数だ。
俺は近くにいたロウに尋ねた。
「大丈夫な訳ないだろう!! だが今のラッシュにやめろなんて言えるものか!」
ロウが悲痛な声で叫ぶ。
「……クソっ!」
どうしようもない感情に襲われる。
今の俺にできるのは残った敵を倒すことだけだ。
「ルシア! 右側は頼んだ!」
「はい」
ルシアは素早く駆けるとその勢いのまま3人まとめて蹴り飛ばした。
俺も左側のゴロツキ共をまとめて5人、上空に転移させる。
重力に従って地面に叩きつけられた彼らは気を失った。
その時、地面に黒い渦が広がる。
その中から倒れた敵達とラッシュが現れる。
「くっ…!」
ラッシュは蒼白な顔で膝をつく。
魔力切れ、それに全身から出血している。
「くたばれえええ!!」
動けないラッシュに兵が剣を振り下ろす。
ーー間に合わないっ!
「…おい、何してやがる」
地の底から響くような激しい怒りを孕んだ声。
その声に兵が剣を止める。
「俺様の楽しみを邪魔するってのか?」
そこには青筋を浮かべるガジャルが立っていた、
「ガ、ガジャル様っ! これはーーぐはっ!」
弁明を試みた兵がガジャルに殴り飛ばされる。
兵が壁に叩きつけられる。
だがそれでも勢いは殺しきれず壁を突き破って吹き飛んでいった。
「今の馬鹿みてえになりたくなきゃ消えな」
ガジャルがそう言うと兵とゴロツキは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
そして一人になったガジャルは俺を見つけると笑みを浮かべた。
「よう、アラベル。うちの馬鹿共が邪魔したな。明日を楽しみにしてるぜ」
ガジャルはそう言うと一人、去って行った。
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